原広司に『集落の教え 100』という本があります。 鳴海先生が「建築の原則は、 壁と床と屋根だ」と言われたように、 その本の中でも壁と床と屋根の項目があり、 なかなか面白い定義をしています。
壁の項では、 「壁は定義である。 指し示すことである。 あるいは、 こんなふうに言ってもよい。 壁は自由の限界であると。 壁はまた、 それゆえに、 容器としての空間のシンボルである。 壁は、 争いの原因であり、 争いから逃れる手段でもある。 その意味からも、 壁は自然を映し出している」としています。
床については、 「床は、 新たなる地形である。 それゆえに床は、 場としての空間のシンボルである」と言っています。
では屋根はどう定義しているのかというと、 「屋根は全ての混乱(カオス)を治める。 」と、 言っています。 混乱を統合し、 調和させ、 ひとつの安心できる環境にまとめるということです。 だから、 屋根は壁や床を統合する要素であると同時に、 「それゆえ、 屋根は共同体の象徴的表現たりうるのだ」と言うのです。
もちろん、 屋根には雨水を防ぐシェルターとしての意味もありますが、 全体のスケープとして見たとき、 屋根はある領域を特徴づけるという意味があります。 あるいは全体の秩序を象徴するという要素がある。 それは必ずしも勾配屋根になるとは限らないのですが、 現代の都市には共通の秩序を現わす屋根並みがありませんから、 一見すると屋根のない都市とも言えます。
都市である限りは何らかの秩序があるはずなのですが、 それがルーフスケープとしては現れてこない、 見えないのです。 勾配屋根のように共有感を持たないのが現代の都市の景観で、 それは屋根を持たないのではなく、 屋根が見えないだけなのだと、 原広司は言っています。
そこで考えたのですが、 ガイドラインでよく謳われる「傾斜屋根を持とう」というのは、 屋根が見える都市にすることで「安心したい」「我々の領域だ、 みんなで作ったんだ」という心理状態を表すための手段なのではないでしょうか。 手段として使いやすい要素だから、 屋根がクローズアップされたんだろうと思います。
しかし、 共有感を具現化するためだったら、 僕は屋根の形でなくても、 それは可能だと思うのです。 原広司も「ルーフという言葉は、 物理的な屋根であると同時に、 領域を特徴づける秩序を象徴する比喩である」と言っていますが、 それならばデザインガイドラインで求めるべきものは必ずしも勾配屋根ではないのではないか。 なぜならば、 現代の高層化した都市では屋根面が見えることはあまりないわけで、 どちらかと言えば建物の妻型のシルエットの方が景観に影響を与えるからです。
屋根の持つ意味
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