市民の要望にかなった施設を建てたり、 道路でも通常の道路ではなくコミュニティ道路をつくったり、 河川を直す場合には親水公園をつくるという方向になってきています。 また、 土地神話の崩壊や地方分権の流れが現実味を帯びてきたことも、 行政の転換を促す要因となっています。
公共の福祉の実現のために行政は、 (1)法律などで規制をする、 (2)補助金を出す、 (3)良いものについては規制を緩和したり税金を優遇する(公開空地を取る代わりに容積率を上乗せする総合設計制度など)、 といったことをやっています。
再開発の仕事を進めているなかで、 実際の話ですが、 デパートから公園へ道路をまたいでペデストリアンデッキ(幅の広い歩道橋)をつくりたいという要望が出ています。 市民にとってもよい話だと思い、 その話を道路を所管している部署に持っていくと却下されてしまいます。 道路の法律を扱う立場としては、 道路の上空に安易に建物をつくってはいけないと言わざるえないのです。 しかし、 公園の利用が促進されたり、 商業の活性化に資するのだから、 市民の利益になるという考え方もあるわけです。 この二つの相反する立場・考え方のなかで、 解答を出さねばならないことが問題となっています。
もう一つの例としては、 戸建て住宅地の真ん中にスーパー銭湯を建てる計画が持ち上がったことがあります。 スーパー銭湯とは、 名古屋や関東では一般的なものですが、 まちなかの銭湯と健康ランドの中間の規模の公衆浴場で、 家族連れで車で利用する形態のものです。 用途地域毎に建物の用途を規制している建築基準法上は、 スーパー銭湯も戸建て住宅地で建てられます。 しかし、 駐車場には何十台という車を駐車することになりますので、 騒音も出ます。 銭湯ですから夜遅くまで営業されるでしょう。 戸建て住宅地の静かな環境が壊されるとして反対運動が起こることが多いわけです。 しかし、 法律上は建ててよいわけですから、 逆に言うと法律の執行者としては建てさせないということは出来ません。 行政は、 市民の代弁者としての役割を果たすことができず、 つらい立場に立たされるわけです。
私の個人的な意見ですが、 法律や事業の制度を作る側である国がやり方を細かく規定し、 自治体が勝手に解釈してはいけないという場合が大部分です。 そのような体制がずっと続いてきていますので、 それが当然と思っている人も多く、 どういう内容にしたいかではなく、 作られた法律や事業にどのように適合させるかに比重がかかってしまいます。
例えば補助金をうつ場合でも、 適切に補助金が払われているかを国の検査に対して逐一立証しなければなりません。 そのためのエネルギーが膨大です。 そういうことは無駄なんじゃないかと思いつつも、 やらざるを得ない状況になっています。
また、 そういう体制になっていますので、 独自の施策を打つような冒険はしにくいのです。 ストイックな考え方が支配的で、 縮み志向になりがちです。
また、 縦割り行政とよく言われますが、 自分の担当する法律以外は関知しないという人が職場の中に実際にいます。 今まではそれで済んできたのです。 そういうことも長く今の体制が続いていることの弊害ではないかと思います。
三宅:
今日の会議を進めるにあたって、 やってみようと思ったことが二つあります。 一つは学生さんなど都市環境デザインをやってみたいという方が来ていただいているわけですが、 ではどういうことをやるのか、 またどういう就職先があるのかが不明確です。 そこで、 都市環境デザインという仕事について学生のみなさんに紹介したいということです。 もう一つは、 我々若い世代がこれからどのように取り組んでいくのかを議論をしたいということです。
脇田さんには、 実際の都市計画の内容を、 わかりやすくご報告いただきました。 脇田さん自身も都市計画にとどまらず、 もっと都市環境デザインに近づけていきたいと取り組んでおられますので、 分科会ではそうした思いを聞いていただければと思います。
行政の事業の転換期
行政の仕事の特徴
行政の仕事の目的は、 公共の福祉の実現です。 一般企業は常に採算性を求められるわけですから、 その点が大きな違いと言えるかもしれません。 一方で、 最近はNPOなどの団体の活動も活発になってきており、 そういった団体が公共の福祉の一部を担うような流れになってきています。
自治体の二つの立場
ただ、 私が自治体の仕事をしておりますと、 ちょっとつらいと言いますか、 矛盾を感じることがあります。 それは、 自治体の職員には、 二つの立場があるということです。 一つは法律を実際に執行していくという立場、 もう一つは、 私がいるのは市役所ですから名古屋市民の代弁者としての立場です。 この二つの立場が時々矛盾することがあります。
現行の行政(国―地方)制度の問題点
また、 機関委任事務といって、 国が行う仕事を自治体が代わりに執行するという仕事が行政の仕事の大部分を占めています。 これには良い点ももちろんあるのですが、 良くない点も多くあります。
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