質疑応答
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IBAがずっと活動していくための機関なり、 組織委員会はどうなっているのでしょう。 誰がどういう風に組織し、 代表しているのかを知りたいのですが。
春日井:
私もエムシャーパークのIBAにそれを問い合わせたことがあるのですが、 実はそうした機関はありません。
個人でもいいのですが、 市や町がこういう展覧会をしたいと思えば、 どこにも届けることなくできるわけです。
とはいえ、 こういったものをしようとすると、 お金がかかりますから国や建設大臣にお伺いを立てて計画するということはあるでしょうが、 国レベルのIBA専門係官とかIBAのための特別予算はありません。
今ベルリンでもIBAが行なわれていますが、 特にベルリンの場合はお金が出やすいのです。 大がかりな事業、 57年のインターバウや87年のベルリンIBAがベルリンで行われたのには、 一つにはベルリンの特殊な事情がありました。 戦後、 東西ドイツに分かれた後、 西ベルリンは東側共産圏に対する西側のショーウインドウでした。 インターバウでは都心に住宅建設をしたのですが、 あまりにお金持ち対象の住宅だと批判されたので、 その後のベルリンIBAでは環境の悪いクロイツベルク地区を対象に展覧会をしています。
ですから国や州のお金を出すための大義名分があれば、 公的なお金を使った企画が実現しやすいという状況にはなっています。 エムシャーパークでも地域の一番悪いところ、 つまり失業率が高くて人口流出が続いているところが対象となっています。
この次予定されている展覧会は、 IBAフュルスト・ピックラー・ラントで、 これはベルリンの南、 ポーランドの国境近くです。 これもエムシャーパークと似たような地域開発の事例で、 昔の炭坑地域の環境とか景観を10年期間で考えていこうというものです。
井口:
としますと、 有志が集まってIBAのための会社を作ってもよいのですか。 それともIBAという組織が先にあって、 会社を作るのですか。
春日井:
「私達はIBAをやりますよ」というだけの話ですから、 もちろんOKです。 そうしたIBAをする会社が3つ、 4つと複数できることも考えられます。 IBAは登録商標でもありません。 これは私がIBAエムシャーパーク社の副社長に聞いたことですから間違いありません。
難波健(兵庫県):
IBAの活動は議会が承認するのですか。
春日井:
まったくの個人とか会社でという場合はともかく、 多くの場合公共が噛んでいます。 エムシャーパークで地域活性化を図るという計画も、 州予算のかなりな部分がその地域のIBA事業に流れることになりますので、 州全体の立場から州議会が検討することになります。
日本の熊本アートポリスもベルリンIBAからヒントを得たという話ですが、 日本のプロジェクトとドイツを比較してどのような感想をお持ちですか。
春日井:
どちらも不振地域をなんとかしようという点では同じですね。 しかし社会的、 文化的な背景が違いますから、 それぞれ違った取り上げ方をしていかなくてはいけないだろうと思います。 エムシャーパークの開発方法は独特でいかにもドイツ的なやり方で行なわれていますから、 これをそのまま日本にあてはめてもうまくいかないだろうと思います。
鳴海邦碩(大阪大学):
IBA方式が日本でうまくいかないと思われるのは、 どういう点ですか。
春日井:
やはり、 やり方が違うからです。 ドイツのIBAのように小さな会社に展覧会の全権を任せるというやり方が日本で通るのかどうか。
もうひとつ違うと思うのは企業の姿勢です。 エムシャーパークは炭坑地域でしたから世界的な大企業の所有地がそのまま残っていました。 日本で何か企業の持ち物を改造しようとしたら、 企業は必ず何らかの形でお金や見返りを求めるでしょう。 ドイツの企業はただでも良いからうまく使ってくれという姿勢で、 事業内容に口を出しませんでした。 これは日本では考えられないことではないでしょうか。
こういうところが、 ドイツのやり方をそのまま日本に持ってきてもうまくいかないだろうと私が考える所以です。
2点お尋ねいたします。
一つは、 IBA方式でどのような事業効果があったのか。 地域の活性化がどのように実現していったのか。
もう一つは、 地域住民の関わり方についてです。 今のお話の中には地域住民の支持が得られないといけないということでしたが、 実際にはどういう形で支持が反映されていったのかをお聞きしたいと思います。
春日井:
二つのご質問ともIBAの広報が非常に重要な役割を負っていますので、 広報についてご説明します。 会社の力の半分は広報に注いでいます。
住民との関わりでいうと、 何かあるとすぐに新聞や雑誌、 テレビを使って住民に知らせる体制になっています。 新しい建設事業が始まったり何か完成したりすると公表し、 また会議やシンポジウムを行って地域住民の関心をひきつけ、 地域住民と一緒に事業を進めていきます。 全てオープンにしています。
また、 成果の点でも、 例えば事業で川がきれいになると広報することで、 みんなを元気づけるという効果があります。 この地域は炭坑がなくなることで失業率が高くなって人口も少なくなり、 随分すさんだ時期もあったのですが、 IBAによって改良事業が進み地域がかなりよくなりました。
IBA エムシャーパーク社のガンザー社長はもともと州の役人ですから展覧会事業が終わると会社を解散することになるのですが、 地域住民から展覧会が終わっても会社を残して事業を続けてほしいと要望されました。 ガンザー氏は「10年という約束だからこれで終わる」と社長の席を降り、 非常に惜しまれながらやめました。 このエピソードを見るだけでも、 成果はかなりあったと思われます。
参加者:
住民は受け手のままなのですか? それとも意思決定の何らかのプロセスに加わっているのでしょうか。
春日井:
先ほど「女性による女性のためのプロジェクト」を紹介しましたが、 このように誰かが何かをしたいと思えば受け入れる姿勢をオープンに見せています。 職業訓練所もできましたし、 身近な所で住民のためのいろんなプロジェクトができています。
IBA エムシャーパークではいろいろなレベルでの住民参加が行なわれています。展覧会をどのように行なっていくか、 という基本的な会議、 ここで7つのプロジェクト方針が決められているのですが、 ここにも住民代表が加わっており、 またIBAプロジェクトの選定会議にも住民が選定委員として参加しています。
一方、IBAの構想が最初にエムシャーパークで検討されたとき、 6つの方針枠を決めておいて、 住民からのアイデアコンペを行なって、 住民からの意見を取り入れています。
参加者:
あともうひとつ。 計画による経済的な波及効果はいかがでしょうか。
春日井:
数字が出せれば一番簡単な説明になるでしょうが、 一概にこうだという数字は出ないでしょう。 しかし、 研究所や大学ができることで地域のレベルが上がるし、 職場もできれば経済効果につながるはずです。 何もしないで放っておけば地域は悪くなるばかりです。 IBAによって文化的な施設ができ、 職場も増え、 新しい人材も出てきて、 直接・間接に地域にプラスになっていくことは間違いありません。
それともうひとつ説明しておかねばならないことは、 ルール地方は一時期ドイツ経済を担っていた地域だったことです。 ですから、 住民は地域への誇りがあります。 それを産業文化財の保護という形で残すことは、 住民のためにとても重要な事だと思います。 地域の人自身はそれまで地域の歴史を考えてこなかったのかもしれませんが、 こういう形で残し、 さらに国際展覧会を世界の人たちが見に来るということを体験することは、 地域の誇りになると思います。 地域にとっては非常に良いことだと思います。
7つのテーマを決めてそれに合わせていろんなプロジェクトが手を挙げていくということについてですが、 どんな人たちがプロジェクトの主体になっていくのですか。 また、 エムシャー社がいろんなプロジェクトを調整していく上で、 プロジェクトのどういう点を評価の対象にしたのでしょうか。
と言いますのも、 こういう環境を大きく変えていくプロジェクトでは勝手にバラバラに動いてしまったのでは連続性のある景観は出てこないと思いますので、 その辺をご説明していただきたいと思います。
春日井:
何を作っていくかについてはまず主催者側の7つの方針があります。 それに一方では地域の人たちの要望があります。 「女性のための団地」は、 主催者側の提案ではなく、 女性グループが「いつも住宅や団地は男性が作っているから、 女性が作るまちづくりがあってもいいのではないか」と運動したのでしょう。 それをIBAに働きかけたところ、 7つの方針に合致したから実現されました。 このようにプロジェクトの調整は基本方針にしたがって評価され調整されています。 だから、 何か良い考えやアイデアがあれば、 誰でも手を上げればいいんだと思います。
小浦:
同じ場所で、 ある人は公園にしたいとアイデアを出し、 ある人は住宅開発をしたいなど、 複数のアイデアが出てきたときはどうするのですか。
春日井:
同じ敷地内で違うアイデアが出てきた場合ですか。 地方自治体には全域を規制している土地利用計画がありますから、 住宅にするか公園にするかは土地利用計画で決められています。 ですから、 アイデアが競合することはあっても、 土地利用レベルで競合することはありません。
小浦:
エムシャーパーク側が工業利用から用途を変換することはないのですか。
春日井:
土地利用計画が単体のプロジェクトによって変えられることはまずありません。
もっともIBAプロジェクト方針の1つである「エムシャー地域の景観整備」は、 広域な緑地整備計画です。 ここでは離散している緑地をつなぎ合わせて将来まとまったグリーンベルトをつくりあげていこうというもので、 区域内17自治体をまとめた土地利用計画の見なおしが行なわれ、 ここではご指摘のあった工業利用からの用途変更もあるでしょう。
堀口浩司(地域計画建築研究所):
プロジェクトは民間や公共のセクターが発意して、 エムシャーパーク社が認定するという形をとりますね。 公的なプロジェクトは問題がないのでしょうが、 民間のプロジェクトでもう少し改良したら認定できそうだという場合、 会社側はサジェスションするのでしょうか。
春日井:
それはおっしゃるとおりです。 何かできそうなとき、 7つの方針に合いそうだったら働きかけます。 その極端な例を紹介しましょう。
オーバーハウゼンにセントロという大規模ショッピングセンターができました。 国際建設展覧会場のど真ん中です。 これは本来ならIBAの作品として展示したいところだったのですが、 構想そのものが実に駄目でした。 ショッピングセンターとして大規模すぎますから、 周辺に出来かけていた街の中心商業を潰してしまうのです。 そういうプロジェクトはIBAのプロジェクトとしては認定しませんし、 IBA側としても止めたかったのですが止められなかったんです。 そういうプロジェクトもあります。
IBAは10年のプロジェクトですが、 あれだけのプロジェクトだと活動は緒についたばかりだと言ってもいいと思います。 10年が終わり、 どう次につなげていくつもりなんでしょうか。
春日井:
さあ、 どうなるのでしょう。 目標一部のグリーンベルトやエムシャー川の改善は実に遠大な計画です。 完全に出来上がるまでは数世代かかるでしょう。 少しずつやっていくしかありません。 しかし、 この10年で大体の方向は決まりました。 ケルンの大聖堂も何百年もかかりました。 少しずつ予算を付けて、 年月をかけてやっていくことになるのでしょう。
参加者:
解散した場合、 会社が持っていたコーディネート機能はどうなるのでしょうか。
春日井:
会社は近々解散しますが、 ルール広域連合とか17の自治体が作業していますから、 コーディネート機能は存続することになります。 展覧会は終わりましたが、 グリーンベルト構想や川の改修はこれからも続けられます。
ですから、 IBA エムシャーパーク社のもっとも重要な役割は地域が少しずつ良くなっていくプロセスを見せ、 地域活性化の動きの端緒をつくることだったと言えるでしょう。
服部:
IBAエムシャーパークは州が設立した有限会社ですが、 他のIBAはどんな形態ですか。 どこも10年で終了するのですか。
春日井:
最初のIBAは、 ダルムシュタットのヘッセン公爵による個人のプロジェクトでした。 没落寸前の貴族で、 どうせお金がなくなるんだったら世界の芸術家を呼んで芸術家村を作ろうという考えだったのでしょう。 個人の事業ですから、 1年に10戸ほどの住宅を作って展覧会を催しました。 これは10年ではなく4年のプロジェクトでした。
主催者について言いますと、 ベルリンIBAは州が主催しています。 シュトュットガルトのワイゼンホーフ団地は市の主催です。
このように、 IBAはそれぞれの形があり、 また開催期間も特に決まってはいません。
私はドイツでは都市計画が2段階で決まっていて、 がっちりした地区詳細計画があった後に開発されるものだと聞いていたのですが、 今のお話だとアイデアがいずれかの段階で出てきて元の計画が変えられるようにも聞こえます。 元の都市計画にどのようにアイデアが組み込まれていくのかをご説明いただきたいと思います。 それとも地区詳細計画がないところで行われるのでしょうか。
春日井:
計画のレベルと事業レベルを別けて考えたいと思います。
計画レベルでは土地利用計画、 地区詳細計画があります。 市域全体が決められている土地利用計画は将来計画ですから動くことはありません。 民間や公共のプロジェクトは、 決められた計画に合わせて作ります。
事業レベルですが、 IBAの国際展覧会の場合は、 展示作品をつくる事業が重要な目的です、 補助金などをつぎこんで良いものつくりに専念し、 計画そのものは前面に出ません。
山崎:
計画が決まっているのに、 新しいアイデアや利用の仕方が実際に入る余地はあるのでしょうか。
春日井:
それはおっしゃるとおりです。 ドイツでは屋根の方向や勾配を決める地区詳細計画は厳しいのですが、 アイデアは無限にありますから、 新しいアイデアや利用が入る余地は充分あります。
ただ地区詳細計画は一般市街地では作られていません。 地区詳細計画は、 再開発とか都市の発展に重要だと思われる所にだけ作られます。
山崎:
国際展覧会は、 地区詳細計画があるところで行われるのですか。
春日井:
地区詳細計画のないところがほとんどです。 さきほど少しふれましたように地区詳細計画があるところはほんのわずかです。 国際展覧会の領域は非常に広く、 その中で地区詳細計画のある割合は微小です。
地区詳細計画は必要であれば作ればいいのですし。 この場合、 計画のあるなしはあまり問題にはならないと思います。 実際、 詳細計画を変えることも可能ですから。
北村:
2点ご質問します。
一つはプロジェクトのやり方であるIBA方式は、 ドイツでは都市計画や建築の世界では重要な方法として認識されているのでしょうか。 一般市民にもよく知られている方法なのでしょうか。
二つ目は、 精錬所などの工場の跡地が公園や博物館として残されることになったとき、 元の所有者である企業はお金を出すのでしょうか。 それとも自治体が買い取って公共事業として行われるのでしょうか。
春日井:
まず、 二つ目の質問についてですが、 どこがお金を出すのかはケースバイケースです。 大きな敷地を抱える企業は、 たいてい土壌汚染などで持て余して困っている状態なんです。 ですから無料で使ってほしい、 うまく再利用できればそれでいいという姿勢です。 企業としてはモノだけ出して後はノータッチというケースが多いようです。
一つ目の質問のIBA方式が社会に認識されているかどうかですが、 実を言うと一般的ではありません。 「最後の切り札」のようなもので、 効果を考えて取り上げられる1つの方法です。 これまでドイツ全体でも50ケースもないと思います。
鳴海:
そろそろ予定の時間になりましたので、 これで春日井先生のご講演を終わります。 なお今日のIBAプロジェクトの他に、 ドイツのまちづくりの動向をまとめられた『人と街を大切にするドイツのまちづくり』という本を出版されたばかりです。 是非、 参考にしていただければと思います。
IBAを管理している組織はあるのですか
井口勝文(竹中工務店):
日本とドイツの違い
丸茂弘幸(関西大学):
事業効果と住民の関わり方
参加者:
プロジェクトの調整について
小浦久子(大阪大学):
IBA解散後は
参加者:
ドイツの都市計画とIBAについて
山崎:
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