都市・公共土木のCGプレゼンテーション
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ビジュアル・シュミレーションとその事例

徳島大学・教授/著者

山中英生


はじめに

 私の元々の専門は交通計画です。 数字を使って人を納得させることが主な仕事で、 視覚化して納得させることは昔は不得意でした。 榊原先生に誘われてこの本の執筆に加わり、 4年前から原稿を書き始めたのですが、 執筆者の議論でかなり意識が変わりました。

 一方、 世の中も変わってきています。 書き始めた頃はCGPを使うこと、 それ自体が一般的なことではなかったのですが、 今では使うことは当たり前で、 むしろ合意形成とか、 説明とかに、 いかに使うかが悩ましいところではないでしょうか。 そのあたりはパネルの主な話題となるかと思いますので、 まずは基本となる2章について概略を説明したいと思います。


ビジュアル・シミュレーションの要件

ビジュアル・シミュレーションに求められるもの

 榊原先生からビジュアル・シミュレーションが扱うのは「空間実体デザイン」である、 との話がありましたが、 これは要するに、 将来出来上がれば見えるであろうものを、 出来上がる前に見えるようにしようというものです。

 その空間実体デザインとして都市・公共土木を考えると、 次の四点が指摘できると思います(p31)。

 (1)3次元空間を扱う
  奥行き、 幅、 高さがあるという当たり前の事です。

 (2)周辺環境の中にある
  他の分野では背景を無視して物を描く事もありますが、 都市・公共土木のデザインでは、 それがどこにあるのか、 背景がどうなっているかを抜きにしてはデザインできません。

 (3)人間と関係する
  都市・公共土木のデザインでは、 人がどこにいるのか、 あるいは人はどこからその空間を見るのかを無視したデザインはありえません。 またどこから見せれば空間が良く分かるのかといった問題も重要です。

 (4)長期にわたる作業となる
  デザインに関わる人が一人ではない。 構想、 設計、 実施の各段階で人がまったく入れ代わってしまうことも珍しくありません。 デザインのデータをどう引き継ぐか、 どのようにして次の人にイメージを伝えるかが問題です。


技術の要件

 したがって32ページに書きましたように、 都市・公共土木のCGPに必要な要件はこうした内容に対応して下記のようになります。

 (1)3次元の記憶と操作が出来ること
 (2)周辺環境の記憶と提示が出来ること
 (3)評価視点の自由な選択が出来ること

 これらのうち(1)は3次元CADでも可能ですが、 3次元CGは3次元座標値や構造だけではなく、 面の素材や肌理も記憶します。

 (2)については地形などまわりのデータをどうするかが大変で、 まだ十分には出来ません。 建築の場合は大地と空だけといった単純な周辺環境しか想定しない場合もあるようですが、 都市・公共土木ではそのようなことは有り得ません。 山や周辺の建物、 地形の情報が必要です。 地図や写真を手に入れてマッチングさせるわけですが、 (1)のデータと比べると同じレベルには達していません。

 (3)はCGPのもっとも分かりやすい特徴の一つです。 パースや絵は、 それぞれ固定された視点から描かれていますが、 CGは視点を自由に移動して描くことが出来ます。 空間を認識させるとう意味で優れた手法で、 この点模型と似ていると言えます。

 ただ、 模型と違いCGも2次元の平面に3次元の立体を描くわけですから、 パースや絵と同様、 様々な工夫が必要です。 たとえば奥行き情報をどう伝えるか、 スケール感をどう伝えるかなどです。

 これについては33ページの図4や図5で紹介しているように、 物の重なりやかすみ、 平行線が奥にゆくにつれ狭くなる、 肌理が細かくなるといった手法が用いられます。 また、 移動視点は奥行き、 スケール感をスムースに伝えられると言われています。 ちょっと動かしただけでもかなりの効果があります。 動かせない場合は視点の違う数枚の絵を用意するだけでも効果が期待できます。

 なお、 視点については、 歩いている人間の視点を無視して、 4〜5mの高さに視点を設定することがあります。 その方が見栄えがよいと言うことでしょう。 そこまで高くなくても、 普通、 人間の視点より少し高めに設定していることは多いようです。


ビジュアル・シミュレーション

の4つの分類

 ここでビジュアル・シミュレーションの4つの手法を比較してみます。 言葉を除いて視覚的なものを考えたものですが、 その4つは下記のものです。

 (1)画像(パースと写真)
  2次元の画像をそのままの形で記録
 (2)図面
  3次元情報を(何とかすれば)復帰できる
 (3)3次元CG
  3次元情報を数字で持っている
 (4)模型
  モノの形のまま、 縮小して持っている

 これらは記憶の仕方で分けたものです。

 それぞれの特徴を考えて見ますと、 例えば3次元情報を見せられるかと言う点では模型が優れています。 背景を見せられるかと言う点では画像が良いでしょう。 視点の移動は模型、 コストはパースが一番安いかと思います。

 CGはというと、 一番優れていると言うことはないのですが、 どの要求にも大体答えられる、 どの要求で評価しても次善の策であると言えそうです。 CGは三次元情報を座標で持っていますし、 背景は画像と重ねればなんとか扱えますし、 背景のモデリングも楽になってきました。 視点の移動などは、 最近では2万円もしないゲーム機でも楽にこなしてしまうわけです。 コストも最近は相当下がってきて沢山使う場合にはパースとそれほど変わらなくなってきました。 ただ微妙な修正はパースの方が簡単で、 今でもパースが良く使われています。

 もちろん、 どの手法を使わなくてはいけないということはないのですが、 3次元CGはどの目的にでも使えるし、 そのうえ、 3次元CGを入れておけば、 そこから図面を出すこともでき、 最終案が決まってから3次元CGのデータから模型をつくると言ったことも当たり前になってきています。

 なお、 38ページの表6では、 画像、 CG、 模型について、 線画、 面画、 精密画、 写実画にわけて、 その特徴をまとめています。 プレゼンテーションにおいては、 先ほどから述べている画像、 CG、 模型といった手法の選択と同時に、 どの程度のレベルのものを使うかが重要ですので、 その特徴をよく知って使っていただきたいと思います。


CGビジュアル・シミュレーションの

作成手順

 p39、 図10に作成手順を10段階に分けて示しています。

 (1)目的の確認、 (2)目標の設定、 (3)情報の収集、 (4)条件設定、 (5)モデリングの範囲の設定など、 ごく普通の手順です。

 ここで重要なことは「何のためにつくるのか」「どういう目標を持っているのか」だと思います。 それはプランニングやデザインのプロセスのどういう段階でつくるのかが大きく関わっています。 検討段階なのか、 関係者協議のためか、 意思決定のためか、 公表・周知のためかということです。 一般に、 計画やデザインの初期の段階では抽象化されたレベルでもよく、 むしろ空間の認識が正確であることが重要です。 一方、 後ろにいくほど精密で表現が豊かであることが求められます。


チェックリストについて

チェックリストの紹介

 榊原先生からもご紹介がありましたが、 この本の一つの特徴として、 種々のチェックリストを載せています。 簡単に言えばビジュアル・シミュレーションをつくる時にどの程度のものをつくろうとするのかの確認や、 出来上がった結果、 意図したレベルが実現できているかを確認するためのチェック項目をリストアップしたものです。

 2章ではビジュアル・シミュレーションについて
 (1)静止画の画像質チェックリスト
 (2)動画の画像質チェックリスト
 (3)表現特性評価チェックリスト
 (4)利用特性評価チェックリスト

を掲載しています。

 (1)(2)は絵としてまともか、 必要な情報が入っているかということです。

 (3)が作った絵がプレゼンテーションとしてまともに使えるかです。 (4)は提示のプロセスも含んだ全体的な評価です。 ここでは文章や説明書、 データはどのようなものを使っているかなど、 提示のプロセスも含めて相手に本当に伝わるものになっているかをチェックしようというものです。 (3)が作ったものの評価であり、 (4)は使う時の評価だと考えていただければと思います。

 たとえば静止画の画像質評価チェックリストを見ると、

などについて5段階で評価するようになっています。

 いずれも主観的な評価ですが、 自己チェックをするためのものと考えていただいてもよいと思います。

 ただ気をつけていただきたいのは、 全部の項目で満点をとることをお薦めしているわけではないということです。 つくる際に何が重要かを考え、 何が犠牲に出来るかを考える。 あるいは作ったものをそういった目で評価してみるためのリストです。


動画について

 動画については、 (1)空間認識がしやすい、 (2)動態景観が提示できる、 (3)静止画より全般的に表現力があるといった利点があります。 特に空間認識がしやすい事は見逃せません。

 ただ、 問題点としては、 (1)作成手間と、 (2)背景の扱いの難しさが挙げられます。

 作成手間については、 近年相当程度改善され、 手間が特段に障害となることは無くなってきています。 しかし、 背景の扱いについては、 扱いやすくなってきているとはいえ、 まだまだ難しい問題です。 また、 最近は少なくなりましたがコマ落とししすぎて不自然さが目立つとか、 運動モデリングが不自然だとかいった問題もありました。

 一番難しいのが速度感を正確に感じてもらうことで、 これには相当大がかりな装置が必要です。 パソコンなどの普通のモニターは画角が狭く、 正確に40kmの動きをシミュレートした風景を示しても、 そんなスピードには感じられません。 もっと大きな視野を提供しなければならず、 これには大袈裟な施設がいると言うことです。


表現特性/利用特性の評価

 そういったことをあわせて、 ビジュアル・プレゼンテーションとしての表現特性評価を見ます。 それには
といった評価基準を設けています。

 こういったことを念頭において、 作ったものを評価する、 あるいはつくる前に目標を設定するということです。

 チェックリストが多く、 それぞれの関係が捉えにくいかもしれませんが、 先ほどの画像質のチェックリストをも総合して、 ちゃんと使えるものになっているかをチェックするのが、 この表現特性チェックリストだと考えていただいて良いかと思います。 場合によればこれだけをチェックいただいても良いということです。

 最後が利用特性の評価ですが、 これは一枚一枚のCGやワンセットの動画としてではなく、 説明書やナレーション、 一連のCGや動画といった実際のプレゼンテーション全体を評価しようと言うものです。

 こういった評価において重要な事は、 CGがだまし絵のようであってはならないということです。 チェックリストには代表性、 正確性、 理解可能性、 訴求力、 正当性をあげていますが、 正しい空間認識を提供できているのかということのチェックだと考えて良いかと思います。

 少しレベルが違うかもしれませんが、 関連して重要なことに「正しい空間認識を提供している」ことを納得いただけるかどうかがあります。 この点、 パース等と比べるとデータの公表が可能である点をCGの優れた点として強調しておきたいと思います。 パースもCGも恣意的に描くことはできますが、 CGの場合、 データを公表すれば、 そういったインチキがあるのかないのかを別の人が再確認することができます。 その点はパネルディスカッションでも再び触れたいと思います。

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