都市とか公共土木デザインを対象とする属性デザインとは、 難しく言うと「地理的空間において、 施設・構造物の幾何的性質をデザインすること」です。
くだいて言えば、 道路をつくる時に、 空間実体デザインでは奇麗な道路をつくることが目的でありうるわけですが、 空間属性デザインにおいては、 交通をさばくことが第一の目的だということです。 そして、 その空間属性をデザインするには地図的な表現が良く使われるということです。
こうした目的から、 ビジュアリゼーションではしばしば「抽象化」が行われます。 たとえば158ページの5.2.4図は京阪神の道路網を表わしています。 本来の道路は幅を持っていますが、 この図では半分抽象化されて一本の線で表わされ、 1日あたりの交通量が矩形の高さで、 一般道路は青で、 高速道路は赤で示されています。
159ページの図5.2.9は大阪の概略の道路網をバックに1km格子点ごとのNOx濃度が丸の大きさで表わされています。 この丸は空から大阪を見ても絶対に見えません。 NOx濃度という情報が完全に抽象化され地図上に付加されているのです。
すなわち、 現実がそこにある世界だとすれば、 航空写真はそれを遠くから見たものであり、 地図はそれを記号で表現したものです。 それに対して、 ビジュアリゼーションは、 現実にはあるけれども、 航空写真でも見えない情報、 すなわち属性を視覚化したものと言えます。
にわけて解説しています。 今日は5章に掲載した種々の事例をまじえながら、 3章の概要を解説します。
先ほど述べたことからお判りのように、 ビジュアリゼーションは空間に対応した多様な情報を抽象化し、 視覚化するものです。 たとえば交通量を知らせる時、 ビジュアル・シミュレーションでは1台1台の車を書いていくことになるのでしょうか。 交通量を表わすことはそういった手法では不可能です。 対してビジュアリゼーションは施設や交通といったものの属性の情報に関しては、 これを抽象化することでかえって欲しい情報を正確に伝えることができます。
さらに「(2)予測、 シミュレーション」を行うことです。
交通量の予測などにおいて、 単なる数字の羅列ではなく視覚化により結果の理解を容易にします。 あるいは分析の途中で視覚化することによって精度を高めたり、 モデルを作ったり、 その適否を考える上での支援ツールとなります。 結果の表現だけではなくてプランナーや研究者が考える上でも役立つということです。
そして「(3)主題性を持った情報の作成と伝達」が挙げられます。
テーマや表現の意図を的確に伝えるだけではなく、 ここでも発見的な情報把握への寄与が考えられます。 たくさんのデータから選択して、 かつ加工していく過程で新たな発見もありうるということです。
最後に「(4)公共物のデザイン」における役割です。
たくさんの主体、 その中には専門知識がない住民なども含まれるわけですが、 そういった人びとに計画の意図を正確に伝えられるということです。 榊原先生の講演でも紹介されていたように、 都市・公共土木のデザインには長い時間が必要であり、 つくる主体すら入れ代わってゆくわけですから、 情報を電子化し、 管理を容易にすると言った役割も期待されています。
なお榊原先生の定義にしたがえば、 (1)、 (2)は表現プレゼンテーションに深く関わる側面であり、 (3)、 (4)は提示プレゼンテーションに関わるものだということができるでしょう。
まず「(1)幾何的な情報の操作と記憶」が出来ることです。
2次元CADも同様な機能を持っていると思われるかもしれませんが、 ビジュアリゼーションでは位相関係を持っていることが重要です。 位相関係とはネットワークの連結関係や、 線がどの面とどの面を分割しているかなどトポロジカルな関係のことです。
次に「(2)空間と関連づけられた情報の管理」が出来ることです。
いろいろなデータを点、 線、 面などの要素に対応させた形で管理し、 検索や加工が出来、 さらに幾何的な情報とそれに付随する情報を統合的に管理するデータベース機能を持っていなければなりません。 空間と関連づけられた情報とは、 たとえばGISのように、 地図上のどこかの点や面を指定すると、 その点の住所や名称、 それが建物ならその写真や構造種別といったものが出て来るというシステムを思い浮かべていただければ良いかと思います。
最後は、 「(3)主題図の作成機能」です。
数値データの形で格納されているデータに、 必要に応じてランク分けを行い、 それを記号の大きさや形、 色・パターンなどに置き換えて表示するという、 いわゆる最終アウトプットを作成する機能です。
さらに重ね合わせや、 立体化・動画化などを行って、 より効果的な表現を行うことが必要です。
ビジュアリゼーションにおいても品質とコストが重要な評価要素です。 品質については、 いかにたやすく描写力や表現力といった品質を確保できるかがポイントですし、 コストについては単にお金だけではなく、 操作性、 すなわち誰でも使えるか、 熟練を要しないかといった点がポイントになります。
ここで強調したいのはビジュアル・シミュレーションでは情報が多ければ多いほどフォトリアリスティックになり品質が上がるのが普通ですが、 ビジュアリゼーションでは情報を絞ることが必要だということです。
ビジュアリゼーションでは空間をモデル化しますが、 その際、 実世界から操作する対象だけを取り出して来るのではなく、 周辺情報をも含めて取り出しています。 それがこの図で示した「場」です。 たとえば道路が「対象」だとしても、 河川や市町村境界なども取り出すことが多いわけです。 すなわち「場」とは空間を認識するフレームだとも言えますし、 背景とも言えます。 たとえば座標系も場の一つです。
対象も場も、 同様に場合によって変わります。 5.2.1の図6のように家を扱う場合には家が対象で道路が場となります。 逆に道路を扱う場合は、 家は場の情報となるわけです。
ところで、 実在空間の情報は幾何情報と特性情報に分けることができます。 道路であれば幅は幾何情報で、 交通量は特性情報です。 ただしこれも場合によって変化します。 大縮尺であれば道路の幅は2本の線で表わされる幾何情報ですが、 小縮尺では道路を一本の線で表し、 道路幅は特性情報として数値データで持つこともあるわけです。
これを事例にあてはめると
なお2次元CADでもそうですが、 ビジュアリゼーションでも基本的には画面や出力図といった二次元の平面上に3次元の実世界を表わそうとするわけですから、 地形を表わすのが難しいわけです。 ただ3次元で地形を表すモデルをつくることが必ずしも良いということではありません。
人間の移動範囲は高さ方向はどんな超高層ビルでもたかだか数百mです。 ところが水平方向では数キロ、 数十キロを扱わなければならなりません。 単純に同縮尺で縮めては全然見えないことになります。 また建物は都市・公共土木でよく扱う対象の一つですが、 高さ方向の「階」は層状になっているといった特性を持っています。 こういったことから一般に2.5次元モデルという手法が使われています。 その代表例として57ページ表4にDTMモデルとTINモデルを紹介しています。
同様に事例にあてはめて紹介しますと、
なお動画表現の例としてあげた5.2.2図5は、 本書では別個の3つの図として掲載していますが、 当然アニメーション化が容易です。
ビジュアリゼーションでは、 動画は実時間のものではなく、 このように時系列分析に多く用いられています。
またテキストのオーバーレイマッピングは地図のイメージですが、 この例はランドサットの写真を使ったものです(写真A)。
モデリングでは事物が正しくモデル化されているかを、 レンダリングでは見やすいかを、 イクスプレッシングではそれら以外の、 たとえば背景、 構成、 立体化、 動画化などが適切に選択され表現されているかをチェックしています。
意味表徴性、 描写性、 情報性といった評価項目が並んでいますが、 重要なのは総合評価にある目的整合性です。 ようするに目的にかなった表現の質が得られているかを問うものです。
たとえば道路交通量のグラフを地図上にプロットした場合、 グラフがぼやけていたり、 どの道路の交通量なのか分からないような場合は、 画像質自体に問題があることになります。 それに対して、 美しく明快に出ていても、 スケールの設定が大きすぎ、 どの地点も同じぐらいにしか見えなかったとしたら、 交通量が多い所を一目で分かるようにしようという目的にはかなっていない事になります。
表10、 11が主に技術的な視点からのチェックだとすれば、 表12はより総合的にチェックしようというものです。 ナレーション付きの十数枚のスライドとして提示されるのであれば、 ナレーションも含めて、 全体として評価しようと言うものです。
これらは私たちはこう考えるというものを掲載したものです。 皆さんからのご批判をお待ちしています。
なお、 覚えておいていただきたいのは、 ビジュアル・シミュレーションはおおむね写実性を目標としていますが、 ビジュアリゼーションには何が良いと言う分かりやすい基準がないということです。 その中でどうした評価を行うかが問題です。
ビジュアリゼーションとその事例
名城大学・助教授/著者
吉川耕司
はじめに
空間属性デザインとビジュアリゼーション
空間属性デザインとは
ではまず、 空間属性デザインとはどういうことかから始めたいと思います。
ビジュアリゼーションとは
言い換えれば、 ビジュアリゼーションとは交通量とか建物の用途のように目にみえないものを視覚化して表現することです。 ビジュアル・シミュレーションが実体を扱う。 それは目にみえるものであり、 出来上がるであろう空間の認識が目的です。 対してビジュアリゼーションは属性を扱う。 目にみえないもの、 事物がもたらす影響や社会的経済的な活動の特性の表示が目的です。 前者が通常その時点で出来ていないものをシミュレートするのに対して、 後者はすでに出来上がったものを対象とすることもあれば、 出来ていないものを対象とすることもあります。
3章の構成
3章ではビジュアリゼーションを
(1)要件
(2)手法
(3)作成指針と評価(チェックリスト)
要件
役割
まず役割ですが、 「(1)空間に対応した情報表現」を行うことです。 ベースとなる地図だけでは何も伝えられませんから、 それに色々な情報を付加していく事が必要です。
技術的機能
ビジュアリゼーションに求められる技術的な要件は次の三つです。
評価要素
54ページの表1を見てください。
ビジュアリゼーションの手法
実在空間とその情報のモデル化
55ページの図1に「空間と情報のモデル化」という図を示しています。
幾何情報のモデル化と表現
56ページの表3は、 幾何情報の標準モデルを示しています。 バラバラに配置されたもの(離散形態)として扱うのか、 連続したもの(連続形態)として扱うのか、 また、 点なのか、 線なのか、 面なのかと言った基本的な考え方を絵解きしています。
・個別面モデル(離散形態、 点要素)−p130、 図2
といったものが挙げられます。
・領域分割モデル(連続形態、 面要素)−p131、 図6
・ネットワークモデル(連続形態、 線要素)−p154、 図2
・メッシュモデル(連続形態、 点要素)−p139、 図5〜8
特性情報の分類と視覚化の手順
これについては時間がないので省略しますが、 定性・定量あるいは尺度といった特性情報の性質をきちんと把握することの必要性、 地理的な集計や加工の方法、 記号化やランク分け、 色使いに関する注意点、 等が解説されています。
表現手法
ビジュアリゼーションの表現手法にも種々の物があります。
・主題図表現−p122、 図4
・動画表現−p127、 図5
・3D表現−p134、 図1
・重ね合わせ−p135、 図9
・オーバーレイマッピング−p150、 図2〜7
CGビジュアリゼーションの
作成指針と評価
画像質の評価
表10は、 表現する内容ではなく、 画像そのものの質を問うものです。 何を伝えているかは脇に置いておいて、 取り敢えず、 情報がちゃんと伝わるか、 視覚的に明快か否か等を検討しています。
表現チェックリスト
表11では表現する内容を含めて評価しています。
利用特性チェックリスト
表12は代表性や正確性、 理解可能性、 訴求力、 正当性など利用に耐えうるものかどうかを問うものです。
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