住宅時事往来No.11
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在日外国人の知恵を取り入れ
一緒に考える社会を構築することが重要

篠沢純太さん(クムスタ編集長)に聞く

在日フィリピン人や日比ファミリーを対象としたバイリンガルの月刊誌「Kumusuta!(クムスタ)」を発行。

在日外国人と共生するための社会やメディアのあり方について、 お話をお聞きした。

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クムスタを企画したきっかけ

改行マーク私は、 88年にフィリピン女性と結婚し、 1年ほどフィリピンで暮らしたあと、 日本に戻りました。

私どものような日本人とフィリピン人のカップルを日比ファミリーといいますが、 夫が日本人・妻がフィリピン人というケースが9割を占めます。

日比ファミリーの悩みは、 家族みんなで気軽に楽しむことができるメディアがないことです。

夫たちはフィリピン語や英語で書かれたフィリピンのニュースがわかりませんし、 妻たちは日本語で書かれた日本のニュースがわかりません。

そこで、 日比ファミリーや在日フィリピン人向けに、 日本語・英語・フィリピン語のニュースを満載した雑誌、 クムスタを創刊しました。

現在、 発行部数は2万5千部に達しており、 そのうち定期購読は8千部です。


在日フィリピン人と地域との関わり

改行マークフィリピン妻たちは、 日本では「お店はどこですか」とよく日本人に質問されます。

一方、 フィリピンでは、 コンクリートの家を建てたり、 新品のジープニー(ジープ型トラック)を買うと、 「ジャパゆきさん」といわれます。

日本、 フィリピンいずれの社会にも、 それぞれ「偏見」があるわけです。

「偏見」はいまだに根強いのですが、 徐々になくなる方向にあると思います。

といいますのも、 私の経験でいえば、 90年頃には、 住宅を借りようとすると、 妻の名前を見ただけで、 不動産屋は難色を示したものです。

ところがいまでは、 アパートオーナーから、 フィリピン人の借り手の紹介を頼まれるほどになりました。

それが「偏見」が消えていることの証明かどうかは不明ですが、 部屋などが借りやすくなっているのは事実です。

在日フィリピン人は、 他の外国人に比べて日本人と結婚している人が多いのが特徴です。

このため、 地域的にはあまり偏在していません。

よくマスコミで取り上げられる農村花嫁は実は数としては少なく、 大都市に住む人が大部分です。

結婚して子供が生まれ、 子供が保育園から小学校にあがるようになると、 近所や保育園、 区役所など、 地域との関係が強まってきます。

このため、 在日フィリピン人の多くは地域にコミットせざるを得ない立場におかれています。

いまでは教会や地域を媒介にして、 在日フィリピン人ネットワークも形成されつつあります。

フィリピン人は、 自信をもって、 フィリピン文化を地域に主張し始めているのです。


日本の目指すべき社会のあり方

改行マーク日本では、 ようやく国際化の窓が開きつつあるように見えますが、 現状では、 外国人への窓が十分に開かれたとはいえないと思います。

なぜなら、 これらの窓の多くは日本人が選んだ窓で、 生活する側の視点が欠けているからです。

例えば、 ゴミ分別という窓を取り上げてみましょう。

フィリピン人は、 ゴミの細かい分別法こそ知りませんが、 本質的な省ゴミ社会とは何かを知っています。

切り身パックあふれるゴミだらけの日本がゴミゼロ化社会に向かうノウハウは、 フィリピン人に聞けば教えてもらえるかもしれません。

外国人と一緒に暮らしていくためには、 彼らの知恵を積極的に取り入れ、 一緒に考える社会を構築することが重要なのです。

それによって、 地域は住民の総意を反映してより豊かなものになりますし、 外国人にとっても地域がアイデンティティを確立する場になりうるのです。


在日外国人への情報提供のあり方

改行マーク在日フィリピン人が抱える問題は、 来日後の期間によって違います。

来日したばかりの時期には、 ゴミの出し方、 役所の手続き、 教会、 警察などのニューカマー向けの生活情報が必要です。

しかし、 来日して5〜10年たつと、 健康保険の延長や、 出産給付金のもらい方、 母子手帳の使い方など、 より広範な情報を求めるようになります。

行政が提供する情報は、 ニューカマー向けのものに限定されていますが、 クムスタでは、 多様化しつつある在日フィリピン人のニーズに応えるために、 幅広い情報を提供しています。

現在は、 出身国ごとに総合的な在日外国人メディアがあるわけですが、 今後はそれだけでなく、 在日外国人が共通して求めている情報について、 特定分野に絞って提供する専門的なメディアが成立していく可能性があるでしょう。

(インタビュー:笠原・塩路・太田、 文責:笠原秀樹)

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