ここでは、 神奈川県川崎市が設置した「外国人市民代表者会議」の事例を紹介しながら、 外国人住民の地域社会への参加について考えたい。
東京都生活文化局が行った1995年3月の調査1)によれば、 都下50区市部では、 外国語の広報紙等による情報提供が47、 外国語による相談業務が26、 地域に根ざした交流事業が46、 特に外国人を対象とした医療福祉教育及び住宅に関する事業が32と、 いずれも高い実施率となっている。 外国人人口比率が高い自治体では、 何らかの形でそれぞれの地域状況に応じた施策が展開されていることが分かる。 自治体職員として実際に外国人向け施策に携わる上村悦子氏によれば2)、 当初自治体が発行した生活情報の多くは、 緊急・救急情報、 行政情報、 生活一般のルールや生活をスタートさせるために必要な情報であった。 しかし、 現在では、 彼ら自身が自らのネットワークで情報を取得していること、 民間による情報提供が充実してきたこと、 また、 外国人の滞在の中長期化や定住化が進行していることなどの理由により、 自治体が提供すべき情報の内容が変化しつつあると指摘している。 今後の自治体は、 限られた紙面や経費の範囲で、 外国人住民に対して如何により生活に密着した定住のための細かい情報とサービスを提供できるかが課題であろう。 その方向の一つとして、 外国人市民自身の声を直接聞く「外国人市民代表者会議」という取り組みがある。
川崎市では、 1920年頃から河川工事や市内に多数立地する工場労働に徴用された朝鮮人労働者が多数住み始めたという歴史がある。 過去25年間、 当時外国人登録者の9割近くを占めていた在日韓国・朝鮮人との協力関係をつくりながら、 児童手当の支給、 市営住宅の国籍条項撤廃、 交流施設「ふれあい館」の建設など、 外国人住民の要望を受けてそれを実現させようとの市職員などの努力により、 さまざまな外国人住民向け施策を展開してきた(表1)。
新たな対応に追われるなかで、 外国人住民にも制度適用を求める過去の取り組みに加え、 外国人自身の市政への「参加」が必要だという声が高まったことを受けて、 1994年10月に「外国人市民代表者会議」調査研究委員会を設置し、 1996年12月から同会議をスタートさせた。
自治体への外国人意見の反映については、 1998年東京都港区が基本構想の審議会に外国人住民2名の審議委員を登用した事例、 1991年に山梨県が長期計画審議会の委員に3名の委員を登用した事例がある3)。 また、 1992年大阪府「在日外国人問題有識者会議」で10名中5名に、 1994年大阪市「外国籍住民施策有識者会議」で14名中7名に、 同年神戸市「在住外国人問題懇話会」で10名中4名に、 各々外国人委員が登用されている4)。 しかし、 川崎市の「外国人市民代表者会議」は、 特殊な職能的立場の外国人ではなく、 普通の生活感覚を持つ外国人住民自身によって構成・運営され、 彼らの経験や視点から問題を討議するという点で、 全国的に初めての取り組みである。
会議は、 国籍や出身地域のバランスを考えた公募委員(20か国258人からの応募があった)21名に推薦委員5名を加えた計26名で構成されている。 初(1996)年度の会議は、 「教育」「地域生活」「まちづくり」の3つの部会に分かれ、 9名の臨時委員を加えて計2回5日間に渡って行われた。
第1回の会議で、 調査審議したいと提案のあったテーマを報告書6)から抜粋すると、 学校や地域におけるいじめや差別をなくしたい、 親戚や知人の少ない外国人の子育て支援をもっとして欲しいといった子どもの教育の問題、 住宅・就職・医療の問題や地方参政権を実現させるために市に応援して欲しいという問題、 市の情報がもっと欲しい、 外国人ももっと地域との交流や参加をすべきだという意見などが出された。 いずれも委員自身の個人的体験などから日頃感じている問題点である。
事務局の山田貴夫さんによれば5)、 各自の経験づく具体的問題の議論を重ねるなかで、 国の法律の変更がないと実現できないこと、 日本人住民の共感が得られない提案は現実的でないことなどを各委員が理解し、 意見が収斂していったという。 会議は、 この結果を以下のような「提案」にまとめ、 1997年5月に市長に直接報告・提案した。
市はこの提言を受けて、 教育は「仮称・外国人教育検討委員会」を設置し、 住宅は「川崎市住宅基本計画」の改訂作業の中で、 多言語広報は市民局を中心にそれぞれ推進する旨の回答を議会で行っている。 今後も委員自身の運営により、 会議は継続される予定である。
また、 神奈川県は1998年度に「外国籍県民代表者会議」の設置を目指している。
外国人市民会議の意義は、 単に、 国際化を推進するためや、 外国人住民の置かれた厳しい状況を改善するという意味だけに留まらない。 日本人では気づきにくい日本のしくみに対して外国人ならではの指摘ができること、 そして、 何よりも外国人住民自身が声を上げることによって彼らに地域住民としての意識が育ち、 同時に、 日本人住民に対して共に地域をつくり上げていこうというメッセージを発せられることである。 そのためには、 せっかく立ち上がった会議を外国人住民や自治体任せにせず、 同じ地域の住民として私たち一人一人が積極的に関わり支えていくことが今後必要になってくるであろう。 文化や生活習慣の異なる外国人を向かい入れたために発生する財政コストの負担増を嘆くより、 異なる価値観が混在する中で育まれる豊かな地域社会に期待し、 その実現に向けて努力したい。
川崎市外国人市民代表者会議
外国人を住民として受け入れるための自治体の施策
外国人住民自身の自助努力や民間NGOなどによる外国人支援活動が展開されるなかで、 外国人が地域の一員として日本人とともに生活していくために、 地方自治体などの公的機関ではどのような施策を展開しているのだろうか。
外国人住民向け施策の現状
川崎市の「外国人市民代表者会議」
国際政策ガイドラインづくりのための提言を受けて実施した施策
1996年度の「提言」
住民として共に生活するためには
注・参考文献:
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*1 東京都生活文化局『平成六年度東京都区市町村における国際化事業等に関する調査結果』平成7年3月
*2 上村悦子「在日外国人への情報提供と相談活動」『講座・外国人定住問題 自治体政策の展開とNGO』明石書店、 p42〜46、 1996年5月
*3 江橋崇編著『外国人は住民です 自治体の外国人住民施策ガイド』学陽書房、 p166〜167、 1993年9月
*4 東京都国際政策推進会議『外国人住民の都政参画の拡充について』1997年5月
*5 杉並区民大学「自治体の独自政策の展開-川崎市外国人市民代表者会議の方向性」1997年12月17日での山田貴夫さん(川崎市市民局人権・共生担当)のお話を参考にさせていただきました。
*6 川崎市外国人市民代表者会議『川崎市外国人市民代表者会議 年次報告<1996年度>』川崎市市民局人権・共生推進担当、 1997年4月
* 川崎市市民局人権・共生推進担当『川崎市外国人市民代表者会議ニューズレターNO.2』1997年9月
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