あの阪神・淡路地域に甚大な被害を及ぼした大地震発生から、 はや3年8か月も経ちました。 しかし、 地場産業や“すまいやまち”の復興・整備は、 まだまだの感がいたします。 応急仮設住宅も数多く残っています。 何万人もの方々が県外に避難されたまま、 元の“すまいやまち”に戻られていません。 芦屋の“まちなか”を歩いても、空き地が数多くあります。 「かつて、 ここに住んでおられた方は今どうされているのだろう……」と思わず考え込みます。
思い起こせば、 この南芦屋浜での公営住宅建設構想が具体化し計画がスタートしましたのは、 1995年の秋でした(当時、 私は住都公団復興本部の建築課に在籍)。 災害復興公営住宅の戸数が足りないということで、 急きょ800戸余りを住都公団で計画・設計するということになりました。 兵庫県や芦屋市の公営住宅関連予算の制度上、 1998年の3月には、 住宅も竣工しなければならないとのこと。 時間との勝負になり、 私たち設計スタッフとしては、 既成の復興標準プランを使用し工業化工法で建設すると決め、 何とかスケジュールに乗せることができました。 そして、 県・市・公団を始め、 関連の皆様方の一致した協力体制のおかげをもちまして、 いろいろな難局を何とか乗り切り、 この春の入居にいたったわけです。
設計を進めながら危惧いたしましたことは、 生活関連施設の整備が十分でない南芦屋浜地区に住宅ができても、 高齢者の方や介護の必要な方々に安心にかつ快適に生活していただけるだろうかということでした。 物的生活関連施設は北側の芦屋浜団地や仮設で対応するということで、 ハード関連はなんとか間に合う。 また、 介護に関しては、 コミュニティプラザの中にLSA(生活援助員)が常駐とのこと。 それを聞いて、 一安心しました。 しかし待てよ、 これまで長い間、 地域のコミュニティ豊かな“まちなか”の木造家屋や仮設住宅に住んでおられたり、 あるいは、 積層集合住宅での居住の経験のない方々にとって、 鉄筋コンクリートの閉鎖的な高層住宅での新生活は随分厳しくつらいものに違いない。 そのしんどさを少しでも解消できる“手だて”は何かないものだろうかと、 公団スタッフのみんなでいろいろ悩んでいるなかで始まったのが、 この市民参加型の「コミュニティ&アート計画」だったわけです。 この計画につきましては、 千葉大学の延藤先生をはじめ実に多くの人たちの参画・協力があって実現に至ったわけです。
入居が終わった今、 これから大事になることは、 新しく住まわれる方々自らが自治組織を作られ、 また、 この南芦屋浜住宅でのコミュニティを大きく発展させられることだろうと思います。 もちろん、 公団やこの「コミュニティ&アート計画」の実施に関連いたしました私どもは、 これからも可能な限り、 お手伝いをさせていただくつもりです。 この南芦屋浜公営住宅にお住まいの皆さんが「住んでよかった!」「なかなか快適です!」「集まって住むっていいな!」と言っていただくようなコミュニティが形成されていくことを切に願います。
さて、 以上のようなこの南芦屋浜復興公営住宅プロジェクト全体の「建設記録をぜひ残そう!」、 あるいは、 「公営住宅として例のない『コミュニティ&アート計画』をいろんな人やところに紹介したらどうやろ……」ということで、 公団と実行委員会とで協力しながら取り組むことになりました。 この記録誌には中核の「コミュニティ&アート計画」の紹介(第3編)以外にも盛りだくさんのメニューを用意しております。 まず第1編は、 公団復興本部でのこの3年間の復興公営住宅への取り組みやおもなプロジェクトの紹介です。 様々な事業制度を駆使し、 多くの団地で計画・設計・発注等に取り組み、 成果をあげましたが、 その総集編とも言える内容です。 次の第2編以降は、 南芦屋浜の事業記録ということで、 第2編は企画・計画・設計あるいは工事監理サイドからの言わば“すまいづくり・まちづくり”プロセスの説明であります。 苦労しながら、 きわめて短時間に効率よく進められた実態を読み取っていただきたいと思います。 そして、 第4編はまちびらきのあと、 ここでの生活はまだ短期間ですが、 暮らしの様子などを紹介しています。 また、 今後の南芦屋浜でのコミュニティづくりをテーマに行われた延藤先生と県・市・公団の部長・助役の皆さんとの座談会の記録を第5編としました。 これからのコミュニティ形成への一つの参考になるのでは、 と思います。 最後は、 資料編ということで、 ワークショップ等の記録やマスコミの報道内容、 あるいは、 この南芦屋浜団地プロジェクトに関連された方々の顕彰の意味でその名簿も載せました。 多くの方々の関心や努力・協力などの拡がりが読み取れるかと思います。 最後に別冊“二大付録”としまして、 当プロジェクトの屋外とピロティで制作されたアートを紹介したアート・マップである「南芦屋浜コミュニティ&アート」と団地概要「南芦屋浜・災害復興公営住宅」をつけました。
この記録誌は、 当南芦屋浜団地に関連して、 企画から建設あるいはアート等の制作に携わった方々の様々な協力で実現しました。 心よりお礼申し上げます。 また、 “見てもよし・眺めてもよし・読んでもよし”をモットーに編集しました。 いろいろな読み方、 見方があるのではと思います。 大いに活用していただきますと、 編集委員一同、 幸いに存じます。
1998年9月
はじめに
増永理彦/神戸松蔭女子学院短期大学教授
一方、このようなすまいをめぐる状況ではありますが、新しい住宅の建設・供給も盛んで、 公的災害復興住宅の多くが完成し入居も進んでいます。 当南芦屋浜災害復興公営住宅もその一つで、 いよいよ、 新しい生活が始まりました。
神戸松蔭女子学院短期大学教授
増永理彦
目次へ 次へ
このページへのご意見は南芦屋浜コミュニティ・アート実行委員会へ
(C) by 南芦屋浜コミュニティ・アート実行委員会
学芸出版社ホームページへ