HARはる基金

阪神・淡路ルネッサンスファンドニュースレター

「HAR はる基金」1998年7月1日 第5号

■■ 転載自由 ■■

発行:財団法人 まちづくり市民財団
阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク事務局


■「プロジェクト型」まちづくりから「居住型」まちづくりへ

広原盛明(HAR基金代表・京都府立大学学長)

改行マーク阪神・淡路大震災からもう3年半近くの時間が流れました。 被災地を訪れた人の多くは、 3年前の惨状にくらべてその変貌ぶりに驚くといいます。 重点復興区域などで新しい建物が次々と復興するのは「プロジェクト型」まちづくりの成果であり、 日本の企業や自治体のたくましい底力を示すものとして大いに歓迎されるべきでありましょう。

改行マーク一方、 はる基金は「住まい・まち・暮らし」の三位一体の復興を求めて、 震災直後から地道な活動を続けてきました。 被災者が被災地に住みつづけながらまちづくりをするという、 いわば「居住型」まちづくりを応援してきたのです。 その意味で、 居住型まちづくりは、 いわゆる「白地区域」にふさわしいまちづくりといえるのかも知れません。

改行マーク今後、 プロジェクト型まちづくりが一段落すると、 市民のまちづくりへの関心は急速に衰える危険性があります。 また、 そこに入居してきた新住民の間で、 あるいは新住民と旧住民との間でうまくコミュニティが育たない恐れもあります。 プロジェクトの切れ目がまちづくりの切れ目になってしまわないように、 私たちは気をつけなければならないでしょう。

改行マークしかし、 復興まちづくりの原点である居住型まちづくりは、 今度とも終わることなく持続していくことでしょう。 文字通り「息の長さ」で勝負する居住型まちづくりは、 歩みは遅く、 華々しい成果は見えることが少ないものの、 程なくして被災地再生の主役を担うことは確実です。 兎と亀のレースは亀が勝つことに決まっているのですから。


■HAR基金の今後の助成方針について

林泰義(HAR基金副委員長・計画技術研究所所長)

改行マーク広原代表が述べられているように、 震災後3年を過ぎ、 被災地の復興状況がおよそはっきりしてきました。 しかし、 比較的復興が進んでいるとされる東部地域の新築建物のキラキラした様子からは、 再建のためのローン負担などの内実までは計り知ることが出来ません。 一方、 空閑地の様子からは従前居住者の生活再建の道筋がどうなっているか、 伺い知ることは困難です。

改行マークこうした状況にあって、 HAR基金への応募状況も昨年来変化してきています。 新たな応募グループがあまり登場しなくなっています。 応募内容については日常的な市民まちづくり活動へのシフトが見えます。

改行マークさらに阪神淡路コミュニティ基金、 六甲アイランド基金などの助成事業が軌道に乗ってきた結果、 助成金額が小さいHAR基金への応募が限られる傾向になっています。 またこれはよろこばしいことですが、 復興基金によるコンサルタント派遣等の事業も、 今年と来年の2年間の延長が決まりました。

改行マークHAR基金の特質を踏まえて基金特別委員会では検討を重ねてきましたが、 以下の新しい助成方針により、 この状況に臨むこととしました。

(1)助成を年1回とする
  3年を経た現在、 事態の急速な変化は良くも悪くも少なくなってきています。 被災 直後の急速な変化に対応するため に年に2回行ってきた助成を、 状況の変化に応じて年1回にしてゆくこととします。

(2)助成を重点的に行う
  地域の再生のために特に意義深いと思われる以下の領域を重点的に助成する。

   イ、 まちづくりハウス活動(例えば、 専門家による支援組織の設立)

   ロ、 復興市民活動の「基盤を高める活動」(例えば、 状況にあった被災者支援ネットワークの構築)

   ハ、 社会的仕組みづくり(例えば、 新しい共同居住を促進する活動)

改行マークその他、 本委員会として助成対象団体の活動の実態の現地ヒアリングを行い、 HAR基金の実績を記録・評価するとともに今後のあり方を探ろうと考えています。 今後のスケジュールとしては、 今年度の助成を9月初旬に設定しました。 事務局や関係者に相談下さって、 是非応募下さい。

改行マーク皆様の暖かい励ましにHAR基金関係者一同、 深く感謝いたすとともに、 これからの2年さらなるご支援を下さるようお願いいたします。

第6回復興まちづくり助成と審査会などの日程は次の通りです。

        公募期間  7月15日〜8月15日(締切)
        公開審査会 9月5日(土)午後1時〜こうべまちづくり会館にて

 当日は、 午後1時〜3時を公開審査会(進行:林泰義)とし、 引き続き3時〜5時に、 阪神・淡路まちづくり支援機構との共催で公開討論会を行います。 討論会では、 支援機構の98年1月17日提言の報告(支援機構事務局・斎藤浩弁護士)のほか、 区画整理・再開発事業のこれから、 白地地域のこれからなどの報告と討議(広原盛明HAR基金代表も参加)を予定しています。 奮ってご参加下さい。

公募等の日程(98年1月〜98年10月予定)

98/1/10    第5回助成金贈呈式<こうべまちづくり会館>
  7/4-5   第2回NPO全国フォーラム’98関西会議への参加
  7/15   第6回助成公募開始、 申請受付
  8/15   申請締切り
  9/5    公開審査会<こうべまちづくり会館>
  10月予定 第6回助成金贈呈式と報告の会

第5回助成対象グループ一覧 (1997年12月13日決定)

注)*1は第1回助成団体、*2は第2回助成団体、*3は第3回助成団体、*4は第4回助成団体

活動のテーマ活動グループ名活動の目的助成金額(万円)
街の多言語化の推進神戸アジアタウン推進協議会*2*4 街の多言語化を推進する。45
「復興まちづくり」震災と記憶の歩み野田北部まちづくり協議会 *3 *4震災後三年間の記憶、歩みを後世に残すために記録をまとめ、製本化する事を目的とした準備委員会の設立。22
震災復興映像記録の制作と上映・普及野田北部を記録する会 *1*2 *3野田北部、鷹取地区の人々をテーマとした震災復興映像記録の制作と上映・普及。100
被災市街地における住空間像の提案研究住空間研究会被災市街地において、住空間の全体像を幅広く検討するために、様々な実績を蓄積してきた六甲東地区をモデル・ケースとし、研究を行う。50
ランドスケープからの復興支援─阪神グリーンネット─ランドスケープ復興支援会議*2*4震災復興地区における緑化支援。22
住吉地区における住民主体の復興まちづくり支援住吉地区復興支援グループ*1*3*4まちづくり協議会の結成の促進、再建の前進のための情報収集と分析および計画案作成、広報活動。47
白地地域における新築住宅・3年目の記録とアピールM─NET東灘区住吉地区における、震災後の新築住宅の特異な事例の収集、分類。またその成果を展示会などで発表。16
植栽活動による入居前からのコミュニティづくり支援芦屋だんだん畑・楽農倶楽部植栽活動による入居前からのコミュニティづくり支援。50
ドングリ銀行神戸─震災被災地での緑の復興活動ドングリネット神戸 *3 *4震災被災地でのみどりの復興活動。22
震災再建市街地における景観・空地の実態調査震災復興・実態ネットワーク震災再建市街地における景観・空地の実態調査を行う事により、これからのまちづくりの課題を明らかにする。50
「ふれあい住宅入居に伴う共同居住活性化支援活動」コレクティブハウジング事業推進応援団 *1*3 *4ふれあい住宅入居に伴う共同居住活性化を支援する。25
                          合計金額449

活動グループの紹介

□アジアの魅力で長田の復興を!

神戸アジアタウン推進協議会 福神岳志
改行マーク神戸アジアタウン推進協議会は、 在日外国人の多く住む長田区において、 アジアらしさを活かしたまちづくりを進めながら、 震災で被害にあった街の復興を進めていこうとしている団体です。

改行マーク最近では、 震災の影響で空店舗が増加した長田区南部の丸五市場の「活性化」と「地域国際化」を進める催しを行いました。 この催しは市場において増加した空店舗を活用して、 空店舗にアジアの屋台を出店させ、 加えてアジアの芸能の披露も行い、 お客さんを市場に呼び戻す催しです。 さらにこれをきっかけにして、 外国人・日本人双方に住みやすく、 地域住民の視点で国際理解が深まるように多言語で市場の案内看板を作成しました。

改行マーク当会ではこのような催し等を実施しながら、 街がアジアの魅力でさらに活性化していくことを目指すと共に、 地域国際化の視点が市場や地域住民の中から育まれていくことを望んでいます。


丸五市場でプンムルを演奏している様子

□記憶のための連作 人間のまち「野田北部・鷹取の人びと」

野田北部を記録する会 監督 青池憲司
改行マークわたしたちスタッフが震災後の神戸に入ったのは地震から10日後の1月27日でした。 震災前からおつきあいがあった友人知人を見舞うためでした。 そこで見たものは火事で焼け落ちた瓦礫のまちと、 全壊半壊家屋の惨状でした。 それとともに、 すでに復興にたちあがっていた人びとの活力ある姿も見ました。 その人たちはこの大きな不幸のなかにあって、 発光体のように輝いていました。 友人や知人、 地域の人々のこのような現在を「記憶」しておきたい、 という思いが映像記録をつくる初心となりました。

改行マーク大震災による直接の被害はいうまでもありませんが、 被災者住民の復興へむかう日々の生活も厳しいものがあります。 人は、 家族は、 地域共同社会はどのように再生していくのか。 野田北部・鷹取という一地域にキャメラを据えて、 その過程を、 現地に流れる時間によりそいながら撮影をつづけ、 連作として発表しています。 現在、 第9部まで完成し、 全15部の予定です。



□みどりからのまちづくりをサポート 阪神グリーンネット

藤本真里(兵庫県立人と自然の博物館)
改行マークHAR基金をはじめて受けたのは、 阪神グリーンネットが発足した平成8年です。 活動は、 被災地への苗の配布、 移動生け垣づくり、 神戸市深江地区のまちづくり協議会や北淡町野島地区大石の人たちとのみどりからのまちづくり提案活動と展開してきました。 最近の出来事としては、 ヒメリンゴクラブの活動開始、 緑のまちづくり支援ネットワーク結成があります。 前者は、 アメリカンファミリー社員から復興住宅でのコミュニティづくりに役立ててほしいとの寄付金を受けたコミュニティサポートセンター神戸に技術・労力提供という形で協力するものです。 また、 後者は、 緑に関わる復興支援を行うドングリネット神戸、 グリーンマントの会等と結んだゆるやかなネットワークで、 互いに情報交換を行い、 今後の活動に役立てようとするものです。

改行マークこのように、 緑からの復興をすすめようとする地元住民組織支援、 コミュニティづくりに役立つ緑化活動を中心に活動は継続中です。


(写真)深江地区まちづくり協議会に阪神グリーンネット等が協力してつくったポケットパーク“深江駅前花苑”

■各地、 各分野の寄付団体より

『復興まちづくりとすまいづくりに向けて』

住宅・都市整備公団関西支社+復興事業本部 担当 千葉桂司
改行マーク住・都公団は、 震災直後から3年を経た今も、 約200名の職員が現地事務所で復興事業に携わっております。 この3ケ年で18,000戸以上の住宅建設や、 数地区の再開発・区画整理事業を手掛け、 そして今も困難な住宅の共同再建などが進行しています。 しかし、 この復興では多くの人達との共同作業、 とりわけ、 まちづくりコンサルタントを中心とした専門家の力と知恵と熱意なしでは、 とても出来ません。 そこで、 いろんなかたちの復興にと、 細やかではありますが支援をさせていただきました。 と同時に、 公団も皆さんと一緒に復興に取り組みます、 というメッセージのつもりでもありました。

改行マークまちとすまいの復興に、 HAR基金の地道な、 しかしとても大切な活動が、 これからも大きな支えの一つとして続くことを期待しております。


HAR基金への寄付とその後の事業

財団法人ハウジングアンドコミュニティ財団  事務局 吉野裕之
改行マーク当財団は個性豊かな住環境の創造に資することを目的に1992年7月に設立され、 住まいとコミュニティづくり分野における、 助成事業、 調査研究事業、 情報提供事業の3つを主な事業として実施しております。 阪神・淡路大震災は、 遠く東京にいる私たちにも大きな衝撃でした。 私たちは、 公益法人という立場にふさわしい復興支援として、 被災地全域の方々が広く有効に活用していただけるHAR基金への寄付を考えました。 幸いにも当財団の助成事業の対象者の方々からもご協力を得ることができ、 それぞれ助成金の1割をご提供いただき、 助成対象者の方々と当財団との共同で寄付を行いました。

改行マークさて、 当財団ではその後、 大震災による分譲マンションの復旧過程と管理組合の対応などのほか、 広く分譲マンションの建て替え・大規模修繕に関わる調査研究を実施したり、 助成事業のひとつである「住まいとコミュニティづくり活動助成」においては、 災害復興・防災まちづくりなどをより積極的に助成すべき活動と位置づけるなど、 大震災での経験を今後の住まいとコミュニティづくりに活かすべく事業を実施しております。 当財団への助成事業へのご応募をお待ちしております。


岡山県鏡野町立鏡野中学校生徒会

改行マーク私たちの生徒会は、 学期に1度キャンペーン活動を行います。 そのキャンペーン活動では募金集めやベルマーク集めをしたり、 校則について考えたりします。 今回なぜHAR基金に募金をしたかといいますと、 キャンペーン活動で何をするか話し合っていたときにこんな話を聞いたからです。 あるTV番組で「今日は何の日ですか。 」というインタビューをしていました。 テレビを見ていた人は(あの震災から3年、 忘れるはずなんてない…)と思ったそうです。 なのに、 「わかりません。 」インタビューされたほとんどの人が答えられなかったそうです。 その話を聞き、 みんなの意識が薄れてきていることに気づき悲しくなりました。 忘れてはいけない!!と生徒会で話し合いました。

改行マークキャンペーン活動中「ぼく、 募金したよ。 」と声をかけてくれる人がいたり、 先生方も協力してくださったり、 思ったより関心があるのだなと思いました。 期間が短かったので、 金額は期待したほどではなかったのですが、 全校生徒の愛のこもった募金活動ができ、 キャンペーン活動としては大成功だったと思っています。 神戸の外見だけでなく、 心の復興も早くできるように全校生徒でお祈りいたします。

HAR基金に関する詳しいパンフレットがありますので、 事務局までお問い合わせください。

お問い合わせ先

〈事務局〉
財団法人 まちづくり市民財団
〒102東京都千代田区平河町2-14-8 青年会議所会館内
TEL.03-3234-2607   FAX.03-3234-5770
〈現地運営事務局〉
阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク事務局
〒657 神戸市灘区楠丘町2-5-20 まちづくり(株)コー・プラン内
TEL.078-842-3563  FAX.078-842-2203
http://web.kyoto-inet.or.jp/org/gakugei/mokuroku/tosi/fukkou/chosya.htm

〈今号の編集〉
大阪市立大学生活科学部
藤田 忍・福島 麗実子
 〒558 大阪市住吉区杉本3-3-138
 TEL.&FAX. 06-605-2821

東京都立大学建築学科 都市計画研究室
高見澤邦郎・岡崎篤行・鈴木万喜
 〒192-03 東京都八王子市南大沢1-1
TEL.0426-77-1111 ex.4786  FAX.0426-77-2793
http://www.arch.metro-u.ac.jp/~msuzuki/


HAR第6回ニュース
このページへのご意見は学芸出版社/前田裕資

(c) by 財団法人 まちづくり市民財団/転載自由
学芸出版社

HAR基金ホームページへ
支援ネットワーク関連ページへ
『震災復興まちづくり』ホームページへ
学芸出版社ホームページへ