市場の再建(新甲南市場復興事業、 震災3周年に竣功)
大島憲明 ((株)都市問題経営研究所)
1.対象事例の概要
図1 新甲南市場の店舖配置(住宅地図より) |
図3 震災直後の新甲南市場 |
図4 公社買取・全部譲渡方式による事業の流れ |
こうした税務上の問題は、 阪神大震災の復興に限らず、 今後、 他の災害復興の際にも問題になると考えられ、 同様の事業手法をとる事業主体に呼びかけ、 請願運動を行い、 以下のとおり大きな成果を得ることができた。
「全ての店舗が全壊した」という悪い条件は、 全員、 条件が同じという共同化にとっての最良の条件でもあり、 さらに「何とかしなければ」という気持ちは、 共同化へのエネルギーとなった。 そうした共同化への条件とエネルギーが、 震災前の市場の商店主達の良い関係、 まとまりを土台に、 世代交代を促進しながら事業が実現できた要因である。
商店主自身が事業会社を興し、 事業に直接携わることで多くの事柄についての議論がおこなわれ、 他のディベロッパーに任せることでは見えてこなかった問題も議論の俎上にのぼってきた。 前述の税制上の問題点とその解決は、 好例である。
商店主をはじめとする権利者とディベロッパー、 コンサルタント、 行政(公社を含む。 )との四位一体、 信頼関係と役割分担とが共同事業の基盤である。 この事業では、 権利者自身がディベロッパーとなったが、 住宅取得や優良建築物等整備事業の補助等に関連して神戸市及び公社が関与し、 不動産、 法律、 税務、 登記、 測量、 建築設計、 商業、 内装、 工事に関係するそれぞれの専門コンサルタントや企業が関係した。 「自分達の市場は、 自分達で再建する。 」と決意した自立した商店主達の震災復興に向けた高い志と主体的な関わりが、 行政をはじめ関係機関の多くの支援、 協力を得、 先駆的な震災復興のモデルとなる事業を実現する最大の要因であったと思う。 こうした意味からも新甲南市場復興事業は、 多くの震災復興事業の中でも一つのモデルとなる事業である。
多くの問題、 課題を克服しながら、 震災3周年をもって竣功を迎えた新甲南市場復興事業は、 再建された建物だけでなく、 何よりも新しい「組織」と「人」を創出した。 最も大きな成果である。
緊急時には日常のコミュニケーション、 絆が生きる。 同じ境遇にある者同士の連帯感もある。 この震災の教訓と共同事業の経験は、 新たな「組織」と「人」のコミュニケーションとそれを支える組織の経済的自立の大切さを教えている。 今後、 復興事業の主体であった市場商店主達が「新甲南市場復興株式会社」「新甲南協同組合」という新しい組織を通じて、 組織の目的であり、 復興の目的である市場再建を本当のものにすることができるか、 多くの震災特例を認めてもらい、 新たな制度を生み出すこととなった責任、 義務は、 それによって果たすことができる。
4.コーディネーター・コンサルタントとしての所見
全ての建物が全壊の被害を受けたこと、 市場北側の店舗が建築基準法の接道条件を満たさないため、 単独では再建できないこと、 高齢者が多く、 商売の継続が難しい人が多かったこと、 等々、 「条件の悪いこと」が良かったというと、 皆さんに叱られるが、 結果的に、 震災によって、 それまでいろいろ検討されながら実現にいたらなかった「市場の活性化」、 「共同化」につながったといえる。
5.まとめと今後の課題
事業においてはコーディネーターの役割が非常に重要である。 この事業においてもコーディネート機能がうまく働かなければ、 前進はなかったと考えられる。 事業は、 様々な分野が関連し、 総合されて成り立つ。 事業の立ち上げから、 関係権利者の合意形成等と同時に各専門コンサルタント間の調整まで、 限られた費用と時間の中で円滑に事業推進を図る。 しかし、 こうした機能、 業務への社会的認識はまだ乏しい。 設計業務の一部であったり、 他の業務の一部としてとらえられている。 補助体系の中にこれに対する費用が位置づけられていないことも原因の一つである。 誰がコーディネート機能を受け持つかにかかわらず、 独立した機能、 技術・ノウハウとして社会的評価を確立すること、 経済的裏付けを行い、 そうした人材が育つ社会的な背景を整えることが、 平時はもちろん緊急時における共同事業、 復興事業の円滑な推進に不可欠である。
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