都市の記憶
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「簡単にできるもの」の脆さ

武田

改行マーク先ほどは建築の話からはずれましたので、 建築的な話をしたいと思います。 何といっても、 阪神高速がぶっ倒れて、 その両側のバラックみたいなうちとか、 安っぽいビルが倒れないで建ってたというあの写真は、 非常に劇的でしたね。 高速道路という国家権力の威信をかけてつくったものが潰れたんですね。

改行マーク何か全国一律に学校は五十年経ったら壊さないとあかんのやとか、 一律的にものを決めていくというその考え方自身が間違っている。 神戸高校の場合でも、 私たちが保存運動をやったら、 戦後に建った市役所の六階が潰れて、 戦前に建った神戸高校の校舎は潰れてないわけですからね。 そういう事実をきちっと認識すべきだと思うんですね。

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県立神戸高校本館(昭和13年竣工、 設計:兵庫県営繕課)
改行マーク多分神戸高校なんかでは、 戦前は一センチ平米あたり百三十五キログラムの強度で設計しているんです。 現在では、 コンクリートの強度が出るものですから、 二百四十キログラムとか三百キログラムで設計しています。 ですから、 六十年〜七十年前に百三十キログラムで設計したものは、 危ないと言うわけです。 だけど、 そうじゃないということをまず言いたいわけです。 なぜかというと、 そういうものは、 ものすごいエネルギーと人海戦術でつくっているんです。 私は簡単にできるものは、 意外と簡単に潰れるんじゃないかと思っているんです。

改行マークいま西神である家をつくっているんですけど、 私がつくっているあいだに、 後から建てた隣近所のほうが先にできあがってるんです。 見ていますと、 鉄骨造でターンバックルという水平ブレースとか筋交いが入っているんですけど、 あれは、 鉄骨を建てといて、 ブレースを入れて、 真っ直ぐ建て起こすんです。 でもそうしたら、 反対側は絶対緩みます。 緩んでいるのを締めてくれたらいいのに締めない、 職人が忙しいから。 それで、 鉄骨系のプレハブは、 風が吹いたら、 家鳴りがするんです。 カンカンカンカン音が鳴る。 壊れはしないんですよ。 それ以上狂ったら、 ピンと張りますから。 それで、 メーカーは何をしたかというと、 交差するところにプラスチックを入れたんです。 私は逆だと思うんです。 締めてほしいんです。 ところが、 締める手間が惜しいから、 その交点にビニールのゴムを挟んだんです。 音は鳴らないけど、 非常に危険です。

改行マークもう一つ言いますと、 そういうところの外部はほとんどねずみ色のサイディングなんです。 ピンクなんかもありますけど、 震災後特にねずみ色が多い。 あの裏は紙一枚なんです、 鉄骨とのあいだに。 確かにきれいに施工されれば、 防水とか防湿の効果があります。 ところが、 隣の現場を見ていましたら、 ガス屋は来る、 電気屋は来る、 エアコンの工事は来る。 パリッと破っています。 そうすると、 絶対サイディングの隙間から紙を破って内側へ入って、 見えない所で錆びてきます。 だから、 二十年ぐらいしか持たないんじゃないか。 確かに住宅問題は急いでいますけど、 変な急ぎ方をしないほうがいいんじゃないかと思うんです。

「柔らかい伝統」を見直す

改行マーク最後に、 日本人というのはもともと、 ものを大切にする民族だったと思うんです。 国宝とか重要文化財になっている日本の宝物は、 絹でできている着物だとか、 曼荼羅の掛軸だとか、 あるいは漆器だとか、 木彫だとか、 ものすごく弱いものなんです。 それが正倉院などにしまわれており、 エジプトのように何千年もお墓の中にしまい込まれていたんじゃなくて、 ご開帳しながら、 使い続けながら、 大事に引き継いでいっているんです。 日本の国宝、 重要文化財の四〇%ぐらいはお寺で、 あとの四〇%は民間に伝承されている。 あとの一〇%強が神社です。

改行マーク日本人が新しいものが好きだというのは、 お伊勢さんからきたのかなあと僕は考えるんです。 伊勢は、 天照大神を奉ってあるわけで、 女性ですから衣裳持ちなんです。 遷宮といって、 その衣装を二十年ごとに作り直します。 蚕を飼うところから始まって、 糸を紡いで、 染めて、 全く同じものを作るんです。 そういう柔らかい伝統が、 いつの間にか使い捨てられ、 固くなっていった。 たとえば越後上布なんていう布は、 おばあさんが着て、 娘が着て、 孫が着てちょうど良く着られるというような布なんですが、 そういうものはいま存在しなくなっています。 自分が買って使い捨てる。 だけどそうじゃなくて、 おばあちゃん、 お母さん、 娘と受け継がれていく、 そういうものが大切じゃないか。 建物でもそうです。 いまから五十年前六十年前百年前に建てた人たちは、 ものすごいお金と技術力とエネルギーを集中させてつくったんです。 それをあまりにも簡単に使い捨てている自分たちをもう一度振り返って、 そこからスタートしないといけないんじゃないかなと思っています。

竹山

改行マーク新しい建物に比べて、 古い建物は傷んだところもあるんですが、 非常にエネルギーを投入してつくられていて、 安全な建物もたくさんあるというお話だったと思います。

改行マークだいぶ、 長時間聞いていただいて、 たぶんご意見があるかと思います。 フロアーからご意見、 ご質問などいただければと思いますが、 いかがでしょうか。

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