これ以上私がつっこむと、 議長が孤立をするという状況ですが、 あえてもう一つ。 いわゆる生活保護というか、 福祉的な対応を考えればおっしゃるとおりでしょう。 しかし、 経済復興の視点からはどうか。 その地域の経済の活性化を出来るだけ早くする、 人々が早く住宅を再建して、 早くそこに戻っていって、 地域の経済がにぎわっていくという視点ですね。 そうすると、 むしろまず個人の住宅建設に対する支援があって良いのではないか。 住宅は個人財産かもしれませんが、 きわめて公共的な役割も担っているわけです。 住宅再建の支援によって地域の復興が大きく早まるのなら、 思い切ってそういうところに投資することがありうると思うのです。
これは「私有財産に絶対にお金を出さない」ということだとなかなか出来ないのですが、 そういった枠を捨てて経済政策的な視点からの住宅再建への取り組みがあっても良いのではないかと思っています。 そのあたりについて、 和久さんのご意見を教えていただきたいのですが。
和久:
おっしゃるとおりで、 出せるものなら出したらいいと思うのですが。
しかし私は4年経った今の状態を見て、 むしろ別のところに問題があると思っています。 それは元のところに住みたいという願いに応えられたかということです。
高齢化が進み、 新しいコミュニティをお年寄りが作るのが難しいというのが現状です。 私どもも当初この共済制度を提案させていただいたときに、 マンションや民間の借家についても所有者に共済に加入していただいて、 それまでの入居者をちゃんと入れていただくことを条件に給付金が出る、 といったことを考えました。 もちろん個人の所有のものは元のところに全員が住めるということです。
まちを新しく、 災害に強いまちにしていくのは必要だとは思いますが、 その前に、 皆さんに震災前に住んでいた町、 あるいはコミュニティ、 行きつけのお医者さんがそばにあったり、 喫茶店があったり幼なじみが居たりする元のところに住んでもらうことがまず必要だったのです。 私はこの震災を通じて、 このことを強く感じています。
公営住宅は出来ましたが、 高齢者が今も孤独感に悩んでおられる。 個人の住宅建設への支援による経済の活性化も必要でしょうが、 何よりも元の所へ住めるということを最大の課題として、 公的な制度を含めて今後検討する必要があるのではないかと思っております。
住宅再建に話題が集中していますが、 もう一つ、 自営業者への手当が全然だめなんです。 都会には、 サービス業の自営業者が多いのですから、 この辺を何とかしてもらわないと、 ちょっとしんどいのです。
例えばリース物件について、 国税局は物がなくなっても、 借りているユーザーには損害が無いと言っています。 兵庫県の財務事務所も同じ見解です。
何故かというと、 「契約が生きていて、 リース料は全部経費で認めてやっているんだから、 自営業者のあなたにとっては損害がないでしょ」という言い方をするわけです。 リース会社や銀行には損害は無いかもしれませんが、 我々は物がないのに払っています。 なのに損害として認めてくれないのです。 しかも保険が使えない。 損害保険をかけていたのですが、 一切使えない。 我々ばかりが被害を受けているわけです。 兵庫県も神戸市も「自営業者なんか死んでしまえ」と言っているのと同じです。
自営業者はそれぞれが5千万円、 1億円という被害を負っているにもかかわらず、 復興基金の2千万円の融資でそれっきりです。 これは再開発なんかの立ち上げだとか、 いろんな所で引っかかってきます。 負債の問題です。 貸し渋りの問題もあります。 もう少し自営業者について制度的になんとかならんのかということをお聞きしたいのですが。
室崎:
質問は、 自営業者の支援なり救済の問題が、 全体の支援方策の中で薄いのではないかということで、 和久さんの議論への1対1の質問ではないのですが、 ご意見があればお願いします。
和久:
自営業者の方が再建できないと、 街もなかなか復興しにくいというのはよく分かります。 そういったものについても何らかのシステムが要るとは思っております。 ただ、 たとえば勤め人の方が勤め先がつぶれてしまって職を失い生活の糧を失うといったケースと、 自営業の方とのバランスも考えていかなければと思うのです。 ですから、 基本的には低利の融資制度とか、 税負担を出来るだけ軽減するといった方法が現在では限界かと思います。
ただ、 街の立ち直りを考えますと、 先ほど先生もおっしゃったように、 自営業の方を支援することで経済も活性化するということであれば、 今後の課題の一つとして検討すべきであろうとは思います。
室崎:
バランスということですが、 やはり日常の災害と大災害と、 僕はずいぶん違うと思います。 バランスといった言い方は「たまたま一軒で火事が起きても公的保障がないんだから、 震災のときも我慢しろ」という話とよく似ている。 ところが普段の時は亡くなった人を社会的に支える基盤が生き残っていて、 それによって支えられるところがあるのです。 しかし地震の時には地域全体が弱くなっています。 地震で会社が燃えてつぶれたという場合に、 自分でやれといってもたぶん立ち上がることが出来ない。 そういう意味では地震の時は特別の救済なり援助の発想がないとうまくいかないのではないかと私は思っています。
思い出して欲しいのですが、 神戸市では避難所には二十数万人がおられたのです。 なのに仮設は三万戸です。 仮設へ入るのに当時抽選だったのです。 抽選で当たった人、 入れた人ははっきり言って幸せな人なのです。
一方、 仮設にはずれた人は、 高い家賃を払ったり、 家をなおしたり、 非常にしんどい思いをしている。 仮設に入れた人は、 財産はあっても所得はないというだけで、 公営住宅にぼんぼん入れるわけです。 被災者優先と言いますが、 むしろ不公平感が出ている。 しかし世論は、 マスコミも含めて、 仮設は大変だという。 ボランティアも含めて仮設、 仮設ときているのです。 二十数万の人のうち仮設にはずれた人の現実はどうなのか。 災害支援金の問題も含めて、 仮設に入れなかった人に光が当たらないという現実は、 きちっと見て欲しいと思います。
室崎:
抽選に当たって仮設に入った人が悪いということではなく、 はずれた他の人たちのこともしっかりと考えないといけないということですね。 確かにそれはそうだと私は思います。
さっき和久さんおっしゃった「元の所に住めることを実現できる制度を最大の課題として考えるべきだ」というのはまさにおっしゃるとおりだと思うのですが、 実際はどうなのでしょうか。 例えば区画整理で、 元の住民が帰れる率はいったいどれぐらいになるのか。 あるいは再開発はもっと厳しいかもしれない。 とするならば、 じゃあ次にどういうことを考えたらいいのかというあたりを聞かせていただけないでしょうか。 もしかしたらまちづくり協議会の方の意見も聞くべきなのかもしれませんが。
室崎:
今のお話しも含めて、 まちづくり協議会でご苦労なさっている方が、 こういったとこはなんとかならんのかといった、 制度について感じておられることはございますでしょうか。
佐野(深江地区まちづくり協議会事務局長):
被災市街地復興特別措置法の復興推進地域は2年限定なのでしょうか。 今もこの法律は続いているのかということが、 うかがいたいことの一つです。
もう一つはマンションの再建と同じ方法が、 市場のように一つの建物の中で横向きにつながっている場合には使えないのかどうかについてはいかがでしょうか。
戎:
2年と言われていたのは建築制限の期限のことです。 復興特別措置法は適用されていますし、 それに応じた支援が現在もなされています。 だから続いているということです。
それから、 被災マンションの再建特別措置法は、 区分所有された建物が全部滅失した場合の特例です。 市場の建物の所有形式が区分所有であれば使えますが、 区分所有されていなければ使えません。
普通の区分所有されていない市場をマンション化(区分所有に)しようと思っても、 実は法律がないのです。 再開発その他の事業決定があれば別ですが、 まったく任意の事業で優建かなんかを使って、 全員合意で進めるしかありません。 これは4/5の賛成で進められるマンション以上に厳しい話になりますので、 そういった場合に対応するための制度もこれからは必要になるだろうと思います。
宮西:
和久さんも言ってくださったのですが、 やはり被災地に被災者がとどまることが、 一番大事な話ではないかと思います。
真野では、 震災後、 みんなで協力してという話があったわけですが、 時間が経てば経つほど温度差が出てきています。 被災者が避難所に一杯いたときは、 街中が被災者だったわけです。 どんどん復旧していくに従って、 格差が広がっています。 しかし、 そうであっても、 やはり身近に被災者がいるということは、 いろいろ考えさせてくれるわけです。 それすら無くなって、 地域でそれが見えなくなってきたとたんに、 被災者のことを忘れてしまう。 そういう状況を各地で造り出してきたのではないかと思います。
我々の大先輩である、 伊藤滋先生が「被災地は戦場である。 戦場に非戦闘員はいらない。 だから、 非戦闘員は隔離しろ」というような文章を書かれているのを、 被災後まもなく読みました。 唖然としました。 私たちの大先輩です。 やはりその通りになってしまったわけです。
私たちの体験した一番大事な話で、 全国に向けて言わなければならないのは、 被災地から被災者を絶対引き離してはだめだということです。 とどめる話をやらない限りは復興はあり得ないのではないか。 そのためには、 避難所、 仮設住宅、 恒久住宅、 まちづくりの流れが地域で一体的に考えられていく仕組みを作っていかない限り、 だめなのではないかと思います。
特に、 災害の基本になっている災害救助法の問題。 今回の大災害でもその法律のためにあきらめさせられた話が一杯あるわけです。 その部分をもう一回議論して欲しい。 私はずっと新聞を見ていたのですが、 災害救助法は議論された形跡がないのです。 たぶん通達などではあるのだろうと思いますが、 私たちの見えるところにはなんにも届いていない。 何かが変えられたとしても聞こえてこない。 そういうところを注意深く見ていかないと、 いけないという気がします。
室崎:
災害救助法は大都市での大災害、 しかも非常に長期化するといった事態を前提としていないのではないかと思います。 これは、 放置しておくと命を失ったり、 自立していけない人をなんとか援護しよう、 救助しようというものです。 だからこそ厚生省の管轄なのです。 だけど本当に再建をはかっていこうと思ったら、 災害復興法が必要です。 まち全体を一体として、 まちづくりの話も、 住宅再建の話も、 被災者の話も一体として考えるには、 救助を越えて、 復興という法律体系が要ると思います。
一言だけ最後に。 私たちは国民会議で2千500万人の署名を集め、 同時に各都道府県に県民会議を作っていただいたのですが、 関連して宮城県でシンポジウムが行なわれたときに東北大学の名誉教授の大内先生がこんな話をされました。
「宮城沖地震が20年前に起き、 ずいぶん大きな被害が出たけれども、 その時には一銭の義援金も集まりませんでした。 今そのことを恨みに思っていっているのではなく、 あの時にもし私どもが、 今阪神・淡路でやっておられるような取り組みをしていたら、 阪神・淡路の被災地は救えたのではないか。 今からでも遅くないから、 これから私たちもやります」。
やはり被災体験者が教訓を将来に生かすために訴え続ける事が一番大切ではないか。 このことを忘れてはだめだと思います。
室崎:
被災地にいる我々が、 我々の体験をふまえてしっかり発言し、 教訓として残すべき事を明らかにしていく努力をしていかなければ、 またどこかで起こるかもしれない次の災害の時に、 我々と同じ苦しみを味わう人が出てしまうということだろうと思います。
そういう点からも、 被災地としては多少感情的な思いもお持ちだろうと思うのですが、 ある面では非常に冷静に振り返って、 何が良かったのか、 何が悪かったのかについて、 整理する必要がもっともっとあると思っております。
多くのテーマが出されましたし、 多くの教訓が出されました。 その一つ一つを確認する時間的余裕はとてもございませんでしたが、 こういう形で話し合う、 「本音を語る」ということの中から、 より多くのものが見えてくるということを私自身は改めて痛感しています。
ただ、 時間が無くて多少消化不良になったところもありました。 例えば都市計画の決定のプロセス一つをとりましても、 本当にもし今次の地震が起きたときに、 どういう手順でやればいいのかをお聞きしたかったのですが、 議論する時間はございませんでした。 これは、 1月17日ということではなく、 日常的に本音を語り合うことを続けてゆくなかで、 答えを見つけてゆくことが必要ではないかと思います。
また、 あまりご発言いただくことが出来なかった方もおられますが、 それは司会の不手際ということでお許しいただきたいと思います。
最後に、 新開地の青木さんにまとめも含めて、 一言お願いし、 それを閉会の辞にさせていただければと思います。
青木(新開地周辺地区まちづくり協議会会長):
今日全然発言させていただけませんでしたので、 まとめて言わせてもらおうと思います。
まちづくりは、 つぶれた住宅を造るだけの話じゃないのです。 地域の活性化とか経済基盤の再建とか、 いろんな物が含まれているはずです。 震災の後は、 一番大事なことは住むところだという話に行きがちなんですが、 お金を借りられた人や、 お金を持っておられる方は家を建てているのです。 それが出来ていないのは、 お金がない、 仕事がないからです。
先ほども和久さんは、 「例えば学生に持っていなかった物まであげるのはおかしい」と言われました。 それはよく分かるのですが、 しかし、 その方が学生じゃなくて、 仕事が震災でなくなった方なら、 その方に仕事をお渡しすることが出来ますか。 それが出来ないから、 お金を渡すという形になってしまいます。 その辺の法的な不備が、 僕は絶対あると思います。
私はもっとしゃべりたかったのですが、 しゃべれませんでした。 ですから出来ましたら「本音を語る」第2回を考えていただきたいと思います。 やはり全国的にもまちづくりでは神戸は突出している地域だと思います。 どこの地域の方も神戸の復興を見ながら真似していただけるようになればよいのではないか、 このように考えております。
室崎:
これで本当の終わりでございます。 長時間どうもご苦労様でした。
地域の再建を支援出来たか
生活再建と地域の再建
自営業者に対する支援
仮設に入れなかった人にも
目を向けよ
元の場所に留まるために
どうすれば良かったのか
今、 我々がすべきこと
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