それから古典文化の世界でも、 東灘には大きな文化資産があることをこれから注目していきたいところです。 例えば華道の小原流が本拠地を置いています。 戦後の三宮で小原流の家元が、 ショーウインドウのお花を飾り付けて復興を印象づけたことがあったそうです。 今の時代でも、 酒蔵のすき間にお花を生けてもらうなど、 いろんなすき間産業が考えられると思います。
これからは大儲けを考えるのではなく、 小商いを楽しくやって集積していくしかないのではないでしょうか。 多分、 東灘はそれをやっていく条件があるし、 住宅地の落ち着きはまだ保たれていますし、 文化工房的なものは誘致できると思っています。
一般には知られていなくても、 付加価値を保つため「奇人崇拝」の伝統を残して欲しいのです。 個性的な文化工房を街のあちこちに置けば、 面白いのではないかと思います。
ですから、 そういう意味でもこれからは異能を持った人、 何かひとつ人と違ったことができる人、 そういう人材をどれだけ抱えられるかが、 まちづくり戦略のキーワードになっていきそうだと考えています。
海外ではすでにそういう動きがあって、 フランスではパリだけでなくリヨン、 マルセイユでいろんな人材を集めています。 やはり最後は人材が決め手になるのです。
今年は芦屋で新たに「高浜虚子記念館」が着工し、 完成すれば谷崎記念館から歩いて行けることになります。 それから伊丹には「柿衞文庫」という世界的な俳句のミュージアムがあります。 なかなか魅力的なゾーンなのですが、 残念なことに地元ではそれに対応した商品が足りません。 お菓子やお酒の包み紙のセンスもまだまだです。 もっと欲を出さないといけません。 文化産業を創出するんだという気概を持たなければいけません。
今の日本は安くて機能性がいいだけのものを作るには、 あまりにもコスト高の国になっている。 ですから何としてもデザインやアイデア、 知恵を出して食っていける社会にしないと生きていけないのです。 とりあえず日本酒から始めるなり、 できることからやっていかなければと思っています。
最後に鉄道の話をします。 阪急電鉄は震災を境目として、 鉄道輸送による収入が五〇%を切ったそうです。 つまり、 鉄道以外の関連事業収入の方が多くなっているということです。 駅前にコンビニや本屋を作ったりしていますが、 今度は葬式も事業に入れるそうです。
また、 一昨年から電車の中でのテレビ撮影を解禁しました。 これは、 阪急電鉄が人員輸送より乗っている人の楽しみの方を重視し始めた、 よりソフトな路線へ事業内容を移していく象徴的な出来事だと思えるのです。 ですから、 どの街へ降りても楽しめる、 おしゃれな街がつながっているようないい地域づくりをしていくことが、 これからのまちづくりに必要な考え方だと思います。
文化産業の創出を
古典文化の資産も生かす
結局大学にしても酒にしても、 街のイメージづくりの視点から見ると全部つながってくるのです。 今までは大学だけ、 酒だけを切り離して考えていたと思います。 街のイメージを生かす試みはまだされていません。 震災後の今がチャンスだと思うのです。
奇人のネットワークも大切
実は私は、 そういうことをもっと声を大にして言っていかねばならないという危機感を抱いています。 以前、 阪神御影の北側にサバト館というフランス文学を最高の装幀で出す編集工房があったのですが、 これが震災前にすでに京都に引っ越してしまいました。 街の中にユニークな出版社があったことは、 人的ネットワークの上でも大きな存在だったのですが。
阪神間ミュージアムネットワーク
私はそのひとつの核が、 ミュージアムだと考えています。 阪神間には白鶴美術館や香雪美術館から生活文化史料館、 酒蔵資料館までいろいろありますが、 それを結んだミュージアムネットワークをつくっていこうと、 今年から国の予算をつけて「阪神間ミュージアムネットワーク」の組織化を図っています。
デザイン、 ソフトこそ重要な時代
ただこういうことを言うたびに、 私はよく市会議員の人などから「文化でメシが食えるのか」とイヤミを言われるのですが、 こんなことを言う人は五十年遅れています。 今の自動車産業にしても、 コストの安い機械部品工場は海外へ出すことができますが、 先進国はデザインまでは手放しません。 今はソフトを作ることの方が付加価値が高くなっているのです。 ソフトを作るには先行投資がいります。 美術館もギャラリーも大学もなくて、 デザインだけ美しいものができるなんてことはありえない。
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