写真59 ワコーレデュプレックス神戸 |
写真60 ワコーレシャロウ御屋敷通 |
新開地は、 過去大いに繁栄したまちです。 ここで、 一階にコミュニティの場を設けたマンションを企画しました。 当分の間は保育所をやろうと思っていますが、 十〜二十年して保育所の需要がなくなれば、 次は老人向けの施設に変わってくると思います。 そこではどうやって四季を取り入れるかを実験いたしました(写真59)。
次に手がけたのが、 長田区の御屋敷通りのマンションです。 町名の由来は、 誰の屋敷であったかは不明ですが、 大正期に市街化が進んで誕生しています。 ここでは一階に井戸を掘ってその水を循環させてビオトープを作りました。 いかに自然を取り戻すかを考えました。 また、 ここは地震前から地蔵盆が盛んに行われていた下町らしい風情のあるところですから、 一階の水空間にはお地蔵さんを浮かべて地蔵盆の企画をしてみました。 これも大好評で、 あっという間に完売いたしました。 儲けは少なかったのですが(写真60)。
今、 GUの後藤先生と組んで計画しているのが、 深江の駅前に予定している百数十戸のマンションです。 ここでは八十席くらいの音楽ホールが造れるんじゃないかと考えています。 どこまでできるか分かりませんが、 そのホールには水を流せるようにしたいなど、 夢はたくさんあるのです。
また、 これは市場の再開発事業ですから、 それに対応した企画も考えています。 市場は今は流行らなくなって、 どこも後継者不足で崩壊しつつあるのですが、 商売の専門知識がありながらリタイアせざるを得ないのは気の毒ですから、 屋台のような店が並ぶ施設がつくれないかと、 その仕掛けを考えています。
マンション屋は興行師的な所がありますから、 当たればデカイけど当たらなかったら悲惨な目にあうことになります。 しかし、 まちの仕掛けをやった後、 その維持管理は誰がするのか。 これからは、 地域のマネジメントを考えるのが一番大事だと思っています。 仕掛けは出来ても、 それが生き続けなければ何にもなりませんから。
野崎:
和田さんの試みは、 過去の旦那衆に代わるひとつのパターンかもしれませんね。 ここで会場から意見をうかがいたいのですが、 いかがでしょうか。
今の深江のマンションに音楽ホールを作るというお話で、 ひとつ気になったことがございます。 私は今、 阪神間で西洋音楽がどう普及していったかを調べているのですが、 調べていくとその源はどうも深江の文化村にあったらしいということが分かりました。 ロシア革命で亡命してきた白系ロシアの人たちが三十人ほど深江に住んでいたのが、 西洋音楽の始まりだったそうです。 今の深江の人たちはそのことを忘れていますので、 ホールを作られる際はそのエピソードも上手に盛り込んでいただきたいと思います。
和田:
アーリーアメリカン調の建物がたくさんあった所でしょう? 地震でだいぶ潰れてしまって、 今では分からなくなりましたが。 なるほど、 白系ロシアの人たちが住んでいたのですか。
河内:
ロシアだけでなく、 ウクライナとかチェコの人たちとか。 宝塚歌劇の初期の頃、 そうした人たちが指揮やバレエの指導をしたそうです。
後藤:
深江文化村に住みついた人びとは、 芦屋と間違えて住んだんじゃないでしょうか。
河内:
まあ起源はどうあれ、 これから盛り上げていただければありがたい。 そのためのネタは充分あるということです。
好文園でうらやましいのは、 二階に住む学生さんです。 若かったら、 私が住んでみたい。 下にこういう文化ホールがあれば、 住んでいる人自身に文化があるような気がするし、 学生さん自身もクラブ活動の発表会などに使うことができるでしょう。 そういう時は、 学割にしてあげればどうでしょうか。
小森星児:
最近、 学校経営者になってから思うことなのですが、 外国では卒業生がよく母校に寄付します。 寄付が多い学校ほどランクが高いとされています。 それに比べて、 日本では母校に寄付をしにくい雰囲気があるようです。 どうしたらいいかと思っているところです。
私は、 この岡本の一番の特色は甲南大学を始め、 たくさんの優れた私学があることだと思います。 大変うらやましい。 私学ほど、 たくさんのお金を民間から集めて作られた文化施設はないのです。 それだけに学校も地域社会への還元をしていく責任があるはずなんです。 イギリスの大学では付設の美術館や劇場、 音楽ホールを広く開放し、 学生はもちろん、 卒業生や市民も使えるようになっています。 こういう生き生きした関係を作ってきたからこそ、 大学と地域が結びついているのです。
日本の大学は今のところ、 残念ながら十八〜二十二歳の若者を収容する施設にすぎません。 もっと、 社会人やシルバーなど多様な人びとが在籍できるあり方を考えてもいいんじゃないかと思います。 今の知識詰め込み型の学校ではなく、 いろんな活動ができるような学校です。 現に、 三田に進出した関西学院大の総合政策学部では、 地元の商店街に出店を出して、 新しい町おこしの実験を始めたという例もあります。
岡本でも、 学生を消費者として見るのではなく、 まちづくりの有力なメンバーであると見てはどうでしょうか。 地元の大学も、 もっとまちの中に施設を作るように提案するべきではないかと思います。
パトロンや今後の運営の話が出ましたので、 岡本好文園についてちょっとお話しします。
この建物は、 全く民間の一個人である戸澤さんの持ち物です。 銀行からお金を借りて建てたわけですが、 そういうときの銀行の考え方が問題です。 「個人で文化ホールをやる? 返せるんですか」とまずは貸し渋る。 パチンコ屋だったらすぐ貸してくれたのでしょう。 民間が文化施設を作ろうとすると、 現実にはしんどいのです。
そういう中、 ここは戸澤さんの夢をのせて出発しました。 実は平米当たりの収益で言うと、 ホールより二階の学生マンションの方がずっといい。 ホールは地下九〇センチ掘り下げていますから、 工事費もかかりました。
しかし、 よかったと思うのは、 商店街がこのホールを運営してくれたことです。 岡本には「好文園があるから行ってみよう」と他地域から人が来るようになれば、 商店街にとってもよかったということになるのではないでしょうか。 今岡本の商店街は二百数十店のお店がありますから、 岡本好文園にはそれだけの数のパトロンがいることになる。
ここは、 音楽だけでなく、 バレエやジャズダンスもできるスペースです。 現在は火〜木を九枠に分けて利用が決まっているのですが、 金〜月は貸さないで商店街独自で「まともな何か」をプロデュースしようと頑張っているところです。 文化的な何かにはつながっていってほしいところですが、 週末の使い方について応援していくことが重要だろうと思っております。
西洋音楽の原点は深江にあった
河内厚郎:
大学、 学生を新しいパトロンにする
石東直子:
民間の一個人で文化施設を作る難しさ
後藤:
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