1番目

《妻の願い》

 お気に入りの作家の新刊の発売広告が新聞に載ると、 妻は近くの本屋さんに自転車を走らせる。 でも心の中には「きっと置いていないだろうなあ」という諦めの気持ちがよぎっている。

 主婦という仕事をしていると、 働いている女性より行動範囲が狭くなり本を買う場合、 近所の本屋さんが何よりも頼りとなる。 また学生とちがい、 発売日の朝、 書店の前に並んで待つと言うようなこともできないし、 ついつい用があって広告の出た日に書店に行くというようなことも出来ないことが多い。

 その書店はこの近所では比較的大きいのだが、 書店で働いていたことがある彼女には、 その書店には新刊配本が少ない、 あるいはないであろうことを知っている。 そして新刊配本があったとしても、 それが売り切れた後の補充がないことや、 あったとしても読む気の失せた頃になるであろうことも知っている。 新書や文庫であれば、 まずまず妻の満足を満たしているようであるが、 単行本にはきわめて不満が多い。 大量生産のベストセラーを買うのならその本屋で十分間に合うのだが、 ちょっとだけ横道にそれる読書傾向にある妻には不満が残るのだ。

 村上春樹の新刊がけっこう数多く平積された書店に、 その本の隣に小さく広告の出た同じ出版社の本がないということなのである。

 で休日に「車で○○書店まで行って」ということになる。 そこは車でチョット走る程度のところにあり比較的大きいフロアーを持つ書店である。 大きくても何もない書店ではなく、 気が効いた品揃えがしてあり僕も好きな書店である。 だけどよく考えたら、 なにもガソリン代と往復1時間ほどかけてそんな所まで行く必要はないような気もする。

 買い物カゴを下げたまま立ち寄れる「近所の書店さん」、 新聞広告の出ているメジャーな出版社の本です。 配本がないからと諦めないで、 ちょっと仕入れて見て下さい。 あなたの店のそばに本の好きなひとはたくさんいるのです。

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