開発圧力に対抗し緑地を守る市民たちの鎌倉

運動論の相違

 陳情書を提出した池田尚弘さんは、東京農大の講師で人間・植物影響学の専門家である。「鎌倉・広町の森を愛する会」の代表として緑地保存運動に取り組み、「もののふの道・グランドワークトラスト運動」を展開してきた。
 この池田さんたちの活動は、「赤道論者」と呼ばれることがある。「赤道」とは公図に朱色で記された道路法対象外の道を指している。「里道」と呼ばれるものと同じく、生活の中で自然に生まれていった主なき道である。近代化の中で多くの道が公共機関によって整備される中で、地域の歴史とともに踏み固められ形成された「赤道」は多くが取り残されていった。
 明治以降、これらの道は、形式上、国の所有とされ、管理は市町村にゆだねられてきた。広町緑地にも、縦横に「赤道」が通っている。池田さんは、そこに目をつけたのである。
 「赤道」は本来、入会地や里山と同様、住民共有の財産である。その共有財産を業者が勝手に侵害することは許されないと考えたのだ。池田さんのグループは、この「赤道」を修復し、活用することによって、忘れられていた共有性を復活する活動を展開する。それが「もののふの道・グランドワークトラスト運動」だった。
 さらに、昭和44年の最高裁判例は、未登記道路における第3者取得者の私権制限を認めており、業者の土地所有権は赤道に及ばないことが、法的に明らかだった。
 ここからの帰結は、本来公共の道である赤道に対し、買収金を支払うべきではないことになる。また、周辺の土地についても、宅地の地価ではなく現状の緑地として評価すべきで、鎌倉市の評価額は不当に高すぎると指摘した。
 以上のような「赤道論者」の論理に対し、多くの市民団体は、非現実的と非難した。都市計画法において赤道は現実の開発を妨げるものではない、と反論したのである。鎌倉市もまた、評価額は常磐山買収で提示した市独自の評価で、交渉によって引き出された価格ではないと見直しに消極的だった。
 多くの市民の脳裏に去来したのは、広町に銀行の抵当権が設定されている事実であった。間組は金融機関の債権放棄でも経営を立て直すことができず、建設部門と不動産部門へ会社解体を余儀なくされていた。後者は事実上不良資産の処分会社で、広町を所有している。
 折しも、鎌倉は墓地ブームであり、不良債権処理の過程で、広町が墓地業者に流れる可能性も否定できなかった。このような現実的判断もあって、買い取りが促進される。その推進役となったのが、「鎌倉の自然を守る連合会」である。

 上左の写真のように、緑地の周辺には住宅が密集。その向こうには湘南の海が広がっている。
 鎌倉には、台峯、常磐山、広町が三大緑地として、市民による保存活動が展開されてきた。このうち、常磐山は土地を所有する三菱地所と市の間で、分割支払いによる買収の合意が10年前に成立し、このほど完済に至った。
 広町の買収価格設定に際しては、この常磐山の買収価格がベースとなった。
 他方、台峯においては、土地を所有する野村不動産が宅地開発の計画に基づき、土地区画整理を行おうとしている。市では代替え地を提案して、緑地を守ろうとしているが、合意はできていない。
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