第5日

トム・プライス滞在日。

前夜のビーのアタックで損傷。微妙にへこんでいる。

この日はわれらがファルコン号をおいて、現地ツアーに参加する予定。ホテルでは情報が得られなかったので地元観光協会に出向く。
ツアー情報を聞いてみたが、時すでの遅く、ツアーは出発した後。仕方がないので他の方策を聞いてみるがいい手がない。ファルコン号で行けるか聞いてみるが、「あほか!」の一言でおわり。
4WDの車を借りるしかないというのでブッキングしてもらう。トム・プライスにはレンタカー屋がないので約60km離れたパラバードゥーの空港へ行けとのこと。

空港に到着したが、さすが内陸の地方空港。建物はプレハブみたいな小さいものでまったくひとけがない。しばらくすると1台の4WDがやってきた。あやしいので聞いてみるとその車が予約していたものらしい。

車のボンネットの上で書類作成、契約完了。レンタカー屋のお姉さん?はさっそうと横に置いてあった車に乗り換えて消えていった。
どうも近所(といっても数10kmは離れているだろうが)の主婦のアルバイトといった感じだ。

早速ランクルに乗り換えて目指すはハマスレー峡谷。約2時間のドライブで現地到着。やっぱり道はかなり荒れていた。4WDで正解。
とりあえず一番手近な展望台から峡谷を覗き込む。

もう、すごいの一言。100mくらい下には川が流れていて人が泳いでいる。小さい。
それにすごい縞模様。まさに縞状鉄鉱層。とうとうやってきた。

見るのはそこそこにして降下地点を探す。下まで降りて、昼食をとって、泳ごうという段取り。いろいろ探すがいいところが見つからないのでとりあえず腹ごしらえ。場所がないのでランクルの中で。

後部座席が対面式になっていてよかった。食事といっても別に大した物はない。食パンにサルサとベジマイト、それに水だけ。日本だったらこんなものしかなかったら暴れているところだがオージーならこれで満足。環境は人を変えますね。

そういえば食べてる横にこんなものがありました。

アリ塚です。

食事が終わって走ること数時間。よさそうなポイントを決める。数時間走るというと日本ではけっこうなドライブだと感じるが、オージーではちょっとそこまでという感覚。ところ変われば、人の感覚も結構変わるものだ。

峡谷を下まで降下し、最奥部を目指して歩く。途中でオージーなカップルに出会う。もちろん陽気に「グッダイ」。しばし足を止め、彼らと断崖を眺める。出てくる言葉は「ワンダフル」ぐらい。自然の造詣の前に言葉がでてこない。
そして、その向うからはぐれてしまっていたにいやんが現れた。にいやんが言うにはさっきのカップルが一番奥の水がたまっているところで裸で泳いでいたらしい。さすがのにいやんもこれには取り乱したようだ。
そういえば彼女は美人だったなあ。惜しいことをした。

事件現場に到着した。するとまのちゃんが突然服を脱ぎ出した。大自然は人を大胆にさせるのだろうか。ここは急いでカメラを用意しないと・・・。

実は彼女は服の下に水着をしこんでいたのである。あらかじめ知っていたこととはいえ、脱ぎっぷりのよさには思わず「ドキッ」としてしまった。なんだか大自然を満喫してるっていう感じだ。


彼女が一番に水に入った。かなり冷たいらしい。数秒しか水の中にいられない。考えてみれば今ここは真冬。いくら気候がステップに近いといっても午後4時近くになると日のあたらない水は冷え切っている。
チャレンジすること数回。体が慣れてくると泳げるようになってきた。なかなか気持ちよさそうだ。

忘れかけていたが、私にはここで大事な仕事があったのだ。それは授業で使うためのビデオの撮影。目指すはNHK「地球大紀行」。なんとか「地球大紀行」を越えるビデオを撮影しなくてはならない。しかし、機材にしても技術にしてもNHKには遠く及ばない。NHKに勝つためには彼らと同じ手法ではダメだ。ゲリラ戦法を展開するしかない。そう考えた私は水に入ることを決断する。

寒い。心臓が止まりそうだ。そのうえ野生児たちが情け容赦ない攻撃をしかけてくる。危機一髪だ。

なんとか私も水になれ、撮影開始。

ここを訪れた日本の地質学者は結構いるだろうし、泳いだ人間もいるだろう。しかし、水の中で教材ビデオを撮影した人間は多分いないだろう。いわば我々がパイオニアである。NHKとの勝負も我々の勝利を確信する。

水から上がって休憩。

「爽健美茶」ならぬ「アップル・ジュース」。


そして、帰路。赤い絶壁の横を進む。インディー・ジョーンズみたい。

サンプルの採取。ハンマーで叩いてみても堅くて割れない。やっぱり鉄の塊だと実感する。

日が西に傾いてきたのを合図に進路をトム・プライスへ取る。
日没。ちょうどよいところに展望台があった。

夕日に染まる山々。日陰に入った大地。赤と青と黒が凌ぎ合う。まさに刻一刻と表情を変えながら周りを囲む全てのものが変わっていく。ドラムチックに自然は動いていく。

人と大地と大空がひとつになっていく・・・。


まだ旅の日程は半分ほどなのに終わりを感じさせる瞬間。なんだか切ない。



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