俳句絵解き草子(4)    
磯 野 香 澄
廃道の轍に根付きれんげ草 香 澄

その昔鯖街道として若狭の小浜から京へ海産物を運んだ道と言われ、早くから開けた街道だったと言う安曇川上流は、川幅が広くて今では行楽に人気のある処ですが、車社会になってさすがの鯖街道も対応出来なくなり大きく道路の改修がされました。カーブはトンネルで抜いたり、橋も鉄筋に架け替えられたりしました。古い木の橋は新しく橋を架ける為の工事用の道として使われ、その辺りは大きな車が走り回り土の道がコンクリ−の様に踏み固められていました。新しい橋になって走り易くなったけれどそっけないので下りて、古い橋のあった方へ行ってみました。木の橋は取り払われて跡形も無くなり、太い轍で荒れ果てた道だけが以前のカーブのままに残っていました。すぐ下は川原で細い流れが本流からそれて流れていました。それは今迄に何度か来て目にした風景でした。その眺めに心満たされ戻ろうとふとそのカチカチの地面に目をやると五、六センチ程に伸びたれんげが生えているのです。「ええこんなとこに生えて」と轍の凹みからヒョロヒョロと生えているれんげに声をかけていました。そして視線をずらすとそこにも同じ様な頼りないのが生えているのです。路面全体を見回すと禿げた頭に産毛が生えている様に五、六本斜めになって生えているのです。「こんなとこに生えさしてもろて、もうちょっと横へ寄ってたら溝やのに」と溝に生えているのと見比べて「頑張ってるのやなあ」とヒョロヒョロのれんげに手を添えて居ました。その時そのれげの下にもっと小さい草が出てくるのが幻影の様に見えた気がしました。『そうやこのれんげはフロンテアの先兵なのだ。ここを手がかりに色々な植物が徐々に根付いて、そして辺りの草や木と同じ様に自然の元の姿に戻って行くのや』とその未来の姿が目に浮かびました。このれんげが頑張っているのは人間の横暴な仕業を自然が自浄力で元へ戻すその一番かかりなのだ。そこに私は今居合わせているのだと思うと涙がにじんで来るのでした。

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