俳句絵解き草子(5)    
磯 野 香 澄
大根煮信者溢れる湯気の庭  香 澄

京都の町が応仁の乱で焼け野原になってしまった時、この建物は焼けずに残り、それで京都で一番古い建築物だと云う事でも千本釈迦堂は貴重な存在で、それに普通の建物と違った処があり多くの人が見に来ると云う事です。「千本釈迦堂の建築様式が珍らしいと云って外国からでも見学に来る人がある」と云う人さえあると云うのです。この言葉を聞くとどんなに素晴らしい建て方なのだろうと思います。どこが珍しいかと云いますと、柱は梁とか横物と言われる処を支えて建物の一番重要な物。柱あってこその建物で、その柱に問題があるのです。それも一番大事な処の大柱が全て上部に升型の受けがあるのです。話を聞けば建築様式でも何でもなく、時の大工さんの寸法間違いで短く切ってしまい、妻の名案で足りない分を升型の受けを作る事で解決したのだそうです。その後その妻は自分の提案だと言う事が知れれば夫の名に差し支えるからと自殺したのだそうです。その徳を慕って自分達もその夫婦愛にあやかりたいと多くの信者が参詣する様になり、それも当時の大らかさか、娯楽の無い庶民の生活のあり方か。面白い事に奉納した人形が沢山残っていて夫婦和合のいろんなスタイルとでも言おうか工夫のバライテイに関心させられるのです。素人作りと思われる人形が廊下のガラスケースに展示してあり、雨戸が閉められていて普通に通る人には夫婦愛の人形と言う程度より分からないのですが、特別に頼べば廊下の電気をつけて見せて貰えるのです。その千本釈迦堂の年中行事として大根焚の日は沢山の人が無病息災を願って大根煮の接待に訪れるのです。時代によって盛況不況はあるのでしょうが私が行った時は溢れんばかりの盛況でした。このお寺は庶民的で、大工の棟梁の夫婦愛を慕って沢山の参詣者がセクシャル人形を奉納したと言う千年の昔も今も、形は変わっても人の心を優しくさせる現実的な行為で、大根焚の日は人形拝観の時と同じお寺とは思えない云わば本当の信者のお祭りと云った感じで、大根煮のそのぬくさにほのぼのとしました。

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