俳句絵解き草子(8)    
磯 野 香 澄
蔦紅葉垂れる一と処崖黒く 香 澄

滋賀県は琵琶湖を囲み何かと変化の豊富な処ですが、高山植物である石楠花が平地同然の処に咲く日野町は興味深い物が一杯です。代表的なのはその石楠花が近か場で見られる事。そして藤の花が見事な正法寺とがセットみたいな感じで、四月の終りから五月の中旬迄日野町が介入していますが、他の季節は自由に入れます。正法寺の奥に屏風岩と言って屏風の折り曲がりの様に鉤の手になって谷の上に伸びている処や、そこに落ちている石はどれだけ小さく割っても三角になるのです。私は地形の面白さにいろんな季節に行きました。石楠花の谷から少し行くと自動車は入れないのでそこからは歩いて、その奥がどんなになっているのかちょっとした冒険です。谷は段々狭くなり大きな崖が迫っています。見上げる崖は美しい岩肌です。冒険心も満足し時間も遅くなってきたので引き返そうと崖の下をキョロキョロみていました、その崖の外れは芒とか名も知らない草が生えた岩場で下がえぐれています。上から垂れ下がった蔦の葉が赤く色付いていました。それに目を誘われてその凹んだ処へ視線がいきました。蔦の葉の赤さに引き替え凹んだ岩の中央が黒いのです。そこは溝を跨ぐと調度手で触れます。擦れば黒いのが取れるかとやってみたのですが、余計黒さがはっきりするだけです。「岩が黒焦げになってる」「そんな馬鹿な」黒くない埃色の部分もこすれば黒いかとやってみました。普通の岩の色です。でも岩がもろくてすぐ汚れがとれます。気が付くと黒い色の下は垂直に岩の線が見えて縁の方のもその先は黒く焦げた部分へ両方から寄ってきているのです。下から噴出してきたその力がここで頂点に達して最後の処だけが木の燃え残りの様に黒く炭化した様になったと見えました。そうだこの辺は一号線で来ると坂がない様に思えているけれど、亀山の方から見れば凄い山の上なのだ。どれだけの昔か多分万の単位の昔に海底から隆起したのだから、噴出した処があっても不思議ではないと、大古の地盤変動の痕跡と、すぐ散る蔦の葉を見て感慨深いものを覚えました。

トップ  戻る  次へ