京都俳句推敲指導経過とその解説    
磯 野 香 澄
原句盆の夕蜘蛛は巣造り里の駅 昌 コウ
この原句の場合「蜘蛛の巣造り」とありますが普通「蜘の巣」とは言っても「蜘蛛の巣造り」とは言わないのと「巣」と言うのは本来子育ての場所で「蜘蛛の巣」は食べ物を得る為の仕掛けなので「蜘蛛が巣を張る」と言うのもおかしい事で、俳句では「蜘蛛が囲を張る」と言います。そこで

盆の夕蜘蛛が囲を張り里の駅
上の様になりますが、「盆の夕」と季重なりになるので何故そう言いたかったか思いだします。お盆は里帰りとか楽しい行事ですが「蜘蛛が囲を張る」と言う言葉を繋ぐと怖い様なうっとうしい感じになります。そこでもう一度よく思い出して何故心に止まったのか。どんな風景だったのか、夕方の情景を書きます。

夕映えや蜘蛛が囲を張り里の駅
夕映えが小さい駅の中を明るくして蜘蛛の囲が虹色に光っていたその美しさに心ひかれた。これで「盆の夕」と言う暗いイメージが一変しました。しかし「囲を張り」とすると既に蜘蛛の巣が張ってある事になりますので

◎夕映えや蜘蛛が囲を張る里の駅
「囲を張る」と「る」にします。このたった一字で蜘蛛がせっせと囲を張るのに動き回っている情景になり、蜘蛛もお盆やからせっせとやっていると、そんな微笑ましい気分で見ていたのをその通りに書きます。こうする事で里の暖かさも表現出来ました。

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