京都俳句推敲指導経過とその解説    
磯 野 香 澄
原句雛流がる彼方糺の杜の闇  寿 一
この原句の場合「雛流る彼方」と言えば距離感があるのですが、「糺の杜の闇」と言って杜全体を、イメ−ジしている言葉を使った事によって「彼方」と言う言葉が浮いてしまいました。そこで

雛流がる彼方は糺杜の闇
何とか「彼方」を定着させようと「は」を入れて「彼方は」としてみましたが、それが何なのと言う事に終わり、言いたいことが言えていません。そこで「彼方」を止めて

紙雛の流れる糺杜の闇
「雛」は「紙雛」として祭司用のヒト形のものである事をはっきりさせます。その上で、これを流す神事であると言う事を分る様にします。糺の杜はその昔刑場であったと言う事でその杜の中へ除厄のヒト形の雛が流れて行く。これで怖い感じが出ました。しかし怖がらそうとしているのでは無いので、

◎流れ行く紙雛糺の杜の闇
これで流れて行く動きが表現できました。糺の杜は特別に保護されて、今も原生を残していて昼間は優しい木立ですが、夜ともなれば霊気漂うと言った大古の杜の雰囲気に包まれます。その杜の闇へ祈祷したヒト形の「紙雛」が流れて行く。
シャーマニズムの世界です。糺の杜にふさわしい作品になりました。

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