2023 竹の情報発表会

「竹の情報発表会」の開催



第1部 記念講演
第2部 鼎談:テーマ 次世代に継承していく技術・文化をどのように伝えていくか。

第1部 記念講演 「竹の国際交流の現状と課題」

講師:竹文化振興協会理事長 京都大学大学院教授 兵庫県立淡路景観園芸学校学長 柴田 昌三

柴田理事長
柴田理事長

 本講演では、柴田理事長が、過去数年間に訪問した各国の竹に関する活動並びに日本が行う国際的な竹に関する支援活動の紹介を、多くのスライドを交えて行った。以下では、講演要旨として当日会場で配布された資料に基づいてその内容を紹介する。 古くから日本は竹との親密な関係を築き、竹文化と呼ぶにふさわしい文化を構築してきた。また、その知識、経験、技術は、世界から注目され、日本政府も昭和時代中期から積極的に伝統的な竹加工技術等を、人材派遣等を通じて広めてきた。しかし、近年ではそれは必ずしもあたらない状況にある。以下では、世界の各地に分布する竹を理解する必要性とそれに適応した国際交流の在り方について考えてみたい。

1.竹類の形態と分布

 周知のとおり、竹は世界の湿潤な熱帯から亜熱帯に分布する。温帯で分布がみられるのは、東アジア、南米南部、北米東部だけである。温帯域では、竹は四季がある気候に適応するために独特の進化をとげてきたと考えられている。日本ではその4分の3がササであり、世界の竹類の分布域から見ると北縁部になる。海外では、ヒマラヤやアンデスなどの高標高地にも見られる。これらの地域では、標高が変わるにしたがって出現する種が変わる、竹の垂直分布が認められる。

 私たち日本人は、温帯域の竹(地下茎で広がる)を普通の竹と思っているが、熱帯の竹(株立ち)とはまったく異なる形をしていることを理解することは、竹の国際交流を考えるうえで重要である。

 竹類が分布する地域では竹を資源として大事に使ってきた。すなわち、竹に基づく文化が形成されてきた。一方、竹の自生がないヨーロッパの人々も、19世紀以降、地域に自生種には見られない淡い緑の葉を持つ常緑性植物として竹を好んできた。

2.コロナ禍になっても活発に展開されている途上国における竹に関する活動

 わが国では、2020年以降、コロナの蔓延の中で様々な経済活動が停滞した。その停滞は、竹産業を含む伝統産業についても例外ではなかった。しかし、海外では、自国内での活動を中心に様々な形で活発に行われていた。私が持っている情報だけでも、以下のような竹に関する活動が認められる。

これらの活動はいずれも熱気にあふれたものであり、竹を用いてさまざまな環境問題に対応していこうとする意気が強く感じられるものである。

3.Mustafa Var氏

 竹の自生がない国で、竹に注目している研究者も多い。ここではその一例として、コロナ禍前の2018年に訪問した、トルコのYildiz 工科大学建築学部都市・地域計画学科教授のMustafa Var氏を紹介したい。親日家で、息子さんは母国で造園業を営む一方、娘さんは京都大学に留学して、昨年博士号を取得した。

 彼は平成時代初頭に岡山大学に留学し、竹の繁殖のための研究を行って博士号を取得した経歴を持つ。帰国後は黒海沿岸のトラブゾン大学に勤務し、資源生産を目的としたモウソウチク林の造成を行ってきた。その際、モウソウチクの苗は中国から導入したと聞いている。

 その後、造園学を教授する立場となり、トルコにおける竹の造園的利用も積極的に行ってきた。首都のイスタンブールにある現在の大学に移ってからは、この大学における造園系の研究室の設立に奔走していた。大学構内だけではなく、市内の各所の新しい造園空間にも竹が多く利用される様子が見て取れた。
 このような竹をめぐる活動は、トルコだけではなく、ドイツ、ハンガリー、イタリアなどヨーロッパ各国でも多くの人々によって行われている。

4.世界の竹に関する国際組織

現在、世界レベルで活動を展開している組織は二つある。

一つ目は世界竹会議(World Bamboo Organization, WBO)である。現在、会長はMichel Abadie氏(フランス)、事務局はSusanne Lucas女史(アメリカ)である。世界中の竹に関係する愛好家、企業家、研究者などからなる組織で、基本的には個人会員によって組織されているが、会費はない。

 二つ目は世界竹籐組織(International Network of Bamboo and Rattan, INBAR)である。この組織は1990年代にカナダから北京に本部が誘致され、中国主導で運営されている。国レベルでのメンバー構成になっており、個人会員は存在しない。現在では、アジア、アフリカ、南米から多くの加盟国を得ている。現在は、中国の一帯一路政策に取り込まれている状況が見て取れる状況にある。

5.日本の竹の国際交流はどうなのか?

 日本は森林資源や環境保全の観点からさまざまな国際的な交流や活動を行っているが、一部で竹に関した国際的な活動を行っている組織としても、国際交流機構(JICA)や国際緑化推進センター(JIFPRO)のようにいくつかを見つけることができる。
しかし、現状をみると、いくつかの問題点が認められる。たとえば、情報源や技術提供者を海外に求めることはあまり行われておらず、あくまでも日本の技術を輸出するという50年前の発想から出られていない点が気になる。

 一方、WBOなどの国際的な活動に積極的に参加している日本人はわずかである。WBOが認定している竹大使には日本からは二人が選ばれているだけである。日本からのより積極的な人材の参加が求められる。また、INBARについては国際組織と認められないという外務省の方針で過去30年間加盟すらしていない。

 私は、2008年の世界竹会議(WBO)インド大会ではJICAの協力を得てJapan Dayを企画し、世界中からの参加者を得ることができたが、このような活動はその後継承者がおらず、継続できていない。

 竹の国際交流を考えるとき、日本の竹関係者はマダケ属やメダケ属といった竹は知っているが、熱帯地域に自生する株立ちの竹の特性は知らない、あるいは理解する機会がないことを弱点として挙げることができる。英語が不得意である、あるいはコミュニケーションが取れないといった、海外に出ていこうという積極性を持った若者が少ないことも問題であろう。

 さらには、政府がその必要性あるいは重要性を認識していない点も問題である。このような活動に関与すべき政府の職員もわずかしかいない。例えば、林野庁には国際協力関係の部署があり、かつては竹分野でも頑張っていた。しかし現在のこの部局の主要な業務は、国際レベルでの木材の盗伐対策や早生樹種の植林に関するものがあるものの、各途上国の自生種としての竹には注目できていない。

 いずれにしても、日本には、国際性があり、竹で世界と交流しようとする組織がわずかしかない点は最大の弱点であると考えられる。

6.過去に私が行ってきた竹関係の講演等の状況

 日本が国レベルで、竹の国際交流を十分に行えない状況はすでに30年程度続いている。しかしその一方で、日本に対する期待は現在も強くあることが感じられる。その一つの事例として、私自身に関する世界との様々な交流についてその一部を以下に記してみたい。私が竹の分野で国際的な発表をしたのは1992年に熊本県水俣市で行われた世界竹会議である。それ以降、数々の国で講演や講義を行ってきた。

 インドとの交流は特に多く、デリー、北東諸州(JICAからの依頼も含む)における講演のほか、コロナ禍中にはアッサム州のグワハティ大学におけるウェビナー講演もあった。それ以外にも中国(INBAR、浙江省林業庁など)、台湾(台湾国立大学)、ベトナム(フエ、ホーチミン)、インドネシア(IPB大学(旧ボゴール農大)、スマトラ工大、バンドン工大)、マレーシア(サバ大学)、タイ(カセサート大学)、ミャンマー(イェジン農大、ミャンマー林業環境大)、ハンガリー(Szent Istvan大学)、メキシコ(メキシコ自治大学)等における講演が挙げられる。

7.竹の国際交流から取り残されている日本

会場全体の様子
会場全体の様子

 日本が竹文化の先進国であることは国内外ともに認めている事実である。しかし、一部を除いて、発信力の弱さは過去50年間変わっていないと言わざるを得ない。

 一方で、途上国を中心とする国々には自らの国土に竹を資源として持つ国々が多く、近年では、竹に関する情報収集や国際交流を貪欲に行い、自らの研究の蓄積によって竹産業を発展させている。しかし残念ながら、この中に日本の技術はほとんど含まれていない。

現在、日本が行っている海外支援でも竹加工技術を前面に押し出した活動は認められるものの、自国の技術(すでに多くはデザイン以外では時代遅れとなっている)に固執するあまり、国際的な貢献には至っていない例が多いように感じられる。
その一例として、ここではインドのトリプラ州においてJICAが行ってきた円借款事業としての支援事例を見てみたい。

 この事業は10年以上継続して行われており、現在は二期目に入っている。一期目には竹林の造成が行われ、その成立によって現地の村民に資源供給による収入増が期待されている。

 一方で現地を見ると、現地の伝統的技術を十分にみていないこと、竹工芸技術やマーケティングの専門家の不足、等の問題が見え隠れする。また、同行した現地の専門家によると、造成した竹林の成長や資源量は必ずしも十分ではなく、竹林育成のノウハウも不足している可能性がある。

 さらに、インド政府が設けた同様の施設では竹加工の技術指導もしているが、JICAはあくまでも産業・収入源作りが主眼に見える。また、インド政府主導の指導所にある製品の方がデザイン的に優れている点も国際交流を考える中でさらなるアイデアの必要性を感じさせるものである。

8.INBARから出版される本への寄稿

 2022年5月、INBAR本部のJin Wei女史(1990年代からの知り合い)から、INBAR本部がある北京で設立25周年を記念して本を出版するので、日本からも一文ほしいとの連絡が入った。世界の竹文化の紹介と中国の貢献を中心とする本にしたいが、やはり日本からの情報なしには竹関係の本としては片手落ちになると考えたらしい。依頼の内容は、日本の竹工芸の代表的なものを紹介してほしいというものであったが、これはなかなかむつかしい注文であった。中国からの注文には、industrial standardという言葉が含まれていたが、渡邊政俊氏とも相談した結果、日本の場合はそれにtraditionalをつける必要があるとの判断になった。

 日本を代表する竹工芸家としては田辺竹雲斎氏を紹介することにしたほか、大分と京都の竹工芸界に相談した結果、向功彦氏、森上智氏、中臣一氏、細川秀章氏、長谷川絢氏の作品を紹介することとした。
 現在、印刷段階にあると聞いている。

9.最後に:竹による国際交流を考えるとき、日本人の大半がすでに竹の文化を失っていることは致命的

 世界では、今も竹の特性を理解した上で、竹材の利用、筍の食用、防災への利用など、さまざまな竹の利用が行われている。その中には竹の特性を熟知した利用が多く見られ、その知識を維持するための技術の伝承が続いている。

 日本でも代表的な有用植物として竹は認識されてきた。そのため、日本人の多くも竹の扱い方を熟知していた。しかし、現在の日本人は竹に関する知識を失いつつある。

 日本が竹を通じて国際的に貢献できることを考えるためには、国内で竹の新たな利用を社会から提案する必要があり、そのことによって、失われつつある日本人の竹に関する知識も回復させられるのではないかと考えている。日本の課題は自らが持つ竹という有用資源を改めて理解することであり、これなくして竹の国際交流は不可能であるといえよう。私たちはさらに、国際的になる必要がある。

第2部 鼎談 テーマ:次世代に継承していく技術・文化をどのように伝えていくか。

鼎談の登壇者3名
鼎談の登壇者3名

登壇者:
渡邊政俊氏(本会・前専門員)
大塚正洋氏(京都工芸研究会・委員長)
小林慧人氏(森林総合研究所・研究員)

 最初に、小林氏から趣旨説明があり、登壇者が紹介された。今回の鼎談は、各人がスライドを使って2つずつ問題提起をし、その後、自由な議論を行うという流れで行われた。

渡邊政俊氏
渡邊政俊氏

 1人目として、渡邊氏からは自身の著作集発行に向けた資金的な援助に関するお礼の旨が述べられ、会場から大きな拍手が沸き起こった。渡邊氏は問題提起の1つ目に「竹林とSDGs」を発言された。SDGsとは持続可能な開発目標であるが、竹林栽培は歴史的にSDGsそのものであることを主張された。昨今の純国産メンマ作りをSDGsの文脈で実施する団体等が多いようだが、果たして持続的な竹林栽培となっているのかは疑問だという。竹林栽培における最重要課題は、竹の生態的特性に立ち返り、立竹密度と稈サイズをコントロールすることであることを、グラフを用いて説明された。

 2つ目として、「切子(きりこ)問題」を発言された。伐竹業者である「切子」が不足している問題である。1992年に京都竹材商業協同組合が発行した「活路開拓ビジョン調査事業報告書」で人材育成の必要性を説いたことや、近年林野庁へ要望書を提出している経緯などが紹介された。

大塚正洋氏
大塚正洋氏

 2人目として、大塚氏は、所属する京都工芸研究会について紹介された後、問題提起の1つ目として「技術の発展性のなさ」を発言された。大塚氏自身の竹の教科書は、昭和13年発行の中元勝英著「竹の利用と其加工」だという。当時の技術よりも現在は発展しているのかについて大きな懸念を持たれているという。過去にすでに確立された技術を学ぶことの重要さを主張された。問題提起の2つ目として「技術の消滅」を発言された。消えそうになったもの(できる人が数少なくなったもの)の具体例として、桂むきの技術、タメの技術、六角ロッドの制作技術、集成材の制作技術、竹齢の目利きなどを紹介された(実際は鼎談の後半に紹介)。

小林慧人氏
小林慧人氏

 3人目として小林氏は、日本国内の竹やそれに関わる人・施設では味わい深いものがまだまだ多いことを紹介された。研究者の立場として、問題提起の 1つ目に「知の体系の継承」を、2つ目に「報告書の埋没」を発言された。

熱心に聞き入る出席者
熱心に聞き入る出席者

 以上の発言ののち、昨今流行っている純国産メンマ作りに関して竹林栽培方法が確立されているのかという議論、大塚氏の問題提起2つ目について詳しく紹介され、時に会場からの発言もあり盛会に終わった。その後、小林慧人氏Bamboo Journalのオープン雑誌化が小林氏によって紹介され、会場参加の蒔田明史編集委員長(秋田県立大)が経緯やその必要性などについて発言された。最後に渡邊氏によって締めくくりの挨拶があり、幕を閉じた。

 以上の様子は、竹文化振興協会のYouTubeチャンネルで限定公開していますので当日参加できなかった方はぜひご視聴ください。 *ただし、いつまで挙がっているかは未定)。