カンボジアの世界遺産
 
アンコール遺跡

「人類が誇る至宝」といわれ、数ある世界遺産の中でもことさら有名なアンコールワット。その敷地は1キロ四方に及び、周囲を取り囲む環濠だけでも200メートルの幅がある。中央にそそり立つ祠堂は高さ約65メートル、神々が住むといわれる世界の中心「須弥山」を表現したものだ。
「凄惨な内戦の後遺症に苦しむ国」という印象が拭えないカンボジアだが、かつては東南アジア最強の大国であり、壮大な当時の遺構が如実にそれを物語る。中央祠堂が世界の中心であるというのも、あながち言い過ぎではなかったはずだ。世界遺産への旅は、現在の国際社会の力関係からは想像できない勢力地図を垣間見る旅でもある。
 

実はアンコールワットを訪ねたとき、その正体を知らなかったのだが、回廊の内部に仏像が祀られていた。なるほど仏教寺院だったのかと納得したが、実は12世紀前半にヒンズー寺院として造営されたもので、仏教寺院に姿を変えたのは、13世紀後半、この地に南方上座部仏教(小乗仏教)がもたらされたからだという。
アンコール王朝の滅亡後、当時の建造物はことごとく密林の中に埋もれ去るが、アンコールワットだけはずっと現役の仏教寺院として人々に崇められてきたという。19世紀末、フランス人アンリ・ムオーが訪れたのを機に、アンコールワットは「世紀の大発見」と大騒ぎされるが、「新大陸発見」と同様、地元の人々にとっては発見でも何でもなかった。

『イヤイヤ訪ねた世界遺産だったけど』
第3章「文明の系譜は今どこへ」より