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デリバティブ講座


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日経平均オプションで儲ける

相場はパソコンに聞け!

ボラティリティーの微笑み

(Volatility Smile)
1998年6月16日記

  1998年6月12日金曜、日経平均は大引けで15022.33円であった。この日は株価指数先物とオプションのSQ算出に伴い、8億株台の大商いとなった。日経平均オプションのSQ値は14980.52円であった。

 6月13日の日経新聞によると、ヒストリカル・ボラティリティー(HV)は18.1%である。これに対して、インプライド・ボラティリティー(IV)は24.5%と、市場関係者がみる価格変動性はかなり高い。HVは過去の価格変動性を示すため、今後の日経平均株価は大きく乱高下するものと思われる。特に、円相場が株価に与える影響は大きいであろう。ルービン財務長官が日本経済に対して、つきはなした態度を取ったことは為替相場の展開を急激な円安路線に向かわせたのか。仮にそうだとしても、これはあたり前の発言ではないか。戦後の日本経済が復旧したことによって、アメリカが日本をひとりの大人として見ている証拠ではないだろうか。銀行が抱える不良債権問題などは、そもそも日本が独自で処理する問題ではないか。

今後の株価は、我が国がいかにしてこの不況を乗り切るかにかかっている。

 我々相場師にとって、価格の変動は儲けのチャンスである。ここしばらく、円売りの状況は続くであろう。円安 --> 株安 --> アジア経済の危機 --> 円安 --> ・・・という悪循環の不安要因があるため、強気の相場は望めない。もちろん、ただ単に現物を買い高値で売却という戦略は通用しない。

 となると、オプションしか儲ける方法はない。こんなこと、相場師なら誰でもわかっていることだ。が、実はあまり知られていないことがある。「ボラティリティーの微笑み」である。英語で、volatility smileである。オプションの行使価格を横軸に、インプライド・ボラティリティーを縦軸に取って折れ線グラフで示したものである。理論上、グラフは横に平らな線になるはずである。「微笑み」と呼ばれているのは、儲けのチャンス到来のとき、グラフが笑った口の輪郭のような形をするからである。なぜか。

 オプション評価モデルのスタンダードというべきブラック・ショールズ式(1997年度ノーベル経済学賞に輝いた数式)に何らかの欠陥があるからである。ブラック・ショールズ式がdeep out-of-the-moneydeep in-the-moneyのオプション価格を誤って計算することは、もう十年以上も前から実証研究によっていわれてきている。しかし、いまだにブラック・ショールズ式はオプションの世界では、標準モデルである。

 以下の図は、6月12日の日経平均終値から、求めた7月物と8月物日経平均オプション「ボラティリティーの微笑み」である。計算はすべてK's SoftSpaceを使って行った。短期金利には、6月8日から6月12日のCD 3カ月物の終値である0.54%を使った。

 

 

 これらを見ると、コールとプットともに、行使価格の高いところで「微笑み」があることが、さっとわかる。限月が7月の期近物に「右の微笑み」がある。期先物の方が、期近物に比べると、インプライド・ボラティリティーが高い。これは、市場関係者の相場に対する不安感をよく物語っている。今後、オプションのプレミアムはさらに高くなっていくであろう。
1998年6月18日記 

 15日のNY市場で、ダウが207ドルも下げたことは、アメリカが日本の株安と円安が国際経済に与える悪影響を懸念している兆候である。

 日米通貨当局が円安是正の協調介入に乗り出したことで、17日のNY外為市場で円は一時、6円以上も急騰。

 現在の円ドル相場は心理的要因によって右往左往している。証拠は新聞に毎日、出ている。日経新聞に出ている、通貨オプションの欄を見てほしい。つい最近まで通貨オプションはボラティリティーで取引されていた。オプション料はボラティリティーの%で表示され、ロイターなどの画面だけではなくて日経新聞にも出ていた。その頃、銀行などの通貨オプション・ディーラーは皆、同じソフト(フュートラック:Futrakというソフトで、日本での販売価格は何千万円くらいだった。確か電通が日本の販売代理店だったと思う・・・)を使って取引をしていたので、このような取引の仕方でも何とかなったのだろう。ボラティリティーだが、通常は高くてもせいぜい10%前後であった。が、最近では10%以上での取引が目立つ。だいたい、15%前後で推移している。値動きが激しいので、オプションのプレミアムが高くなり、ボラティリティーも高い状態のままになる。このように通貨オプションでは、インプライド・ボラティリティーが新聞を見れば、分かる。今後の日経平均を見るとき、通貨オプションの欄も見るようにしよう。株・通貨ともに、インプライド・ボラティリティーが高いと、円相場と株がお互いに迷走しているようなものだ。ここで、ボラティリティーは、どんな「微笑み」をするのだろう。ぜひ、Spaceを使って計算してみてください。当社のソフトは本当に低価格で販売しております。

 さて、この協調介入の結果であるが、必ずしもプラスに出るとは思えない。一時的な円安によって株が安定したとしても、経済のファンダメンタルズを基盤としての安定ではない。日本は金融機関の不良債権問題を何とかしなければならない。円安になると、銀行などが持っている米国債の円に換算したときの価値が上り、資産が膨れ上がる。結果として自己資本比率の低下につながる。したがって、一時的な円安是正は邦銀のための、救済処置である。

 ちょっと前、「円高不況」という言葉があった。バブル崩壊の後、よく耳にした言葉だ。今は円安。一体、日本の経済にとって為替はどこまで重要なのか。銀行がつぶれかけているので、貸し渋りが起こり、中小企業が運転資金を借りることができなくなる。倒産件数が増える。失業率はさらに上昇し、有効求人倍率も1を割り込む。

 このような先行きが見えない状況で、為替が一日で一円以上動くことが当たり前となれば、株式相場も大きく動く。通貨オプションと日経平均オプションなどのボラティリティーを見ておくことは重要である。特にインプライド・ボラティリティーがヒストリカル・ボラティリティーを大きく上回ったときが、要注意である。マーケットの不安心理または期待感が大きいため、現物相場は大きく揺らぐ。

売買のチャンス到来でもあろう。
1998年6月19日記

 以下の図は、6月17日の日経平均終値から、求めた7月物と8月物オプションの「ボラティリティーの微笑み」である。計算はすべてK's SoftSpaceを使って行った。短期金利には、6月17日のCD新発3カ月物の終値である0.54%を使った。

 日米の協調介入による円安是正直前である。6月12日と比較すると、「微笑み」は左上りになっている。特に、プットでのインプライド・ボラティリティーが高い。市場に、日経平均が1万4千円台を割り込むのではという不安感があったことを示している。

 

 

 

 

 プットが割高なわけであるから(30%以上は異常に高いとみなしてよいだろう)、プットを売ってプレミアム益をねらう戦略がある。が、これではリスクが高いので、行使価格が13500円の当月物プットを65円で買い、行使価格が14000円のプットを売却しておけばよい。合計のポジションを以下の図に示す。青い曲線はブラック・ショールズ式によって計算したオプションの理論価格であるが、満期時におけるペイオフを示す茶線から離れているので、オプションにはまだ時間的価値がたっぷりとあることがわかる。

 

 

 ポジションのデルタがどのように変化するかを、以下の図に示す。これを見ると、デルタはほぼゼロに近い値で推移していることがわかる。リスクヘッジが効いているのだ。また、デルタはオプションが行使される確率を意味するので、リスクが比較的小さいこともわかる。

 

 

 このようなポジションの取り方には、名前があり、ブル・スプレッド(Bull Spread)と呼ばれている。 相場が下がるよりも、上がることがちょっと期待されるときにトレーダーが使う手段のひとつである。下がってもリスクは限定され、上がるとプレミアム益がねらえるのだ。

 

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