世界は多層で多様なざわめきに満ちています。
しかし私たちは、ともすれば表層的になりがちなメディア情報の氾濫の中、
それら多層性から溢れ出る、心の奥底を揺さぶる
新鮮な驚きや喜び、そして沈黙を忘れ去っているようにも思われます。
世界は多層で多様なざわめきに満ちています。
私たち自身もまた、場所や状況に応じて
その都度自らの心のチャンネルを切り替えて生きている多層的な存在です。
私という存在が、複数の感情や感覚、思考の断片によって、その都度ダイナミックに組み替えられるということ、
それは常に現実感
(リアリティ)
の危うさと共に、
多層な世界に周波数を合わせ
自らを切り開く可能性を示唆しているように思われます。
初めてラジオのダイヤルに触れ、甲高いノイズ音を掻き分け、
何とかそれとわかる
人の声や音楽を捉えようとした時の
微妙にダイヤルを調節したその指の感触・・・。
多層性や多様性のざわめきに触れるためには、 そのような耳を凝らしての
能動的な同調
(チューニング)
が必要なのかもしれません。
美術は、文学や音楽などの芸術、宗教、哲学、科学
などと共に、
多様な世界の様相に触れつつ生きるための装置であったはずです。
人間のそして世界の次の射程を見定めるために、展覧会という場を
多層的な世界への水路として、
新たに再生させることが必要なのではないでしょうか。
多義的な意味を帯びる
個々の作品・場から開かれる水路
(チャンネル)
。
それらは互いに交錯しながら、
展覧会の場を重層的な水路網として形作ります。
展覧会「チャンネル・n」は、美術という台地から外へ、
多様な周波数帯域が充満する世界へと
観客がチャンネルを切り替え柔軟に接続していくことを
可能にする受信装置なのです。
「チャンネル・n」、
それは
N層(numerous=不特定多数)のチャンネル/水路を持つ
現実のありようです。
また同時に、
それらのチャンネル/水路に自らの周波数を合わせ、
切り替えていく試みです。