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住み続けたいという思い

スケルトン定借・コーポラティブとの出会い

地主&入居者&施工者 絹川雅則

 

百年プロジェクト

絹川

 今日ご覧頂きました土地に建っていた前の建物を解体したところ、 大正15年に私の祖父と曾祖父が一緒に建てた棟札が出てまいりました。 大正十五年末上棟、 絹川定次郎、 私の曾祖父さんの名前でございます。

 私は京都で公成建設という建設会社をやっておりますが、 その前に京都の住民と言いますか、 烏丸一条に子どもの頃から育ちまして、 あの場所に住み続けたいという思いは人一倍強い人間でございます。 御所は自分の庭のようなものですし、 子どもの頃から御所のあちこち隅々まで知らない所はないというくらい遊びました。 同志社が近くにありますので、 同志社幼稚園にも通っておりました。

 実は今日、 うちの次男坊をこのセミナーを聞きに来いと言って座らせております。 小学校6年生です。 このプロジェクトは、 スケルトンは百年以上持たせるという計画でつくっております。 これから私たちを含め13家族の方々と一緒に共同生活をするわけですけれども、 百年後は私は確実におりませんので、 私の子ども、 孫と、 三代先までこのプロジェクトが続けばいいなという思いで「わかるかわからへんかはともかく、 お父さんの話を聞いておけよ」と、 彼に聞かせております。

 このプロジェクトはそういうタイムスパンが長いプロジェクトです。 そして今日はそのスケルトン定借方式(つくば方式)の開発者のおひとりである竹井さんも来ておられますし、 千葉大の小林先生も来て下さいました。 つくば方式は、 旧建設省の建築研究所がつくばにあり、 そこを中心に開発されましたので、 つくば方式とも呼ばれています。


旧宅への思い

 詳しい説明は避けますが、 先の建物は、 大正15年に祖父、 曾祖父が上棟しました。 土地が796平米ございます。 建物はまだしっかりしたものでした。 手を入れればいくらでも長生きをするであろうという建物でしたので、 本当を言うと壊したくはなかった。 仏壇に手を合わせて「申し訳ない」と。 しかし私は建設業を家業にしております関係上、 いろいろ新しいプロジェクトの試みもやらなければならん、 相続税も払わなければならん、 固定資産税も払わなければならん。

 その昔、 一部を駐車場にする前は、 800平米近くありますので、 畳で言いますと百畳くらいの畳が敷き詰めてありました。 昭和初期の暮らし方で言いますと、 お手伝いさんが数人、 男衆さんが一人、 それに書生さんがいて、 うちの中を切り盛りしていたという家でございます。

 そこへ私と嫁が入りまして、 引き継ぎましたが、 一家で住むには贅沢といいますか、 広いのです。 掃除も行き届きません。 私の母から「あんたの嫁はお掃除もちゃんとできんのか」と小言の一つも言われます。 雨漏りもしてきます。 どうしようかなと。

 住んでいて涼しいんです。 庭もありますし、 なるほど二階で住むと夏は暑いのですが、 一階に下りればクーラーがいらない。

 それをなんとか残したかったけれども、 残しきれずに悩んでおりましたところに、 こういうプロジェクトに出会いまして、 竹井さんと小林先生に肩をぽんと押していただいたのが数年前です。 「やってごらんよ。 できるよ」ということでした。


つくば方式の三本柱

 私はつくば方式の柱は三本あると理解しています。 一つは先ほど申しました、 スケルトン=インフィルで、 スケルトン(骨組み)は丈夫につくり大事に使って百年持たせるということ。 それからインフィル(内装の部分)は更新しやすいように考えていこうというものです。

 そしてもう一つの柱がコーポラティブという考え方です。 このごろいろんな住宅番組などで取り上げられるようになりましたので、 ご存じかと思いますが、 建物をつくる前に入居する人を集めてしまいましょうという考え方です。

 それから三本目の柱が定期借地権の考え方です。 この考え方については、 私は個人的には非常に魅力を感じました。 絹川という個人の中で、 地主としての絹川と、 建設会社としての絹川と、 それから入居者としての絹川がおります。 この三人のうち、 それぞれがこのプロジェクトは魅力的だというふうに感じました。


建設会社にとっての「つくば方式」

 まず建設会社としての絹川。 ずっとコーポラティブという仕組みに興味を持って、 勉強はしておりました。 ただし、 建設会社として近寄るには危険かもしれないという危惧感も持っておりました。

 というのは、 手間がかかりすぎる。 普通のマンションを建てる時、 例えば20戸あったら、 Aタイプ、 Bタイプ、 Cタイプがあって、 五階建てくらいでしたら、 同じようなパターンでダーッと建てればいいのです。 しかし、 今回はたった13戸ですけれども、 ご覧になった方はおわかりになると思いますが、 皆さんわがまま放題しほうだいです。

 建物に対してこだわりにこだわった方が入られますから、 扉の一枚、 バスタブ一個、 自分の好みのものを入れたいと。 例えば普通のマンションだと防音室をあとからつけるのは無理なのですが、 ピアノのプロを目指したいので完璧な防音室がいるというような注文であるとか、 今回ではないのですが、 長野県の古い住居から彎曲した梁を持ってくるからこれを我が家に入れてくれというお客さん、 それから僕みたいにメゾネットにして地下に合気道の道場をつくるんだとわけのわからんことを言う人間もいます。

 そういう中で、 危ないかもしれないと思っていたわけですが、 世の中が変わって参りまして、 お客さまの意識が変わってきた。 普通のマンションでは飽き足らないという方が増えてこられたのではないかという予感があったというのが一つ。

 それからもう一つは、 建設会社として、 建物をつくってお納めするのが我々の仕事ですので、 それだけで現場を去るのが当たり前なんですが、 コーポラティブという考え方ですと、 ものすごく格好の良い言い方をしますと、 ご近所づきあいの種をちょこっとまくお手伝いができる。 コミュニティに少しだけ関わって「失礼します」と立ち去る建設会社がいてもいいんじゃないかという、 非常にロマンティックなことを思ったわけです。


地主にとっての「つくば方式」

 それから地主としての私。 地主としてこれが魅力的だと思ったのは、 非常にはしょった言い方で、 あまりきれいな言い方ではありませんが、 「人のふんどしで相撲をとらせていただける」ということです。

 つまり地主としてのリスクが少ない、 ローリスク、 ミドルリターンだというふうに習いました。 というのは、 私は大家ではありません。 地主であります。 地主である私も自宅の分の建物のお金は銀行から借りて負担をいたしましたけれども、 入居される前田さんをはじめ12家族の人たちは、 それぞれ自分たちのお金で、 スケルトンもインフィルもおつくりになります。 ですから地主の負担は非常に少ないんです。

 しかも定期借地権という方法を用いていますので、 61年にわたって地代を頂戴できます。 左うちわで地代を頂戴できるわけです。 しかも保証金ということで、 無利子でたくさんのお金を預からせていただきます。 そのお預かりした保証金で他の借金をちょっと返そうというようなこともできます。


入居者にとっての「つくば方式」

 それから入居者としての私です。 実は建設会社をやっていることから普段感じることですが、 今、 超高層のマンションなどが大流行です。 大きなマンションもあります。 いいなとも思います。 あんな仕事を一つさせてもらったら、 うちの会社も助かるのになとも思います。 そう思う反面、 隣は何をする人ぞという暮らし方にちょっと疑問を感じておりました。 入居者として顔がわかっている人たちと一緒に建物をつくっていくというやり方、 しかも地主がそこに住み続けるということが一緒に入居される方の安心に繋がるということは、 私にとって、 やはり大きな魅力でした。

 私の町内でも、 同じ程度の土地を持っておられた方が、 土地を売って郊外に一戸建てを建てて出て行かれたことがありました。 その後、 どうなるかと言いますと、 たいていの場合はミニ開発が起こるか、 ワンルームマンションになります。 それを仕事で頂戴した場合は、 「へえ、 おおきに」と言ってさせていただきます。 業者としては仕事がいただけてうれしいんです。 しかし町内に住む人間としては、 悲しいなという思いがどこかにありました。


第二、 第三の事例を

 私の中にそういう三人の人間がおりまして、 その三人の人間がこの仕組みに魅力を感じました。 もちろん危険も感じております。 入居される人たちにとっては、 私は人質でございます。 百年間にわたる人質でございますので、 私だけでは足りずに息子も今日、 連れてまいりましたけれども、 息子も人質候補、 孫も人質候補になるわけです。 ひょっとしたら私は火中の栗を拾ってしまったのかもしれないんですが、 私としては「つくば方式」という新しい仕組みのお毒味をしたという思いでいるのです。

 京都の都心部に住んでいる地主さんで、 これからどうしようかなと思っている人たちが、 あいつ面白そうなことをやったなと、 あいつが失敗したところはどこだろう、 あいつがうまくやったところはどこだろう、 見極めてやれと思っていただければと思います。 そしてこれからこれが特異例ではなくて、 第二、 第三のセンテナリオをやってみようかなという方が、 たぶん京都にはおられるのではないかと思っております。


現場のスタッフもがんばりました

 竹井さんもおっしゃいましたが、 集まったチームも確かに優秀でした。 我が社を優秀というのははばかりますが、 我が社の現場担当者は夜も寝ないで、 目の下にクマを二重三重につくってがんばりました。 建設会社としては難しい仕事です。 それを立派に仕上げましたので、 私は現場のスタッフは誉められるべきだと思いますし、 設計監理の安原さんからもお褒めの言葉をいただきました。 私はというと、 地主と入居者と建設会社と三足のわらじ、 プロデューサー的役割も果たしたとしたら四足目のわらじもはきましたけれども、 このプロジェクトはそういうプロジェクトでございましたということで、 まとまりませんがこれで終わります。

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