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俳句


俳号 芭蕪

作家名 島岡海豹

句会 不惑句会


『芭蕪処女句集』より

便り来て胸騒ぐ夜の初しぐれ

初しぐれ賀状も濡れて届きけり

七草の粥もこぼるる大雷

黒犬ののっといでたる春の闇

大寒や甘鯛ぬがすどてらかな

節分の金つば寒し霜囲

豆餅を置き忘れたり雪の中

水仙花匂い沈みて小川かな

きたままで抱き合う閨の朧月

牛糞を踏みてうれしき朧月

会見ての朧月夜や京桝屋町

湖東しぐれ雲の子のぼる景色あり

ふぐ鍋や今宵会う人みな骨しゃぶり

観音の小股も煮たりふぐの鍋

馬に乗る観音見たりふくと汁

海潮満濁酒温汝淋泊

淋しさも沈み澄みたり汐泊まり

汗溜る汝が沢の沙魚潜り

春近し優しく殺して白和えを喰う

渓仙の家なく栖鳳の家残る雪の果

大根の肌に口紅ぬりつける春の宵

けだものの乳首ぬれたる甘納豆

指先の春先だけでする甘い口

甘い眸甘い唇甘い甘い乳首甘い罠

ものみなが脱いでいく日々苦き蕗のとう

春霞風の形見の川柳

ゴム毬の乳房なき身に春温し

蝶をとる手つきで靴下ぬがす春

蛸ぶつを肴に別れ泪かな

肉臼を撫でて黄砂の風孕む

蕾さえくずれるほどの想いかな

長々ととも香うつりし二人酒

うしろから抱けず温めし花のもと


『花王芭蕪句集』より

青揚羽垣根の奥に消えにけり

白き女白きままにてふうわりと

耳元の蝶の羽音や初夏の海

大川や梅雨のうなじの息苦し

薄皮を破りてまろき葱坊主

おくれ髪の女の箸に水雲かな

田に張りし水静まりて蛙声

温犬の背に触れてゆく少女かな

影ありて甚だしきは躑躅かな

アルプスの山雲となる五月かな

やわ肌の青虫透けてはみごこち

西日さすビアガーデンに塔傾く

蟻入る花弁揺らせて凌簫花

夕立の前は焚き火のにほいかな

緋扇のかなめ崩れし夏の夕

二の腕を噛みて夕立おさまりぬ

入道雲街に空ありの文字を見る

夕立の最中盲人の二人連れ

半島を舐めて台風過ぎにけり

焼けトタン夾竹桃を煎る気配

夏の月入道雲を照らしゆく

ムレムレや魚類恋しき盛夏かな

意味意味と内耳に響く猛暑かな

米喰いて田圃の肥やしとなる身かな

蟻無尽かえでの裏に夕立の来て

サングラス魚類となりし夢を見る

弱虫とわが名呼ばれん熱帯夜

白きビル水辺恋しき洋芙蓉

耐えてまた茂み黒めく盛夏かな

名も知らぬ夏草摘みし道の奥

赤き月頬張る如き抱擁の夜

遊月や女も寝たる萩の家

亀覗く夕空の月金貨かな

石蓮子あの世の人のみやげかな

石畳み目地にそぼろの金木犀

胡桃割る女一人の帯忘れ

満天の星吸い寄せる臍の穴

耳たぶをそっとかんだり瓜二つ

さくらんぼ唇寒し処刑の日

大黒の柱くろぐろ磨く女

レモン二つ片手に持ちて露天風呂

天神のさねの思いや秋の風

井戸深く地球の外の月を見る

あの世からこの世の見える丘ありや

映りたるものを写せる薄きもの

尻千個胸千個かな萩の花

瓶の水満々として月滑る

さぶいぼを撫でて聞こえる風嵐

国家という怪物の子に自由なし

大川を魚飛ぶ秋の波さわぎ

北半球紅葉血に染まるテロルの秋

風孕む金木犀や玉の肌

薄より背高あわだち草の勝ち

魚住まぬ布袋草の鉢花立てり

ジャンギャバン冬の花火を上げしかな

椿落ち石の上にて咲きにけり

なまこよりまめこの好きな女が好き

コンビニの弁当食す川に鯉と鴨

母知らぬこのここのわたこのこのこ

魚を採る遊びに見えし真鴨かな

冬枯れの蓮池やたら忘れ杖

初雪や梅のつぼみに触れず舞う

初春や侘助白き庭に雨

釣鐘のほとぼりさめぬ初日かな

鴨太し軽々浮きて脚遊び

ひよどりの憎きとさかや春を摘む

母一人すまひし里に上鶲

本気なら雪のつぶてで春の朝

愛宕より雪舞い入るや京の街

積もる気で吹きぶる雪か四時過ぎて

北風のくぐりぬけゆく鴨の川

胸中に椿一輪の沈黙

あいみてのころばぬさきのつえよわし

うつつにも合わせ鏡に椿落つ

白足袋をぬぎし花芯に春の風

草も木も虫も人も猫も野っ原雨水

颯爽と飛び立つ鳥の落とし文

枯れ枝に編まれしばかり雛の家

梅が香は三井寺あたり仏壇の春

風花の吹き来る先や雪柳

ひな残す巣かごに雪の一二片

瓢箪のかたち見たさに昼寝かな

花冷えに篝火うれし祇園かな

花冷えや茶漬けに入れる蕗のとう

花冷えの頃や独活売る未亡人

花待ちて憧れて待ちて乳房かな

篝火に赤らみ咲かむ初桜

花のない春や爆弾降るバグダッド

腹這いて芽吹きしものの上に寝ん

春雷や花散る様の太鼓かな

満開の桜最後に尽きぬ恋

しなだれて咲く花贈る別れかな

たらの芽も魚の目も出る旅路かな

髪ときし女のからだや雨激し

ちいさき手のびてつかみしかたきもの

竹の子の夢朝早く覚ましけり

五月雨の後の寒さも破竹まで

蝸牛耳中に雨を聴きにけり

霧雨に煙りて重き楓かな

紫陽花の色流れたる川面かな

十一

なめくじの妾家背負いて夜逃げかな

蛇の目傘持ちて祇園にらんらんらん

蒸し風呂の車内ネチネチ風土病

鱧しゃぶで思い切りたや恋の夜

むしゃくしゃとした今宵や言えぬ鯛茶漬け

煮凝りをのせて白磁の肌涼し

鮎の粥きゃら蕗牛蒡花山椒

梅雨入りやコップの中に青蛙

枇杷の実の数限りなき晴れ間かな

山にわく蜘蛛切丸の刀映へ

十二

青毬のトタンを破る嵐かな

ここ植えてあそこはまだの田植えかな

梅雨空やレイルウェイに蝶の羽

蟻御輿凌霄花を揺らしおり

肌と肌ぶつけて夏の海になる

君が香や祇園囃子も幽かなり

白雨に憶い満たして匂いかな

葉の裏も紅く悶えん合歓の花

どこもかも雨降る土に恋埋まる

星の降る暗きところに恋隠す

十三

惑星の軌道の如き恋螢

太陽に近づく地球傾きぬ

海に湧く雲山を動かす大暑かな

いつまでも耳中に残る囃子かな

近づけば火傷覚悟の日射しかな

物陰の白粉花の青みたり

八朔や青き川面に蜻蛉かな

雨避けて飛ぶ鳥羽織被りおり

青林檎胸に押しあて時を呼ぶ

めくるめく一夜の恋や青胡桃

十四

青葡萄鵯も時待つ恨みかな

魚のめを刀でさばく秋のひと

白いブラはずししきみの露のあと

秋の夜の戻りし気配ひとり酒

陽もおちて重きみちべにすずのおと

鐘太鼓一打ちずつに夏終わる

闇空を見上げる火の粉広河原

蜩や足りぬお足でひとり酒

柚子の香の指で触れたき足の爪

秋冷の少女去りたる布の皺

十五

嘘ならば見破るような赤い月

歯一本大事に包む赤き布

拳銃の暴発ありや秋の朝

薮枯らし擦れっ枯らしに洋からし

薮枯らし貧しき街に月の影

薮枯らし薮から棒の赤子泣き

夜中降る雨奥ゆかし心地かな

雨音の闇から漏れて間近まで

淋しさのポリープありや秋時雨

眠れない夜や茸の笹まくら

十六

茸噛む歯衰えて適度かな

馥郁と薫る茸や白き夢

獣なる心を隠す通草かな

血と尿で計りし命秋の空

初霜や柿の葉に星輝けり

還暦の祝いの宴のビートルズ

名で呼べる友還暦をすでに過ぎ

遠方の友過去より来たり冬桜

憂国の人言葉の海を凍らせる

島々の紅葉の葉影海嵐

十七

粕汁の人参赤き泪かな

柚子入れし湯割りの焼酎風邪退治

風邪だから接吻しないわけなわけ

わけありのマスクの顏に冬至かな

大雪や揚がりし鯉の困り顔

確かなる黄に紅葉して銀杏散る

鳥騒ぐ神社の道に若小枝

昭和には馴染みもありて平成もはや

やり残し生き延びる技として大晦日

西暦と年号あわず晦日そば

十八

雲動く空に冬木の倒れゆく

対岸の遠き峰々初冠雪

種多き柚子の気持ちの冬至かな

成人になりし娘とほたるいか

酒少し熱燗にしてどんど焼き

様々の憶い温めに炬燵酒

できるだけ白く積もりて歌始め

雪の田に人影黒くしぐれ行く

山々に粉砂糖ふるしぐさ名残り雪

山芽吹き川蜷の触手まねきたり

十九

のれそれの生まれし海の濁りかな

訪れを待つことすでに会いしこと

姦しき冬鳥の群れ抱く金木犀

冬柿の赤き火照りやひな鳥の啼く

鏡餅カリフラワーに変身す

早春や赤子に黒子見つけたり

黒糖酒喉赤くして余寒かな

赤飯で祝う二月や黒漆

春の戸を激しく開けて嵐かな

三日月の弓矢の先に星ひとつ

二十

春泥や田螺のぬたの二人酒

ふるさとの茶漬けの味や日野菜漬

朝潮と呼ばれし行商蜆売り

あんかけの蕎麦で春待つ都かな

耳たぶの後ろに風や沈丁花

松明の火の粉映して嵯峨豆腐

春宵や少女の顏の青さかな

濁り水鷺に狙われ澄みにけり

水満ちる太郎の島や亜熱帯

水際のつま先立ちに狂花かな

二十一

大輪の椿の紅に春の雨

石畳飛び来る子猫春日和

まぼろしの春の宵かな忘れもの

今会いし人やさてはと復活祭

復活の予言どおりに元彼と

復活の言葉も知らず若葉かな

母と娘の別れの旅か八重桜

錆付きし車輪の軋み豆御飯

かますごを筏に刺して流れ花

ふくふくと含み笑いや葱坊主

二十二

舌舐めて五月の空や猫の顏

ほの暗き顏を両手で包みけり

茶漬けする女の台所五月雨

声低き女に贈らんサクランボ

ベランダに鉢植え並べ飛行船

窓開けて風冷ややかに菖蒲かな

窓越しの接吻紅き金魚かな

窓を打つ激しき雨や夜の恋

遅き朝天を突き刺す重機かな

鳥嬌声琵琶湖に夏のきざしかな

二十三

麦秋やひげ剃り立ての優男

見つめ合う瞳に映る短夜の雨

鳥騒ぐ夕方の森黒髪の女

紫陽花に色のそよぎや通り雨

青虫のおしりに目玉大中小

葡萄の葉二日待たずに蝶と消え

カンナ咲く線路の脇の安旅館

首筋のしたたる汗や大接近

くちなしや二重まぶたの妊婦立ち

ペキュニアの指を濡らして野分けかな

二十四

舌先の三寸あたりに菖蒲池

老猫の痩せ衰えて洋芙蓉

乱暴に食べ尽したりサクランボ

スペインの八百屋で買いし壺に夏

裸んぼう堀川牛蒡の祭かな

ジンロックグラスに曇るレモンかな

人妻の帰りそびれて夕立ちの頃

祭り去り行列川に滲み込み

雷の音凄まじき終の梅雨

七月の時刻表買ってみる駅の朝

二十五

冷房のないくらし味わう京町家

雨宿り大女の横に座ってる

夕立ちや人の妻静かに佇みし

うつろなる鰻の顏や夏盛り

鱧切りの音涼やかに夏の宵

はもはもと口先ばかり皮ばかり

鱧鍋やひそめし恋の切身かな

ステーキのみやげ届ける夏の家

母と子の二人遊びや夏カフェ

気配しる金魚の群れの餌催促

二十六

背中から汗のしたたる菩薩かな

背を向けし女の髪の切りどころ

背広持つ手も汗ばみて処暑迎え

背中から裸の祭り始まりし

揚羽蝶自分の影を見て飛びし

猫の夏しっぽをどこにおくのやら

野分けして月も濡れたる姿かな

後ろ手に無月抱えし女人かな

初盆の墓新しき野分けかな

内臓の疾患知るや地震持ち

二十七

繰り返す日々の泡々こぼれ水

川の杭トンボびっしりとまりけり

五感なき朝やきのうの乱気流

大海の水を運びし野分けかな

列島や渦巻く風の裂きにけり

走り去る列車の窓の人の顏

煩悩の音聞く秋の始めかな

聞き耳をたてて夜漕ぐ渡し舟

ひよ鳥の鳴く音変わりし秋の朝

このままでいいのと聞きし秋の橋

二十八

触れし手のにほひ立つ夜の秋雨かな

猿や知る熱をおびたる唐辛子

夜中降る豪雨明けてや芒原

青蛙芒の原の暇寝かな

胸ぐらに蟋蟀のいる快楽かな

朝顔の種を枕にふくらはぎ

秋風のすうっと抜けしうなじかな

看板に逆さ水母の秋の月

虫けらの気持ちうれしき秋の暮れ

マンションの谷間の大樹金木犀

二十九

ダリの空夕焼けに見る京の秋

背中から金木犀にダイビング

種植えて秋雨頼む気持ちかな

初孫の顏見る月や今年まで

川清き流れの中へ沈みたき

後添えの太き腹見る月夜かな

街路樹に鳥群れ来たり月半分

椋鳥や月半分の夢を抱く

つわぶきの花咲く頃や鳥帰る

後添えの肌の白さや初紅葉

三十

落葉焚く庭に子犬の墓のあり

芋入れて柿の葉のオーブンたき火かな

火種なきたき火の山に竹ぼうき

夕方の煙りのにほひ釜の飯

紅葉のあんばい見たし雨のあと

足湯ある駅に紅葉の山迫る

金魚にはダイエットして秋肥える

蕪の葉と皮と柚子塩唐辛子

箸入れる間合い恥ずかし鍋デート

何もかも鮟鱇鍋の情けかな

三十一

湯豆腐の三つ葉の如き女かな

音もなく冷気を切りし二日月

鮟鱇を吊るすつもりか冬の月

カレー味流れる路地の寒椿

春菊の胡麻和え少し芋焼酎

味気なき窓辺や冬の鳥過ぎる

木の葉半分落として立てるプラタナス

枯れ枝に残りし木の葉何守る

暖冬や戯れの恋撓みたり

雪割れていのちの場所に火のともる

三十二

手探りでみつけし場所や雪匂う

小寒や柔らかきところばかりをさぐりたり

愛宕より吹雪逆光に見る正月

落柿舎に粉雪かかる墓参り

木の形雪で固まる愛宕峰

小雨さえ雪に変えたる愛宕かな

水仙の黄色き碗に触れし雪

太郎次郎屋根に降り積む雪重し

山茶花の残りし花に散りし花

柚子ジャムをつくりし母の独り言

三十三

チョコレイト融ける間に咲く梅の花

菊の花千羽鶴満たして閉めし棺桶の子

百合の香の強きに咽せし親が喪主

棺桶を花で満たして孫と親

冬の朝飛行機雲の遠く消え

暖かき日もあり窓を開け放つ

焼香の煙り悔しき喪主は父

声ひそめ我慢の顏に春日和

啼き方をおぼえてうれし谷間かな

おぼつかな飛んで初音の小川べり

三十四

金魚三匹氷りをとかす冬の朝

脈々と胸打つ鳥に産毛かな

夕方の日射しの強き春を待つ

飯蛸の米アルデンテ潮かな

飯蛸の足のみ好み五十過ぎ

飯蛸の言いなりになる娘かな

春浅きスタン・ゲッツの夕べかな

春はまた別れの季節泪かな

足を打つ水とんろりと蛸の海

遮断機の音遠ざかる春の宵

三十五

揺りかごの並びし鉄路たんぽぽの畦

日々の泡鉄路の上に沿いし石

葉ごぼうの白き羽毛に春の月

満月に寄り添う星や白き肌

踏切を渡ってゆくや春霞

洋花のにほひたつ夜や春あかり

壁の影しゃが咲く庭に風おこる

爪切りし指ひろげ見る辛夷に頃

アネモネの口ごもりする恋もあり

ひとり身を慰める気のフリージア

三十六

蛍烏賊大物もいるグラス越し

初夏の海赤子の指のつかむもの

綾取りの指のかたちに初夏の恋

五月風ウェスモンゴメリーの指太し

指離す死はまた隣同士かな

脳みそをひっぱるような初夏の山

宝くじ買って連休終わりけり

墓石なき木柱だけの篠原の里

田の土へ帰るつもりか木柱の墓

田植えして雨待つ空のつばめかな


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