A/D変換


さてさて昨今はやりのディジタル技術ですが、アナログ信号をどうやって ディジタル信号にするのか。ここでは、訳の分からない数式なしで直感的 に説明したいと思います。

A/D変換(アナログ→ディジタル)ではアナログ信号(時間的に連続)を とびとびのディジタル信号(これを離散値という)にするために次の2つの ことを行います。つまり時間的な離散とその時間における値の離散を行います。

まず、サンプリング。これはある時間間隔(通常は一定の同じ間隔)おきに その時間におけるアナログ信号の値をとることです。時間間隔をどれだけ小 さくとるか、つまり1秒間に何回値をとるか(サンプルするか)というのが サンプリング周波数です。例えば電話の音声のサンプリングは8[kHz]です。 これはつまり、1秒間に8,000回サンプルしているということです。 CDのサンプル周波数は44.1[kHz]。つまり、1秒間に44,100回も サンプルしているのです。単純に考えてもサンプリング周波数が高い方が、 より正確にアナログ信号をディジタル化しているのがわかると思います。 事実、電話の音声よりもCDの音の方がいいのはご存じの通り。
しかし直感的に考えても、いくら早くサンプルしてもとびとびの値では 厳密に考えると元のアナログ信号には戻せないように思えます。 ところが数学上ではある周波数以上でサンプルすると完全に元のアナログ信号 に戻せるということが証明できます。簡単にいうと、アナログ信号の含む 最大周波数の2倍の周波数以上でサンプリングすると、完全に元のアナログ信号 に戻せるのです。このことを標本化定理(sampling theory)といいます。
なんかとびとびの値から元のアナログ信号が寸分違わず復元できるというのは 不思議な感じですが数学的には可能なのです。数学的にというのを強調するのは 現実には不可能だからです。これを説明しだすと数学が絡んでくるので ややこしくなるのですが簡単にいうと、あるサンプリング周波数でディジタル化した 信号をアナログ信号に戻すともともとの周波数のアナログ信号とともに元のアナログ信号 の周波数にサンプリング周波数の整数倍だけ足した周波数を持つアナログ信号 もできるのです。簡単にいうと高周波成分が生まれるわけです。 そこでもとの周波数の信号だけ取り出すために特定の範囲の周波数だけを通すフィルター に通してやるわけなのですが、完全に特定の周波数だけを通すフィルターを数学上は 作れても現実には作れないのです。(もっと知りたい人はこの種の本を読んでください。)
まぁ、現実にはフィルターは作れないわけですが理想フィルターにかなり近いものは 工夫して作れるのでサンプリング定理は意味のあるものです。 ただもう一つ。元のアナログ信号がサンプリング周波数の1/2よりも高い周波数を 含んでいるとエリアジングが起こり元に戻したときに実際よりも低い周波数成分も 含まれてしまいます。これを防ぐために、サンプリングする前に高周波成分をカット します。CDもたしか20[kHz]以上の成分はカットしています。

このエリアジングは、おそらく経験したことのある人がたくさんいると思います。 例えば、高速で回転しているタイヤのホイールを見たときに、なんか実際よりゆっくり 回転してるように見えたり、時には逆回転してるように見えたりした経験はないでしょうか。 これがエリアジングです。人間の目もある意味サンプリングしているようなもので あまりにも早いものは見ることができません。例えばホイールのある部分を見て 次の瞬間その部分が時計回りに10度回転した場所に見えたとします。そして次の瞬間 その部分がさらに時計回りに10度回転した場所に見えたとします。 人間の目にはホイールが時計回りに回っているように見えますが、実際は人間に見える 瞬間と瞬間の間に時計回りに370度回転しているかもしれません。つまり、人が思って いる早さの2倍で回っているかもしれません。もしかすると瞬間と瞬間の間に 反時計回りに350度回転しているかもしれません。でも人間の目には時計回りに回って いるように見えます。
これがエリアジングです。実際の回転よりも遅い速さのものが人間の目に見える可能性が あるわけです。つまり、人間の目は自然に一番周波数の低いものを感じるわけです。 時計回りに10度回転しているように感じ、370度つまりもう1回転しているとは 感じないのです。反時計回りに350度回転しているとは感じないのです。 こういうことを考えると、目に見えるものが真実とは限らない!?

さて、時間的な離散の次はその時間における値の離散化、つまり量子化です。 標本化においてはある条件を満たせば理論的には元のアナログ信号の情報を 漏らすことなく完全にディジタル化することができましたが、アナログ 信号の情報を完全に失うことなく量子化することはできません。 つまり量子化レベルは多ければ多いほど元に戻したときにアナログ信号に より近づけることができます。(その分データ量も多くなりますが。) 例えば電話の音声は8bit量子化。 28=256段階に分けます。つまりある時間の値が256個の値の うちの一番近い値とされます。これによって生じる誤差を量子化誤差といいます。 ちなみにCDは16bit量子化で画像は8bit量子化。
量子化ステップをすべて同じにする方法を一様量子化といい、量子化ステップが 一定でないのを非線形量子化といいます。 電話の音声は非線形量子化です。電話の音声では頻繁に現れる小さな値の 量子化ステップを細かくし、値の大きな所では量子化ステップを荒くします。 こうすれば、頻繁に現れる値の量子化誤差を小さくできる上に、S/N比 (信号電力と雑音電力(ここでは主に量子化誤差によるノイズ)の比)を一様にできます。 つまり、信号電力が小さいところでは雑音電力も小さくできるのです。 こうして、電話の音声はかなり効率よくPCM(pulse code modulation)化されます。
一方CDは一様量子化です。これは、楽器などの音は大きな音と小さな他の音が 混じり合っているために、大きな値で量子化を荒くしてしまうと大きな音に混じっている 小さな音が消されてしまうからです。このためCDでは電話の倍の16bit量子化で PCM化されているのです。

これがA/D変換の原理です。元のアナログ信号と異なる形にしてまでも ディジタル化する理由はディジタルは高品質??? に書いたとおりです。
ちなみに、CDは標本化、量子化共に行っていますが、LDは標本化のみ行っています。 つまり量子化は行われておらず、ある時間における値はアナログ量で記録されています。 つまり、CDのピットはすべて同じ大きさの穴で、あるかないかで判断されていますが、 LDのピットはそれぞれ大きさが違い、穴の大きさである時間におけるアナログ量の値 を読みとっています。

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N.Wakayama update November.17.1997