ディジタルは高品質???


最近のディジタル技術の発達にともないいろんなものがディジタル化されています。 レコードからCDに。カセットテープがMDに。携帯電話もディジタル。衛星放送もディジタル。 ビデオカメラもディジタル。ヨーロッパではFM放送がディジタル化されます。 これらは高品質をうたい文句に売り出され、マルチメディアの波に乗って急速に広まりました。 一般の人たちもディジタルは高品質と思いこんでいます。果たしてそれは本当なのか??

ディジタルの世界がこれほどまで広がったのは何故か。ディジタル情報はパソコンで扱えるから。 ディジタル情報は圧縮できるから。もちろんこれらのこともあります。
しかしもともとディジタルはノイズの除去が行いやすいということで使われ始めました。 なぜノイズが除去しやすいのか。大気中に電波をとばしても銅線や光ファイバーで信号を送っても 信号はだんだん減衰してしまいます。そこで中継器をおいて増幅して再び信号を送り出すことに よって信号を遠くまで送ります。ところが様々な要因によって信号にはノイズが入ります。 そして中継器での増幅で、信号だけでなく余分なノイズも同じように増幅されてしまいます。 このノイズを取り除くのはとてもやっかいです。
ところがディジタル信号はノイズの除去が簡単です。ディジタル信号はその名の通り0と1で 表されています。例えば、信号の0を1[V]に、1を5[V]として信号を送るとします。 中継器にたどり着く頃にはノイズが入って2[V]や4.8[V]とかになっているかもしれません。 でも、例えば3[V]を基準にそれより下の電圧なら信号0にそれより上の電圧なら信号1として やり、再び送り出せばノイズを除去したことになります。このようにディジタル信号は アナログ信号に比べてノイズの除去が簡単でゆえに高品質といわれるのです。

このようにディジタル信号はノイズ除去が容易に行えるという利点があります。 しかし、あまりにもノイズが大きいと0として送った信号が1として受け取られるかもしれません。 このようなことを防ぐために、ディジタル信号では誤り訂正符号というものも付けられます。 これは例えば、1という信号を送る場合に111と送ります。途中での何らかの原因によって 受信側で011という信号が受け取られたとしても受信側では「1が2つと0が1つだから たぶん1という信号を送ったんだろう。」と信号の誤り訂正を行うことができます。
上記の例でも分かるように一般に誤り訂正符号を付けると、信頼性は高くなりますが 情報量が多くなってしまいます。ここの冗長をどれだけとるかは用途によって選択します。 CDが実現した背景には非常に効率のよい誤り訂正信号が作られたことが大きかったといわれています。 もしCDのディジタル信号に誤り訂正符号が付けられていないと、使いものにならないくらい 信号の誤りが発生するそうです。これら信号の符号化や誤り訂正についての詳しいことは 情報理論の本を参照してください。

さて、ここまで述べてきたようにノイズ除去、誤り訂正などを見るとディジタルは高品質です。 例えば、アナログの携帯電話では電波の状態が悪くなればなるほどノイズが入り音声が悪くなります。 ところがディジタルの携帯電話では電波の状態が少々悪くてもクリアな音声が聞こえます。 ただ、ディジタル携帯電話の場合、誤り訂正の能力以上のノイズ(信号の誤り)が発生したとたん 通話できなくなります。しかし逆に言えば、能力ぎりぎりまではノイズを除去しクリアに音声を再現 してくれるわけです。

ところが、私たち人間が五感で感じているものはアナログ信号です。 例えば、声にしろ楽器の音にしろアナログ信号です。 例えばピアノの音(アナログ信号)をディジタル信号にしたとします。 では、このディジタル信号は本当のピアノ音なのか? つまり、このディジタル信号をアナログ信号に戻した音は本当のピアノの音なのか? 答えはNO。これについての詳しいことは次のA/D変換 のところで説明しますが、厳密には違います。ただ、人間の耳には分からないほどの違いなのです。 このように人間の五感がある程度いい加減な部分を持っているのでいったんディジタル信号化されても あたかも元の信号と同じように感じられるのです。

また一般にアナログ信号よりもディジタル信号の方が同じ情報を表すのに情報量が多く必要です。 これは信号の符号化を効率よく行ってさらに信号を圧縮することによって少なくします。 ところがこの圧縮というものがくせ者です。つまり、人間に分からないだろうと思われる部分を 省くのです。例えばCDではある周波数以上の音をすべてカットします。 また話題のDVDでは1秒間30カットのうち15カットをそのまま記録して 残りの15カットは前のカットと比べて人間の目で見て違いが分かる部分の情報だけ記録します。

このようにディジタルというのはある意味で高品質ですが、元のものとそっくりという意味ではない のです。う〜ん、なんかわかりにくい説明になっちゃったなぁ。 つまり、ディジタルというのはノイズ除去、信号再生時の誤り訂正ということにおいては高品質なのですが アナログ信号のディジタル化、信号の圧縮ということにおいては人間のいい加減な五感を利用して 元のものと違うものを元のものと同じようにみせているのです。

ともかくディジタル全盛の現在ですが、その昔、通信の世界はディジタル全盛でした。 古くは狼煙(のろし)から始まり、電信もはじめはモールス信号、つまりディジタルだったのです。 初めてアナログ通信が始まったのはベルが電話を発明してからです。 文字も一種のディジタルです。つまり記号を使って連続的な声を記しています。 アナログで記録されるようになったのはエジソンが蓄音機を発明してからです。 (絵というのはアナログかな〜)
アナログの機械は基本的に構造が簡単で、コストが少なくてすみます。 なんといっても人間はアナログです。1か0か、YESかNOかのどちらでもないことはこの世の中にたくさんあります。 時代はよく繰り返されるといいますが、もしかすると再びアナログ全盛の時代が来るかもしれません。

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N.Wakayama update November.17.1997