カナディアンロッキーへツアー(二)

上西 耕三

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 夕方、私達はバンフの町を後にして、専用車でレイクルイズのホテルにやってきた。このホテルは、各部屋にキッチンから調理用の食器類などがそろっている。部屋の間取りも広く、5〜6人が楽に宿泊できる収容能力がある。 私達はこのホテルに3泊して、カナディアンロッキーの観光スポットをトレッキングする予定である。私にとって、天誅殺(てんちゅうさつ)というべき最悪の日になったのが、初日のビクトリア氷河へのトレッキングであった。時差による弊害が昨夜どっと出て、体はつかれているのに神経がさえ、朝方ちょっと眠った程度の最悪のコンディションでの出発となったからである。

 私達はレイクルイーズ(ルイーズ湖)の湖畔を左手に取りながら、ゆっくり歩き始めた。湖の色は、光や場所によって微妙に変わる。私達はゆっくりしたペースで唐松林の坂を登っていく。森の香りとひんやりした空気は、睡眠不足の私には気持ちよかった。森林限界を超え、一気に視界が開けると、巨大なビクトリア湖が目の前に姿を振り返れば、小さくなったルイーズ湖が美しかった。下山頃になると、私の体調もかなり良くなり、ホテルに帰えればすっかり良くなっていた。

 夕食後、ツアーリーダーを部屋に迎え、3人でワインを飲みながらの四方山話である。中でもツアーリーダーの大自然に生きる動物(特に熊)に対する思い入れと情熱は、いろんな雑誌に熊の写真を掲載しているプロカメラマンの真髄を垣間(かいま)観た思いだった。

 翌日、私達はカナディアンロッキーの湖を代表するモレーン湖へ。静かな湖面に映るテンピークス(10の山々)の鋭鋒群の絶景はすばらしく、カナダ20ドル紙幣の裏面のデザインになっているのもうなずけた。湖畔からのジグザグ道の坂道をゆっくり登り始めた。私達がこれから向かうコースは、昨日まで熊の出没で閉鎖されていたとのことで、ラッキーであった。約2時間半ほどで景色が開け、残雪の残る草原大地のラーテバリーについた。テンピークスの立体感のある雄大な風景を見ることができるのは、トレッキングをした人達だけが許される神様からのごほうびだろう。私達は時間にとらわれなく、のんびりとカナダの大自然を満喫したのである。

 下山後、ホテルに帰り夕食後、再びツアーリーダーを迎え、3人でワインでの酒盛りである。酔いが回るにつれ、Oさんが南米パタゴニアの自然を、目を輝かせながら離し始めた。ツアーリーダーも一人で旅した各国の話をするものだから、私は「海外で一人旅をしたいけど、治安が悪いし・・・」と言ったら、ツアーリーダーが「大丈夫です。だって自分が本当に生きたいところに行って、死んでもいいじゃないですか!!」とあっさり言う。私はポカーンと口をあけたまま「そうやなぁ」とうなずきながら「そうや。やりたいことやって、死んでもええやん。」という言葉が、すんなりこころに入ってきた。このとき、私の心の奥に眠っていた冒険心が目覚めたのである。ワインの酔いもあるけれど、私でも異国を一人旅できそうな気持ちになってくる。

 ツアーリーダーが「もっと飲みましょう」とグラスにワインをつぐ。私は、ワインを飲みながらワインボトルを見ていたら異国の町を一人旅している私の姿がボンヤリ浮かんできた。

・・・続く・・・


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