『イリーガル・エイリアン』
ロバート・J・ソウヤー
内田昌之訳
ハヤカワ文庫SF
 やや時期を逸した感もあるが、SF専門媒体ではない本紙だからこそ、ロバート・J・ソウヤーの新刊にはなんとしても触れておかねばならない。『イリーガル・エイリアン』(内田昌之訳/ハヤカワ文庫SF/九四○円)である。異星人とのファースト・コンタクトSFであると同時に法廷ミステリでもあるという、人を食った異色の作品だ。アルファケンタウリから地球にやってきた異形の種属〈トソク族〉と、人類は平和裡に最初の接触を果たす。トソク族を歓待する地球人だったが、ある日、彼らと最初に接触した天文学者が、異星人の滞在施設で惨殺死体となって発見された。しかも、死体の一部が持ち去られている。なんと、警察は異星人の一人を逮捕、コンタクトにも関わった米大統領科学顧問は、マイノリティーの味方として鳴らす腕利き黒人弁護士にエイリアンの弁護を依頼する――。呑気に裁判をしている場合か、と思うけれども、大真面目で進行する法廷ドラマは、コミカルな不条理感と痛烈な風刺で飽きさせない。これ一冊で《スター・トレック》と『未知との遭遇』と『羊たちの沈黙』と『十二人の怒れる男』が楽しめてしまう。一歩誤れば寒いたわごとになりかねないところを、絶妙の綱渡りで幅広い読者層に受け容れられ得る娯楽作に仕上げている。それでいて、SFとしてもミステリとしても恥じない屋台骨が通っているのは、さすがソウヤーだ。四割を打つ内野安打の職人と言えよう。

『ロミオとロミオは永遠に』
恩田陸
ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
 恩田陸『ロミオとロミオは永遠に』(ハヤカワSFシリーズ Jコレクション/一八○○円)は、いまの日本でこそ読むべき作品。汚染された地球の後始末に日本人だけが居残らされている近未来、最高学府という名の強制収容所「大東京学園」の卒業総代がエリートへの切符である。そこに、未来の見えない閉塞状況からの“大脱走”を企てる少年たちがいた――。サブカルチャーへのオマージュが横溢する狂おしく猥雑な二○世紀総括であり、愛憎相半ばする日本人論でもある。

[週刊読書人・2002年12月6日号]

(C)冬樹蛉



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