『秘密が見える目の少女』
リーネ・コーバベル
木村由利子訳
早川書房《ハリネズミの本箱》
 日本SFで最も人気のある精神感応能力者【ルビ:テレパス】といえば、筒井康隆が生んだ火田七瀬(『家族八景』ほかに登場)だろう。七瀬がひとりの男の心中を次々と言葉にしてゆき、その精神を圧殺する鬼気迫る場面は忘れ難い。文学装置としてかくも魅力的な精神感応能力は、おおかたヴァリエーションが出尽くしたかと思っていたのだが、どっこい甘かった。リーネ・コーバベル『秘密が見える目の少女』(木村由利子訳/早川書房《ハリネズミの本箱》/一五○○円)の主人公は、〈恥あらわし〉という特殊能力者の少女だ。〈恥あらわし〉と目を合わせると、心の奥に押しやっている己の恥にまつわる情景が次々と生々しく再現され、それを〈恥あらわし〉にも知られてしまうのである。母親からその能力を受け継いだ少女ディナは、村では家族以外に目を合わせてくれる者もいない孤独に、能力をうとましく思っていた。ある夜ディナの母は、判事の要請で〈恥あらわし〉として嘘発見器のような仕事をするため遠方の町へと急遽出立するが、翌日になっても帰らない。ディナを〈恥あらわし〉の娘と知って迎えにきた男に連れられ母を追った彼女は、やがて領主一家惨殺事件の陰に渦巻くお家騒動の謀略に巻き込まれてゆく――。作者は、本書が日本初の紹介となるデンマークの女性作家。これは児童書なのだが、大人が読んでも(いやむしろ、大人が読むと)たいへん重い物語だ。日本の子供たちのために喜びたい良書である。

『帝国海軍ガルダ島狩竜隊 Lost World in Garda Island』
林譲治
学研《ウルフ・ノベルス》
 林譲治『帝国海軍ガルダ島狩竜隊』(学研 ウルフ・ノベルス/八○○円)は、一見陳腐で“ベタ”な設定の中に、確かな科学的考察と日本人組織への眼が練り込まれたハリウッド的上方漫才風本格駄法螺ハードSF。第二次大戦末期、ガルダ島で自給自足の生活を余儀なくされた日本の海軍設営隊が、トリケラトプスやティラノサウルスが闊歩する別世界への穴を発見し、恐竜を食糧として狩る羽目になる。楽しさ爆裂、肩の力が脱けていながら屋台骨は堅固な異色作だ。

[週刊読書人・2003年3月7日号]

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