『神は沈黙せず』
山本弘
角川書店
 SF作家なるものは、なんらかの形で一度は神と対決しなくてはならない。対峙するのではなく、対決するのである。神を演じる者あれば、神を殺す者あり、はたまた神を造る者すらある。山本弘の『神は沈黙せず』(角川書店/一九○○円)は、“神SF”にユニークな足跡を記した力作だ。幼いころに両親を土砂崩れで失ったフリーライターの和久優歌は神を信じない人間だが、潜入取材をしていたカルト教団から脱出した折に、空から大量のボルトが降ってくるという超常現象を体験してしまう。人工知能の研究者となっている優香の兄・良輔も、あろうことかアダムスキー型のUFOを目撃したと優歌に打ち明けてきた。超常現象の報告が世界中で急増しはじめる。あくまでも科学者としての思考を貫く良輔は、超常現象を合理的に説明する大胆な仮説にたどり着く。そのときすでに、以前から和久兄妹に接近していたカリスマ作家・加古沢黎は、人類の運命をも左右する計画を進めていた――。作品の幹を成すアイディアは古典的なもので、現代科学の知見を巧みに援用して読ませるが、作者はそれを以て驚かせようとしているわけではない。徹底的な懐疑主義・合理主義の立場から「神様はいました」と展開する意外性が、逆説的に凡百の似非宗教をはるかにしのぐ深い精神性に通じてゆく点こそ、読みどころなのだ。信じたいものを信じる人間の性を嗤う「と学会」会長の面目躍如たる“敬虔な懐疑主義”への讃歌である。

『火星ダーク・バラード』
上田早夕里
角川春樹事務所
 上田早夕里『火星ダーク・バラード』(角川春樹事務所/一八○○円)は、第四回小松左京賞受賞作。火星治安管理局員の水島烈と、極秘計画によって造り出された新人類“プログレッシヴ”の少女アデリーンが、政府機関を向こうにまわして自由のために闘う姿を描く。スピード感溢れる展開ながら上滑りではなく、“種”と“個”を同時に捉えるSFの眼がしっかりと作品を支えている。

[週刊読書人・2003年12月12日号]

(C)冬樹蛉



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