料理

家内の元気な内は何一つ料理をした経験は無かったのですが、家内のアルツハイマー病が進行して家事が出来なくなってからは、娘が1週間のうち二晩は来てくれ、その日の夕食を始め次にくるまでのおかずを作って冷蔵庫に入れていってくれますので、大抵それで間に合います。どうしてもこれなくてわたし自身が作ることもありますが、その時は結局その日自分が食べたいと思うものを作っています。もう15年余り経験しています。その日に食べたいなあと思うものを献立しますと、満足感が得られます。いくらおいしいものでも、自分の気持ちがそれを求めていないとおいしくありません。自分で調理能力を持つことは、その点でも自由裁量出来るということです。さて、そろそろ推奨しても良いと思う製品がひとつあります。近頃は持病の糖尿病の病状からタンパク質の摂取を控えていますのでやめていますが、永年わたしが愛用した三田屋のハムです。これは品質がとても良く、脂肪が少ない良い肉を使っていて、しかも添加物が少なく、品質がほぼ一定しています。ドレッシングも愛用しましたが、しつこくなくてあっさりしています。注意したいのは、三田屋にも三田屋総本家もあれば三田屋本店もあります。ご兄弟の店ですが、それぞれ品物は全く別です。私の勧めるのは三田屋「廣岡揮八郎のハム」です。健康上の理由で最近は控えていますがチーズも好きです以前はロックフォールで手に入るいろいろのチーズをつかっていました。六フォールの業態が変わったので近頃は日本マイセラ株式会社のオンラインショップを利用しています。最近では朝は五枚切りの食パン一枚の半分にはマーガリンを残りの半分にはブルーベリージャムを塗って食べています。
最近見付けたこれはというものがあります。わたしもお酒が好きで「からすみ」が好きです。しかし「からすみ」は高価で簡単に口に出来ないのですが、海翁才で扱っている「からすみ」は結構いけます。お勧めです。

以前は家内が病気になったらどうしようと恐怖ものでしたが、勤務先を辞めた時に同僚の方から, ベターホーム社から出版されている”お料理一年生”を贈られ、イカやアジの調理をこの本で学びました。同社から出版されている”野菜料理”を始めとする実用料理シリーズの本を一番よく利用しますが、NHKのテキスト”今日の料理”、インターネット上の大阪ガスのボブとアンジーもよく利用します。中でもベターホーム社の本は製本がしっかりしていることと、内容的にも材料がごく普通にスーパーあたりで手に入る物を使いながら、できあがりはどれも満足できる点でお勧めします。最近ベターホーム社はインターネットでこのレシピを利用できるようにしてくれました。これは本当に感謝しています。必要に応じてその都度印刷して使い、終われば捨てます。自分の口に合う、また塩・砂糖や添加物を控えめにしたものを作れますし、費用も出来たものを買うのに比べると、大げさに言えば十分の一。それに退屈したときに調理をしますと、例えば天ぷらの泡の出方の変化を観察していますと余念のはいる余地が無く、楽しいのです。実験と違って出来たものを食べる楽しみもあり、いい加減にするか心を込めてするかで出来たものの味が応えてくれます。後でと思わないで、例えば牛乳瓶も洗えば直ぐに1本でも表の牛乳箱に戻すというように、こまめに家の中を動きますと歩き回る歩行量も相当なものです。炊事をする日とそうでない日とではお腹の空き具合が違います。

お正月には重箱詰めも買いますが、ごまめ、叩きゴボウ、数の子、黒豆、「ぼうだら」など私も作ります。「ぼうだらとえび芋」を炊き合わせるときはアク取りを丹念にすると味が良くなります(この京都の家庭料理をメインにして営業しているのが丸山公園の平野屋本家“いもぼう”です。)また、特にごまめ作りは本当に面白いと思います。厚めの浅い鍋で炒ることからして面白いのです。炒り足らないとごまめがカリッとしませんし、炒りすぎると色が悪くなり、苦みが出ます。その辺の呼吸が息をつかせぬものなのです。その後の砂糖・醤油・酢の煮詰め具合、酒を振るタイミング、すべて面白くて歳末が来るのが楽しみです。鷹の爪の代わりに芥子の実を振るのは、孫がまだ鷹の爪はいやがるからです。買ってきた重箱の中味よりも私の作ったごまめが、どんどんなくなっていくのを見ていると、よしよし今年もうまくできたのだなと満足感に浸れるのです。ともかく調理のタイミングの面白さは、本職であった薬品合成の面白さと共通したものがあります。ご参考までにわたしの正月準備スケヂュールとお正月レシピを紹介しておきます。

和風の料理を作るとき一番大事なのは良いだしを使うことだと思います。昆布も料理の性質に応じて選ぶべきなのでしょうが、素人の私はいつも羅臼の惣万水産から買った煮ダシ用羅臼昆布とたっぷり使った花カツオを愛用しています。1リットルほど作って残りは2リットルのポリ瓶に移して、2,3日冷蔵庫で保管しながら使います。なお、出しを使ったあとのポリ瓶は、すぐに濯いでから水を口まで一杯充たしておきます。こうすると空き瓶の中が腐敗することはありません。一般に洗面所のコップなどでもいつも底に少し水を入れておくと底にカビが生えません。カビが生えるためには空気と水分が必要ですが、このようにすると空気が不足するからです。
味を良くする上でもう一つ大事なことはたとえレシピに書いてなくても、牛肉・鶏肉の炊き込む料理では、浮いてくるアクを丹念にとることだと思います。出来上がりがあっさりしてきます。これに関連してステーキは油とバターで焼いてから、必ずこの油を捨ててからブランデイを掛け、火を入れてバッと燃やすのがおいしくするこつです。

調理のコツは材料を選び、手順を考えて、ガスコンロを遊ばせないで二台ともフル運転するように心がけます。ガスコンロだけではありません。何か進行中に手が空けばその時何が出来るかを考えます。同じ時間を2倍に使うのです。また、出来るだけ片づけが終わってから次の操作に入るようにして、調理が終わったときには片づけも終了しているようにすることです。これは何も難しいことではありません。先に片付けてから、新しい仕事に移ればよいのです。驚くほど単純でしょう。流しに汚れた茶碗を置いたままで別の洗い物などしますと、万一今洗っているものを落とした場合、下の茶碗まで割ってしまいます。それに流しを広く使えません。先に汚れたものを洗ってから次の仕事に移ることを原則にしますと、絶対に散らかりませんし、終わったときには片づけも終わっています。流しはそんなに広くなくてよいのです。ここに書いたようにすれば、流しも広く使えて、結果的には能率よく炊事をすることができます。このようなことは実験を指導していたときにいつも学生に言っていたことですが、調理と化学実験の要領は全く同じです。もう一ついつも学生に言っていたのは“一つ新しい器具を出したら、何か二つ片づけるものが無いか考えよう”ということでした。これで必ず不要なものは自然に片づいていくのです。わたしの本領は有機化学反応機構の研究でしたが、そのためにはいろいろの薬品合成が必要でした。合成の過程では全く気が許せません。調理も同じです。フライパンで鶏の鍋照りをするときでも、火の調節が大事です。15分に亘って焦げ付かないように火を通しますが、こういうときは他のことで気を取られてはなりません。またその間のフライパンの中の変化を見ているのが面白いのです。注意を集中しますから他のことを考えず、無心になってストレスの解消にもなるのです。

洗い物のコツは、出来るだけ容れ物についた食べ物が乾いてしまわない内に洗うことです。乾くと強く容れ物にこびり付きます。洗う前には大変だと思うのですが、乾いてしまわない内に洗うと案外簡単に汚れが落ちてそんなに時間は掛からないものです。洗うというよりは磨く気持ちが良いようです。
私は本職の仕事中、硝子製の器具をよく使っていました。家庭でもワイングラスなどは薄手のガラスでできています。ガラスは思いがけないときに割れることがあり、鋭く手を切ってしまいます。素手でガラスのフチを洗うのは大変危険です。必ずスポンジか布で洗うようにしたいものです。

買い物のところにも書いたことですが、少々高くても満足して使えるものは、ありがたいものです。調理に使う包丁、鍋類などもよいものを使います。私は小学校の時に工作の時間に大工道具一式を買わされました。当時、材木に鉋掛けしてから糸鋸でくり抜きもして、本立てなどもかなり手の込んだ作品を作らされたものです。この時に先生は、鑿や鉋の刃の研ぎ方も教えて下さいました。そのときから今日まで、家の包丁も自分で研ぎます。よい包丁はやはり使っている鋼が違い、切ったときの感触が違います。良い鋼でないと何度も研いで使えません。砥石も上等の天然ものは一丁何万円もしますが、実用的には粗砥と仕上げ砥の二種を張り合わせた合成砥石で結構よく研げます。

ガスレンジの点火がうまく行かないとか、焔の色が黄色いとか、あるいは炎の大きさの調整がうまくいかないときも、新しい物を買い換える必要は必ずしもありません。手入れをまず試みましょう。電池が減っていないか(交換)、中央のバーナーに錆が付いていないかをまず点検、掃除をしてみられてはいかがでしょう。調理中の煮こぼれでバーナーも長く使っていると錆が出るのです。周りや溝の錆で空気の供給が充分に出来なくなっていることが多いのです。私は錆はこそげたり時には布やすりで削り、古い歯ブラシで清掃します。たいてい元通りになります。
それでも最近、とうとうガスレンジが駄目になりました。大阪ガスのホームページにはテーブルガスコンロがいろいろ出ていて、それぞれの特徴・性能が書いてあります。私のところは炊飯は電気釜を使っていますから、レンジに炊飯機能の付いたものはいりません。火力の強いチャオコンロにも4500kcalと4000kcalがあり、コンロも2300kcalもあれば2150kcalもあります。チャオコンロの位置も左右どちらでも選べます。それぞれの家庭に応じた機種を自分で選び、その上で注文したいものです。

下ろし金も私は銅製で錫をメッキしたものを使っています。重みがあり、全体が大振りで大根や長イモを実に気持ちよく下ろせるので、下ろすのが楽しくなります。7,000円ほどして高いようですが、一生道具です。すり下ろしたものが下ろし金の刃の目の間にこびりついて取れにくいので、すり下ろし後、暫く水に浸けておいて刷毛で軽く掃除します。 ヘンケルスのキッチン鋏(5,733円)も長年使っていますが、固いものはもちろん、薄いフイルム類でも刃に反りが入っているのでスカッと切れ気持ちの良いものです。先に書いた“厚めの浅い鍋”(37,000円)はアメリカ製のビタ・クラフトの一つですが、カレイなどの煮魚によく、ごまめを煎るによく、ピラフを作るときにお米を焦がさずに、じっくり透明になるまで煎るのにも適しています。これらも一生道具。イタリアのラゴスチナ社の鍋も良くできていて、これで出しを取って瓶に移すときも出しが鍋の縁から尻洩れすることがありません。残念ながら日本製には尻洩れする物があり安心して使えません。ラゴスチナの深鍋もカレーやシチュウ、ポトフの調理には愛用しています。深いだけに水分の蒸発が抑えられるのがよろしい。 何でもステンレスのお鍋が良いというのではありません。ステンレスは熱の伝導が銅に比べて劣り、鍋の温度むらが起こりがちです。ビタクラフトなどの製品が高価なのはステンレスの間にアルミなど熱伝導性の良い金属をサンドウイッチ状に挟み込んであるからです。また、お米を研ぐのには摩擦の点でごく普通のアルミやステンレスのお鍋がよろしい。この頃の炊飯器の鍋はチタン塗装がしてあって,しかもお米も研いでもかまわないというのですが、滑りが良すぎて研ぎにくいですね。

まな板ではダイキョウ製の抗菌まな板“パルト”はおすすめの品です。素材はブタジエン系合成ゴムとプラスチックスをブレンドしたものです。刃当たりもよく耐久性抗菌性ともよろしい。値段は少し高い(18,000円)ですが、買ってよかったと思っています。料理番組を見ていて時たま専門の料理人の方で、上から叩くような包丁の使い方をしている方がありますが、おかしいと思っています。中学時代の剣道の時間に先生は刀は引かないと切れないとよく言われたものでしたが、包丁も私の経験では同じことです。叩くように使わないで、引くか前の方に差す(動かす)ように使いましょう。よく切れます。

出しを取ったあと昆布を引き上げるのに重宝しているのは200円くらいですが金属製の先にギザギザの付いた挟み、昆布はヌルヌルして引き上げにくいものですが、簡単にひきあげられ、あとは削りかつを節を放り込んで一煮立ちです。この挟みはこのようにヌルヌルするものを引き上げるのにいろいろな場合に役立ちます。

要領の悪い学生は、実験をしてもいまやっていることにのめり込んで待ち時間があっても他のことをしようと考えず、あるいは、遊びに行ったりするものですが、同じ時間を二重に使うことを考えたいものです。一つのことを進行させておきながら、同時に他のことも進行させるのです。「二兎を追うものは一兎をも得ず」という有名なことわざがありますが、良く計画されたスケジュール構成では「二兎を追って二兎を得る」ものです。これで能率が格段に変わります。実験と家事には共通点が多いのですが、こういう家事進行に欠かせないのが。スーパーなどで売っているキッチンタイマーで、で、常時利用しています。例えば焙じ茶を準備するときに、薬缶に水を入れて7分をセットしてガスコンロにかけ、茶の間でお茶をお茶バッグに入れて待ち、タイマーが鳴ったら、沸騰しているので台所に行って沸騰している薬缶に放り込みます。またレシピに「30分煮込む」とあればタイマーを25分にセットして、別の調理を進め、25分後タイマーが鳴れば一度煮込みの様子を点検して焦げ付かさないよう臨機応変の対応をします。ベターホームで取り扱っているタイマーもお勧めです。


エアコンを付け替える機会に、三相交流を導入しました。これによって200ボルトで動く機種を設置したのですが、もう一つのもくろみは将来耄碌してガスを使うのが消し忘れなどで怪しくなったとき、200ボルトで動く電磁調理器を必要とするかも知れないので、その準備の意味も兼ねています。

料理の能力を持つことは、特に老後、男の独自生活にとって重要な要素だと思っています。

食器洗いで心したいことがあります。繰り返しになりますがそれは心の持ち方として洗うと言うよりも、磨くという気持ちで洗うということが大事だと言うことです。話が変わりますが、最近訪れてきた人からアクリル毛糸製のたわしをいただきました。もうご存じかと思いますが、油汚れした食器もスポンジでサッと洗ってから、このたわしでこすって仕上げるとすべすべに仕上がります。寝る前に普通の石けんで洗っておくと効能は変わりません。合成洗剤を使わないので環境にやさしいといえます。炊事を始めた頃は、皿や入れ物をきれいにするために神経質に何にでも台所用洗剤をジャンジャン使ったのですが、私の指の指紋が無くなるほどになってしまいました。アクリルたわしの使用を始めてからは洗剤は滅多に使いませんので、いったん消えた指紋の回復を期待しましたが、だめでした。私の勤めていた女子大でも調理実習の時“米を洗う”というと洗剤を入れて洗う学生がいるご時世です。洗剤依存から脱却しなければ危険です。
コップ洗いにもアクリル毛糸を使ったものが市販されるようになりました。快調です。

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最後に私のお気に入りの料理を2つ書いておきます、どちらも簡単に作れ、しかも美味しいです。先ず初めはスープです。このスープは熊谷喜八・河田吉功共著SOUP・SOUP・SOUP(柴田書店)(1994年)を参照し、誰にも出来てしかも味もまずまずというレベルのものにしたことを申し添えます。

1.

     [材料](2人分)	
       卵 1個      キャベツ 適宜   干しエビ  適宜
                                          (少量の水に浸しておく)
    ザーサイ 小瓶1/2 (50g) 水 450ml ごま油小さじ1/2
    こしょう 少々   オリーブ油 大さじ2 酒 大さじ1 [調理] @鍋にオリーブ油を入れ加熱。溶きほぐした卵を入れ、しばらくし
    てヘラで二つに分ける。それぞれを丸くまとめてから両面を色
    づく程度に焼く。     Aちぎったキャベツを一度に覆うように入れる。  Bザーサイ、干しエビを戻し汁と共に加え、水500mlと酒も加える。
C鍋に蓋をしてキャベツが柔らかくなるまで煮る。     D味を見て好みで塩・こしょうで調味し、最後にごま油を入れる。

二つ目は炒め物です。こちらは味付けにポルトガル産のマディラワインを使うのがミソです。マディラワインは750ml入りの特殊なデザインの瓶が酒屋に頼めば簡単に手に入ります。

2.

     [材料](1人分)	
       タマネギ大  半分     レタスあるいはキャベツ 適宜 
       油 大さじ2   マディラワイン 大さじ3 [調理] @フライパンに油を入れ加熱。櫛形に薄切りしたタマネギを入れ、ほぐして炒め      る。
レタスあるいはキャベツをちぎって加え一緒に炒め、蓋をして弱火で4分      放置。
    Aマディラワインを覆うように加える。かき混ぜ2分放置。できあがり。
ソースなどは掛けない  
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