空(クウ)

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空(クウ)の話に入る前に、少し宇宙の話をしましょう。夜空に輝く星も京都のような都会ではよほど明るい星でないと見られなくなってきました。たまに山や田園で夜を迎えると、いまさらながら満天の星という言葉が蘇ってきます。ときには俗世を離れて宇宙に思いを馳せるのも悪くないでしょう。

"宇宙誕生100万分の1秒後の謎”(2007) 延輿秀人著              
                                               実業之日本社
 "宇宙は何でできているか"(2010)        村山 斉著
                       幻冬舎新書
は読みやすく且つ良い参考になりました。延輿さんは独立行政法人理化学研究所の主任研究員・BNL研究所副センター長、村山さんは東京大学数物連携宇宙研究機構の初代機構長です。

現代でも、宇宙は遥かな過去から現在に至るまで変化がなく、神が6,000年前に造られたままと考えるキリスト教の一派もあるということです。宇宙については分らないことが多いのですが、それでも現在の宇宙について米航空宇宙局(NASA)の研究グループは 、最も年老いているとみられる星々の探査機WMAPによる観測結果から、宇宙の年齢を137億歳と割り出しています。2003年のことでした。2010年ジョンズ・ホプキンス大学の天体物理学者チャールズ・ベネット氏は7年間のWMAPデータを分析した結果、宇宙の年齢は137億5000万年という結論を出しています。 この記事も参照してください。

ベルギーのカトリック司祭ジョルジュ・ルメートル(Georges-Henri Lemaitre, 1894.7.17 - 1966.6.20)は宇宙物理学者でもありました。彼はアインシュタインの一般相対性理論に基づいて1927年から1933年にかけて'hypothesis of the primeval atom'(原始的原子の仮説)を発表しました。神の作った原始的原子が膨張して現在の宇宙になったというもので、今日、彼はビッグバンモデルの創始者と見なされています。アインシュタイン自身はこの説を否定していました。この説が見直されたのは1929年ハッブルが、遠方の銀河の星が放つ光は、同じ物質がこの地球の実験室内で放つ光よりも、長い波長をもっていることを発見したからです。これはドップラー効果によるものでその銀河が、より地球から遠くへ離れる方向に移動している、つまり宇宙は膨脹していることを意味すると解釈されたのです。この解釈は、時間を逆に辿ると宇宙はかって一つの点のような存在であり、それがある時点で爆発的に膨脹を始めたということになります。現在宇宙を探索しているハッブル望遠鏡というのは、このハッブルを記念して名付けられたものです。

この考えを正しいものとする、もう一つの根拠は、1965年にペンジャスとウイルソン(A.Penzias & R.Wilson)が電波望遠鏡の調整中に、宇宙のどの方向からも一様な強度のマイクロ波(背景輻射)がきているのを観測した事です。これは現在の宇宙が宇宙爆発の余熱をいまなお保ち、その温度は現在絶対温度2.7度(私たちが普通使っている摂氏温度でいうと273.15度が絶対温度の零度です)であることを示すと解釈されました。またマイクロ波の特徴から、初期の宇宙の支配的な現象は輻射であったことも明らかになりました。この宇宙爆発はビッグバンといわれます。「ビッグバン」という用語は宇宙背景放射の存在を予言し、またあの『不思議の国のトムキンス』など物理の啓蒙書を著した物理学者ガモフ(George Gamow)が使った言葉のようです。現在、金融ビッグバンといわれるのは、金融の革命的変革をこの現象になぞらえたものです。

ウクライナ生まれで現在アメリカにいるビレンキン(Alexander Vilenkin)は無からの宇宙生成を唱えました。物質も空間も時間も全くない「無(nothing)」からです。この無の状態にも揺らぎがあり、揺らぎの一瞬生まれた小さなエネルギ−(真空エネルギー)の固まりがインフレーションによって急激に成長したというのです。インフレーションという用語は経済の「インフレーション」にアイデアを借りて用いられています。この原始宇宙には現在の宇宙のすべてのエネルギーが凝結していたのです。その後の宇宙の成長すべてを行うことが出来た「無」なのですから、私は「無」と云うよりは「空(くう)」と呼ぶべきものであったと思います。

現在私たちのまわりにあるいろいろな物質は、陽子と中性子でできた原子核を電子が取巻いた原子でできていることは広く知られていますが、この原子も宇宙の当初から存在していたものではありません。当初の温度は1億度の一億倍のそのまた1億倍の1億倍以上という途方もない高温でした。敢えていうならば、物質も時間も空間も存在しない、まさに「空」の微小宇宙だったのでしょう。この空は揺れを行っており、正の真空エネルギーがたまたま生まれたのちインフレーション現象によって急速に宇宙を膨張させていきました。

インフレーションの進行中、10のマイナス36乗(1/1,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000)秒後にはクオークやレプトン(電子、ニュートリノ)が生まれ、10のマイナス11乗秒後にはゲージ粒子(光子、グルーオン、グラビトン(重力を媒介:未発見)など)が生まれました。このとき光も誕生したわけで、まさに始めに「光ありき」(旧約聖書 創世記)でした。こうして宇宙は素粒子論の専門学者の考察の枠内に入ってきたのでした。インフレーションの進行で宇宙内部の密度や温度が下がり状況の変化を呼び起こしました。

誕生後10のマイナス6乗秒つまり100万分の1秒後(温度5兆度)の状況は、アメリカブルックヘブン国立研究所(Brookhaven National Laboratory)の「RHIC(リック)加速器」を使った金の原子核を使った実験を根拠に推定されています。この環境では後にクオークとクオークを結びつけるグルーオンという素粒子もそれぞれ自由で互いに多少動きに制約を及ぼしながらもまだ自由に飛び回っていました。グルーオンはゲージ粒子の1種ですが、仲間には光子もあり、レプトンに属する電子やニュートリノも互いに制約しながら自由に飛び回っていました。光の粒子である光子もこの宇宙の中に閉じこめられた状態で満ちあふれていました。

10のマイナス4乗秒つまり1万分の1秒後には温度は約1兆度となり、グルーオンはクオークを3個集めて陽子と中性子となり、2個集めて中間子となりました。クオークとグルーオンは結合して自由を失いましたが、電子や光子はまだ自由でした。

  ビッグバン開始後1秒経った温度100億度の宇宙では、光の海にニュ−トリノ、電子、陽電子および陽子と中性子がそれぞればらばらに運動していました。

現在の宇宙を構成する物質の素材は驚くべきことに、その98パ−セントは爆発後一秒も経たないうちに生れたもので、残りの2パ−セントが137億年間の進化の間にできたものだそうです。

180秒(3分)後になりますと温度は10億度に下がり、陽子と中性子の結合が起りだし、重水素、ヘリウムの原子核が誕生しました。このとき宇宙の全質量の27パ−セントがヘリウムとなり、73パ−セントは陽子のまま残りました。陽子というのは見方を変えればふつうの水素原子の原子核ですが、これに中性子1個が結合した重水素核となったのはわずか1,000分の2パ−セントで、ヘリウム原子核にさらに1個陽子の結合したリチウム核となったのはさらにごく少量でした。現在の宇宙のどこを調べても、ヘリウムは22〜25パ−セント普遍的に存在していますから、宇宙の創生期にできたヘリウムはほぼそのまま残っていると思われます。ヘリウム4(陽子2個+中性子2個で原子核が出来ている)は大変安定です。その他の元素の合成のために備わっていなければならない密度や温度の条件が現れてもビッグバン後の急激な膨張で、その条件を長く保つことが出来ず、急速に条件が変化したために、その他の元素は実際上誕生できなかったのです。炭素、窒素、酸素など単純な元素でさえ、後でお話するように比較的現在に近いある時期、宇宙のいろいろなスポットで局所的に発生した合成に必要かつ十分な条件の下で少量作られたものと考えられています。「宇宙背景輻射」のマイクロ波が宇宙のどの方向から来るものも一様だからと言うので、局所的な不均一の存在に疑問が持たれたこともありましたが、1989年アメリカの人工衛星COBE( コービ)が「宇宙背景輻射」に0.001%のゆらぎがあることを観測したので局所的不均一があることがわかり解決しました。

長い時間、宇宙は輻射期にあり、光子も電子も輻射エネルギーの影響のもとで宇宙の中を自由に飛び回っていましたが、原子核誕生から38万年の時間が経過して宇宙の温度が6,000度程度に下がると、電子は核の回りに安定に捕獲され、原子が生まれました。こうして宇宙はプラズマ状態からいわば晴れた状態になり、光子の運動は電子に妨げられることがなくなってより自由になり、もはや光子を宇宙に閉じこめておくことが出来なくなりました。この自由になった光を現在観測しますとドップラー効果で波長が長く観測され電磁波として認識されます。これが先にお話しした「宇宙背景輻射」のマイクロ波で現在は温度も下がって絶対温度2.7度になっているのです。宇宙は光を失って暗黒の世界となり晴れた状態出現当時の温度は3,000度でした。原子核と電子の間の力は電磁気力ですが、生じた安定な原子の運動は重力の影響下に移りました。

次は核融合の段階です。これまでから星の誕生は『スターバースト銀河(爆発的星形成銀河)』で行われたとと考えられてきました。この『スターバースト銀河』は最近の「アルマ」電波望遠鏡による研究では従来の見解よりも10億年古く、ビッグバーンの20億年後頃に出現したと言います。この望遠鏡では水の分子も観測されています。水素が重力によって集合して星を作り、われわれの太陽にみられるように、その中で水素を融合させてヘリウムを作ります。星の中心核が十分に熱せられると三つのヘリウム核がさらに融合し、炭素がつくられていきます。中心部の水素燃料が尽きてしまうと、星は重力のために収縮して、ますます熱くなり、太陽の十倍以上の星では次第に重い原子が合成されて、ついにはすべての原子核の中で最も安定な鉄を作ります。しかし、それ以上のもっと重い元素を作るためのエネルギ−はもはや融合反応からは得られません。内部エネルギ−が乏しくなった星は自分を支えられず、重力によって収縮し、ついには崩壊してしまいます。これが超新星爆発といわれるもので、この過程でさらに複雑な反応が起こって重い元素が作られていきます。同時に星の中心部では陽子の中性子への変換が起こってニュートリノを放出し中性子星が誕生します。大きな星の場合にはさらに収縮が起こって中心部の密度は1立方センチメートル当たり約10億トンにもなり、強力な重力はついにはすべてを呑み込むブラックホールになってしまします。WMAPの観測結果から通常の物質やエネルギーは宇宙の4%にすぎず、残りは正体不明の「ダークエネルギー」「ダークマター」として存在すると云われます。

  超新星爆発とともに放出された物質は新しい星の原料として、小さな塵の粒子か固体粒子に凝縮して、星と星との間を漂い、銀河の平面を回る大きなガス雲の成分になります。46億年前、ある雲の一部が壊れ、新しく円盤状に渦巻く間に、その中心部にわれわれの原始太陽が生れ、その重力の影響で中央面上に集まった塵粒子は、互いに衝突して大きな粒はますます大きくなり、地球をはじめ惑星が誕生しました。揮発性の物質は太陽から遠いところで凝縮して木星のように主に水素とヘリウムからなる外惑星となり、内側の惑星は重い溶けにくい粒を取入れて成立しました。そうはいっても我が地球は太陽に対しなんと絶妙の場所に位置しているのでしょう!地球には誕生後、後年「いのちの星」に進化する恵まれた条件がたまたま与えられていたのです。

  地球上での生物の誕生は今から約38億年前(バクテリア化石:西オーストラリア ノースポールで発見)と推定され、生物に有害な紫外線の届かない海の中でのことでした。光と水と二酸化炭素だけで生存できる自律栄養型の微生物(紅色細菌・緑色硫黄細菌・緑色非硫黄細菌・ヘリオバクテリア)が発生し、その後今から30億年前には、もともとは地球になかった酸素を排泄物として放出するラン藻に進化したといいます。この酸素が大気中に蓄積されるにつれて(参考:2009年3月に発刊されたNature Geosienceの論文では34億6000万年前には既に海中に相当量の酸素が存在したとされています。この説が正しければラン藻の出現はさらに遡ることになるかも知れません)、オゾン層の大気高層部での生成がおこり、生物にとって有害な紫外線が遮断されるようになりました(世界的な関心を集めているフロンによるオゾン層の破壊は陸上の生物にとって生存に関わる危機なのです)。26〜27億年前にはオゾン層に守られて、紫外線をストレートに受けなくなった陸上へ海中の生物が進出し、陸上での生物の繁殖が可能となりました。日経サイエンスには、約6億年前にいた左右対称動物ベルナニマルキュラの化石を中国で発見したと言う記事があります。 現在驚異的に4億年の生存を維持しているシーラカンスの仲間にも地上に進出したものがありました 。その後の進化の過程を経て、およそ17万1千500年前アフリカで遂に現在の人類の出現をみたといいます。エチオピアで1997年に発見された人の頭骨化石は現代人に属するホモ・サピエンス・イダルツの化石で地層の年代測定から約16万年前のものとされました。

先に記しました中性子星は電磁波を放出しながら自転しますので規則的に断続的な電磁波を地球で観測出来ます。この電磁波を「パルサー」といい、一時は地球以外の宇宙人からの信号ではないかと云われた時もありました。地球外の宇宙にも、人間のような高等生物がいる可能性は否定できないでしょうが、東海大の寿岳 潤教授は学術月報(43巻10号)で、M.ハートの説を紹介して、生物が発生し進化する惑星として、大きさが地球くらいで、原始地球と同じような大気組成を持ち、20億年以上水が表面に存在する等の条件が必要不可欠だとして、この太陽系で考えると、現在の太陽を中心に位置的には現在の地球の位置から数パーセント以内、質量は0.86倍から1.31倍の範囲しか許されないと書いておられます。また木村資生氏は岩波新書「生物進化を考える」の中で次のように言っておられます(同書281ページ)。

「筆者は銀河系の内に(地球以外にも)高度な文明を持つ世界が多数あるはずだという主張には大きな疑問を持っている。「適当な」物理的環境さえあれば30〜40億年のうちに生命が発生する確率や生命が生ずれば、それがヒトのような高度に知的な生物に進化する確率などが、かなり大きいという考えはほとんど根拠がないと思われる。(中略)筆者には、人間は宇宙における奇跡であり、非常な幸運の連続によってはじめて生じたと考える。(中略)したがって、銀河系の内で高度な知的生物は人類をおいて他にはないという主張のほうがはるかに理に適っているように思われる。」



最近2011年2月2日のNASAの発表ではケプラー宇宙望遠鏡は太陽系外に惑星と思わしき星が1235個あり、そのうち54個には水が存在する可能性があると言います。今の所銀河系外でも生命の存在は確かめられていないのです。

ここまで眺めてきた宇宙の歴史をもとにして、勝手な空想をここから先はお許し願いましょう。謡曲にはよく「受け難き人身を受け」という言葉が出てきます。また謡曲「安達原」には「ただこれ地水火風の仮りに暫くもまとはりて、生死に輪廻し」とあります。この場合地水火風というのは今日の元素に相当する概念ですから、確かに宇宙の長い歴史の間に生れた元素が、何らかの機縁でしばらくの間集まり、やがてはふたたび拡散して輪廻する存在が人間だと見ることができます。宇宙の年月の長さから見れば、人として生きる一生は誠に短いものです。しかしこの時間、人間としての存在を与えられたことは極めて稀れなことであり、生みの親である宇宙の秘密までも明らかにする程の能力が人間には与えられているのです。私達は命を大切にし、与えられた能力をいかに用いるか、よく考えたいものです。

かけがえのない私達の地球というスロ−ガンもよく目にするところですが、137億年の歴史の中で宇宙が産出したものとして、地球はその傑作であり、少なくとも今日までの宇宙探査結果では、これほど進化した形態の星、特に生物・人間を生存させている星は見出だされていないのです。宇宙のなかで今日、この宇宙でしたたる一滴のようなような小さな地球が享受し、保持している環境は他にはまったくないとは言えないまでも、おそらくたいへん希な環境なのでしょう。人間による地球環境の破壊は、宇宙の歴史の中の貴重な天然記念物の破壊であり、人間の滅亡も含めて取返しのつかない愚行というべきでしょう。

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先年鞍馬から貴船へハイクにでかけたとき、鞍馬の駅の売店をふと覗くと般若心経を染めあげた手拭を売っていました。鞍馬山の勤行は般若心経で始まるようですから頷けます。“般若”というのは、サンスクリット語の「パーニャ」の漢字による音訳当て字ですが、意味は絶対の真実を悟る智慧ということです。「観自在菩薩。行深般若波羅密多時。」で始まるこのお経は一般によく知られたお経で、観音の洞察によって明らかにされたというのですが、仏教の各宗派が合同で法要をするときなどにも使われています。かねがね円空、源空、空海など空という字が僧の名前に多くみられるのに関心を持っていましたが、このお経には「空」が説かれています。短いお経ですが魅力のあるもので、いわば仏教のエッセンスといえるでしょう。宇宙の元の状態は、我々の想像を絶するものですが、敢えて言うならば般若心経の説く「空」そのものでありましょう。この「空」からその後の宇宙の物体はすべて生れたのです。「空」は単なる「無」でなく、宇宙のありとあらゆるものを生み出す可能性を秘めたものであったのです。色(シキ)とはこの世の現象・事物を意味しますから、「空」を以上のように洞察しますと、「色不異空。空不異色。色即是空。空即是色」という言葉も理解できます。すべての現象・事物の本質を考察することによって空(クウ)の考えに辿り着き、すべては本来「空」から発したものであり、存在の縁起(原因と条件)によってさまざまの形態の色(シキ)となったと見ているのです。すべてのもとはクウと観じ、本質はクウと考えると何も新しく生じたものはなく「不生不滅」「不増不減」となります。この地球は「空」の偉大な潜在的可能性が、水素・ヘリウムやさらに複雑な元素を包含する無機界のみならず、他の星には見られない有機界・生物・人間にまで及んで発揮され、クウの秘められた能力を最大限に発揮し実証している貴重な証とも私は見ているのです。宗教家による般若心経の解釈には、やれ大乗の、小乗のと七めんどくさいものが多いのですが、私は素直に読めばよいと思っています。最後の「羯諦 羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶 般若心経」は文脈から見ると、「さあ般若心経をしっかり理解して正しい悟りの彼岸に辿り着こうよ」というのではないかと思っています。中村・紀野両先生の岩波文庫版般若心経の訳注にも、この部分は純粋なサンスクリットでないので、決定的な訳注は困難であると書かれています。私は仏教の根本思想は「空」だと考えています。

はじめに宇宙の成り立ちについて記しましたが、我々自身も宇宙の一つであり基本的には「空」の存在ですから、今見ている周囲の物事も「空」の有形化したものと観じるべきであり、日常の精神生活において物そのものや現象そのものに執着することは愚かなことではないでしょうか。これが般若心経の説く宗教的な意味でしょう。

十二代目市川団十郎さんの葬儀に際し、長男の市川海老蔵が団十郎さんがパソコンに残した辞世の句を披露しました。

                 「色は空 空は色との 時なき世へ」   
般若心経は、呪文のように唱えれば御利益があるというものでは無いのです。空念仏(からねんぶつ)という言葉もあります。唱えれば利益があるというものではありません。すべてお経は、内容を正しく把握し、意味を洞察することが必要なのでしょう。

空の思想こそ仏教の真髄だと考えています。仏教は弔いの宗教ではないのです。わたしの死生観を別に記しました。

に瓜生津隆眞先生「無我のこころ」に書いてある“空”の部分を記しておきます。

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