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いま考えていること 344(2008年11月)
――医療への注文――

私はこの2ヶ月、アーガメイトはを処方されています。これはこれまで血液中のカリウムイオンの濃度が5.5(正常値3.7〜5.0mEq/l)以下でしたが5.7になったためです。アーガメイトは一種のイオン交換樹脂成分をゼリー状にしたものですから、私の思うのにカリウムだけでなくいろいろの金属イオンも排出する可能性があり、たとえば最近味覚が変わってきたのも亜鉛イオンの排出が起こっているからかも知れません。確かに私は糖尿と老化のために腎臓の機能が低下し、腎機能の指標であるクレアチニンやBUN値の変化を調べると2002年から2003年にかけてクレアチニンは1.1〜1.34であったものが1.25〜1.40、BUNが21.3〜31.6であったものが35.5〜43.6に悪くなっています。カリウムイオンの値は3.9〜5.0であったのが5.3〜5.7になっています。この値が更に悪くなって7にもなると心臓の機能に異常を来すので医師はアーガメイトを処方されたのでしょう。問題は少しカリウムイオンの濃度が高くなったと言って薬を処方する姿勢です。検査結果を見てその数値変化からすぐに薬を処方するのなら素人の私でもできます。近頃の医師は検査結果の数値やコンピューターを見ながらそれから処置を出し患者の様子の観察や生活状況の把握をしようとする態度が昔の医師に比べて少なくなっているように思うのです。昔は医師といえば先ず脈をとり、聴診をしたものです。確かに検査を科学的に行いその結果を数値として得ることは、昔にはできなかった大きな医療の進歩だとは思うのですが、その数値だけに頼ってすぐに薬を処方するのはやはり邪道だと思います。これらの数値は診断根拠のすべてではなく資料の一部でありこの結果も勘案しながら個々の患者の生活状況、その他の医療的所見も含めて総合診断しなければならないのです。

私が医者でしたら、このように診断したいと思います。「腎機能は低下しているがこれまでの変化の状況を見ると致命的に悪くなっているわけではない。アーガメイトを処方するより先に患者の食べ物にカリウムイオン濃度の高いものがあれば、先ずその摂取を控えさせてしばらく変化を見、その結果次第でアーガメイトを使うことにしよう」。これまでも栄養指導を栄養士さんから受けてはいたのですが指摘されたのは「バナナはカリウムイオンの含有量が高いから控えなさい」ということだけでした。そこで私の食事内容で他に控えて見てはというものがないか日本食品標準成分表で調べてみました。私がこれまで毎夕食べている納豆(660mg/100g)、塩昆布(1800mg)、味付けのり(2700mg)、そらまめ(1100mg)、甘栗(560mg)時たま食べる好きな枝豆(490mg)、カボチャ(840mg)、ひじき(4400mg)等々食べる量にもよりますがカリウムの含有量の多いものがいろいろありました。わかめは乾燥後、水洗いしたものは(260mg) ですが、一般に豆類や海草類はカリウム含量が高いのです。しかし、これも毎日食べる「おきなわもずく」は7mgです。バナナは360mgですからそれほどでもなく、昼に食べるグレープフルーツは140mg、ヨーグルト170mg、レタス490mg、トマトジュース260mg、トマト210mgでした。レタスは湯がいていますから、かなりカリウムイオンは抜けているでしょう。

いろいろなものをバランス良く食べることは健康に必要ですが、病人の場合には控えなくてはならない食べ物が一部あるのです。私はこれからしばらく、カリウム含量の高い食品は控えてみます。

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いま考えていること 345(2008年11月)
――虚業からの脱出――

金融の危機で暗い話が多い世の中ですが、落ち着いて考えてみると良くないことばかりでもありません。日本でも吉兆のように事業の拡大ばかりを図って但馬牛でない物を但馬牛と偽って売り、利益を上げようとした事件がありましたが、その後も中国産のウナギを愛知産と偽るなどの偽装事件が後を絶ちません。現在の世界的な金融不安も実態と乖離したアメリカの証券化ビジネスがあり、サブプライム問題一つ考えても信用力の乏しい貧しい人の住宅資産を利用した虚業の崩壊でした。だいたい不動産がいつまでも値上がりを続けるなどは考えられないことですから、それを前提にした虚業はいずれ崩壊することは当然で、来るべきものが来たに過ぎません。このところ毎日世界的に暗い話が多く、私の保有株も1千万以上の含み損が出ていますから、貧乏人には手痛いことです。企業の実態をよそに社会的な不安から日経平均も下落の一途を辿っていますが、これも来るべきものを迎えていることの結果に過ぎません。そう考えるとアメリカ経済の偽装の姿が一挙に裸にされたという点では歓迎すべきものと考えます。
この結果新しく世界の経済が出直して行く出発点に今、立っているのです。どのような体制になるかは全く五里霧中ですが、今のところ世界中を見ても社会主義に未来を託す論調はほとんどなく、これからも資本主義経済としてこれまでの虚業経済から脱出していくのでしょう。そういう意味では私たちは千載一遇の経済の抜本的再建を眺める機会に臨んでいるのかも知れません。新しい経済体制がどのようになるか見てみたいと思っています。

最近は各方面で当然守らなければならないことを守らず、もっぱら儲けに走る業者の話題に事欠かない状態ですが、今の世界的危機も同様の態度がアメリカを始め世界的に瀰漫していたことを示しています。いたずらに当面の事態を乗り越えるために公的資金を投入して旧体制を維持するのではまた同じ過ちを繰り返すでしょう。一度徹底的にメスを入れて行き着くところまで行った方が良いのかも知れません。多くの人たちに基本的なものの考え方の点検を迫っているのならそれも良いことだと思います。

当面の失業者や企業倒産の増加で人々の被る悲劇にどう対応するかは、政治にあずかっている人たちの仕事で、適切な施策を望むのですが、敗戦を経験し、古い日本が徹底的に壊れていった時代を生き抜いた私には、心のどこかに「なるようになっても人間というものは生き抜いていく」という考えがあります。私も今日も夕方を迎えられるだろうかと言う不安の中で生きた経験を持ち、全国各地で空襲で住む家を失い、戦地に一家の大黒柱を駆り出されて最後には戦死という形でその貴重な人を失ってしまった人も数多くいました。その上で敗戦です。明日食べるものもない生活も経験しました。「どっこい生きている」と言う映画が登場したのもその時代でした。このような過去を振り返ると、これまでの偽りに溢れた経済が徹底的に崩壊し再生するのを歓迎する気持ちがあります。

身近には寒くなってきたので石油ストーブも使い出しましたが、配達で20リットル一缶の灯油が1,900円でした。昨年は1,850円だったと記憶しますのでそれほど高くなったという印象ではありません。2008年8月の原油相場1バレル145.18ドルも11月は63.91ドルに下がっています。またオーストラリアの鉄鉱石についても化学業界の話題によりますと、Mount Gibson Ironは粉状鉄鉱石は1トンあたり96ドルから40ドルに2008年11月には値下げしたと報じられています。今度の金融危機がなかったら原油も食糧も鉄鉱石もまだまだ高騰していたに違いありません。IMF一次産品価格データを見ますと小麦、トウモロコシ、大豆、米などの値段も指数で8〜9月には220位になっていたものが10月には140に下がっています。今後の推移はまだ分かりませんが、全般に価格の低下が見られます。基調としてのデフレが世界中でまだまだ続くのではないでしょうか。実体経済が悪くなって、失業が増え倒産が増えるのでバブルの時とは逆の心配をしなければならなくなっていますが、バブル経済はどうしてもある時点で崩壊を免れません。一方、鉄鋼の需要は今後の新興国の発展と共にますます増大し、日本の製鉄会社も輸出を伸ばすでしょう。原料である鉄鉱石の価格の安定は長い目で見てプラスです。化学会社も原料である原油の価格の低下はプラスに働きます。日本の場合まだ株式も各事業会社の資産・業績を土台にしており、金融ギャンブルで儲けようとした会社が少ないことが強みです。

次の経済システムは、環境問題も十分考慮した、いたずらに大きい経済を追求するものではない、まじめなあるべき姿を整えたシステム---自由放任の資本主義からルールによる歯止めの効いた資本主義に変わることを願います。

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いま考えていること 346(2008年11月)
――何を職業とするべきか――

森下洋子さんとのインタビューをテレビで見ました。彼女は3歳でバレリーナを志し、今日に至るまで57年間毎日厳しい練習を重ねておられます。激しい動きにもかかわらず食事も少なく、不規則ではありませんが普通の食事の取り方とは著しく変わっています。彼女の生活を考えると大変な生活で、バレーの精の生まれ変わりだからこそ出来ると言いたくなるような生活です。インタビューの中で最も印象に残ったのは彼女の目の美しさとこれまで一度もバレー以外の道を考えたことはなかったというお話でした。
宮崎駿監督の創作態度も超人的で彼の映画の登場人物、一羽のカモメの飛ぶ姿に至るまでおろそかにはされません。王監督の特集でも決して楽な道でなかったでしょうが、いつでも正面から困難にぶつかってあきらめることなく野球に没頭されてきたその人生の偉大さに打たれました。今年明らかになった偽装事件など人間に対する信頼を根本から揺るがせるような事柄も多かったのですが、他方に、森下さん、宮崎さん、王さんのような、人間の持つ可能性を開花された偉大な人たちが現在おられることに人間への信頼を回復することが出来ました。歴史を見ても立派な人々を見いだすのには事欠きません。

普通に考えればとても続けられないような困難に打ち勝ち、明るく自分の歩む道に満足して生きておられるこの人たちの原動力は何なのだろうと考えるとき、突き詰めたところこの人たちは自分の好きなことに身を任されているからだと思います。決してただ収入がよいからとか世間の名声を得られるからというのではないのです。天から与えられた好きなただ一つの道だったからこそどんな厳しい険しい道であっても、歩みを止めることはなかったのだとつくづく思いました。

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いま考えていること 347(2008年12月)
――赤十字に変革は期待できないのか――

お産をめぐって入院のたらい回しが頻繁で、適切な治療を受けられないで亡くなったという報道に接することも普通になってきました。現在医療体制全体が崩壊に瀕していて病院の医師の不足が大きな社会問題になってきています。救急病院に適切な人員配置が行われていなくて、医師の過労死さえ語られる現状があります。これは全ての人にとっていざというときの不安を招いていますから、厚生労働省が中心になって早急に解決されなければなりません。

こういう非常事態になっているのに、それを日本赤十字病院が救ったという記事に私はお目にかかったことがありません。赤十字は特殊な法人で、1952年に制定された日本赤十字社法で規定された認可法人だと言うことです。日本赤十字社も国際的な赤十字精神に沿って人道的任務を達成することになっていますが、戦前は日本赤十字社は宮内庁の管轄であり伝統的に皇室との繋がりが深く、現在も皇后が名誉総裁であり、各府県の支部長も多くはその府県の知事もしくは元知事です。現在もなお特殊な存在であり、毎年全国にわたって赤十字募金が展開され、その募金総額は馬鹿にならないものだと思われます。日本赤十字社定款を見てみますと、第六章業務及びその執行に赤十字の目的を達成するための業務が記されており、その第一項には戦時、事変における仕事が書かれており、第二項は非常災害時・伝染病流行時の救護、第三項に至ってやっと常時の社会奉仕のために必要な業務が顔を出します。献血運動などがその例なのでしょう。

定款を見る限りやはり赤十字は戦時の傷病者・捕虜の救済を主な目的としていることが分かります。ナイチンゲールから発する赤十字精神としてはそういうものかも知れません。私たちの募金もいざというときに備えての募金だろうと思います。赤十字の基本的性格から日常緊急に医療を必要とする時の活動は日赤病院の診療活動以外しないのでしょうが、戦時でなくても命の保全も出来ないのが現在の日本です。「今すぐに救いを求める命がある」のが現状であり、国家的意志で戦時には備えるが平常の救護活動にはあまり力を入れないと言うのではあまりにも現実からはずれた戦前のままの原始的赤十字です。いろいろの病院にたらい回しされるような緊急事態には、募金もしているのだからせめて赤十字病院ではというのが国民の願いではないでしょうか。もしそのためにはっきり使用目的を掲げて募金活動をいまより強化されることがあれば率先して私は募金に応じるでしょう。感覚的にも戦争放棄の憲法を持つ現在、戦時に備えての赤十字というのはピントきません。

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いま考えていること 348(2008年12月)
――わたしから見た今年――

◆今日も自動車を中心として生産削減のニュースが日本中を揺るがせています。自動車は総合技術の結晶ですから関連する多くの企業で失業が現れ、これからますます倒産問題も増えていくと思われます。白金も排気ガス関係で自動車の需要が減り、価格は高値の1/3になっていますし、おそらくの日立金属の株価の低下もハイブリッド車に必要な高性能磁石の需要が落ち込んだためと思われます。日本中が萎縮し消費も減退して、不況にさらに拍車がかかっている現状です。この事態を招いたのはやはりブッシュの下で推進された新自由主義というギャンブル資本主義で、ブッシュというのはイラク侵略といい、この事態といい最悪の政策遂行者として記憶されるでしょう。日本の政策当局者への不信も強くなっていますが、やはり元凶であるアメリカの誤った政策の結果を世界中が被っており、いまも圧倒的なアメリカ経済の回復がない限り世界中がその影響を受ける結果になっています。財政的に巨大な赤字に苦しむ日本ではとても抜本的なプランを持てる状況ではなく当面の困窮に何らかの手を打つ程度のことしか出来ないでしょう。

しかし、今日の現況を落ち込んだ大変だと見るか、これが正直なところ相応だと考えるかで受け取り方は違ってきます。戦後わたしが第三高等学校に通っていた昭和23年当時は京都市内に自家用車はなく、わずかに島津製作所の社長さんがGSバッテリーで駆動する、背の高い黒塗りの電気自動車を悠然と走らせていたものです。現在の京都は車があふれています。
ついこの間までマンションブームで次から次へと外資ファンドの資金を頼りに建設が進んでいました。外資の撤退で資金繰りができなくなり、建設業者の倒産が新聞でも見られるようになってきました。灯油も一時は一缶20リットルで配達料を入れると2,200円を超えたときもありましたが、いまは1,650円程度で配達してくれます。次第に平常に戻ってきているのではないでしょうか。原油価格も一時の140ドル/バレルから現在は40ドル程度ですから、価格改定されたガス・電気の料金も来年夏頃には安くなるでしょう。ついこの間までの勢いで価格が上昇したり、生産がどんどん増えていく方が異常であり、現在の停滞した状況がむしろ自然なのではないでしょうか。経済の規模が大きくなることが必ずしも生活の幸福・生活の充実を意味はしません。株式の値段も下がって含み損が大きくなっていますが、現状がむしろあるべき本来の姿なのだと考えられないこともありません。アメリカの威信が暴落したことも世界にとってもはやブッシュの唱えた先制攻撃をすることもできなくなり、アメリカ経済の異様な資本収支の黒字も過去のものとなりましょうから歓迎すべき現象です。生産の縮小もこれからの整備された新たな経済発展を招く日が必ず来るのは間違いありませんから、ここはまともな努力開始の始まりの時代でしょう。一つ気になるのは現在の各国政府の不況打開のための予算拡大・資金手当が将来のインフレの種を蒔いているとも見られることです。

◆わたしは糖尿病を宣告されてからもう30年以上も経ちます。これまでも相応の食事への配慮や毎日の運動(散歩)をしてきましたが、やはりあまり真剣でなかったように思います。かっての教え子で現在、医者をしている人がわたしのホームページを読んでアドバイスをしてくれ、自分でもことの重大さに改めて目覚めました。かかりつけの先生からもタンパクの抑制と血中カリウムイオン濃度の上昇の恐ろしさは指摘されていたのですが、それ程まじめに取り組んでいなかったのです。きっかけはカリウムイオン濃度を下げるア−ガメイトの投与を受けるようになってカリウムイオンの排出だけではなく摂取も制限しなければならないだろうと真剣に思った(いま考えていること 344(2008年11月)―医療への注文―)のがきっかけでした。健康な人には有用な海草類・野菜・果物・豆類ひいては納豆などがカリウムイオン濃度の高い人には有害で食べるのを制限しなくてはならないのです。またタンパクの取りすぎで腎臓の機能を弱めると終いには透析の必要がでますが、わたしのように家内の介護を仕事にしているものにとっては対応が困難で自ずとブレーキが掛かり、アドバイスに従って食事の形態や内容を革命的に改めタンパクの摂取を押さえているのです。

自分の体の現状を正しく把握して、病人は健康な人とは違う食事内容を設定しなければならないのだと思い知らされた今年でした。

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いま考えていること 349(2009年1月)
――私の年賀状――

人の世の営みには果てはありません。昨年も内外ともに大変な年でしたが、どこにも解決の決定打はありません。所詮「青い鳥」は見つけられず、各人が出来ることは身近なところですこしは良いようにと努めることかと思います。

昨年も体の故障には事欠きませんでしたが、この春には母の寿命の倍の八十歳を迎えることが出来ます。家内も大きな変化もなく一年を無事過ごせましたから、ありがたいことです。

仏の加護と多くの人たちのお力添えのお陰とただただ感謝するのみです。

皆様のご多幸を祈ります。

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いま考えていること 350(2009年1月)
――現状をどう考えるか――

いま世界中に不安と失望が満ちあふれています。わたし自身も所有する株式や外貨預金の恐ろしい減価に心穏やかではありません。

しかし見方によってはこんなにおもしろい時代はまさに100年に1度のことでしょう。なんと言ってもここ数十年続いてきた世の中のあり方が基本的に否定され、全く新しいあり方の追求が始まろうとしているのですから。それも何かサンプルがあったり、指導的な理論があって、その路線の上を辿ればよいと言うような時代ではなくて、まさに英知が試される時代になっているのです。現在の破局にあっても世論としては社会主義や共産主義を採用しようと言う動きは見られないようです。資本主義の枠内でこれからどのような経済システムが生まれ、どのように世の中の再建が進むか注意したいものです。一度このあたりでいままでのあり方を見直すことも良いのではないでしょうか。あのようなギャンブル経済が続いていくことの方が恐ろしい気がします。世の中不況で人々の苦しみも大きいのですが、やはりこれまでの我々の生活も贅沢でした。物質の豊かさが幸福に連ならないことも味わいました。わたしの経験でも、終戦直後の大きな経済の崩壊の中にあっても若さに溢れていた時代でしたからそれほど実感としては大変だとは思っていませんでした。未来への希望が大きくふくらんでいました。現状でも中国は年率9%というような成長率が予定されています。正直言って驚異的です。インド、ベトナムそのほかアジア諸国はいまは大変な障碍に直面していますが、いずれはかっての日本のように発展の時期を迎えるでしょう。人々が生き続ける限り経済的な余裕を求めるのは必然であり、我々の周囲だけを見て悲観の哲学を展開するのは誤りでしょう。むしろここで一度じっくりと在りようを考え、これまでのアメリカ流のあり方でない、新しい健全な資本主義の発展を計るべき時期なのでしょう。 

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いま考えていること 351(2009年02月)
――結果と原因―

非正規従業員の人員整理が問題になっています。もし私が当事者であったらと思うと、耐え難い苦痛を感じるのですが、このようなことが問題になるのは派遣の条件が緩和された時から予想出来たことで、結論的には今すぐ有効な対策は望むべくもありません。一部の政党からは、会社の剰余金や配当から派遣社員への給与に回せば解決するではないかと言う議論もありますが、会社の内部留保は現金として存在するのでもなく、将来に備えた研究開発や設備投資にも当てられているでしょうから、直ちに現金化出来るものでもありますまい。配当を削って給与に回すといっても、株主総会の議決が必要でしょうから簡単ではありませんし、現在の株主には当面の利益を追求する外人株主が存在していますから、これまた簡単ではありません。私の見るところ中国・ベトナムといった周辺諸国の給与が日本に比べると驚異的に低く、単純な作業の遂行にはこの労賃の安い国々に工場を動かすことで充分ですから、やはり日本の給与水準が高いところに問題があります。内需への依存を高めようと言っても、エネルギー・食糧に至る迄輸入に頼ることの大きいわが国ですからやはり輸出による外貨の獲得を無視するわけにはいかないでしょう。残念ながらアメリカの経済が立ち直って、輸出が回復しないと日本単独の努力でこの状態からの脱出は望むべくもありません。

今朝のビジネス展望は「外需依存経済の崩壊」でした。たとえばこの表題を見て「だから外需経済をやめなきゃ」と受け取っては駄目です。この外需経済の崩壊は今回の金融資本主義崩壊の結果なのです。現在の苦境の原因は日本の外需経済から発したものではなく、前ブッシュ政権の経済舵取りの誤りの結果であり、日本にとって外国への輸出のウエイトはこれからも大きいものになるでしょう。現在の状況はすべてこのアメリカの金融資本主義運営の失敗から起こっているのであり、その結果生じている事柄を見てあたかもそこに苦境の原因があるように思うことは誤りです。派遣労働しかり、外需の行き詰まりしかり、経済の不振しかりで、派遣労働・外需依存経済を全部否定することは出来ません。それは経済を否定出来ないのと同様です。

まだ回復の兆候は全く見えないようですが、既に回復への手探りは始まっているのです。これだけ消費がいじけてくるといずれは反動的に消費が拡大する時期が来るでしょう。新興国の成長への意欲は一度火がついた以上このままで収まるとは思えません。人々の努力の結果必ず経済は回復するでしょう。回復の時の来るまでむしろ基礎的な研究を高め、準備を進める態度が必要でしょう。焦っても仕方ありません。むやみと悲観的にならないことが大切でしょう。人様とは違う考え方、対処が将来を明るく切り開くのではないでしょうか。これからいろいろな施策が世界的に展開されるでしょうが、それらの施策は必ずしも経済学の教科書に沿ったものではないでしょう。

私は有機化学が専門ですが、有機化学の世界は自然の未知の現象に溢れています。有機化学を導くものはひねり回した理論ではなく自然そのものでした。私に出来ることはただ自然を謙虚に読み取り、そこに洞察を加えて(この段階では理論は有力な武器でした)一つ一つの現象に潜む真相を明らかにすることだけでした。おそらく経済の分野でもどこかに隠れた名案があるはずはなく、先ず今日の事態を謙虚に読み取りそこに洞察を加えて真相を明らかにする作業の中から解決への道筋が見えてくるのだと思います。この作業は既に始まっていますが実を結ぶのには早くて2年、かなり長い時間が必要だと思いますが、人類は必ず解決への具体的作戦を見いだすことでしょう。素人の私はもっぱら解決の日が来るのを気長に待つしかありません。モンテクリスト伯の「待て!而して希望せよ」の心境です。いつか気がつけば雲が晴れている日を必ず迎えるでしょう。
政治や国会には当面の被害を出来るだけ小さくする努力以上のものを期待してはいません。政府に財政出動を求める心情はよく判りますが、日本の抱える膨大な借金を考えると現在の日本の政治でなし得ることにそんなに大きな期待を寄せることは出来ないのです。国に予算を迫るのなら、とても小手先の不合理な面の是正だけでは追いつかず、たとえば消費税の国際的な水準までの引き上げといった基本的な財政収入の確保がないと福祉面でもその他の面でも施策の余裕は期待出来ないでしょう。

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いま考えていること 352(2009年02月)
――深く考えよう――

今朝のラジオ第一放送ビジネス展望は”不均衡な国家”についてのお話でした。要はこれまでの日本があまりにも外需に偏った経済だったので現在のGDP−12%と他国に見られない大幅な減速を経験しているのだという趣旨でした。それはそうでしょう。しかしもう一段深く考えなければならないのはなぜそのような日本にならざるを得なかったのか迄考えないと誤った認識になりかねません。

江戸時代を通じて日本の人口は3,100万〜3、300万だったといいます。それが明治になって開国し、貿易が進み、国の富国強兵策の中で急速に人口が増え、先の大戦中は「産めよ増やせよ」と戦力増強のために人口強化へとひた走ったのです。 1912年には5,000万になり、遂に1967年には1億人となりました。産業の発達した江戸時代でも鎖国下では約3,000万に止まっていなければならなかったというのは、日本の国勢ではこの程度の人間しか住めない資源しかなかったということでしょう。かっての戦争優先の「産めよ増やせよ」政策の結果が今、少子高齢化の日本を作り出しているのです。能力以上の人口を養っていくためには貿易で稼ぐか、戦争によって人間を消耗するしかなかったのです。これからも人口がせめて5,000万程度になるまでは外需を否定しては人口を保持していくことは出来ないでしょう。まるで内需だけで運営しようと言うような議論は総人口5000万時代までは待ってほしいと思います。日本自体がひずみを抱えて存在しているので、経済の構造もひずむと思うのです。日本の膨大な赤字に頬かぶりして、国に多額の支出を求めてもひずみをこれ以上に増す結果に陥るでしょう。勝手な時だけ外国をひきあいに出して外国並みを国に要求し、自分は消費税の低さに甘えるなどはつじつまが合いません。それは無理です。

世間で流布される経済評論家の底の浅い意見などに迷わされないで自分でより深く考えて真実を見ようと言うのが、今日の私の言いたいことでした。

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いま考えていること 353(2009年02月)
――オバマの演説――

インターネットのお陰で私たちはオバマ大統領の施政演説をユーチューブで見ることができます。何か仕掛けがあるのか知りませんが、画面で見る限りオバマ氏は原稿を読んでいる風ではなく、自分の言葉で堂々と初心を述べており、態度にも言葉にも自信が溢れています。格調の高さにおいても近頃の日本の国会中継では久しく見られない光景です。しかも自分たち民主党の功績を共和党と比べて誇ることもなく国民に責任を求め大統領が先頭に立って明日のアメリカを再生するのだと協力を求めているのです。

"手っ取り早く利益を手にするために規制は骨抜きにされ、健全な市場は失われた。銀行や金融会社は悪質なローンを押し通し、人々は買えるはずがないと分かっていながら住宅を購入した。重大な論議や難しい決定は先送りされてきた。

その総決算の日が来た。未来への責任を引き受ける時が来たのだ。"

これは演説の一節ですが現在の困難の原因を端的に表現しています。オバマは冷泉氏の言葉を借りると「党派的対立の品のなさ、和解の重要性、実務的な施政の大切さ」を説きました。異文化への受容がハリウッドにもアメリカ社会にもかなりできるようになってきたようです。このような変革が可能になったのならば、今日のリセッションも捨てたものではないと思います。演説の英文も読めるようにしておきます。

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いま考えていること 354(2009年03月)
――小沢氏の秘書――

Nikkei NetおよびNHKによりますと次の記事が見られます。

(Nikkei Net)「献金元は西松建設」、会社側が小沢氏秘書に伝達か  準大手ゼネコン西松建設が民主党の小沢一郎代表の資金管理団体「陸山会」に違法献金したとされる事件で、同社側が、小沢代表の公設第1秘書で陸山会会計責任者、大久保隆規容疑者(47)=政治資金規正法違反容疑で逮捕=に対し、2つの政治団体からと装った献金の実際の出し手が西松建設であると伝えていたことが4日、東京地検特捜部の調べで分かった。  特捜部は、政治団体を隠れみのにした迂回(うかい)献金であると大久保秘書が認識していたことを裏付けるとみて、献金の経緯について調べを進めている。小沢代表が違法献金を認識していたかどうかについても慎重に調べるもようだ。

(NHK)民主党の小沢代表の公設秘書が政治資金規正法違反の疑いで逮捕された事件で、逮捕された秘書は、西松建設側に政治献金を依頼したうえで、献金先の団体についても西松建設の本社と直接連絡を取り合って決めていた疑いがあることが関係者への取材でわかりました。東京地検特捜部は、秘書が西松建設からの違法な企業献金だと認識していたとみて、捜査を進めています。

今日の午前に民主党の幹部会議の後で小沢氏が記者会見し、今回の疑惑は全く事実無根で政府の陰謀だ、検察の横暴だと言わんばかりの弁明が見られました。確かに政治団体からの献金で、企業からの献金ではなかったのならば、小沢氏の言うことも正しいものでした。しかし上のように大久保秘書が明らかに企業の迂回献金、偽装献金だったと承知していたとすれば小沢氏の弁明は吹っ飛んでしまいます。この大久保秘書の認識の有無が今回の事件の決め手だと思います。

小沢氏はやはり古い自民党の体質をぬぐいきれない人だと思います。福田内閣時代の自民・民主大連合の画策も記憶に新しいところです。自民・公明の後を革新的な姿勢で国政をになう人ではありません。今回の事件ははしなくも小沢氏の体質を人々に知らしめたものでしょう。

私も現政権を支持をする気持ちはなく、かといってこのような始末では小沢氏への信頼の気持ちはいよいよ薄れ、民主党が仮に選挙で勝っても変革は期待出来ないという気持ちが強くなりました。もっともおそれるのは私はだいたい政治不信の気持ちが基本的に強いのですが、かっての戦前戦中の時代を振り返ると、国民にとって政治は大事なものだと言うことは痛感していますから、国民全体に現在の政党政治への信頼が失われて、国家社会主義のような独裁政治が現れる機運が、この不況の中で強くなれば元も子も無くなるという危惧を持たずにはおれません。

(追記3月24日)今日当の秘書大久保氏は起訴されました。その結果小沢氏はどうするのかと見ていましたが、「大久保秘書は実際には西松建設からの政治献金であることを知りながら、03〜06年分の陸山会の政治資金収支報告書に、同社OBが代表をしていた二つの政治団体から計2100万円の寄付を受けていたように装う虚偽の記載をしたとされる。」という嫌疑に対しては誤りだとして、民主党代表を続けることを明らかにしました。「民主党内部でも党内では逮捕容疑以外に新たな事実がなければ、代表続投を容認する声が大勢となっている。」といいますが、小沢氏の本質に対する国民の不信の眼はもはや小沢民主党へのバックアプを期待出来るものではないと思います。それどころかむしろ民主党に自ら疑念を払底する革新的能力はない物との厳しい見方が今後進むものと私は思います。

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いま考えていること 355(2009年03月)
――在宅介護への支援――

今日の毎日新聞朝刊「シリーズ介護 第2部」に秋田県上小阿仁村で介護保険法42条に基づいて「特例居宅介護サービス」による現金給与が始まったことを取り上げています。特例を使うには「離島などで介護サービスの確保が困難な地域」という大前提があります。同村は農水省の「山村振興地域」であることを根拠にしたのです。やみくもに現金給付するのではなく複数の制限を設けています。対象は要介護3〜5に絞り給付の上限額を各要介護度のサービス利用限度額の3分の1程度(要介護5=12万円、要介護4=10万円、要介護3=9万円)にとどめています。介護事業者のサービスを優先し、それでも上限額に達しない場合に現金支給しています。抜き打ち訪問を月3回程度行い、家族が適切に介護しているかチェックもします。現在同村では13世帯が対象になっているそうです。

いま考えていること41にかって私は在宅介護にも現金を支給するよう丹羽厚生大臣にメールを送ったことを書きましたが、私の家内も要介護度5で、私も老齢でいつこの世におさらばするかも知れない歳なので、2年ほど前に家内の介護施設への入所希望をケアマネジャーさんとも相談して出してあるのですが、未だになしのつぶてです。離島でなく京都市中でも実質は「離島などで介護サービスの確保が困難な地域」と変わらないのが実態です。毎日新聞を引用しましょう。

もともと介護保険導入の際に、家族への現金給付を設けるかどうかは論争になっていた。介護保険の本家、ドイツでは國が要介護者のいる家庭に現金給付していた。しかし、結局は「現金給付は家族を介護に縛る」との批判におされて現金給付が見送られた経緯がある。
ドイツ法の学者で渡独経験の多い小林宏晨村長は「家族を介護に縛り付けるのではなく、介護せざるを得ない家族の精神的、経済的負担を軽減したい」と説く。

介護保険に詳しい矢野聡・日本大教授(社会政策論) 在宅介護では、介護者とともに家族にもケアが必要だ。その認識や配慮が介護保険の制度設計に欠けている。
要介護度が重い場合、夜間や休日の介護、カテーテルが必要な人などの介護は、介護サービスの利用だけでは維持できない。今は会社を辞め、排泄物にまみれて懸命に在宅介護をしている人が評価されているとはいえない。その行為の価値を認め金額の多寡を問わず現金給付制度を導入すべきだろう。
上小阿仁村の取り組みは、画期的といえる。厚生労働省は例外扱いとしているが、他市区町村長が工夫し、広がることが望ましい。

当初は 介護保険を定着させるために国民に夢を持たせ(特別)養護老人ホームがどんどん建ち、要介護老人の施設への収容も不安がないという幻想を抱かせました。今日になって國の膨大な赤字財政、老人の急激な増加というように出発時とかなり異なった状況が日本社会には生まれてきています。こういう状況の変化に即応して在宅介護への支援も含めてもう一度介護保険制度全体を考え直すべき時ではないでしょうか。かくいう私(80歳)も家内の介護のために停年を2年後に残しながら、警察からのアドバイスで辞職を余儀なくされた一人です。

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grenz

いま考えていること 356(2009年04月)
――追加経済対策――

政府は今年度予算成立後まだ日も経たない昨10日、15.4兆円の追加経済対策を決定しました。この大規模な支出はこれまでの自民党政府がいつも行ってきた経済対策に準ずるもので、一見好ましいものとは見えないのですが、今回の経済対策は世界を覆う異常な金融・産業危機、失業に対する措置で、「子育て支援」を除いては一応賛意を表明しておきます。「子育て支援」はやはりこういう緊急支援措置とは異質なもので衆議院選挙を目前にした公明党の人気取り政策に他ならず、消費マインドを喚起する緊急対策と言いつくろっても本来正規の予算に組み込むべき性格のものだと思います。

金持ち優遇だとの批判や相続税に対する課税を更に課税すれば課税引き上げ前に生前贈与が増え、景気にプラスになるという発言もありますが、やや突飛な提言で、今直面している当面の難局を打開するためには、政府案もかなりの効果を示すでしょう。自動車・家電の購入補助を「エコポイント」で行うのは省エネにもプラスですし、地デジ対応テレビ購入への補助も時宜を得たものでしょう。住宅購入に対する相続税の軽減も、住宅建設の波及効果を考えれば道路建設促進よりはまともです。雇用、中小企業への資金繰り支援も喜ぶ人が多いでしょう。株価対策としての政府補償枠50兆円の設定も心理的に株価の支えとして有効と思います。株価の低落は年金資金の維持を初め銀行の自己資本比率にも甚大な影響を与えますから安心感を与える意味で歓迎します。

他方、このような膨大な資金の投入は国家の赤字財政をますます圧迫し将来に付けを回した点で大きな心配を残します。更に市中に出回る資金は将来のインフレの昂進を予想させます。しかし、今の時点では「子育て支援」を除いては、やはり必要なものだと私は思っています。

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grenz

いま考えていること 357(2009年05月)
――二世議員のこと――

議員の二世の選挙立候補を制限する動きが注目を集めています。選挙に立候補するにはお金もかかり、ことに衆議院選挙となると親の代からの選挙地盤は貴重であり、当選を保証することにもなりかねませんから、あの小泉さんでさえ息子に立候補させようとする動きがあるようです。しかし本来民主制度の下では誰でも立候補することができなくてはなりませんから、このような二世有利の状況を放置するままには行かないのでしょう。

しかし二世を閉め出すことはまた有能な二世の政界進出を妨げることにもなりかねず、現状、二世が多いからと言うのは決定的な理由にならないと思うのです。むしろ問われているのは有権者がこれまでの選挙で誰に投票してきたかが問われている気がします。二世の持つ金力や後援会の提供するサービス基盤の中に組み込まれて疑うこともなくその人達に票を投じてきた有権者の姿勢こそ問題だと思います。小選挙区ではことにこの選挙基盤は圧倒的な力を持ち、労せずして候補者の独占的な得票を保証します。これでは一般の有能な人の立候補は不可能です。

二世であれ本当に優秀で政治に貢献してくれるのならこのような二世締め出しの動きが出るはずはありません。二大政党が交代して政治をになう姿を追求して小選挙区に移行したのでしょうが、ここに立候補して来るひとの才能能力をチェックする仕組みが何もない現状が選挙基盤にあぐらをかいた詰まらぬ二世議員の誕生を許しているのでしょう。大統領の選出と次元は異なりますが、先般のアメリカ大統領選の息詰まるような戦いを知らされた経験から眺めると日本の議員選挙にはそうした緊張が見られません。オバマさんはその外交姿勢、核兵器に対する姿勢など依然として国民や世界中からの高い支持率を維持しているようですが、財布と地盤ではなくてその候補者の政治家としての素質、実績をえぐり出すような具体的な仕組みがほしいものです。そういう仕組みによる試練を乗り切ったのであれば、二世でも誰でも良いのではないでしょうか。

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grenz

いま考えていること 358(2009年05月)
――憲法第二十五条――

日本国憲法は3日、施行から62年を迎えました。自民、公明両党は休眠状態が続く衆参両院の憲法審査会始動を急ぎ、4月23日の衆院議院運営委員会に、委員数を50人とする案を提出しましたが、捩れ国会ではその実施は難しく、民主党は慎重姿勢を崩さず、共産、社民両党は審査会の設置自体に反対しています。

改憲派の主張には現憲法がアメリカから押し付けられたものだから日本人の手で憲法を制定しようという主張も強いのですが、今年の憲法記念日のいくつかの放映を見て、この憲法はアメリカ主導で定められたものではありましたが、アメリカのみならず過去の人間の知恵の集結であり、まさに世界に誇るべき憲法であるという気持ちを強くしました。それは憲法二十五条「生存権」の条項です。ここには「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」「2  国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と定められています。

この生存権保証の条項は、アメリカから示された憲法草案にはなくて、 1945年12月26日に発表された憲法研究会「憲法草案要綱」に見られます。憲法研究会のメンバーは高野岩三郎、馬場恒吾、杉森孝次郎、森戸辰男、岩淵辰雄、室伏高信、鈴木安蔵の諸氏で、草案の『国民権利義務』の規定の中に『一、国民ハ健康ニシテ文化的水準ノ生活ヲ営ム権利ヲ有ス』の文字が見られます。1921年のドイツ留学でワイマール憲法を学んだ森戸辰男の強い意志で憲法に取り入れられたものであることをテレビ番組から学ぶことができたのは私にとって大きな収穫でした。戦前森戸は新聞紙法第42条の朝憲紊乱罪により大内兵衛と共に起訴されその後有罪が確定。森戸と大内両名は東大助教授のポストを失い、森戸は巣鴨プリズンの独房で3ヶ月を過ごしています。ワイマール憲法は歴史で始めて憲法に国民の「社会権」を明記した憲法で森戸は日本国憲法にこれを取り入れようとしたのです。

現在世界的な不況の中にあり、ことに日本は多額の負債を抱え、小泉首相以来福祉抑圧の政治が展開されてきましたから、今後の改憲論争の中で「生活保護」の基礎となっているこの条項の廃止が改憲派を中心として現れてくることが予想されます。制定後久しく国民の間に「生活保護」を受けること自体を恥とする考えも見られましたが、この二十五条はどんなに国の財政が苦しくても人間としての生存権を守り、適切な処置を執ることを国に義務づけている画期的な憲法なのです。ヒューマニズムの根底から生まれてきた貴重な保証で現在の職を失う多くの人たちへの強い盾でもあります。第九条だけでなくこのような貴重な人類の成果を継承している憲法は是が非でも守らなくてはなりません。まさに世界の財産なのですから。

来るべき総選挙で改憲派に勝利させてはならないと思います。

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grenz

いま考えていること 359(2009年05月)
――これでは増税に賛成出来ない――

昨日東京都副知事の猪瀬直樹さんが「眼からウロコ」"突っ込みどころ満載、負担金の情報公開"をインターネットで公開されました。一読しましたが、国はこのような杜撰な笑止な内容で問答無用と地方負担金を請求し、地方もまた唯々諾々とこれまで負担してきたのですから、同罪で全くあきれ果てたものです。大阪府の橋下知事が狼煙を上げなければ今年も同様の国の支出請求と地方の分担負担が行われていたことでしょう。

いよいよ衆議院の選挙も目前に進んで来ています。民主党小沢さんのミスで急速に現内閣の支持率が回復してきており、鳩山・岡田のいずれが民主党党首になられても総選挙の行方は混沌としていますが、やはりこれまでの自民公明政権のあきれた実態というものがこの「眼からウロコ」でまた一つ明らかになりました。

現在の世界的な金融危機への対処でやはり赤字国債を組んでもやむを得ないかとも思い、この膨大な赤字を背負った国に福祉の充実を始め、いろいろ有用な政策の実施を要求することも無理だから、近い将来他の先進国並のレベルまで消費税の増税もやむを得ないのかも知れないと思っていたのですが、まだそれまでに整理して措かなくてはならないことがこの地方負担金請求だけでも見られるという印象です。もう絞るだけは絞って無理を省き、最後の手段として消費税増税でもしなければ政府も何も出来ないだろうと思っていたのは甘い私の考えでした。

私は民主党支持ではないのですが、ともかくあまりにも病膏肓に入って不治の状態にある自民・公明政権にはこの際引退してもらうことは是非必要だと思います。そうすればこれまでの政治からは到底期待出来ない新しいアイデアを新しい政権に期待することが出来そうです。

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grenz

いま考えていること 360(2009年06月)
――北の核開発――

北朝鮮が地下核爆発実験を実施したというので現在国連安保理でその制裁措置が熱く論じられています。現状日本中が北朝鮮反対の一色に彩られています。勿論私は北朝鮮のように独裁者がしかも世襲的にその権力を継承する体制はもっとも嫌いなので、究極的には独裁者の存在を許さないたとえば民主主義体制が北朝鮮に生まれない限りは根本的な解決はあり得ないと思っています。体制の変化があれば現在のような独裁者の意向に無条件に従う国際的に孤立した状況を打破しようとする動きが出てくることも期待出来、また実現可能になるからです。

北朝鮮のミサイルの強化とそれに搭載可能な原爆の出現はさしあたってわが国にとって非常に危険ですから反対ではあります。しかし、現在のように北朝鮮との国交を閉ざし、金融制裁を中心とする制裁の強化で事態を解決することができるのでしょうか?アメリカ始め強国が既に原爆や水爆を恐ろしい数保持し、強力なミサイルも持っています。これを放棄して軍縮しようという点については機運だけは少し芽生えていますが、現実にはなっておらず依然として強国の独占の体制にあるのみならず、他の国にはイランに見られるように平和的な核燃料の開発まで許さないというのはどう見ても勝手すぎる結論だと思うのです。

いずれは化石燃料は枯渇し、地上から消える運命にあります。太陽光・風力・波のような自然エネルギーですべて代替出来るのなら一番歓迎すべきことではありますが、その規模や安定な獲得が果たして可能なのでしょうか?質量をエネルギーに転換するという原理的に大きいエネルギーを生み出せる方法は広島・長崎の悲劇を伴って現実化したので、印象が悪く、また核分裂には制御出来ない半減期を持つ分裂物質の副生成を伴いその措置がまだ未解決ですから諸手をあげて歓迎は出来ません。しかし化石燃料に伴う温暖化ガスの発生もあり今現在地球に大きな危惧をもたらしている現状があり、化石燃料後の未来エネルギ−源として多少実験的な意味も含めて原子力の制御の経験をすべての人類は今から重ねなければなりません。この権利を持つことは北朝鮮であれイランであれ同様です。

問題はこの膨大なエネルギーを戦争に使うことの恐ろしさにあります。不幸にもわれわれは広島・長崎でその実際を経験しました。北朝鮮の恐ろしさは核科学の保持ではなく、それを戦争に使うかもしれないという点にあります。戦争を防止することこそ必要なので、北朝鮮やイランが核について研究を進め原子力発電をはじめ平和的な実践を進めることはむしろ奨励すべきものだと思うのです。戦争の防止は既に核を保有する国々に対しても常に要求しなければなりません。

必要なのは制裁ではなく外交手段を通じて北朝鮮はじめ各国との間で理知的に交渉し平和を確保することだと思うのです。北朝鮮の政治体制では 制裁の押しつけはむしろ相手を硬化させ、無謀な動きに走らせないとも限らないと思います。

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