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古代ギリシア案内

古代ギリシアの詩と音楽

古代ギリシアの詩





 「踊り、音楽および詩の三つの芸術は一つの芸術として出発したものである。その起源は集団の労働に従事する人体の律動的運動であった」――これが、ジョージ・トムソンの結論であった(『ギリシャ古代社会研究――先史時代のエーゲ海――』下、p.188)。
 この一つの芸術から、先ずは踊りが脱落し、次いで音楽が脱落して、詩が成立したと彼は言う。とはいえ、古代ギリシアにあっては、詩は音楽とつねに結合していた。もっとも美しい詩の中の多くのものは、音楽の伴奏で歌うために作られたものであった。

 古代ギリシアの詩が、音節を最小単位とすることは、英詩と軌を一にしている。しかし、古代ギリシア人は、音節の強弱ではなく、その長短に韻律(rhythmos)を見出していた点で、英詩とは大きく異なる。

 短い音節は(音楽でいえば)1/8音符に相当し、これを拍と呼ぶ。長い音節はその2倍すなわち1/4音符に相当する。そして、これら長短の組み合わせによって、次のような基本的な単位――これを脚(pous)という――を構成する。

1. 3拍(3/8拍子)
 トロカイオス脚   ―∪
 イアンボス脚    ∪―
 トリブラキュス脚  ∪∪∪

2. 4拍(4/8または2/4拍子)
 ダクテュロス脚   ―∪∪
 アナパイストス脚  ∪∪―
 スポンデイオス脚  ― ―

3. 5拍(5/8拍子)
 クレティコス脚〔amphimacros(「両端が長い」意)脚ともいう〕

 パイアン脚     ―∪―
  初めのパイアン脚   ―∪∪∪
  4拍目のパイアン脚  ∪∪∪―
 バッケイオス脚   ∪― ―
 逆バッケイオス脚  ― ―∪

4. 6拍(6/8ないし3/4拍子)
 イオニア脚
  長拍からの    ― ―∪∪
  短拍からの    ∪∪――
 コリアンボス脚   ―∪∪―
 メロッソス脚(稀) ― ― ―

 詩型は、以上の詩脚のいずれを採るかによって、それぞれトロカイオス調、ダクテュロス調、イアンボス調……などというふうに呼ばれる。さらに、詩の一行――これをstichosという――にいくつの詩脚が配置されるかによって、詩脚一つの詩をmonometros、二つをdimetros、三つをtrimetros、四つをtetrametros、五つをpentametros、六つをhexametros(六脚韻詩)というふうに呼ぶ。
 ただし、トロカイオス調・イアンボス調、アナパイストス調では、一対の詩脚――これをdipodiesという――を基本の単位とするから、monometrosは詩脚二つ、dimetrosは詩脚四つ……、tetrametrosは詩脚八つから構成されることになる。

1) トロカイオス調(―∪)
 この詩型では、詩脚二つで1小節を構成する。
 次に挙げるのは、dimetrosの例である。
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   ― ∪ ― ∪ I ― ∪ ― ∪
   ― ∪ ―*>I ― ∪ ― ∪
  こいつが毎年春んなるとね
  芽を出して告げ口をする。
         (アリストパネス『鳥』1478-1479行 呉茂一訳)

  *長音は、場合によっては短音の代わりをすることができる。>はその記号である。

2) イアンボス調(∪― )
 この詩型も詩脚二つで1小節をなす。trimetros――つまり詩脚六つ――で構成されるのが普通である。
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  大地の涯のとおい境、
  スキュティアの郷の、人の気もない荒れた野路へやってきたが、
  ヘーパイストス、あなたは、……任務を果たさなければなりますまい。
       (アイスキュロス『縛られたプロメテウス』1-3行 呉茂一訳)

3) ダクテュロス調(―∪∪)
 長大なホメロスの叙事詩を構成しているのは、ダクテュロス調hexametros(六脚韻)詩である。
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  ― ∪ ∪ | ― ∪ ∪ | ― ∪ ∪ I ― ∪ ∪ I ― ∪ ∪ I ― *∪
  ― ∪ ∪ I ― ― I ― ∪ ∪ I ― ∪ ∪ I ― ∪ ∪ I ― *∪
   あの男の話をしてくれ、詩の女神よ、術策に富み、トロイアの聖い城市を
   攻め陥してから、ずいぶん諸方を彷徨って来た男のことを。
          (『オデュッセイア』第1巻1-2行目 呉茂一訳)

 *終節の末尾の音節は、拍子の都合によって長くも短くもすることが許されている。ここでは終節に短音が来ているが、いずれも2拍分長く発音される。

 elegyの語源をなす エレゲイア詩は、ダクテュロス調の一種である。この詩型は、hexametros(六脚韻)とpentametros(五脚韻)が対句をなす詩型というふうに説明されているが、じっさいは、第2行目は、ダクテュロス調trimetrosが二つ並んでいて、それぞれが終節に*syncopeや*catalexisを伴ったものにすぎない。Epigrammaは、この詩型で書かれる。
 次はエレゲイア詩の実例である。
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  ― ∪ ∪ | ― ∪ ∪ | ― ∪ ∪ | ― | ― ∪ ∪ | ― ―
  ― ― | ― ∪ ∪ |】 *1‖ ― ∪ ∪ | ― ∪ ∪ | ―∧*2
   黄金のアプロディーテーなくして何の人生、何の悦びぞ?
   そんなことがもはや我が身におこらぬなら、死んだほうがましというもの。
                (ミムネルモス断片1の1-2行目)

 *1 長音が、短音三つ分(triseme)ないし短音四つ分(tetraseme)を表す場合がある。これをsyncopeといって、全体をひとまとめに表す。】はtetrasemeを表す記号である。
 *2 Λは休止記号(ギリシア語のleimmaの略)。休止は短音(1拍)に相当するが、ここでは2拍分に相当する。このように、音節を欠いた不完全な終わり方をcatalexisという。

4) アナパイストス調
 トロカイオス調・イアンボス調と同じく、この詩型も詩脚二つで1小節をなす。
 次は、monometrosの例。
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  はげたかのように
  ∪ ∪ ― I ∪ ∪ ―
                (アイスキュロス『アガメムノン』49行目)

5)以上の3拍・4拍の詩型に対し、5拍・6拍の詩で重要なものは以下のとおりである。

コリアンボス調
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  ― ∪ ∪ ― | ― ∪ ∪ ― | ― ∪ ∪ ―
   これらの子は、わが良人によりて生みしもの。
           (アイスキュロス『テーバイに向かう七将』929行目)
イオニア調
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  ∪ ∪ ― ― | ∪ ∪ ― ― | ∪ ∪ ― ―
  ∪ ∪ ― ― | ∪ ∪ ― ― | ∪ ∪ ― ― | ∪ ∪ ― ―
  ∪ ∪ ― ― | ∪ ∪ ― ― | ∪ ∪ ― ―
  ∪ ∪ 】 | ∪ ∪ ― ―
   はやすでに越えたのだ、
   国を滅ぼす王の軍勢は、
   流れのかなたの対岸へ。
   麻縄でしばった筏を橋にして、
   アタマスの娘ヘレーの渡しをわたっていった、
       (アイスキュロス『ペルシアの人々』65-70行目 久保正彰訳)

クレティコス調
 この詩型においては、長音を分解してパイアン調(―∪∪∪または∪∪∪―)が用いられる。
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  ― ∪ ― | ― ∪ ― | ― ∪ ∪ ∪ | ― ∪∪∪
  ― ∪ ― | ― ∪ ∪ ∪ | ― ∪ ∪ ∪ | ― ∪ ―
  ∪ ∪ ∪ ― | ― ∪ ― | ― ∪ ― | ― ∪ ―
   控えちゃおられぬ。問答無用。
   わしがおぬしを嫌うのは、その皮剥いで切り刻み、
   騎士の靴底にしようと思うかのクレオーンにも劣らぬのだ。
(アリストパネス『アカルナイの人々』299-301行目。村川堅太郎訳)

バッケイオス調
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  ∪ ― ― | ∪ ― ― | ∪ ― ― | ∪ ― ― | ∪ ― ―
   溜息つこか? どうしよか? 市民らに辛い目 遭わせてやろか?
(アイスキュロス『慈みの女神たち』788行目)。

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