この語はスキタイの狩猟犬を統率した女神アルテミス-ディアーナの最も聖なる添え名の1つであったがために、キリスト教のヨーロッパではみだらなことを意味する語になってしまった。昔、雌イヌの添え名を持つ女神というのは、死者の道を守るヴェーダのイヌたちの母親である「大いなる雌イヌ、サラマー」を初めとして、インド・ヨーロッパ文化圏全域にわたって見られた女神であった。狩猟犬を表す古代英語bawdもまたみだらな意味を持つ語になった。それはその語が聖なる「女狩猟者」のイヌを指すと同時に、その女狩猟者に仕えるみだらで誰とでも交わる巫女たちをも指したからであった[1]。
古代ローマの女神ルパLupa(雌オオカミ)の祭儀においては、売春婦と雌イヌは同一視された。そしてルパに仕える巫女たちはラテン語でlupaeと言うが、この語が売春婦一般を表す語になった[2]。「雌オオカミ」をこの世で代表して、ルパという名前の女王、あるいは一連の女王たちが、古代ローマ帝国のスペインの町イラ・フラーヴィアを治めた[3]。
キリスト教用語で「雌イヌの息子」というと、それはイヌを意味したからではなく、悪魔(異教の女神の霊的な息子)を意味したために、侮辱的なものと考えられた。
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)