Antiphon第6弁論
A.民会演説
- 1.リンドス人たちに対する課税について
〔ハルポクラティオンによって題名のみが知られている〕
- 2.サモトラケ人たちに対する課税について
- 1) なぜなら、われわれが住んでいるこの島は、遠くから見ても明らかなとおり、山がちにして荒蕪地である。しかも、その有用で耕作可能な地はわずかにして、不毛の地は広大であるばかりか、島自体が小さいのである。(パレロンのデメトリウス『文体論(De elocutione)』53)
- 2) というのも、最初にこの島に居住した者たちはサモス人たちで、その子孫が私たちである。しかし、彼らが定住したのは必然によってであって、この島を欲したからではなかった。というのは、彼らは僭主たちのせいでサモスから追放され、次のような運命に遭遇し……そしてトラケから駆逐して、この島に到着したのである。(『スーダ辞典』、サモトラケ(Samothrake)の項目)
- 3) もちろん、他の市民たちの辛苦は憂慮しても、自分たち自身の救済には思いを致さない、などとということはありえない。(プリスキアン、18.280)
- 4) というのは、収税官として私たちの中から選出されたのは、最も多くの財産を有すると判断された者たちだったのである。(ハルポクラティオン、収税官(eklogeis)の項目)
B.法廷弁論
- 1.革命について
- 1) さて、アポレクシスが告発していた件について、彼は私が反乱分子であり、私の父もそうだったというのだが……僭主支配した連中は、先祖たちは懲らしめることができたが、その槍持ちたちはできなかった、というわけではないのだ。(ハルポクラティオン、反乱分子(stasiotes)の項目)
- 2)Col.I. 〔私が革命を引き起こそうとしたと言われる所以は〕権職に就くよう選ばれて、多くの金銭を取り扱い、私の恐れていた執務審査が私に生じたとか、市民権喪失者となったとか、なんらかの悪事をあなたがたに働いたとか、目下の裁きをわたしが恐れていたとかしたからなのか。それはとんでもないことである、そういったことの何一つ私には生じなかったのだからである。むしろ、あなたがたが財産を私から取り上げたからなのか。あるいは、私の先祖たちが何らかの悪事を働いたかどで、あなた方が私に報復したからなのか。というのは、こういう〔目に遭った〕連中の中には、Col.II. 何か他種の国制とか制度とかを欲求して、自分たちの不正の償いしないですますとか、受難の報復をして逆に自分はどんな目にも遭わないようにしようとする者たちがいるからである。ところが告発者たちの言っているのは、私が他の人たちのために訴状を代作していたのみならず、「四百人」はそれによって得をしたということのみである。それではどうか、寡頭制下にあっては、それは私に許されていなかったが、Col.III. 民主制下にあっては、ひとり私のみが権力者であり、弁論によって、寡頭制下にあっては何ら価値ある者となろうとはしなかったのに、民主制下にあっては多いに のか? 一体全体、私が寡頭制を欲したなどということがどうして尤もなことであろうか。そんなことも私は計算できないのか、それとも、自分にとって何が得になるかアテナイ人たちの中で私だけが認識できないのか。
- 3)Col.IV. ……たちの判断によれば、オリュムポスの神々にかけて、……あなたがたの考察が正しいかぎりは、………ないと……私を告発したテラメネスが、……評議会において……した時、ここにいるE---sは、彼が評議会にすでに告発しておいた……罪で……
- 4)……そしてあなたがたは邪魔者たちをも懲罰した……ハルポクラティオン、empodonの項目。
- 2.デモステネスによる公訴に対する弁明
……彼が機具を突き立てしところに……(ハルポクラティオン、機具(keleontes)の項目)
- 3.カリアスによる摘発起訴に対する弁明
〔ハルポクラティオンによって題名のみが知られている〕
- 4.ニコクレスに対して境界石について
〔ハルポクラティオンによって題名のみが知られている〕
- 5.違法提案の告発
〔『スーダ辞典』によって題名が知られている。単語8つが伝わっているが、意味をとるのは困難である。〕
- 6.ピリノスを相手取って
……下層民をすべて重装歩兵となすことも……。(ハルポクラティオン、下層民(thetes)の項目)
- 7.当番評議員を相手取って
〔ハルポクラティオンによって題名のみが知られている〕
- 8.奴隷商について
なぜなら、私はアテナイに移住して、土地割り当て植民をしなくてすんだので、……(プォティオス『辞書(Lexicon)』42,12R)
- 9.自由身分の少年に対する〈暴行罪〉に関して
〔ハルポクラティオンによって題名のみが知られている〕
- 10.後見人に関する訴訟弁論 カリストラトス〈を相手取って〉
〔ハルポクラティオンによって題名のみが知られている〕
- 11.後見人に関する訴訟弁論 ティモクラトス〈を相手取って〉
〔ハルポクラティオンによって題名のみが知られている〕
- 12.エラシストラトスに対して 孔雀たちについて
- 1)人あってこの鳥たちを国の中に放そうとするならば、〔鳥たちは〕おびえて逃げ去るであろう。だからといって、翼を刈りこんだら、その美しさは奪われることになろう。なぜなら、その鳥たちの美しさは羽根にあるのであって、身体にあるのではないからである。(アテナイオス、『食卓談義』IX.397C-d)
- 2)もちろん、月初めには望む者は入れたことであろう。だが、その他の日には、見物したいと望んでやってくる人がいても、巡り合わせる者はいないのである。それも、二日や三日のことではなく、30年以上もの間そうなのである。(同上)
- 13.ヒッポクラテスを相手取って
〔伝プルタルコス、「アンティポン伝」21節から題名のみが知られる〕
- 14.ライスポディアスを相手取って
〔ハルポクラティオンによって題名のみが知られている〕
- 15.ミュロスのために
- 1)というのは、私はいまだこんな目に遭ったことがないからだ――今こいつから被っているような目に。(『スーダ辞典』、〜のようなこと(hatta)の項目)
- 2)なぜなら、人間たちは、眼に見えるような事柄を、より信ずべきことと考えるからである。真理の糾明が眼に見えぬことにかかわるような事柄よりも。(同上)
- 16.ポリュエウクトスに対して
〔作者不詳『反アッティカ辞典』から題名のみが知られている。〕
- 17.ピリッポスに対して 弁明
〔ハルポクラティオンによって題名のみが知られている〕
C.雑纂
- 1.アルキビアデス非難
あなたは後見人たちのおかげで〔成人の〕資格審査に合格するや否や、彼らから自分の財産を受け取って、アビュドスへ渡航し去ったが、それは、自分の個人的な負債を返すためでもなく、国賓待遇があったからでもなくして、あなたの心内の違法性と放縦とに、行状において等しい流儀を、アビュドスの女たちから学びとり、かくしてあなたの今後の人生にこれを適用せんがためであった。(アテナイオス、XII.525-b)
- 2.序言と結語
- 1) 私がこの公訴を提起したのは、この被告によって、神かけて、多くの不正を受け、なおかつ、より多くの不正をあなたがたならびに他の市民たちが受けるのを感知したがゆえである。(『スーダ辞典』感知する(aisthesthai)の項目)
- 2)しかるに、事態が私にとって有利と判明するのみならず、同時にまた私が明白な証拠を提起するならば……(『スーダ辞典』同時に(hama)の項目)
- 3)……私もまた、処刑さるべきであった姦夫として、敵たちの嘲笑を受けながら生きよう……(『スーダ辞典』、姦夫(mochtheros)の項目)
- 3.弁論術 第1・2・3巻
- 1) アンティポンは『弁論術』の中で言っている。――「現にある」と「もとにある」と「前にある」とを感知するのはわれわれにとって自然なことである。しかし、それらが視野から去った後もなお、その印象を鮮明に保持するのは、自然に反したことである、と。(
- 2)……過去に起こったことは事跡によって(semeiois)、これから起こることは推理によって(tekmeriois)確証される……(アムモニオス『類義語について(De adfinium vocabulorum differentia)』127)
D.出典不明断片
- 1)あなたがたは私に同情を寄せるべきでないと彼は求めたが、それは、私が涙し嘆願してあなたがたを説き伏せてしまうのではないかと恐れたからである。(『スーダ辞典』、嘆願(hiketeia)の項目)
- 2)……一つには、法習があなたがたにとって父祖伝来の古いものであることを知って……(『スーダ辞典』、父祖伝来の(patoroion)の項目)
- 3)というのは、これまでは、時間の長さが短いのよりも信じられたからである。(『スーダ辞典』、これまで(teos)の項目)
《付録》
A
評議会決議、当番の第21日目。書記、アロペケ区出身デモニコス。議長、パレネ区民ピロストラトス。提案、アンドロン。内容は――ラケダイモンへの使節でありながら、アテナイ人たちの国家と軍に仇なす目的で、敵国の艦船に乗って渡航し、帰りは陸路デケレイアを通っとして、将軍たちが申し立てている者たちについて。すなわち、アルケプトレモス、オノマクレス、アンティポンを、逮捕し、法廷に引き渡し、しかして償いをさせるべきこと。また、将軍たちは、評議会の中から将軍たちによって補佐役として選任されるべく決定される10人までとともに、被告人出席のもとに裁判が行われるよう、これを出頭させるべし。またテスモテタイは、被告を明日召喚し、召喚〔期限〕が過ぎたるときは、売国の罪で民衆法廷に提訴すべし。しかして、代理訴追人(synegoroi)として選ばれた者たち、および、将軍たち、および、他にも望む者は何びとなりと、告発すること。しかして、民衆法廷が有罪票決せし者は、売国奴たちに関する現行法にしたがってこれを処刑すること。
B
売国の嫌疑で有罪――アグリュレ区出身ヒッポダモスの子アルケプトレモス、出席裁判によって。ラムヌウス区民ソピロスの子アンティポン、出席裁判によって。両名に下されし量刑は、「十一人」に引き渡され、財産没収、その10分の1税は女神のものたること。さらに、彼ら両名の家屋は破壊し、敷地に標石を立て、これに「売国奴アルケプトレモスおよびアンティポンのもの」と刻すること。また、両区長は両名の家産を〔現金で〕決済すること。さらに、アルケプトレモスとアンティポンとは、アテナイはもとより、アテナイ人たちの支配する地にも埋葬することは許されず、アルケプトレモスおよびアンティポンは市民権喪失者にして、両名から生まれし子孫も、庶子であれ嫡子であれ、〔市民権喪失者〕。たとい、アルケプトレモスおよびアンティポンの血を引く者たちのいずれかを養子にする者あるとも、養子にした者は市民権喪失者たること。以上のことを銅の標柱に刻し、プリュニコスに関する決議のある所にこれをも立てること。
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