アンティゴノス断片集

[底本]
TLG 0568
ANTIGONUS Paradox.
(3 B.C.: Carystius)
1 1
0568 001
Historiarum mirabilium collectio, ed. A. Giannini, Paradoxographorum
Graecorum reliquiae. Milan: Istituto Editoriale Italiano, 1965: 32-106.
(Cod: 6,680: Paradox.)

NA. は、アリストテレース『動物誌(Historia animalium)』、Mir. は同じくアリストテレースの『異聞集(Mirabilia)』の出典箇所。





HISTORION PARADOXON SYNAGOGE(意想外な記録の集成)

1章
1
 『シケリア史』の編纂者ティマイオスは、レーギオンの節のなかで主張している、 — ロクロイ人たちとレーギオン人たちと〔いずれも南イタリアの海港都市〕は、アレークスと呼ばれる河が国境をなしているが、〔この河の〕ロクロイ側の蝉たちは歌うが、レーギオン側のは無音であると。
2
このことよりもかなり神話めいた話が言われている。すなわち、デルポイにキタラ弾きたちがやってきたとき、かたやレーギオン出身のアリストーンと、かたやロクロイ人たちのもとからやって来たエウノモスとは、籤をめぐってお互いに諍いになり、前者は、レーギオン人たちの植民活動はすべてデルポイから、それも、この神の使嗾でなされたものゆえ、負けるはずはないと思い、後者は後者で、蝉たちさえ歌わないような土地柄の者たちは、キタラ弾きになることさえふさわしからずとけなした。こうして、競演ではレーギオン人が有利であったにもかかわらず、ロクロイ人エウノモスが優勝したのであるが、それは次のような理由からである。彼が歌っている最中、蝉がその竪琴の上に飛来して歌ったので、会衆はその珍事に拍手喝采、そのままにするよう頼んだのである。

2章
 他にも、レーギオン人たちのところには、次のような神話めいたことが記録されている、 — ヘーラクレースが、この地方のとある場所で横になっていたが、蝉たちに悩まされ、それらが無音となるよう願掛けをしたというのである。

3章
 ケパレーニア島〔イオニア海の、コリントス湾前にある大きな島〕にも河が貫流しており、此岸には蝉がいるが、彼岸にはいない。〔HA. VIII_28(605b)〕

4章
 セリポス島〔キュクラデス群島の中、パロス島の西にある、不毛の小島〕では蛙たちも鳴かない。セリポス人たちの間でも神話めいた話が流布しているが、ただし、前者がヘーラクレースにまつわるのに対して、後者はペルセウスにまつわるという違いがある。

5章
 『レスボス島誌』の編纂者ミュルシロスの主張では、アンティッサ〔レスボス島北西にある港町〕 — ここには神話が伝えられており、オルペウスの頭の塚が地元の人たちによって示される — の歌鶯たちは、よそのものよりも声よしであるという。

6章
 この種の抜粋があてはまるのは、アッティカやボイオティアにいるヤマウズラと言われる鳥たちで、これのあるものは声がよいが、あるものはまったくか細く甲高いとみなされている。

7章
1
 羊たちの臓物に関することも独特である。すなわち、子羊のあるものたちは無音であるが、メスたちのあるものは声よしである。
2
ここからして詩人も、何にでも好奇心を持ち、該博な人物であるからして、眼にしたことがあるのだと解する人がいる、 —
  たおやかな上にもたおやかな羊たちからとった七弦を張れり〔出典不明〕

8章
1
 これに劣らず驚くべきこと、というよりはむしろありふれたことは、シケリアにある茨 — kaktos〔サボテン〕と呼ばれる — にまつわることである。この茂みにシカが足を踏み入れ、傷つくと、無音の、したがって縦笛の役に立たぬ骨を持つにいたる。
2
ここからしてピレータス〔前340年頃生、コス島の詩人にして知者〕もシカについて次のように説明して言っている。
  若いシカは生命はてんとして歌う
   鋭きサボテンの一刺しから身を守りつつ

9章
1
 レームノス人たちの島 — ネアイと呼ばれる — には、ヤマウズラは棲息せず、移入しようとしても、死に絶える。
2
ある人たちはこのことをもっと大げさに、その地を見ただけでも〔死に絶える〕と記録している。

10章
1
 ボイオーティアには数において多数のモグラたちが棲息するが、この動物はコローネー地方だけにはおらず、連れこんでも死んでしまうという。〔HA. VIII_28(605b-606a)〕
2
それはちょうど、オオカミたちやフクロウたちが、クレーテー島では、死にかけてもいないのに、この土地には堪えられないと言われるようなものだ。

11章
 アステュパライアにはヘビがおらず、イタケー〔イタカ〕島にはウサギもおらず、リビュアには野生のブタもシカもおらず、デーロス島の向かいのレーネイア島にはイタチもおらず、ホロホロチョウもレロス島〔カリア沿岸の小島〕より他にはどこにも見当たらない。〔HA. VIII_28(606a)〕

12章
1
 アテーナイ人アメレーサゴラス — アッティスの編纂者 — 〔前300年頃〕は、ハシボソガラスはアクロポリスに飛来しないと主張するが、眼にしたと言える者もいない。
2
その理由を人々は神話的に語り伝えている。すなわち彼の主張によれば、ヘーパイストスにアテーナが〔嫁として〕与えられたとき、並んで寝ていた彼女が消えたため、ヘーパイストスは地に落ちて、種〔精子〕を射出し、大地は後に彼にエリクトニオスを返礼とした、これをアテーナが育て、箱の中に納めて、ケクロプスの子どもたち — アグラウロスとパンドロソスとヘルセー — に預け、自分が帰るまでこの箱を開けないよう言いつけた。こうして女神はヘレネーに赴いて、山を運ぼうとした、アクロポリスの前に防柵をつくるためである。ところがケクロプスの二人の娘 — アグラウロスとパンドロソス — が箱を開け、エリクトニオスのそばに二匹の大蛇がいるのを眼にした。そして、山 — 今リュカベーットス山と呼ばれている — を運んでいたアテーナのところに行って、彼の主張では、エリクトニオス〔のこと〕が露見したと告げ口したのがハシボソガラスで、これを聞くや女神は、山を今あるところに放り出し、ハシボソガラスには、悪い知らせをもたらしたゆえに、アクロポリスにやってこないことをそれの掟だと言ったという。

13章
 スキュティア人たちの領土でも、同様にエリスでも、半ロバ〔ラバ〕は生まれない。

14章
 テオポンポスの主張では、トラキアのカルキス人たちのところには、次のようなある場所があるという、 — ほかの動物なら何でも、ここに立ち入っても何事もなく再び出て来られるが、カンタロスは一匹として無事でいられず、ぐるぐる回ってその場で死んでしまう。だからこそ、その地はKantharolethron〔「カンタロス殺し」〕と名づけられているという。〔Mir. 120、ストラボン330、プルタルコス2_473E〕

15a章
1
 言い伝えられるところでは、テッタリアのクランノーンには、オオガラスは二羽しかいない。それゆえ、この都市の印章として、国賓待遇〔プロクセニア〕の書き付け証書の上はもとより、何にでも付け加えられるのがならいであるかのように、青銅の荷車の上に二羽のオオガラスが刻み込まれるのは、それ以上多くは目撃されないからである。〔HA. IX_31、Mir. 126〕
2
荷車が添えられるのは、次のような理由 — これもおそらくは異様に見えるかもしれないが — によってである。オオガラスのために奉納された青銅〔の荷車〕は、日照りのとき、これを揺さぶって、神に水をお願いすると、手に入れられると言い伝えられているからである。
3
こんなことよりも特異なことをテオポンポスは言っている。すなわち、彼の主張では、このカラスたちは、雛たちを巣立ちさせるまでは、クランノーンで過ごすが、それを終えると、雛たちは居残るが、自分たち親は飛び去るというのである。
15b章
 さらにエクバタナ〔メディアの主都〕でもペルシアでも、クテーシアス〔前4世紀初期、『ペルシア誌』の作者〕が記録するところでは、これに似たようなことがあるという。しかし、この人物は多くの嘘を言っているので、抜粋は省略しよう。というのも、あまりに奇々怪々なこと(teratodes)に見えるから。
15c章
 レスボス島人ミュルシロス〔前250年頃〕の主張では、レペテュムノス山中にアポローン神殿とレペテュムノスの英雄廟があり、クランノーンにおけると同様、ここにオオガラスが、近隣地方には少なからずいるというのに、二羽しかいないという。

16a章
 カリアのラトモス〔山〕には、アリストテレースの主張では、サソリたちがいて、誰か外人を刺す場合には、苦痛は程々だが、土地の人間の場合は、死に及ぶという。〔Fr. 8_45(605), Cf. Plini. VIII_229〕
16b章
 リビュエ人たちから「ノミ(Pylloi)」と呼ばれる〔ドクグモ〕がいて〔HA. IX_39(622b)〕、これによっては上と逆のことが起こる。すなわち、楯のお陰で、彼らは刺されても何事もないが、自余の人たちは、かまれて無事な者は誰もいないのである。

17章
 リュキアには一種の「ヤギ殺し(aigolethron)」が生え、これを地元のヤギたちはいずれも食わないが、よそもののヤギが迷い込んで、知らずにこの草を喰うと、胃の「ハリネズミ(echinos)」〔葉胃または重弁胃。cf. HA. II_17(507b)〕を破壊されて死滅する。

18a章
1
 カリュストス〔エウボイアの南端〕地方やアンドロス地方〔キュクラデス群島北部の島〕の近くに、ギュアロス島と呼ばれる島がある。ここのネズミたちは鉄を囓り切る。〔Mir. 25〕
〔『カリーラとディムナ』第1章に、マルダートという国ではネズミが100マンヌ(100キログラム)の鉄でも食ってしまうという話が出てくる。〕
2
ケオース島〔アッティカの南東にあるキュクラデス群島中の島〕にあるイバラ(acherdos)は致命的である。ほかの樹の中に差しこむと、〔それを〕枯死させる。〔Mir. 143〕
18b章
 海のキジバト〔=アカエイ〕の針〔=尾〕もそれと同じことをする。その歯に手を触れると、〔手を〕腐敗させる。

19章
1
 生物の結合と変態、さらには生殖発生についても独特で、例えばエジプトの牛をとある場所に埋め、角だけを地面から出しておき、しかる後に鋸で切り落とすと、ミツバチたちが飛び出してくるという。すなわち、牛が腐ってその生物に分解するというのである。
2
これにふさわしいと見えるは、探求心旺盛なる人ピレータスである。つまり彼はそれをbougeneis(牛から生まれしものら)と命名してこう言っている。
  久しき時をかけてミツバチらに近づきたるものをブウゲネイスと呼びて、
3a
またワニもサソリを生むといわれている。
3b
ウマたちからはスズメバチが発生するという。
4
エジプト人アルケラオスという人〔?〕も、『エピグラム集』において、プトレマイオスのために奇談集(paradoxa)を解説した中で、サソリについては次のように述べている。
4a
  ワニは死して汝らに分解す、
   サソリたちよ、万物を活かす自然よ。
4b
  汝らが記載せるは馬の屍体よりのこの誕生、
   スズメバチたちよ。見よ、いかなるものからいかなる自然が定まるかを。
5
Mentha_aquatica アリストテレースは、腐ったsisymbrion〔学名:Menta aquatica(ヌマハッカ)。 Dsc.III-42。右図〕からもサソリたちが発生すると主張している。〔Fr.7_41(367)〕

20章
1
 以上のことに劣らず驚くべきは、不要物の有益さで、例えば青トカゲ(galeotes)は、老齢〔皮〕を脱ぐと、もとにもどって〔それを〕呑みこむ。というのは、アリストテレースが書き留めているところによれば、抜け殻は薬だと言い伝えられているからである。〔Fr. 7_41(370)、Mir. 66〕
2
同様に、アザラシは乳漿(orros)を吐くと言われている。というのも、それは同じ疾患〔癇癪?〕に役立つからである。
3
雌ウマは新生児の額についているhippomanes〔「雄ウマ狂い」。hippolithos(Bezoar equinum)で、腸内の結石、または、かにっば(胎屎) — 島崎〕を喰い取る。これは眉間の上にあり、多額の値で求められるという。〔HA. VI_22(577a)〕
4
シカは右角を穴を掘って埋める。これもいろいろと役に立つという。けれどもこんなことは、計画的にせよ偶然にせよ、大変な監視を必要とすることである。〔Mir. 75〕

21章
1
 タコは、冬に、おのれの巻き腕を食らうという。これが起こるのは
  冬の日に、骨なしの足にかぶりつくとき。
2 
イタチの胎児は、体腔から出てきてとどまり、ふたたび口から潜りこむ。
3
牝ライオンは二度は妊娠しない。胎児とともに、ヘロドトスの主張では、子宮を排泄するからである。
4
マムシも二度は〔妊娠〕しない。自分の腔所を胎児が喰うからである。

22章
1
 コウモリは鳥類のうちで唯一歯と乳房と乳を有する。
2
アリストテレースの主張では、アザラシやマッコウクジラも乳を有するという。〔HA. VI_13(566b-567a)〕
3
これらのことに劣らず奇々怪々なことを彼は書きとめている。すなわち、彼の主張では、レムノス島では雄ヤギから乳が搾られ、トロパリス〔新チーズ〕が出来るほどだという。〔HA. III_20(522a)〕

23章
1
 カワセミの雄はkeryloi〔単数は「ケーリュロス」〕と呼ばれる。ところで、老いのために弱々しくなって、もはや飛べなくなると、これをメスたちが翼に載せて運ぶ。
2
アルクマン〔前620年頃、リュディアのサルディスの抒情詩人〕によって言われていることがこれにぴったりあてはまる。すなわち彼の主張では、老いのせいで弱ると、乙女たちとたわむれるのはもとより、処女たちの合唱舞踏にさえ合わせられない。
  もはやわしは、声甘き、神々しい声の処女たちよ、
  四肢は運びえず。ああ、ああ、ケーリュロスになりたい。
  波の上に花と咲き、カワセミたちといっしょに飛びゆくところの、
  無情の心をもった、潮紫の聖なる鳥に。

24章
 かの詩人〔ホメロス〕も、どんなことにも注意深く、かつ、好奇心旺盛だったといわれている。というのは、オデュッセウスは、豚飼の方へ近づいたとき、犬たちが自分に飛びかかってきたとき、
  ぬかりなくしゃがみこみ、おのが杖を手より落とせり。〔OD. XIV_31〕
というのは、言い伝えられるところでは、追いつめられてもへたりこんだら、犬たちは害することはないからである。

25a章
1
 居場所に自分を合致させるものらも驚くべきものである、例えばタコもそうである。すなわち、地面や、何でも取り巻いているものの色と見分けがつかなくなり、そのため、これを狩ることは難事になるのである。
2
ここからして、詩人も明らかに言い古されたことを書いたのである。
  わが子よ、わしのためにタコの心を胸にいだき、
  誰とでも調子を合わせよ、[町を訪れたら、そこの人たちに]。
25b章
 同じことがカメレオンについても起こる。というのも、樹の幹や葉や地面や、どんな場所とも同じ色に変身するからである。
25c章
 アリストテレースの主張では、タランドスと呼ばれる動物の身にも同じことが起こる — これは四足獣で、ロバとほぼ同じく、厚皮で獣毛に覆われている、最も驚くべきことは、毛があまりに鮮やかに変わることである。〔Mir. 30〕

26章
 さらにはある種の草があり、ノコンギク(tripolion)と呼ばれる。これは海岸地帯の岩場に生え、花が咲くと、3日の間、その色を変化させる。時には白く、時には緋色に、時には黒くなる。
 
 もちろん、動物のその他の本能 — 例えば、闘争における、傷の養生における、生存に欠かせぬ備えにおける、求愛行動における、記憶における — は、アリストテレースの著書の中から明快この上なく学び知ることが出来る、その書から〔以下に〕わたしたちは先ず抜粋することにしよう。

27章
 彼の主張では、マイオーティス湖〔アゾフ海〕のコーノーピオン付近のオオカミたちは、漁師たちから餌をもらい、その漁を守るという。だが、何か害される疑いがあるときは、彼らの網や魚を使い物にならなくさせるという。〔HA. IX_36(620b)〕

28章
 トラキアのかつてケドリポリス〔杉油市〕と呼ばれた地方では、人間たちとタカたちとが共同で小鳥を狩ると。すなわち、前者は棒で脅して追い立て、タカたちは追い落として、逃れようとする〔小鳥たち〕が人間の方に飛び込む。だから、タカたちにも彼らは獲物を分け与えるという。〔HA. IX_36(620a)、Mir. 118〕

29章
1
 シカたちは、野獣を避けるため、道端で出産すると彼は言う。オオカミは決してここに近づかないからである。そして子を住みかに連れて行き、避難すべき場所に慣れさせる。その住みかは絶壁の岩場で、入口は一つしかない。〔HA. VI_29、IX_5〕
2
角に湿りがあるかのように、角の上にすでにキヅタが生えたアカイネー鹿が捕らえられたことがあるという。〔HA. IX_6(611b)、Mir. 5〕
3
シカが捕まえられるのは、〔猟師が〕笛を吹いたり唱ったりすると、その快さに地面に横たわるからであるという。〔HA. IX_5(611b)〕

30章
 クレーテー〔クレタ〕島の野生のヤギは、弓で射られると、花ハッカを探すという。矢弾が抜けやすくなると思われているからである。〔HA. IX_6〕

31章
 ヒョウは賢い動物だと主張する人たちがいるという、 — 〔ほかの〕動物が自分の匂いを好むことを知っていて、身を隠して、そうやって近くに接近したものを狩るからと。〔HA. IX_6(612a)〕

32章
 イクネウモンは、楯というヘビ〔コブラ〕を見ると、他の助っ人を呼ぶまでは、襲いかかることはない。また、打ち傷や咬み傷に備えて、泥を体中に塗りたくる。すなわち、身体を濡らして、地面を転げ回るのだという。〔HA. IX_6(612a)〕

33章
 ワニチドリはワニの歯をきれいにして、それを餌にしている。〔ワニも〕益されることを知っているので、ワニチドリに出ていって欲しいときは、頚を振って、咬まないようにするという。〔HA. IX_6(612a)、Mir. 7〕

34章
 カメは、ヘビを喰うと、その後でマヨラナ〔原語"origanos"。Origanum heracleoticum とされる — 島崎〕を食う。かつてある人が、記録のため、マヨラナの葉をむしって、続けて食えないようにしておいたところ、死んでしまったという。〔HA. IX_6(612a)、Mir. 11〕

35章
1
 イタチは、ヘビと闘う場合、前もってヘンルーダ〔原語"peganon"。芸香(Ruta graveolens) — 島崎〕を食う。その匂いがヘビにとっては敵だからであるという。〔HA. IX_6(612a)〕
2
ヘビの咬み傷に対しても、ヘンルーダ — 濾して生のままで呑むの — が効く。
3
じっさい、ブタも、ヘビに咬まれると、すぐに河に連れて行かれて、カニを探す。これも書きとめられていることに入っているが、ヘビの咬み傷に強烈に効く。

36章
 モリバトは、咬まれると、マヨラナを傷口にあてがい、この方法で健康になる。

37章
1
 ところで、アリストテレースの主張では、ツバメは巣作りをするとき、籾殻を泥でこね合わせ、泥が足りなくなると、身を濡らせて、転げ回り、翼で運びあげる。また人間と同様、下に固いものを置いて藁で寝床をつくるという。〔HA. IX_7(612b)〕
2
雛たちには順番に餌をやるが、同じ雛に二度やらないようよく記録しているという。〔HA. IX_7(612b)〕
3
糞は、〔雛が〕小さいうちは〔親鳥が〕自分で放り出すが、成長すると、雛たちが体を回して外に排出するよう教えるという。〔HA. IX_7(612b)〕

38章
1
 ドバトは、多くの相手と交尾することを好まないのはもちろん、やもめ雄ないしやもめ雌とならないかぎりは、配偶関係を破棄することさえないという。〔HA. IX_7(612b)〕
2
雛たちには塩分の多い土をよく噛んでからその口の中に吐きだす、餌をとる前準備である。〔HA. IX_7(613a)〕

39章
1
 ヤマウズラは、雛を獲ろうとする者がいると、狩人の前でてんかんを起こしたように転げ回り、引きつけておいて、雛を逃げおおせさせるという。〔HA. IX_8(613b)〕
2
〔オスは〕好色であるので、メスが抱卵しないよう、卵を壊すので、メスは対抗策を講じて、逃げ隠れて出産するという。〔HA. IX_8(613b)〕
3
やもめ雄たちはお互いに戦い合い、負けた雄は服従して、勝った雄にのみ交尾を受ける。〔HA. IX_8(614a)〕

40章
1
 クロヅルは、遠方を見わたすために、高いところへ舞い上がる、雲や嵐を眼にすると、じっとしているという。〔HA. IX_10(614b)〕
2
リーダーも持っている。〔リーダー以外の〕他のツルたちは、翼の下に頭を突っこんで眠るが、リーダーは吹きさらしの中でむき出しの頭で前方を見る、何かに感づくと鳴き声をあげて他のものたちに合図するという。〔HA. IX_10(614b)〕

41章
 ペリカンは、すべすべした大きな二枚貝を呑みこむ、と彼は記録している、 — そのうえで、胃の上方〔そ嚢〕にしばし留めたうえで、口を開いた殻を吐き出し、そうやって肉を取り出して食うという。〔HA. IX_10(614b)、Mir. 14〕

42章
1
 ハゲワシは、雛はもとより、巣さえ見た者はいないと、一部の人たちに言われている。〔HA. IX_11(615a)〕
2
だから、ソフィストのブリュソーン〔前4世紀初期〕の父親ヘーロドロース〔ヘラクレアの歴史家〕も、どこかよその高地から来るものだと主張しているという。たしかに、人の近寄れない岸壁で出産するという。〔HA. IX_11(615a)〕

43章
1
 〔インドから来た〕ある人たちが言っているという、 — 〔インドには〕キンナモーモン〔シナモン〕という鳥もいて、その香木を運んできて、それで巣を作ると。〔HA. IX_14(616a)〕
2 
高い樹の、人の近づけない枝のうえで雛を育てるが、地元の人々は、鉛を矢につけて弓射し、巣を壊し落とすという。〔HA. IX_14(616a)〕

44章
 カッコウが雛を換え子(Hypobolimaios)にするのは、臆病さと自衛不能さのゆえと思われている。というのは、最小の鳥にいじめられるからである。他方、受け入れた鳥たちは、自分の雛を放り出すのは、カッコウの雛が美しいからだという。〔HA. IX_29(618a)、Mir. 3〕

45章
1
 アイギトス〔という鳥〕は、ヤギのところに飛来して乳を吸う、ここからしてその親密さも理解される。しかし、〔アイギストスが〕乳を吸うと、乳が出なくなり、ヤギは失明するという。〔HA. IX_30(618b)では、ヨタカ"aigothelas"の話になっている。〕
2
この鳥は片ちんばである、ここからしてエジプト出身のカッリマコス〔前270頃〕も、著名人たることを望んでいたので、ほかのある鳥のことをひとより先にものを言おうとして主張した、「アイギトスは、両脛曲がり」と。けれども、この言葉は彼の助けにはならない。というのは、〔アイギトスは〕両足がちんばではないからである。両脛曲がりは、こういうものではなく、ヘーパイストスについて言われているように、両方がちんばの場合だからである。われわれがカッリマコスについて言う気にさせられたのは、信用ならないからである。

46章
1
 アリストテレースが主張するには、ワシは老いると、上の嘴が大きくなり、曲がり、最後には飢えで死ぬという。〔HA. IX_32(619a)〕
2
ヒゲワシは、ワシに放り出された雛を引き受けて育て上げるという。〔HA. IX_34(619b)〕
3
ウミワシは、子がまだ丸裸のころに、無理矢理太陽を見つめさせ、涙を流し、直視しようとしないものは殺すという。〔HA. IX_34(620a)〕

47章
 魚類のうち、海のカエルウオと呼ばれるもの〔アンコウ〕は、眼球からぶら下がったもので小魚を狩る。それは毛のように細長くて、先が釣り餌のように丸くなっている。身を隠してこれを前に突きだすという。〔HA. IX_37(6120b)〕

48章
 シビレエイは、砂をかきまぜて身を隠し、魚が近づいて、麻痺のせいで泳ぐことのできないのを一網打尽にするという。〔HA. IX_37(620b)〕

49章
 キツネザメ〔Alopecias(-Squalus) vulpes で、ずるいサメとされる。卵胎生 — 島崎〕と呼ばれる〔魚〕は、釣り針を呑みこんだと気づくや、とって返し、釣り糸の上部からかみ切るという。〔HA. IX_37(621a)〕

50章
1
 タコは、餌を穴の中にたくわえておき、必要なものを消費するときは、無用のものを放り出し、放り出されたものに近づいてきた小魚を、近くの石に似た色に身を変えて狩るという。〔HA. IX_37(622a)〕
2
恐れを感ずる場合も、それと同じことをするという。〔HA. IX_37(622a)〕

51章
 カイダコをも、どんなに凝ったことをするか見よ。すなわち、貝殻を有し、この貝殻を下向けにして上がってくるのは、空にして上がってくる方が容易だからである。海面に達すると、向きを変える。巻き腕のなかに水かきのような一種の組織を有し、そよ風が吹くと、これを帆のように使って、櫂の代わりに二本の巻き腕を体側に降ろすという。〔HA. IX_37(622b)〕

52a章
1
 ミツバチたちは、煙でいぶされたり、ひどい目に遭ったりすると、その時には特によく蜂蜜を食うが、ほかの時は、餌のために蓄えているのだから、節約するという。〔HA. IX_40(623b)〕
2
樹木から出てくる涙〔樹液〕を蜂窩にぬりたくるのは、ほかの虫を防ぐためであるという。〔HA. IX_40(623b)〕
3
〔敵を〕役に立つミツバチたちが殺そうとするときは、〔巣の〕外でそれをしようとする。蜂窩の内で殺した場合は、運び出すという。〔HA. IX_40(625a)〕
4
ドロボウバチと呼ばれるのは、気づかれずに侵入すると害する。しかし、押し入るのはたまのことである。ドロボウバチを監視し、どの入口にも見張り番がいるからであるという。〔HA. IX_40(625b)〕
5
ミツバチはそれぞれの仕事に配置されている、あるものは花から蜜を運び、あるものは蜂房を修繕するという。〔HA. IX_40(625b)〕
6
彼らは餌の悪臭もアリも忌避し、余分なものは外に運び出すという。〔HA. IX_40(623b)〕
7
そして老齢のミツバチたちは、外で働く<……>
52b章
 スズメバチの脚をつかんで、羽でブンブンいわせると、刺針のないものが近づいてくるが、刺針を持ったものは一匹も近づいてこないと彼は主張する。〔HA. IX_41(628b)〕

53章
1
 モナポス〔原語"monapos"は「一つ眼」の意。ヨーロッパヤギュウ(バイソン)で、当時は北マケドニアにいたらしい — 島崎〕が生息するのはパイオニアのマルサノス山中だと言い伝えられている。〔この動物は〕上〔顎〕の歯を持たぬこと、あたかも牛のごとく、また双角獣以外の何ものでもなく、その他の点でも牡牛にそっくりであるという。〔HA. IX_45(630a-b)、Mir. 1〕
2
追いかけられると、遠くから糞をひりかけるが、その糞たるや、恐怖からそれをする場合には、燃えるようで、犬たちの毛がこそげ落ちるほどである。しかし、恐れることなしにそれをする場合は、何事もなく、害されることもないという。〔HA. IX_45(630b)〕

54a章
 <……>いったん交尾し、妊娠させると、二度とこれに接することがないという。54b章
 スキュティアの王のウマは、言い伝えでは、純系だという。この雌ウマに、これから生まれた子馬を、交尾するようかけようとしても、子馬は拒否するという。そこで、雌ウマを包み隠してかけて、のしかからせたが、覆いをとられた〔母ウマ〕の顔を見るや逃げだし、投身したという。〔HA. IX_46(631a)、Mir. 2〕

55章
1
 海の動物の中で最もおとなしいのはイルカである。というのも、子どもたちに恋情的である、タラスにおいても、カリアにおいても、その他多くの場所においても。〔HA. IX_48(631a)〕
2
カリアでは、イルカが捕らえられて満身創痍となると、漁師が放すまで、多数のイルカが助けるために港に押し掛けたという。〔HA. IX_48(631a)〕

56章
 オオカミたちの出産に関しては、ほぼ完全に神話的に説明されているが、同じ〔話〕がこの専門家〔アリストテレース〕にもある。すなわち、彼の主張では、オオカミたちはみな1年のうち12日間に出産する。その理由は、話(logos)では、雌オオカミとなったレートーを12日間で、北極の人々のところからデルポイに運んできたからという。

〔HA. VI_35(580a)〕

57章
 フクロウとカラスは敵同士である。カラスは、昼間、フクロウの眼が見えないので、フクロウの卵をかっさらう、フクロウは、夜間、カラスの眼が見えないので、カラスのを〔かっさらう〕。だから、相手より優勢なのは、前者は夜間、後者は昼間であるという。〔HA. IX_1(609a)〕

58章
 ロバとアイギトスもお互いに敵同士である。というのは、〔ロバは〕アカンサスの茂みの中を通りがかって引っかかれる、すると、そのせいばかりか、いななきもするので、アイギトスの卵を〔巣から〕飛び出させ、雛も恐れて〔巣から〕落ちるのである。こういう被害の仕返しに、後者はロバに飛びかかって引っかき傷をほじくるのだという。〔HA. IX_1(609a-b)〕

59章
 さらにコタカ〔チョウゲンボウ〕はキツネと敵であるが、オオガラスとキツネは友である。さらにオオガラスはコタカと敵であるから、キツネが襲われると〔オオガラスが〕助けるという。〔HA. IX_1(609b)〕

60a章
 彼の主張では、山羊飼いたちが言っているという、 — 太陽が向きを変える〔子午線を過ぎる〕やいなや、ヤギたちは向かい合わせに横たわると。〔HA. IX_3(611a) では逆に「背中合わせに横たわる」とある〕
60b章
 これとかなり近い話をリュコス〔前300年頃〕が記録している。すなわち彼の主張では、リビュエー〔リビア〕の家畜は、ほかの時は、あるものは相手と反対向きに、あるものは向き合って眠るが、犬狼星が再出現(anatole)する夜には、分散して星だけと向き合うので、これを現地の人たちは星の出(epitole)の証拠として用いるという。
 
 ただしアリストテレースは例外で、動物の生存本能とは別に、それに類したような事柄をも詳述しているのであるが、その大部分において極めて入念・細心の注意を払い、それらに関する解説を片手間仕事ではなく、本職のように扱っているのである。とにかく、全70巻のほとんどすべてが、こういったことに費やされていて、いずれの巻においても、より深い解釈により、あるいは、より詳しい記録にもとづいて縷説するよう彼は努めていたのである。わたしたちのこの抜粋のために、彼によってあらかじめ選ばれたものの中から、珍奇で思いがけない話を、それらの諸巻ならびにその他の諸巻から概要をまとめることができる。

61章
 とにかく、彼〔アリストテレース〕は言う、 — 肺を有するものはすべて呼吸するが、スズメバチやミツバチは呼吸しないと。〔HA. I_1(487a)〕

62章
 膀胱(kystis)を有するものはすべて腸(koilia)をも有するが、腸を有するものがすべて膀胱をも有するわけではない。〔HA. I_2(489a)〕

63章
 生物のうちに無血動物は多いが、一般にそれらはみな四足以上の足を有している。〔HA. I_4(489a)〕

64章
 毛を有するものはみな胎生である。しかし逆は真ならず。〔HA. I_6(490b)〕

65章
 動物はすべて下顎を動かせる。ただし、河ワニは例外で、これのみは上顎を〔動かせる〕。〔HA. I_11(492b)〕

66章
 イリュリス〔ユーゴスラビアのイリリア〕地方やパイオニアには単蹄のブタがいる。単蹄にして双角の動物は目撃されたことがないが、単角・単蹄のオリックスは、例えばインドロバがそうである。単蹄動物のうち、これはアストラガロス〔"astragalos"はくるぶしの間にある距骨talus であるが、動物によって形はさまざまである。反芻類では対称的な両凸型で、古代の*さいころ*にされたものであるが、他の動物では不整形である。アリストテレースは両凸型の、さいころになるようなもののみを「アストラガロス」と呼んだ。 — 島崎〕をも持っているという。〔HA. II_1(499b)〕

67章
 イタチの恥部〔陰茎〕は骨質であるという。〔HA. II_1(500b)〕

68章
 雄は雌よりも大きな歯を有するという、人間においても他の動物においても。〔HA. II_3(501b)〕

69章
 ウマやある種のウシの心臓には骨がある〔という〕。〔HA. II_15(506a)〕

70章
 アカイネーと呼ばれるシカは、尾に胆汁を持っていると思われているという。〔HA. II_15(506a)〕

71章
 魚類は食道を持たない。それゆえ、大きな魚は、別の小さな魚を追いかけるとき、胃が口の中に突出することがあるという。〔HA. II_17(507a)〕

72章
1
 ヘビたちの肋骨は30本であるという。〔HA. II_17(508b)〕
2
ヘビの眼も、ひとが針で潰しても、ツバメの眼と同様、再生するという。〔HA. II_17(508b)〕

73章
 魚類のうちブダイだけは反芻するという。〔HA. II_17(508b)〕

74章
 ライオンの骨はあまりに硬いので、打ち合わせるとしばしば火を発するという。〔HA. III_7(516b)〕

75章
 プリュギアには、角を動かせるウシがいるという。〔HA. III_9(517a)〕

76章
 動物のうち、毛を有するのは陸生で胎生のもの、甲鱗を有するのは、陸生で卵生であるという。〔HA. III_10(517b)〕

77章
 いったん病気になって灰色髪になった者がいるが、健康になると再び黒髪になったという。〔HA. III_11(518a)〕

78章
1
 トラケー〔トラキア〕方面にあるカルキス地方を流れる河 — プシュクロス〔寒〕河と呼ばれる河は、ヒツジが呑むと、生まれる子を黒くさせることが出来るという。〔HA. III_12(519a)〕
2
アンタンドリア地方〔小アジアはアイオリア地方ミュシア近在、イーダ山麓の町〕にも河が二つあって、ひとつは白いヒツジを、ひとつは黒いヒツジを生むという。〔HA. III_12(519a)〕
3
スカマンドロス河も〔ヒツジを〕黄色くする。だから詩人も「スカマンドロス」の代わりに、これを「クサントス」〔黄河〕と命名した〔Il. XX.74〕という。〔HA. III_12(519a)〕
4
エウボイアにも、カルキスとの境を接するヒスティアイア地方に二つの河 — ケレウス河とネーレウス河と — があり、これを、交尾するころのメーメー山羊が呑むと、ケレウス河から呑んだ場合は、黒い子を出産し、ネーレウス河からの場合は、白いのを〔出産する〕。〔Mir. 170〕

79章
 アリは、彼の主張では、マヨラナや硫黄の粉をふりまかれると、アリの巣を棄てるという。〔HA. IV_8(534b)〕

80章
 ウナギには雄も雌もないという。〔HA. IV_11(538a)〕

81章
 ヤマウズラは、雌が雄の風下に立つと、孕むという。〔HA. V_5(541a)〕

82章
 「ホシ」と呼ばれる〔ヒトデ〕は、あまりに熱いので、どんな魚を捕らえても、たちどころに煮え立ったものに化するという。〔HA. V_15(548a)〕

83章
 カイメンも感覚を持っている。というのは、人が引き抜こうとする気配を察すると、身を縮めるので、引きはがすのは一仕事になる。風とか波がひどいときも、同じことが起こるという。〔HA. V_16(548b)〕

84a章
1
 雪の中にも蛆状のdasys〔「毛むくじゃら虫」〕という生きものがいるという。〔HA. V_19(552b)〕
2
キュプロス島には、銅の鉱石が燃える中に、ハエより少し大きい虫がいるという〔HA. V_19(552b)〕。カリュストスの溶鉱炉の中にも同じものが〔いる〕。
3
前者は雪から、後者は火から離されると死ぬという。〔HA. V_19(552b)〕
84b章
 サラマンドラ〔イモリ〕は火を消すという。〔HA. V_19(552b)〕

85章
 キンメリス〔クリミア〕のボスポロス海峡地方のヒュパニス河の沿岸では、夏至のころ、ブドウの実よりも大きな袋状のものが流れ下ってくるが、それが破れると、中から翅の生えた四足の動物が出てくるが、生きるのは1日だけと彼は主張する。翅のある四足の動物というのも特異であるという。〔HA. V_19(552b)〕

86章
 ハチの群は、リーダーがいなくても、逆に多すぎても、滅びるという。〔HA. V_22(553b)〕

87章
 砂漠のサソリは、生みの子らによって殺されるという。〔HA. V_26(555a)〕

88章
 人間の身体には、小さな吹き出物のようなものが出来る。これをつつくと、シラミが出てくる、〔体内に〕水分が多いときには、これで病気になるという、 — リュラ弾きのアルクマン〔小アジアはサルディスの生まれ、前670-640年頃スパルタにいた〕やシューロス島人ペレキュデース〔タレースの弟子、キュクラデス群島のシュロス島生まれ〕にとってそうであったように。〔HA. V_31(557a)。古代人はこの病気をphtheiriasis(シラミに食いつくされて死ぬ病、すなわち生虱症Morbus pedicularis)と呼び、後世このシラミをPhthirius tabescentiumとし、1824年のDe Phthiriasiという本には、その図まで入っていたというが、もちろんそんな病気もシラミも実在しない。 — 島崎〕

89章
1
 これも特異なことだが、ある種の屍体の骨髄が腐ると、背骨から小ヘビが発生する、もしも〔人が〕亡くなる前にヘビが死ぬと、その臭気を漂わせるという。
2
ある人にもだが、われわれはアルケラオスのエピグラム詩に出会った、これについて先に言及したいのは、彼が驚くべき事柄についてこういうことをも書きとめているからである、
  万物は、長き生も相互に封印しあう。
  かくいうは、ひとのうつろな背骨の髄より
  恐ろしき蛇の生ずればなり、 — 惨めに朽ちし屍から、
  そは、屍より新しき息の徴を受け、
  死者より生命の自然を受け継ぎたるもの。かくありとせば、
  両生のケクロープスの生いいずるに不思議なし。
これこそは、ある人によって耳に入れられ、かつ、この短詩の証拠のうちにあると、さしあたってしておこう。〔???〕

90章
 アリストテレースの主張では、心臓の中に生きものがいて、これは極小で、ダニ(akari)と呼ばれると[言っていると]いう。

91章
 河オオトカゲ〔ワニ〕は最小のものから最大のもが生じる。というのは、卵はガチョウのよりも大きくはないが、成体は17ペーキュス〔約8メートル〕にもなるからという。〔HA. V_33(558a)〕

92章

1
 オオエビよりはタコが優勢である。殻に何の影響も受けないからであるという。〔HA. VIII_2(590b)〕
2
タコよりはアナゴが〔優勢である〕。タコはアナゴを、ぬるぬるしているので、どうしようもないからであるという。〔HA. VIII_2(590b)〕
3
アナゴよりはオオエビが〔優勢である〕。アナゴは、〔オオエビの〕ざらざらした殻のせいで、すべり抜けることができずに、細切れにされるからであるという。〔HA. VIII_2(590b)〕

93章
 ボラは、恐れを感ずると、頭を隠して、身体全体を隠したつもりでいると彼は主張する。〔HA. VIII_2(591b)〕

94章
 曲爪類はみな物真似をするという。〔HA. VIII_12(597b)〕

95章
 狂犬病の犬に噛まれたものはみな狂犬病にかかるが、人間は例外であるという。〔HA. VIII_22(604a)〕

96章
 動物のうち長いものはオス、短いものはメスであるという。

97a章
 エジプトでも、糞の中に〔卵を〕埋めておいて、雛をかえすという。〔HA. VI_2(559b)〕
97b章
 シュラクウサイ〔シラクサ〕のある愛飲家が、地面に穴を掘って〔卵を埋め〕、むしろかぶせて飲み続け、ついに卵がかえったという。〔HA. VI_2(559b)〕
97c章
 温かい容器の中に入れて置いた卵も、ひとりでに成熟して〔雛が〕出てきたという。〔HA. VI_2(559b)〕

98章
 ツバメの雛は、失明させても、再び見えるようになるという。〔HA. VI_5(563a)〕

99a章
 タカは、卵は三つ産むが、残すのは二つであり、雛が生長すると、さらに一羽を選ぶ。この期間、親鳥の鈎爪がねじれて、何もつかめないため、育てられないからである。しかし、さまよい出た雛は、ヒゲワシが受け入れるという。〔HA. VI_6(563a)〕
99b章
 ほとんどすべての曲爪類〔猛禽類〕は、雛たちが飛べるようになるやいなや、追い出す。ただしハシボソガラスは例外で、〔雛が〕飛べるようになっても、しばらくは、口移ししてやるという。〔HA. VI_7(563a-b)〕

100章
 カッコーの雛を見たことのある者はいない。というのは、カッコーが出産するのは、自分の巣ではなく、小さな小鳥たちや、モリバトや、ヒュポライス〔HA. 564a, 618a〕の巣の中で、前からある卵を食い尽くしてからであるという。〔HA. VI_7(563b)〕

101章
 ヤマウズラは卵を二塊に区切り、〔雄雌〕それぞれが抱卵して育て、雛たちを初めて巣から連れ出したときに、雄はこれと交尾するという。〔HA. VI_8(564a)〕

102章
1
 雄イノシシは自分の皮で武装してお互いに戦いあうという、 — 〔そのため〕樹にこすりつけ、泥にまみれては乾かして、計画的に厚くする。〔HA. VI_18(571b)〕
2
一部の人たちが主張していると彼は書き留めている、 — 雌ブタは片方の眼を抜き取ると、すぐに死ぬと。〔HA. VI_18(573a)〕

103章
1
 ヤギやヒツジは、北風のときに交尾すると、たいていは雄を生むが、南風のときには、雌を生むという。〔HA. VI_19(574a)〕
2
雄ヒツジの舌の下の静脈が白ければ、生まれた子は白くなるが、黒いと黒くなる。赤色についても同様であるという。〔HA. VI_19(574a)〕
3
塩水を呑むものが先に交尾するという。〔HA. VI_19(574a)〕

104章
 ラコーニア〔スパルタ〕犬は、働いた後の方が〔何もしないでいる時よりも〕よく交尾できるという。〔HA. VI_20(574b)〕

105章
1
 驚嘆措く能わざるは、ネズミたちの生殖発生の速さである。あるとき、妊娠中の雌が、容器の中に閉じこめられたが、ほど経ずして、120匹のネズミが現れたことがあるという。〔HA. VI_37(580b)〕
2
ペルシアのある地方では、雌のネズミが切り開かれたところ、その胎児はすでに妊娠しているのが発見されたという。〔HA. VI_37(580b)〕

106章
 アイギトスとアカントスの血はなかなか混じり合わないという。〔HA. IX_1(610a)〕

107章
 ヤギたちの一頭がエーリュンゴス〔セリ科のEryngium campestrae という草〕の穂先 — 毛のようなものである — をもらうと、他のヤギたちは馬鹿のような顔をしてこれを見つめながら立っているという。〔HA. IX_3(610b)〕

108章
 テンの恥部〔陰茎〕は骨質である。だが、閉尿症の薬になると思われているという。〔HA. IX_6(612b)、Mir. 12〕

109a章
 睾丸を抜かれた男で禿頭になる者はいないという。〔HA. III_11(518a)〕
109b章
 子どもの時に〔睾丸を〕失った者たちは、二度目に生える毛が伸びず、〔青春期より〕後で〔睾丸を〕失った者たちは、陰毛を除いて〔二度目に生える毛だけが〕抜けるという。〔HA. III_11(518a)〕

110章
1
 女の出産で最多は5人である。じっさい、4回の出産で20人を出産し、その大多数が育った女が一人記憶されているという。〔HA. VII_4(584b)〕
2
過量の塩を使っていて妊娠すると、爪のない子が生まれるという。〔HA. VII_4(585a)〕

111章
 男も女も、雌だけ生むものとか、雄だけ生むものとかがいるが、このことはヘーラクレースについて記録されている。というのは、72人の子のうち、彼が生んだ娘はたった一人であるからという。〔HA. VII_6(585b)〕

112a章
 ちんばや失明者たちからも、同じように失明者やちんばが生まれるという。すでに何人かは、〔身体の〕徴も伝えているという。〔HA. VII_6(585b)〕
112b章
 エリスでは、エティオピア人〔黒人〕と姦通した女から〔生まれた〕娘は白人だったが、この娘から〔生まれた〕子はエティオピア人〔黒人〕だったという。〔HA. VII_6(586a)〕

113章
 新生児は、40日になるまでは、目覚めているときは笑わないのはもちろん、涙も流さないが、夢の中では両方ともするという。〔HA. VII_10(587b)〕

114a章
 彼〔アリストテレース〕はまた、次のような諸点によって、人の性格判断(physiognomonein)をしている。額の大きな人たちにはのろま、〔額の〕小さな〔人たち〕には移り気 — どちらの場合もたいていは前に出ているのだが — 、平たい人には取り乱しやすい〔という徴〕があるという。〔HA. I_8(491b)〕
114b章
 眉が真っ直ぐなのは柔和な性格の、鼻の方へ曲がっているのは、厳格な〔性格〕の、こめかみの方へ〔曲がっている〕のは嘲笑者や皮肉屋の〔徴〕だという。〔HA. I_9(491b)〕
114c章
 まぶたが肉質なのは、邪悪さの、耳は中ぐらいが最善の性格の、しかし大きくてそばだったのは、愚論と駄弁の〔性格の徴〕だという。〔HA. I_9(491b)、I_11(492b)〕

115章
1
 彼の主張では、雌の動物たちのうちで、性愛に対して強い傾向性を持っているのがウマで、強烈な雄ウマ狂いになるという、ここからして、このことばを中傷目的に転用して、性愛に衝き動かされる女に対する罵りにするという。〔HA. I_18(572a)〕
2
アイスキュロスも、記録にもとづいて、これに類したことを、『弓射る女神たち』の中で、乙女たちに向かってほぼ次のように述べているようである。
  嫁入り月〔gamelion〕に、きよらなる乙女たちのために歌うとき
  新床に仮借なき視線の矢が注がれる。
ここで中断して、彼はつけ加えている
  わしの眼に気づかれずして燃えあがることなし
  ひとたび男を味わったことのある女は。
  そういったことの馬鑑定人の心をわしは持っておるゆえ。

 アリストテレースが書きとめたことはたくさんあるので、さしあたり、われわれができたのは、一部を抜粋し、一部に言及したにとどまる。

116章
 <……>歴史著述家のアルサメーン〔?〕の主張では、ペルシア人には生まれるとすぐ歯があるという。

117章
 レスボス島人ミュルシロス〔前250年頃〕によれば、オゾライ・ロクロイ人たちは地名伝説を持っており、それによれば、彼らの土地の水、とりわけ、タピオスと呼ばれる山〔Taphios oros(墓山)〕は、臭いがする。たしかに、そこから海に流れこむが、膿のようである。この山には、ヘーラクレースが殺したケンタウロスのネッソスが埋葬されているという。

118章
 レームノス女たちが悪臭がするのは、メーデイアがイアソーンといっしょにやってきて、この島に毒薬を投与したからである。じっさい、ある期間、とりわけ、メーデイアが滞在したと記録されていると同じ日数の間、彼女たちはあまりに嫌な臭いがするので、誰も近づかないほどであるという。

119章
1
 歴史著述家テオポンポスの主張では、ポントスのヘーラクレイアの近く、アコナイと名づけられている地方に、「豹殺し(akoniton」と呼ばれるものがあり、ここから〔土地の〕名称もつけられたという。はっきりした効き目があるが、同じ日にヘンルーダを飲むと、何の効果もないという。
2
だから、僭主クレアルコス〔僭主。在位 前364/3-353/2〕が多くの人たちを毒殺しようとしたとき、しかし何が起こったか露見するのをわからないようにしようとして、〔自分が?〕ヘンルーダを食べないうちは、ヘーラクレイア人たちの大多数が出ていかないようにしたという。その理由も、何がきっかけで目撃されたかも、すこぶる長々と彼が書いているので、われわれは省略することにしよう。

120章
 『サモス年代記』の編纂者は、ヘーロストラトスの最初の弟子と呼ばれた人々の時代に、白いツバメが現れたと主張している。

121章
 レーギオン人ヒッピュス〔?〕は、[はまったものを破壊すると言われている場所について]次のようなことを書いている。彼の主張では、[アテナイのエパネトス王の御代、ラコーン人のアリュタマスが徒競走で優勝した第36オリュンピア紀年〔前636年〕に]シケリアのパリコイに建設された土地は、ここに足を踏み入れたものは誰でも、跪いたら死ぬが、歩きまわったら、何事もないという。

122章
 「白い島(Leuke nesos)」についても記録しており、アキレウスの神殿の上を翼もて飛び越えられる鳥はいないという。

123章
 バラトロン〔原語"barathron"は、「大地の割れ目、裂け目」の意味であるが、ここに罪人などを突き落として処刑した。アテナイのものが有名〕とかカローニア〔原語"Charonia"は、正式には"Charoneia barathra"「地界の渡し守カローンの割れ目」の意で、有毒ガスに満たされた洞窟のことを言い、地下世界への入口と考えられていた〕とか呼ばれる類は、どうやら、多くの場所にあるらしく、例えば、エウドクソス〔キュジコスのエウドクソス、前125-100活動〕の主張では、プリュギア近辺の大穴(bothynos)つまりキンメロスと呼ばれるものがそうだし、ラトモスの濠もそうである。

124a章
 月とともに生長し、〔月と〕ともに消滅するもの — 例えばネズミの肝臓 — も特異なもののひとつである。すなわち、月とともに満ち、ともに消滅し、ともに生長すると言われ、それゆえ、多くの人たちの間では、驚嘆措く能わざる怪物の喩えの部分に、「ネズミたちの肝臓」が含まれるのである。
124b章
1
 海のハリネズミ〔ウニ〕の卵も同じことをこうむる〔「ウニには生まれるとすぐ卵があり、また満月の時の方が多い」 — 『動物部分論』IV_5(680a)〕。 2 特異なのは、それら〔ウニ〕がみな5つの、相互に等間隔をたもった卵を有し、殻の周囲もぐるりと……、その結果、棘から出た  〔?〕も等しく本体にくっついていることである。

125章
 言い伝えでは、イタリアの海峡[に関して]も、月の盈虚につれて消滅したり満ちたりするという。〔Mir. 55〕

126a章
 レスボス島人ヘッラニコスが『エジプト誌』の中に記録しているところでは、町に洞穴があり、そこでは30日間だけ風が吹き、ほかの日は無風だという。
126b章
1
 しかし、この抜粋は、何らかの検証を持たず、記録もしがたい。エウリポス海峡が7日目ごとに向きを変えることはないというようなものである。
2
アリたちは新月ごとに休息するというのも同じ。

127章
1
 デルポイ人たちの言うには、パルナッソス山では、一定期間、コーリュキオン〔Korykion antron〕が黄金のようになるという。
2
だから、ピロクセノス〔前435-380〕が次のように言ったのも、比喩的に言ったのだとは誰もいえないのである。
  自分たちはパルナッソス山を通って
  黄金をまといし妖精たちの蔵の中に。

128a章
 ピュッロイ人たちの間では、畜群は5日目にごとに水を飲まされると言われている。128b章
 これよりも奇々怪々なのがザキュントス島〔イオニア海にある。イタカ島の南の島〕でのことである。すなわち、季節風の期間、ヤギたちが北風に向かってあくびをして立っている、これをすると、水を欲しがらないばかりか、飲みもしない。

129章
1
 キュレーネ人カッリマコス〔前270年頃〕も奇談集の抜粋のようなものを作っているが、その中から、わたしたちにとって傾聴に値するように見えるものを書き出してみよう。
異文1
彼の主張では、エウドクソスが記録しているという、 — トラケーのヒエロン山の海〔=湖〕には、ある時期になると、アスファルトが現れると。
2
ケリドニアの海〔=湖〕は、広い範囲にわたって甘い泉があるという。

130章
 テオプラストスが〔記録しているという〕、 — アイオロス諸島〔シケリア北方のいわゆるリパラ七島〕付近の海は、広さ2プレトロンにわたって沸騰しているので、熱さのためにこの海に足を踏み入れることはできないほどだと。

131章
 カルケードーン人たちのデーモネーソス山の海からは、潜水夫たちが2尋までもぐって銅を運びあげる、この銅によって、ペネオス〔アルカディア北東部の都市〕にある人像 — ヘーラクレースによって奉納されたもの — も制作されたという。

132章
 『インド誌』を書いたメガステネース〔前350頃生-290没〕は、インドの海には樹木が生えると記録しているという。

133章
1
 河川や井泉についてはリュコスが言っていると彼は主張する、 — カミコス〔シケリアのアクラガス近くの都市〕河は、海が煮え立つときに、流れこむと。
2
カパイオス河やクリミソス河は、水の表層は冷たいが、下層は熱いという。
3
ヒメラ河は、ひとつの水源から、塩辛い流れと、飲用水とが分離して出て来るという。

134章
 ティマイオスが記録しているという、 — イタリアの河川のうちクラティス河は、毛を黄変させると。

135章
1
 ポリュクリトス〔前4世紀頃の歴史家、Mendaeusu出身〕が書きとめているという、 — ソロイ市〔キリキアを流れるピュラモス河の河口西部にある海港都市〕にある河がリパリス〔「油」〕河と名づけられているというのは嘘ではなく、あまりに油っぽいので、それ以上油を必要としないほどだと。
2
パンピュリアにあるムウアビス河は、ものを投げこむと、野石や煉瓦に石化するという。

136章
1
 アグリア・トラケー人たちの領地の付近には、ポントスと命名されている河を、人形をした石が流れ下ると彼は主張する。この石は燃えあがるが、樹からできた木炭とは正反対である。というのは、扇によって扇がれると鎮火し、水を降りかけられるとよりよく燃えあがるという。〔Mir. 115〕
2
この石は、四足獣の臭いをとどめぬという。

137章
 ルウソイ市〔アルカディア南部の都市〕にある泉は、ランプサコス人たちの所にあるのと同じく、家ネズミに似たネズミがその中に住んでいると、これはテオポンポスが記録しているという。

138章
 アロスにあるOphioussa〔「蛇泉」〕は、ライ病を治すとエウドクソスが。

139章
1
 レーギオンのリュコス〔前300年頃〕が言っているという、 — シカノイ人たちの領土〔"Sikania"は、シケリアの古名〕にある泉は、粗酒(oxos)をもたらすので、彼らはこれを副食に使うと。
2
ミュティストラトンにある泉は、オリーブ油のようなものが流れる。これはランプを燃やし、できものやかゆみを癒す効能があり、Mytistrationと命名されているという。
3
近くにあるのが、大角星(Arktouros)から昴(Pleiades)まではほかと何ら違わない水を湧き出させるが、昴から大角星までは、昼間は煙を噴き上げ、熱水を吐きだすが、夜は炎に満ちている泉である。

140章
1
 シュラクウサイにあるアレトゥウサの泉は、ほかの人々もだがピンダロスも主張しているとおり、水源をエリスのアルペイオス河に有する。だから、オリュンピア祭の日々、この河で犠牲獣の内臓を洗いすすぐと、シケリアにある泉はきれいにならず、獣糞が流れるという。
2
また、かつてアルペイオス河に投げこまれた杯がこの泉で現れたという。このことはティマイオスも記録している。

141章
 彼の主張では、テオポンポスが書いているという、 — トラケー人たちのキンクロープスにある泉の〔水を〕味わった者は、すぐに死ぬと。

142章
1
 スコトゥウサ〔テッサリア中央部の都市〕にある泉は、人間だけでなく家畜の傷口をも健康にする効能をもった特異な泉であるという。
2
材木を割ったり砕いたりして投げこんでも、ひとつになるという。〔Mir. 117〕

143章
 カオニア近辺の泉からは、水分が蒸発すると、塩ができるという。

144章
 アンモーンにある泉については、アリストテレースが言っていると〔カッリマコスが〕いう、 — ヘーリオス〔太陽神〕に捧げられた泉は、真夜中と真昼、熱泉になるが、午前や午後には、氷のようになる、ほかにゼウスの泉は、太陽が現れると、噴出し、日没時になると、静止すると。

145章
 クテーシアス〔の言によれば〕、エチオピアにある泉は、水は辰砂のように真っ赤であるが、この泉から飲む者たちは、精神錯乱になるという。このことは、『エチオピア誌』を編纂したピローンも記録している。

146章
 インドにあるシラの泉は、投げこまれものがどんなに軽くても浮かせることはなく、引きずり込むという。もっと多くの水についても、もっと多くの同じようなことを彼らは述べてきたのである。

147章
 エウドクソスが記録しているという、 — カルケードーンにある泉には、エジプトにいるのに似た、小さなワニがその中に生息すると。

148章
 アタマニア近辺には妖精たちの神殿があり、この神殿にある泉は、水はえもいわれぬほど冷たいが、この上に置かれたものは何でも沸かせる。また、薪や何か他のそういったものをくべると、炎をあげて燃えるという。

149章
 彼の主張では、アモーメートスが書いているという、 — アラビアのレウコテア〔Leukothea(白き女神)=イノの古名〕市には、メンピスから引かれた運河があるが、イシスの泉と呼ばれる泉に杯の葡萄酒を注ぐと、うまい飲み水になると。

150章
1
 湖については、クテーシアスが記録していると彼は言う、 — インドにある湖には、シケリアやメーディアにあるのと同様、金や鉄や銅は別にして、ここに下向けにはまったものは受け入れず、何か曲がったものを放り込むと、真っ直ぐにして投げ返すと。
2
白病〔ライ病〕と呼ばれる病を癒すという。
3
別の池では、穏やかな日には、オリーブ油が浮上するという。

151章
 イオッペー〔パレスティナの海港都市〕近くの地方にあるクセノピロン湖は、どんなに重いものでも浮かせるばかりか、3年目ごとに、湿ったアスファルトをもたらす。このことが起こると、30スタディオン以内にある銅器には錆がつくという。

152a章
 サルマタイにある湖は、ヘーラクレイデースが書いているところでは、鳥は飛び越えられず、近づくものはその臭気によって死んでしまうという。
152b章
1
 じっさいそれはアオルニス近辺でも起こると思われており、この噂は多くの人たちの間で広く信じられてきた。
2
しかしティマイオスの考えでは、これは嘘だという。なぜなら、この地方で暮らしを立てている人たちの慣習に、大部分があてはまらないかというのである。じっさい、彼はそのわけをこう言う、 — この地方には森林地帯が横たわり、多数の木の枝や葉群が風によって、あるものは折られ、あるものは揺すぶられるので、湖の上に何があるか見ることができず、〔湖は〕清らかなままであるゆえにと。〔Mir. 102〕

153章
 彼の主張では、エウドクソスが記録しているという、 — ザキュントスにある湖からは、もちろん、湖は魚をもたらすのだが、ピッチが浮上する。この湖に何を投げこもうと、4スタディオンは隔たった海上に現れるという。

 

154章
 リュコスが〔言うには〕、シケリアのミュライにある湖のそばに、樹木が生えるが、この樹の真ん中を通って、ひとつは冷たい水が、もうひとつは逆の〔水〕が上昇するという。

155章
 パニアスが〔言うには〕、ピュラコイ人たちの湖は、干あがると、燃えあがると。

156章
 アスカニアの泉〔ビテュニアのニカイアのそばの湖〕も飲める泉であるが、ここに運ばれたものは、洗剤なしでもきれいになり、この中に長い間放置しておくと、自然に消えてなくなるという。〔Mir. 53〕

157章
 キティオンにある泉についてニカゴラスが主張しているという、 — しばらく大地が干あがると、塩が見出されると。

158章
1
 [同じ]水についてテオポンポスが言っていると彼は主張する、 — いわゆるステュクス河の水は、ペネオスにあり、とある小岩からしたたっている。この水を汲みたいと思う者たちは、樹木に結んだカイメンで入手すると。
2
〔この水は〕角製の容器以外は、どんな容器も破壊するという。
3
味わう者は死んでしまうという。

159章
1
 リュコスが記録しているという、 — レオンティノイ人たちの領土にあるデッロスと名づけられている河川は、煮物の中でも最高の温度で沸騰するが、水源は冷たいままであるという。
2
これの近くの泉は、鳥類はすぐに死んでしまうが、人類は3日後に〔死んでしまう〕という。

160章
 これと似たことが、コス島のあたりのキュトリノンでも起こるという。というのも、この河は、分割できないものは投げ返して、生きものの反応を示すのに、置かれたものは過度に冷やすという。

161章
1
 コス人たちのところには、他にもちょっとした小川があって、これを通す樋はどんなものでも石に化したという。
2
次のことはエウドクソスもカッリマコスも見落としていることだが、この水からコス人たちは石を切り出して、観劇場を建設した。かくも強烈に、どんな種類のものでも石化するのである。

162章
 ピュトポリスにある人造井戸についても、エウドクソスが言っているという、 — ナイル河にいくぶん似ている。というのは、夏期は、岸の上まで満ちあふれるが、冬期は、あまりに残り少なくなって、汲み出すことさえ容易ではないと。

163章
 クレーテー島の細流についても、この上に座ると、雨のときでも、ずっと乾いている。じっさいクレーテー人たちに言い継がれてきているところでは、エウローペーがゼウスとの交わりを解かれて以来のことだという。

164章
 テオポンポスが主張しているという、 — リュンケースタイには、かなり苦い水がある。これを飲む者は、酒を飲んだように人が変わる。このことも多くの人たちによって証言されている。

165章
 アルメニアの岩場からわき出る水のことをクテーシアスが記録しているという、 — 魚たちを黒変させ、この〔魚〕を味わった者は死んでしまうと。

166章
 火については、クテーシアスが記録していると彼は主張する、 — パセーリス人たちの領土のあたりにあるキマイラの山の上に、いわゆる不死の火がある。これこそは、ひとが水をかければ、よりよく燃えあがり、藁屑をくべて押しつけておくと、鎮火するという。

167章
 これと似たことが塩についても起こるのが眼にされる。すなわち、シケリアの客人がわたしたちにくれたのだが、火の中では溶けるが、水の中では飛び跳ねる。<……>

168章
 石については、この同じ石が、トラケーのボッティア人たちのところにあり、太陽が照らすと、自分から火を点じると言っているという。かの地の石は、もたらされれば石炭屋の徳用、保存しておいても腐ることはなく、何度消しても、待ってましたとばかりに、同じ勢いで燃えるという。

169章
1
 植物のアカンサスについては、アリストテレースが主張しているという、 — エリュテイアあたりには、色がまだらの種類が見いだされ、これから撥ができると。
2
キタラ弾きのティモーンは、〔これを〕持っていて、多くの人たちに見せびらかせて言うには、恩師のアリストクレースが自分にくれた、これの使用に際しての感触は堅いと。

170章
 テスプロートイ人たちが、燃える木炭を地中から掘り出していることについては、テオポンポスが書き留めていると彼は主張する。

171章
1
 パニアスは、レスボスのある地方や、ネアンドリア近辺では、土塊がヘビの咬み傷に有効で[も]ある〔と書きとめている〕という。
2
〔この土塊は〕水の中に投げこまれても、沈みも溶けもしないという。
3
ピタネーでも、いわゆる煉瓦が浮くというのも、この種類に属するからであろう。

172章
1
 動物については、彼の主張ではリュコスが記録しているという、 — ディオメーデイア島にいるサギは、相手がギリシア人たちなら、この地域に通りがかるものがいると、触れられてもじっとしているばかりか、飛びついてきて、ふところに潜りこんで、親しげに尾を振る<……>と。
2
地元の人たちによって何か次のようなことが言われているという、 — ディオメーデースの同志たちがこれらの鳥の自然本性に変身したからだと。〔Mir. 79〕

173章
 アドリア海沿岸の住民であるエネトイ人たちは、テオポンポスの主張では、播種の時機になると、コクルマガラスたちに贈り物を遣わすが、この贈り物は蜂蜜と油をまぜた大麦菓子である。捧げると、これを運んだ人たちはその場を離れる、すると鳥たちの多くは、耕地の境に寄り集まって留まり、二羽ないし三羽が、飛来して、確かめてから、ふたたび飛び去る、それはあたかも、何か長老たちか監視者たちのようである。こうして、多数が<……>。〔Mir. 119〕
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  2001.06.10. PM. 9:23 HDが吹っ飛んだため、再度の入力。
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