断片1
テーバイに近いポトニアイにある泉は、これから馬たちが飲むと狂うと、イシゴノスが『信じられない事ども』の第2巻の中に記録している。
断片2
クラゾメナイにある泉は、これから家畜(thremma)たちが飲むと、羊毛を色つきにすると、前述のイシゴノスが記録している。
断片3
インドイ人たちのところにある泉は、潜水しようとする者たちを機械的に地上に投げだすと、クテーシアスが記録している。
断片4
クレーテーに水の導管(ochetos)がある、これを渡る者たちは、導管の中にいるかぎり、ゼウスの息子〔海水?〕に濡れることなく渡れる。
断片5
ペルサイで、オリーブ油に満たされた泉がアレクサンドロスの前にひとりでに現れたと謂われている。
断片6
キリキアあたりに、水の淀みのようなものがあって、鳥類や物言わぬ動物たちの窒息したのが、ここに浸されると生き返ると謂われている。 〔『異聞集』29〕
断片7
シュラクウサイへ行く道の途中に、大きくはなく水量も多くはない泉がある。しかし群衆がこの場所により集まり、賑やかになると水を惜しみなく提供すると、アリストテレースが主張している。 〔『異聞集』56〕
断片8
〔シケリアの〕パリコイ市にある泉 この泉は6ペーキュスの高さまで、水を吹き上げ、隣接する場所を浸水せんとするかのような印象を与える。しかしまったく溢れ出すことはない。地元の人たちは、最も大事な事柄に関する誓いをこの泉にかけて行うと、イシゴノスが『信じられないこと』の第2巻の中に記録している。 〔『異聞集』57〕
断片9
テッサリアのスコトゥサあたりに小さい小泉(krenidion)がある、これはどんな傷でも、言葉なき動物のでも治療する。この中に人が木を、砕きすぎたのではなく、断ち割ったのを、投げこむと、もとどおりにする。それほどこの水は粘着性があると、イシゴノスが主張している。
断片10
アルカディア〔北部〕のルウソイ市には、アリストテレースの主張では、ある泉があり、ここに陸棲のネズミがいる、このネズミたちはその泉の中で生活するため潜水するという。
〔『異聞集』125〕
断片11
イシゴノスの主張では、アタマースに泉があり、この泉の水は一部は冷たく、その上部はあまりに熱い、そのため、ひとが薪を上に置くと、たちどころに燃えあがるという。
断片12
クレイトール人たちのところに、同じ人の主張では、泉があり、この泉の水を飲んだひとは、酒の匂いに堪えられなくなるという。
断片13
同じ人の主張では、イタリアはレアテ野に、メンテー(Mente)と名づけられている泉があり、上に述べられたのと同じような〔泉〕だという。
断片14
同じく、コセー(Kose)の近くに泉があり、口からあふれるほど酒を満たした陶器をこれに置くと、どんな粗酒もたちどころにきつい酒になると、同じ人が記録している。
断片15
テオポムポスが記録しているところでは、トラケーのキンクロープスにある泉は、これで沐浴する者たちをたちどころに乱心させるという。
断片16
ヘッラニコスの主張では、マグネーシアあたりのシピュロスのための水源があり、これから飲む者たちは胃が石化するという。
断片17
クテーシアスの記録するところでは、アイティオピアにある泉は、色は辰砂色、これから飲む者たちは精神を狂わせ、その結果、ひそかに行ったことをも認めてしまうという。
断片18
アラビアにイシスの泉があり、この泉はブドウ酒のコテュレーが投げこまれると水で割り、飲酒に対して自制的となると、アモーメートスが主張している。
断片19
アリストテレースはアムモーンの泉があると主張しているが、この泉の水は、自然本性はこの上なく冷たいのに、南中時や真夜中になると熱くなるという。
断片20
テオポムポスの主張では、リュンケースタイ市に泉があり、味は酸っぱいのに、飲む者たちは酒のように酩酊するという。
断片21
シュカミナイ市に泉があり、この泉の水で沐浴したり、その水を飲用したりする者たちは、毛髪が抜け落ち、言葉なき動物たちは蹄が脱落すると、イシゴノスが記録している。
断片22
ポントス人ヘーラクレイデースが主張するところでは、サウロマタイ人たちのところに泉がある、この泉の近くに飛来した鳥類はこの中に落ちるという。
断片23
ヘーロドトスが記録しているところでは、長命のアイティオピアに泉があり、沐浴する者たちはこれに塗油されるという。
断片24
アルカディアのクレイトール人たちのところに、話では、泉があり、これから飲む者たちは酒嫌いになるという、この泉に次のような銘詩が刻みこまれている。
田舎人よ、南中時、渇きが汝を参らせるとき
羊飼いたちとともに、クレイトールの町の外れに来たりて、
この泉から、その飲み水を汲め。そして、ニュムペーたちの
水差し(hydria)にて、汝の家畜の群みなを宥めるがよい。
されど、汝は身を洗う風呂に使うべからず、すばらしき酩酊のうちにある汝を、
涼気がそこなうことないために。
わが葡萄嫌いの水源を避けよ、ここはメランプウスが
沐浴し、手に負えぬプロイトスの娘の狂乱を
すべて浄化し、その秘密を打ち砕きしところ。
断片25
逍遙学派の哲学者アリストーンの主張では、ケオースに水の源があり、これから飲む者たちは、魂が無感覚になるとという。この上にも次のような銘詩があるという
冷たき飲み水の快き流れ これを吹き上げる
源。されど、これを飲む者は、心、岩となる。
断片26
ペルシスのスウサ人たちのところには、水流があると言う、この水は、これを飲む者たちの前歯をたちどころに抜け落ちさせるという。この上にも次の銘詩が刻みこまれている。
汝が眼にするこれは恐ろしき水、外つ国の方よ、この水を手に
浴するは人間どもに無害たりうる。
されど、汝が長き道程の果て、空っぽの胃の腑に
きらめく水を注ぎかけんとするとき、唇に触れるのみにて、
その日のうちに、食物の木挽きたる歯は地上に
落ち、顎の座は孤児となる。
断片27
イタリアのアッリパノスには深い小井戸(phreation)があり、この水は〔底に〕見えるのだが、縄をいくらおろしても、水に接することなく、何か熱いものによって妨げられると、イシゴノスが主張している。
断片28
イタリアのクウマエの傍にあるアウウエルノスという泉があり、樹の葉とか木片とか、あたりにある木材(hyle)からできたものが落ちこむと、たちどころに沈んで見えなくなる。
断片29
アリストテレースが記録しているところでは、カルケードーンにオリーブ油よりも燃えやすい泉がある。清浄でない者が近づくと、それは涸れるという。
〔『異聞集』113〕
断片30
シケリアのゲラのあたりにシッラと呼ばれる湖があり、大きさはきわめて小さいが、この湖はここで沐浴する者たちを、まるで機械のように、乾いたところに放り出すと、アリストテレースが主張している。
断片31
「琥珀諸島(Elektrides nesoi)」の〔対岸〕エーリダノス〔ポー〕河のあたりに湖があり、熱い水をしているが、ひどい悪臭を放ち、これを味わう生き物はいない。
〔Str. 5_1_9; Plin. HN. 4_103参照〕
断片32
アブデーラにあるキュステイロンと呼ばれる湖は、話によれば、クセルクセース遠征隊が飲み干してしまったという。
断片33
ヒエローニュモスが記録しているところでは、アラビア人たちのナバタイオイ族の領土に、苦い湖があり、ここには魚も他の水棲動物のようなものもいない。土地の者たちによってここからアスファルトの煉瓦が採取されるという。
断片34
ピュテルモスの主張では、ひとがスキュポス〔という陶器〕をストリュモーン河の渦の中に投げこむと、それがアポッローニアあたりの湖で見つかるという。
断片35
パエトーンの主張では、ボスポロスにある河はあまりに冷たくて、その冷たさに動物はいずれも堪えられないという。
断片36
イタリアのタッラキアあたりには、イシゴノスの主張では、ミュクライアと呼ばれる泉があり、これの傍の都市は無人である、この都市の住民は、水の多さのために都市を奪われたという。
断片37
イタリアにある湖 ベーナコンと呼ばれ、周囲500スタディオーンある の中に、人が住み、栽培寿の繁茂した島があるが、風の吹き寄せるまま、浮遊し移動する。イタリアのクウティリアと呼ばれる別の湖でも、これと同じことが起こる。
断片38
ウウアディモーンの池と呼ばれる湖も、大きくはないが、イタリアにあり、同じように、あらゆる風によって移動する多数の小島を有している。
断片39
サルデイス〔サルディス〕にある湖 コロエーと呼ばれる は、多数の魚(opson)を大量に養っている。この湖も住民を欺く島々を持っている。というのも、風の吹き寄せるまま浮遊し移住するのである。しかし水鳥の数も非常に多く養っているので、貯蔵できるほどである。
断片40
スウシアネー〔紅海北端、スウサを都として広がる地域〕にある水は、話では、メーデイアのもので、腐食性の毒薬によって魔法にかけられる〔施薬される〕という、この水はある水源から流れ出ており、地元の人たちによって守られている。これはまた次のような力を持っている。すなわち、これを塗られたり、これに濡れたものは、動物であれ道具であれ、遠くから火が見せられると、〔その火を〕自分の方に引き寄せ、たちどころに発火する。で、〔この水は〕ナプタ(naphtha)と呼ばれるのだが、しかしながらこの地から持ち出されるとその力を失うと、イシゴノスが記録している。
〔液状アスファルトについては、Str. XVI, 1_15; LXX. Da. III_46〕
断片41
イタリアにあるサバトスと呼ばれる湖 この水は半透明をしていて、水底に多数の礎石や神殿や多数の人像が見える。地元の人たちの話では、かつて都市があったのが呑みこまれたのだという。同じことが、イタリアのキミノス池についても言われていて、昔、都市があったのが、突然に呑みこまれたという。
断片42
マケドニアある湖はリュクニティスと呼ばれ、調査研究(historia)のためにここを航行する。すなわち、水底を覗きこむと、寝椅子3つ〔を配置できるような〕高価な屋敷や、多数の銀皿 大きさも驚くべきもの、黄金製のピナクスやエクポーマ、贅沢さでは王者の富に属するようなありとあらゆる道具類の数々が見える。
断片43
リュディアに泉あり、タラ(Tala)と呼ばれ、ニュムペーたちの聖なる泉である、これが多数のアシと、その真ん中に、地元の人たちが王と呼ぶ1本とを運んでくる。彼ら〔地元の人たち〕は年に1度の供犠の祝祭を挙行してこれを宥める。これがすむと、水際に音楽(symphonia)のざわめきが起こり、アシたちが全員で合唱舞踏し、王も彼らといっしょに合唱舞踏しつつ、水際へと現れる、そして地元の人たちはこれを頭帯で冠し、送り出すのである、この旅そのものにも、また自分たち自身も、豊年満作の徴のあるところにたどり着けますようにと祈りつつ。イシゴノスが『信じられないこと』の第2巻の中に記録しているところである。
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