[底本]
TLG 0582
PARADOXOGRAPHUS VATICANUS
vel Anonymus Vaticanus
(A.D. 2?)
1 1
0582 001
Admiranda, ed. A. Giannini, Paradoxographorum Graecorum
reliquiae. Milan: Istituto Editoriale Italiano, 1965: 332-350.
(Cod: 1,617: Paradox.)





"t"
『驚くべきことども(Admiranda)』

断片1
 メガラ人ハゲーシアスの主張によれば、クロヅルたちは、トラケーから引き上げようとするとき、1羽から全員がぐるとお祓いを受ける。そうして、その1羽が叫ぶと、〔お祓いを受けたツル〕は命令を受ける者が下知されたかのように飛び立つが、浄めた1羽はその場に残る。また、海を横切るときは、2羽が翼を伸ばし、疲れ気味となった1羽がその上に載って休息するという。

断片2
 ダリオーンの主張では、『アイティオピア誌』の第1巻の中に、アイティオピアにはクロコッタス(klokottas)と呼ばれる獣がいるとあるという。この獣は、農家のあるところにやってきて、おしゃべりする者たち、とくに幼児たちの名前に聞き耳を立てる。そして、夜、やって来ると、その名を口にし、幼児が出てくるとその獣に平らげられる。

断片3
 ポリテースは、ポントスにいるメジ〔"pelamys"マグロの子〕は泥(pelu)から生まれると主張する。だから、この命名を得たのだと彼は言うのである。

断片4
 アリストテレースがその動物に関する書物の中で主張するには、陸上動物は肺をもっているかぎり、すべて呼吸する、しかしスズメバチとミツバチは呼吸しないという。膀胱をもっているかぎり〔の動物〕は、みな胃腸をももっている。しかし、胃腸をもっているかぎり〔の動物〕が、膀胱をも〔もっている〕わけではない。

断片5
 動物の多くは無血動物であり、総じて、それらはみな足を4本以上有する。〔『動物誌』第1巻4(489a)〕

断片6
 魚類は食道を持たない。それゆえ、小さな魚が大きな魚に追いかけられると、胃を口の下にもってくる。???〔『動物誌』第2巻17章(507a)では、「魚類は……たいてい食道がなく、口に直接胃がついている……、したがって、大きな魚が小さな魚を追っていると、胃が口の中へ出てくることがよくある……」〕

断片7
 ヘビ類は肋骨を30本有する。また、その眼をつつき出すと、再生する、これはツバメの〔ヒナ〕も同じ。〔『動物誌』第2巻17(508b);第6巻5(563a)〕

断片8
 ライオンの骨はあまりに硬く、しばしば打ち合わせると火が出るほどである。〔『動物誌』第3巻8(516b)〕

断片9
 ポリュクレイトスの主張するところでは、ガンゲス河にもカメ類がいて、その甲羅は容量5メディムナあるという。アガタルキデースは〔いう〕、完全な甲羅は小屋の屋根に使用すると。

断片10
 スカマンドロス河(Skamandros)は髪の毛を黄色(xanthos)にする。ここから、ホメーロス〔の作品〕においてクサントス河(Xanthos)とも命名されているのである。

断片11
 アンティゴノスの主張するところでは、ヒエラポリスにある熱い水は、あらゆるものを石化させ、それ自身もかき混ぜられて、石となるという。

断片12
 テオポムポスの主張するところでは、リュンケースタイにある水があって、これを飲む者たちは酩酊するという。

断片13
 ヘーラクレイデース[の主張で]は、サウロマタイにある湖は、鳥類はいずれも飛び越えることができないと主張する、飛び越えようとする鳥は、臭気によっておしまいになると。イタリアにあるアオルニス湖についても、まさにこのことが起こると思われている。

断片14
 プルウサにあるオリュムポス山のある地区では、恋に落ちたアポッローンに追いかけられたダプネー(Daphne)は〔大地に〕呑みこまれたと〔土地の人々が〕記録している。そして今まで、月桂樹(daphne)の葉が石の中に混ざって見つかるという。

断片15
 オリュムポス山のある地区に、薄い葉の柳に似た樹があり、これは処女たちの生まれ変わりだと〔ひとびとが〕言っている。つまり、恋情に陥ったボッラスをのがれようとした処女たちが樹に変えられたという。今でもなお、人が木の葉にさわると、風が巻き起こり、たちまち激しく吹きすさび、3日経ってやっとおさまると〔人びとは〕言っている。

断片16
 トラケーにあるメストス河は、姦通した女たちを吟味する、 — 夫が彼女にこの水を飲ませ、そして言う、「おまえが姦通したのでないなら、男の子を産む、〔姦通〕したのなら、女の子を〔産む〕」。

断片17
 ゲルマニオイ人たちのところにあるレーノス〔ライン〕河も吟味する。すなわち、生まれた児が姦婦のものなら、死ぬ、〔姦婦のもの〕でなければ、生きる。
 〔どっちにしても児は死ぬ。魔女の水裁判を連想させる〕

断片18
 トラケーにあるペリントス河 — ペリントスという都市もこれに由来する。ここから飲む者は、内臓が腫れる。原因は、ゴルゴーンがペルセウスに退治されたとき、その頭からの血の滴りが、この中に流れこんだからである。

断片19
 プリュギアのケライナイにアルシュアスという河〔マイアンドロス河の近くの河。現Tschina Tschah〕がある。この河は、どこからか笛の音が聞こえてくると、大声で騒ぐが、竪琴の音の時は、静かに流れる。笛吹マルシュアスがここで溺死たからである。

断片20
 タウロメニオン河は、シケリア〔北東〕の同名の都市の河である。この河は雷鳴が聞こえると恐れて大地にもぐるが、雷鳴がやむと、まるで水源のように再び大地から吹き出してくる。

断片21
 アキス(Akis)という名の冷たい河がシケリアを貫流している。この河は、夏の間は泥水をしているが、冬の間は美しい半透明の水をしている。

断片22
 リュンケースタイ人たちのところ〔マケドニア西部、エリゴン川の上流地域、都市はリュンコス(Lynkos)〕に泉あり、この泉から飲む者は酩酊する。

断片23
 アイギュプトスにメムノーンの像〔下図〕が建っているが、この像は、太陽が昇るときに、まるでそれ〔太陽〕に挨拶するかのように、歌う。
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 〔暁の女神エーオースと、ティトーノスとの子。エティオピア王。トロイアに加勢して勇戦したが、アキレウスに敗れる。メムノーンの故郷については諸説ある。エジプトにはテーバイにメムノネイオンMemnoneionという彼の神殿があり、またアメンホテプAmenhotepの巨像がメムノーンの像であると考えられ、この像は日の出に際して音を発したので、メムノーンが母エーオースに挨拶しているのであるとされていた」高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』〕

断片24
 ケルトイ人たちは、困窮したときであれ疫病になったときであれ、まるで諸悪の原因であるかのように、自分の妻を懲罰する。

断片25
 イベリア人たちのところには、ある祝祭で、女たちを贈り物でたたえる習慣がある。最多・最美の着物(himation)を織った女たちは、このとき披露するのである。

断片26
 クロビュゾイ人たちのところには、生まれた赤ん坊は哀号し、死んだのは幸福視する習慣がある。

断片27
 リビュエーにいるナサモーネス人たち〔「ナサモン人というのはリビア系で、シュルティス(リビア北方海岸の大砂州地帯をさす)からその東方の小地域にわたって居住している民族である」『歴史』第2巻32〕のところには、結婚した女は、最初の日、誰とでも居合わせる者たちと性交し、相手から贈り物を受け取る、そしてその後は、婿とだけ交わるという仕来りがある。

断片28
 サウロマタイ人たちの女たちは、敵の男を殺さないうちは、その前に結婚することはない。〔Hdt. IV_117〕

断片29
 ペルシア人たちは、自分の家の犬たちに、あたかも富者や評判高い人たちにするように、食べ物を供える。

断片30
 シュリア人ペレキュデースは、シュリアの島にあるひとつの水源から水を飲んで、最高の占い師となり、いくつかの地震多その他のことを予言した。

断片31
 エウエーレースの子テイレシアスは、2匹の大蛇が交尾しているのを見て、これを殺したところ、たちまち女となったが、久しからぬ後、また男〔にもどった〕、そして、ゼウスとヘーラから、性交中の男と女の快楽の判者を任された。女の快楽の方が多いと彼は言う。

断片32
 ホメーロース〔の作品〕において、プローテウスはありとあらゆるものに変身した、あたかも、テティスがピンダロス〔の作品〕において、ネーレウスがステーシコロス〔の作品〕において、メーストラがヘーシオドス〔の作品〕において〔変身したように〕。

断片33
 逍遙学派のアリストーンの主張では、島にキアKiaという水の源があり、これから飲む者たちは無感覚になるという。

断片34
 インディケーあたりに湖があり、これは金と銀以外なら何でも受け入れる。

断片35
 ヘッラニコスの主張では、インドイ人たちのところにシラと呼ばれる泉があり、どんなに軽いものでも沈められるという。

断片36
 ヒエラポリスにカローンの地と呼ばれる場所があり、なるほどここには歩くものがいない。即死するからである。

断片37
 セレムノス河はアルカディアを貫流していて、この河の水は恋の媚薬となる。

断片38
 テオポムポスが言うには、トラケーに泉あり、これで沐浴する者たちは〔あの世に〕往生するという。

断片39
 ローマの歴史家アキュリオスの主張では、シケリアは大洪水の前は、今のように島ではなく、後のイタリアと陸続きの大陸であった。それが、洪水の水流の氾濫によって、アペンニノスApenninos〔アペニン〕山脈から引き離され、スキュッライオン岬のところで陸が砕かれた(rhegnymi)が、島が回復し、それゆえにイタリアのあの側辺はレーギオン(Rhegion)と呼ばれるようになったという。

断片40
 ペルシア人たちは、火に赤ん坊を近づける者たちとか、河に小便する者たちとか、〔河で〕洗濯する者たちとかを死罪に処する。 〔Hdt. I_138〕

断片41
 ゲタイ人たちは、話によれば、ゼウスの雷鳴の時にドラムをたたき、空に向けて矢を放って、この神を脅迫するという。〔Hdt. I_94〕

断片42
 パダイオイ人たち — インドの民族 — のところでは、同席者たちのうちで最も親しい者が犠牲として供される。しかし神々には、正義以外のものは何も責めを負わさない。〔Hdt. III_99〕

断片43
 ピリッポスの子アレクサンドロスは、マケドニア人たちに対する支配権を握ったのが14歳の時。グラニコス〔河〕に攻め入ってペルシア人たちに勝利したのが24歳の時。それゆえまた、その日をことのほか尊び、神々に供犠したのは、この第4の日に、明らかに、最大の偉業が達成されたからである。かつては、何ほどかのことをなしたいと望んだときも、彼は4という数字(tetras)を待たなかったのだが。
 〔4の日"tetras"はヘーラクレースの誕生日といわれ、この日に生まれた者は、苦労が多いと同時に、大願成就すると言われる〕

断片44
 ガラタイ人たちのところでは、誰であれ、最大の不正を行いながら庇護を求めた者が、馬ないし喇叭を寄贈するなら、解放される。
 この者たち〔ガラタイ人たち〕は、戦争の協議をする際には、女たちに相談し、何であれ女たちが認めれば、それが決定事項となる。しかし、戦争して敗北した場合は、女たち — 戦争を祈願するよう忠告した女たち — の頭を切り離して、地上に投げ捨てる。

断片45
 リビュルノイ人たち(Libyrnoi)は妻を共有し、生子を5歳になるまで共同で養育する。その後、6歳になると、小児全員と夫たちとの類似性を比較類推し、各人に類似した児を割り当て、以後は、その者がこれを息子として持つ。

断片46
 ダルダネイス人たち — イッリュリアの民族 — は、一生に3度沐浴する、誕生したとき、死んだとき。そして伝令官として敵勢におもむくときは、仔羊と木の枝を携行する。敵勢が条約を受け容れたときは、携行したものを置いてくる。そうでないときは、再びそれを持ち帰る。

断片47
 スキュタイ人たちのアンドロパゴイ〔"androphagoi"「食人族」〕と言われる人たちは、人間の頭蓋で飲み、敵の頭の皮を加工して手巾を作り、残りの身体は爪もろとも剥ぎ取り、馬上にかけておく。〔hdt. IV_64〕

断片48
 サウロマタイ人たちは、3日間ぶっ通しで満腹するまで食事をする。万事女たちに聴従し、男たち自身は女の衣裳を身につける。敵のひとりが竈の火のところに逃れ、炭で顔を汚したときは、嘆願者のごとく、もはやこれに不正することはない。処女は、敵を殺さないうちは、男と同居することはない〔Hdt. IV_117〕。

断片49
 プリュギア人たちのところでは、農耕用牛を殺した者ないし、農耕用の用具を盗んだ者は、死罪に処せられる。

断片50
 リュキア人たちは、男たちよりも女たちの方を尊び、呼ばれる名は母方の名であって、父方の名ではない〔Hdt. I_173〕。財産相続権が遺贈されるのは娘たちであって、息子たちではない。自由人であっても、盗みをしているところを捕らえられると、奴隷となる。裁判中の証言が提起されるのは、すぐにではなく、1ヶ月後である。

断片51
 アッシュリア人たちは処女たちを市場で、いっしょになりたい者たちに売る、まず最初は最も生まれのよく最美な処女を、次いで順々に残りの処女たちを。最もつまらない処女たちに至ると、いくら受け取ったらこれといっしょになる気のある者がいるか布令てまわり、妥当な値が付けられると、それがこれら[の処女たち]に付加される。〔Hdt. I_196〕

断片52
 ペルシア人たちは、してはならないことは、口にすることもない〔Hdt. I_138〕。ペルシア人たちのもとでは、新奇な快楽を考案した者は、ソーリュ(sory)〔硫酸第一鉄=緑礬(ferrous terite)〕を受け取る。[ペルシア人たちのもとでは]王から有罪判決を受けた者は、生涯悲嘆し、岩でつくった飲用器(petrinon poterion)で飲む。しかしその王が亡くなると、全員がその罪から放免され、好きなものを略奪し、3日の間違法行為をし、ついに王の門前に押しかけて、〔新しい〕王に懇願する、新王はこれらの者たちを無法状態から解放する。[ペルシア人たちのもとでは]王が誰かを鞭打つことを下命すると、〔鞭打たれる者は〕善いことを得たかのように感謝する。

断片53
 インドイ人たちのもとにおいては、手工業者の手ないし眼を不具にした者は、死罪になる。

断片54
 アイギュプトス人たちのもとにおいては、証言することは、字を知らない者には認められていない。

断片55
 アタランテ・リビュエー人たちが、最善の処女と判定するのは、最も長い間〔結婚せずに家に〕???とどまっていた処女である。

断片56
 カルケードーン人たちのもとにおいては、兵役免除者たちには、黄金製の耳輪を身につけることは許されていない。ところが、出征することになっているかぎりの出征兵士たちは、そういった耳輪を身につけるのが常である。

断片57
 ラケダイモーン人たちが老人たちを前に恥じること、父親たち〔の前に恥じるのと〕何ら劣らない。また、軍事訓練(gymnasia)は男たちのものであるのと同様、処女たちのものでもある。また、外国人たちには、スパルテーの中に住みこむことが許されず、スパルタ市民にも外国住まいは〔許され〕ない。この〔スパルタ〕人たちは女たちに督励して、最も器量のよい者たち — それが町衆であれ外国人であれ — から出産させようとする。

断片58
 クレーテー人たちは、ヘッラス人たちのうちで法習 — ミノースの制定したもの — を持った最初のヘッラス人である。ミノースの申し立てによれば、この法習をゼウスから学ぶために、ゼウスの洞窟と言われているとある山に、9年間通ったという。クレーテー人たちの子どもたちは、教練を受けるためにお互いに共同で群居して、軍事を教えこまれ、狩猟のための丘駆けを裸足で行い、ピュッリコスが最初に発明したというピュッリケー〔"purriche"戦いの踊り〕を実習するのである。

断片59
 リギュエス人たち〔ピレネー山脈とアルプス山脈の間から、イタリアのジェノアにかけて居住した民族〕は、老いのためにもはや耳が使えなくなると、崖から突き落とす。

断片60
 タウロイ人たち — 〔クリミアの〕スキュティア系民族 — は、王の友たちのうちで最も好意的であった者たちを〔王といっしょに〕殉葬する。しかし王は、友がなくなると、耳の小片を切り取り、血の繋がりのより強い者が亡くなったときは、もっと多くを削ぎ取る。誰よりも好意的な者が死んだ場合は、〔耳の〕全部を〔削ぎ取る〕。

断片61
 スキュティア人たちの一部は、死者の肉を細切れにし、塩をふり、天日で乾燥させる。その後で、その肉を紐で数珠つなぎにし、自分の頸にかける。そして友たちに出会うと、短刀をとって肉を切って与える。〔肉片の〕すべてがなくなるまでそれをする。

断片62
 アテーナイ人たちは、使者たちを墓の上に安置し、あらゆる豆類を供える、それからありとあらゆる果実が見つかる徴としてである。

 //END
2002.07.27. 訳了


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