ティモテオス断片集

[底本]

TLG 2449
TIMOTHEUS Gramm.
(A.D. 6: Gazaeus)
3 1
2449 003
Excerpta ex libris de animalibus (e cod. Paris. gr. 2422), ed. M. Haupt,
"Excerpta ex Timothei Gazaei libris de animalibus," Hermes 3 (1869) 5-30. (Cod: 5,479: Nat. Hist., Paradox.)

[略伝]
TIMOTHEOS OF GAZA,grammatikos (Souda, ed. Adler, 4:557-9) and armchair zoologist;
fl. ca. 491-518.
A student of the Egyptian philosopher Horapollo, Timotheos reflected the approach to learning of the 5th-C. school of GAzA. He wrote a poem in four books on exotic animals, variously called Indian Animals or Quadrupeds and Their Innately Wonderful Qualities or Stories about Animals. He drew from several earlier sources, incruding Aristotle, Plutarch, Oppian, Aelian, and Philostratos, with passages culled from Nikander of Colophon, Pliny the elder, Galen, and an early version of the PHYSIOLOGOS. The work survives only in a mid-11th-C. prose summary, dated by the scribe's mention (ch. 24) of the zoo of Constantine IX Monomachos〔reign 1042-55〕. The work is a fine mélange of zoology and legend (e.g. ch. 9, “The Tiger and the Griffin”). The chapter on “The Giraffe” gives valuable details on the transport of elephants and giraffes in the reign of Anastasios I〔491-518〕, yet states that the giraffe is “produced by the intercourse of different animals” (24.1), John Tzetzes remarks that Timotheos, along with Aelian and Oppian, represents the best zoology (Historiae 4.166- 69); apparently the prose summary of the Animals was widely used as a schoolbook and was enormously popular.
(The Oxford dictionary of Byzantium, Oxford University Press, 1991, v. 3, p. 2087)





『動物に関する諸本からの抜き書き(Excerpta ex libris de animalibus)』
(e cod. Paris. gr. 2422)

〔主題1〜3 欠番〕

主題4 ヒュアイナ〔ハイエナ〕*1について。
 1年ごとに、雄になり今度はまた雌になるということ*2。
 鋭くて硬い毛を有するということ。
 首を曲げないのは、骨が椎骨ではなくて、1本の骨だからだということ。
 オオカミと交尾して、いわゆる離れオオカミ(monolykos)を生むが、これは群をなさず、離れて過ごし、人間や家畜を略奪するということ。〔HA 594a〕
 墓から腐った身体を盗むということ。
 夜、日中と同じくらい見えるということ。
 げーげー吐きもどして、イヌたちを接近する気にさせ、そうやってこれを狩るということ。〔HA 594b〕
 イヌたちに取り入って、口を押しつけ、窒息させるということ。
 月明かりの中を行き、屋根の上にイヌがいると、自分の影を下から見せて、そのイヌを上から降りてこさせるということ。
 誰か眠っている者がいるのを見つけたら、頭の下に穴を掘り、喉をおさえて、その血を呑むということ。
 ヒュアイナの胆汁は鋭い眼(oxydorkia)に益するということ。
 ストリュクノス(strychnos)*3という草を恐れること、あたかもオオカミがスキッラ(skilla)*4を恐れるがごとしということ。
 ハイエナの獣皮からつくった履き物を身につけた者は、イヌたちの中を通り過ぎても怖くないということ。

*1 西南アジアから北アフリカにかけて産するシマハイエナ(Hyaena hyaena)という(島崎註)。
*2 ハイエナには、雄にも雌にも、尻尾と肛門の間に悪臭を放つ分泌腺があり、これが雌の陰門に似ているという(島崎註)。
*3 テオプラトスの『植物誌』によれば、催眠作用があるもの(Withania somnifera)、食用になるもの[イヌホオズキ](Solanum nigrum)、発狂させる作用がある種[シロバナチョウセンアサガオ](Datura stramonium)などの種類がある。
*4 Urginea maritima。

主題5 アローペークス〔キツネ〕について
 空腹になると、人気のない土地で、死体のようにわが身をぐったりさせ、鳥たちが集まってきて、これを喰らおうとすると、いきなり跳びかかって、そのうちの何羽かを狩って食べるということ。しかし、このことは海のカエル〔アンコウ〕もシビレエイ(narke)もする。
 バシリスコス(basiliskos)*1はアザラシの獣皮を恐れるということ。
 〔キツネは〕自分の巣穴に7つの出入り口をつくり、イヌたちや人間たちに追跡されると、他から他の〔出口〕に移動して逃げ出すということ。
 けっしてなつかないということ。
 オオカミがスキッラを恐れることを知っていて、オオカミに害されないよう、その下で眠るということ。
 カマイレオーン〔カメレオン〕(ピュシグナトス(physignathos)*2と言われる)の胆汁を恐れるということ。
 種播かれた耕地を転げまわり、転げまわったその土地が侵害されないようにする。そこから、髪の毛が抜け落ちたり生えない部分のことをアローペケイア(alopekeia)*3とも言われるのだということ。
 ローメー〔ローマ〕人たちによってダヌウビオス(Danoubios)*4と呼ばれるイストロス河の結氷部を通り抜けるということ。氷解が近いことを知ると、逃げ、ここに向かう陸兵にも同じように逃げるよう、しかし船員たちには準備するよう合図を送る。しかし、もし〔キツネが〕逃げなければ、河はまだ凍結したままであるという合図である。
 狩りをするイヌたちを、子宮の風気*5によって惑わして欺き、尻尾を振って、交尾に及ぶ。すなわち、イヌと交合して、いわゆるアローポス(alopos)*6を産むということ。つまり、〔キツネが〕雄で、イヌが雌の場合は、ラコーニア犬*7が産まれる、あたかも、イヌとトラが交合してインド犬*7が産まれるごとくに。〔HA. 607a, Plin. VIII_67, Aelian. VIII_1...〕

*1 原語は「王」の縮小辞「小さな王」の意。もとはファラオの王冠の飾りをなすコブラを意味したのであろう。
*2 「頬ふくらまし」の意。『鼠と蛙の合戦』に登場する蛙の名前。
*3 「キツネの地所」の意。要するに、「禿げ」のこと。
*4 "Danuvius"つまりダニューブ河。これの下流がイストロス河と呼ばれた。
*5 「子宮の風気(anemos gastros)」という語は、ヒッポクラテス「〔前270頃没〕婦人病」2, 179以下に出てくる。
*6 不明。L&Sは、キツネ(alopex)と同じとする。雌は"alopa"。
*7 ラコーニア犬(he Lakonike kyon はキツネとイヌの雑種で(第8巻28章607a3、『動物発生論』第2巻7章 — したがって、Xenophon, Cyn., 3, 1 のalopekis, kynalopex と同じらしい)、雌の方が賢く、モロッティアMolottia の猟犬との雑種は、勇敢で労苦にたえ(第9巻1章608a25, 30)、鼻が長くて、嗅覚が鋭い(『動物発生論』第5巻2章)とある。猟犬としてことにイノシシ狩りに使われたらしい — Canis graius Linne(Bo)。(島崎三郎)

主題6 陸のハリネズミ(echinos chersaios)*1について
 ハリネズミは、ヘビと闘ってこれを殺す、つまり、その棘でヘビを突き刺し、これをずたずたにするということ。
 ハリネズミが、戦いでキツネに勝つのは、〔キツネが〕その〔ハリネズミの〕棘に暴行をはたらくことができないからだということ。
 ハリネズミは、どういう風が吹くかを前もって報せる。すなわち、自分の巣穴を、風が吹いて来るであろう方角とは異なった方へ、もはや風の吹いていない方に向けて入口を形作る、ということ。だからこそ、それをよく心得ていて、どういう〔方向から〕風が吹くかをあらかじめ知っていると公言して、好評を博した人がいるのである。
 夏の季節に、ブドウの木から房をゆすり落として、転げまわってブドウの粒を棘に突き刺し、ブドウの房で長髪にしているかのようにして、巣穴に帰るということ。
 これの胆汁は蜜蝋とこね合わされると、死んだ胎児を堕ろすということ。

*1 陸のハリネズミに対して、「海のハリネズミ」とはウニのことである。

主題7 オオカミについて
 オオカミは先に誰かを眼にすると、これを口がきけなくさせ、数刻の間、ものがいえなくさせるということ。
 自然本性にヒツジの敵であり、これをしばしば掠奪して、尻尾を笞にして追う、ヒツジもまた自分からついてゆくということ。
 過度に喰ったときは、その舌が腫れて、その喉をふさぐということ。
 〔オオカミが〕ヒツジといかほど敵対的かといえば、その〔オオカミの〕腸弦がしばしば竪琴の中にあるのがわかると、その他のヒツジの腸弦は用をなさず、弾奏しても音が出ないほどだということ。このことは小太鼓についても同様である。
 1年は、オオカミたちの渡りにちなんで、リュカバス(lykabas)と言われるということ。
 オオカミたちに食われたヒツジの肉は甘いが、その羊毛からつくられた外衣は、多くの者たちを破滅させということ。
 オオカミには多くの種類があるということ。
 2頭のオオカミがいっしょになって1頭のヒツジを掠奪し、歯で振りまわしてこれを引きちぎった場合、ちぎられた部分は同等になるということ。
 オオカミは病気になると土を食べるということ。
 オウムと仲がよいのは、あたかもドルカスがヤマウズラたちと、シカがアッタゲーン*1たちと、ウマたちがノガン〔Otis tarda〕たちと、ヤギたちが、水辺で水浴びするとき、サルゴス魚〔Sargus(=Sparus) Rondeletii〕たちと〔仲がよい〕ごとくであるということ。オオカミは椎骨を持たず、骨が一本であるのは、ライオンやヒュアイナ〔ハイエナ〕と同様である。だから、走ることは彼らにとって一直線上にある、ということ。
 その歯を身につけている人は、オオカミを怖がらず、ウマがそれを帯びていると、俊足無比となるということ。
 オオカミがスキッラを怖がるのは、ライオンがプリノス〔Quercus coccifera〕を、パルダリスがクラネイア〔Cornus mas〕を〔怖がる〕がごとくであるということ。
 ヒキガエルの骨を所持している人は、オオカミを眠らせるということ。
 鉄や石をむさぼり食うオオカミがいるということ。しかし、セイリオス〔シリウス〕のイヌ星の時季〔夏〕になると、気温が寒冷になる〔時季〕まで、姿を消す。

*1 シャコの1種で、学名Francolinus skolopaxとされる。

主題8 トゲイノシシ〔ヤマアラシ〕*1について
 トゲイノシシは、大きさはオオカミより小さいぐらいであるということ。
 背中に、毛の代わりに棘状の大きな針をも有し、これに女たちは金箔を塗って自分たちの編み毛の留め金をつくるということ。
 逃げるとき、この針を射て、ヒトであれイヌであれ、狩りをするものをしばしば取り殺すということ。

*1 Hystrix cristata

主題9 定住のティグリス〔トラ〕とグリュプスについて
 クロノスとゼウスとの戦いのさいに、ティターンたちの血から全地に生まれたということ。
 アイティオピアの獣はより大きく、恐ろしいこときわまりないということ。その中にトラもふくまれるが、これが妊娠・出産するのは風によってである。
 これまで、生きたまま捕まえたり、馴らしたりするのが難しかったのは、風から生まれただけあって、はなはだすばしこいからだということ。
 彼女〔トラ〕が離れている間に、狩人たちはその仔どもたちをさらって、水晶の容器に入れ、俊足無比である母〔トラ〕につかまりそうになったとき、容器をひとつ投げ、彼女〔トラ〕がそれに手こずり、鏡の中の仔の姿に欺かれている間に、騎士たちは他の〔幼〕獣をもって逃げおおせるということ。
 彼女〔トラ〕の子は馴れ、〔人間の〕子どもたちやイヌたちといっしょに育てられると群れるようになるということ。
 トラは、グリュプスが自分の仔どもたちをさらおうとすると、くだんのグリュプスそのものに跳びかかってわしづかみにし、くだんのグリュプスが苦しくなって、相手もろとも海の中に身投げするまで、放さないということ。
 トラはしばしばグリュプス(ライオン以上もある大きな鳥)を殺すということ。
 グリュプスは、胸とそこから上部はウマ、嘴と翼は鳥、尻尾と背中はライオンのそれをしているということ。
 グリュプスが人間たちに捕獲されると、〔人間たちは〕その羽根は矢筒に、爪は大きな水差しにするということ。
 〔人間たちが〕ウシたちを馬車に結びつけ、これに重さを加えるが、グリュプスはウシさえさらう力を発揮して、爪を巻きつけるということ。これを解くことはできず、またこれほどの重さを持ち上げることができないので、つかんだままじっとしている。そこで、ひとはそういうふうな馬車の下に隠れていて、つかんだとき、跳びだしてその翼を焼くということ。
 老いると飢えによって死ぬのは、その嘴が時とともに曲がり、そのために自分で餌を摂ることができなくなるからだということ。

主題10 ヒッポ-ティグリス(hippo-tigris)*1について
 ヒッポティグリスは野生のロバに似ているということ。しかし俊足無比の動物である。
 獣皮に模様があり、色は灰色がかっているということ。
 ローメーの観劇場で戦車に繋がれて走らされたのは、じつに驚嘆すべき見せ物になったということ。
 王妃は、このような馬車に乗って輿入れしたということ。

*1 直訳すると「馬身トラ」だが、体格の大きいことを表そうとしていると考えられる。

主題11 パルダリス〔牝豹〕*1について
 パルダリスには2種類ある、ひとつは大きいが、尻尾は…〔欠損〕…小さいということ。
 パルダリスは、ライオンのように、尻尾に針をもち、肉食動物の舌をしているということ。
 パルダリスたちはディオニュソスの養い親であったということ、そして、ペンテウスはディオニュソスを侮辱し、〔パルダリスたちに〕獣になって、ペンテウスを八つ裂きにするよう呪いをかけ、それが実行されて、くだんの人物をおだぶつにしたということ。
 パルダリスたちは酒を愛し、それゆえにまた狩人たちによって、提供された多量の酒に酔って、眠りこまされて、捕獲されということ。
 〔パルダリスたちは〕棒と尻尾で三叉路を見張り、策をもって野ヤギを捕獲するということ。
 豹殺し(pardalianchos)*2と呼ばれる病状を呈するときは、糞を食べると、健康になるということ。〔HA 612a〕

*1 Felis pardus
*2 トリカブトの類Acontium Anthoraが考えられている。(島崎)

主題12 レオ-パルドス*1について
 ライオンとパルダリスとの交尾によって生まれるということ。
 牝ライオンがパルダリスから出産すると、産まれた仔を隠し、牡ライオンが見つけないよう、我とわが身を引き裂くということ。
 多くの河で水浴びするのは、体臭を洗い流すためである。というのは、牡ライオンが感づくと、取り殺して、もはや他のパルダリスとも交尾できないからであるということ。

*1 直訳すると、「ライオン-ヒョウ」。

主題13 ジャッカルについて
 ジャッカルには2種類あるということ。
 ジャッカルたちは、冬は毛深く、春は獣皮が滑らかに〔毛が短く〕なるということ。
 ジャッカルはヒトには危害を加えないが、イヌたちやシカたちを待ち伏せして狩るということ。
 ライオンの家来だと思われている。というのは、シカを捕獲しても、その血は飲むけれど、本体は現れるライオンのために残しておく、あたかも、狩りの最善の部分を、徳のため、また自分に危害を加えないよう、彼〔ライオン〕に捧げるかのように、ということ。

主題14 パンテール*1について
 パンテールは母親が多数の獣によって妊娠したときに生まれるということ。
 インドパンテールは、ミュロスの匂いを発し、いい匂いで獣たちをおびき寄せ、自分の穴に引きこんでむさぼり食うということ。

*1 Panthera pardus

主題15 野ヤギ(aigagros)について
 野ヤギは俊足無比、飛ぶがごとくにいつも断崖を動きまわっているということ。
 狩人たちによって余儀なくされたときは、断崖から谷底に、角を下にして跳んでも損なわれることはないが、たまたま自分の身が下になると、つぶれるということ。
 野ヤギは父親孝行で、〔父ヤギが〕老齢で先導できないときは、彼のために牧草や水をわが口で運んで養うこと、海でカワセミが、自分たちの父鳥のケーリュロスに対するごとくである。だから、この鳥はそういうふうに名づけられているのである。同様にまたコウノトリ*1も同じことをする。
 野ヤギは自分の子どもをよりいっそう愛する、その結果、捕獲された〔子どもたち〕について行き、運命をともにしようとするということ。
 角の中に孔のようなものがあり、これによって、あたかも鼻のように空気を吸ったりはいたりする。だから、誰かがこれを塞いだら、死ぬ。

*1 Ciconia alba。

主題16 クレーテー島のヤギたちについて
 クレーテーにいるヤギたちは、弓で射られると、ディクタモンという野草*1を食べて、すぐに矢を抜き、健康となるということ。
 カッパドキアのヤギたちは、ヤギの毛を〔羊毛のように〕刈られるということ。

*1 Origanum Dictamus。『異聞集』830b、『動物誌』612a

主題17 ドルコス*1について
 ドルコスは、追跡されると、少しの間立ち止まって尾を振り、猛然と走って逃げおおせるということ。
 ドルコスたちとヤマウズラたちとはお互いに友である。そのため、お互い同士が猟師たちに捕獲される。
 1匹が群からはぐれているところには、ほかのもそこにいるということ。また、野ロバたちと群をなす。

*1 Carvus capreolus

主題18 ウサギについて
 ウサギたちの雌は出産し、子宮内に別の〔胎児〕をもっていても、重ねて仔を孕み、さらにまたつがいになるということ。
 ウサギは、あるときは雄に、あるときは雌になるということ。
 雌たちは、妊娠するとやはり鈍重となり、地中にもぐる。しかし春にはウサギたちはよりすばしこくなる。
 臆病で、眠っているときでも両眼をぱっちり開けているということ。
 彼らの体色は、土(そこで暮らしている)に似ているということ。
 めざとくワシを見つけて逃げるということ。
 イタケーにはウサギはいない、もし持ちこんでも、海中に走りこんで死んでしまう、ということ。

主題19 カメ(chelone)について
 ヘルメースは竪琴(kithara)をカメからつくりだした、ここから、竪琴がケリュス(chelys)とも言われるのは、そのためでもある。そして、自分が盗んだ牛たちの代償にアポッローンに教えたということ。
 〔カメは〕ヘビを食べたときは、オリガノスという薬草を食い足すと、危害をこうむらないということ。
 リクガメはウミガメから生まれる。すなわち、海から出てきて、卵を地中にまとめておき、卵のうち、海に心を寄せるカメたちを孵化させたのが、ウミガメになり、陸地に引き返す〔カメを孵化させた〕のが、リクガメになる、ということ。
 カメはノミ(psylle)を食べるということ。
 誰かがこれ〔カメ〕を後ろ裏向けに投げると、起き返ることができない、陸地でも、海中でも同様にできない、ということ。
 海岸で日光の中で干上がると、もはや海に潜ることができないということ。

主題20 スキウウロス〔「尻尾の影」の意。リスのこと〕について
 スキウウロスはクジャクのように尻尾で影をつくる。だから、そのゆえにスキウウロスとも言われるのだということ。

主題21 ブウナソスについて
 パイオニアにいるブウナソスは大きな獣で、牛のような鳴き声と姿形をもっているということ。しかし、その獣皮は家屋全体を覆い隠す。
 自分の視野に〔かぶさる〕毛のせいで、真っ直ぐ見ずに、斜視になるということ。
 これ〔ブウナソス〕の体色は、土、つまり、自分が過ごす場所に似ているということ。
 角は反り返っていて、お互いに害することのないようになっているということ。
 胃袋に、このうえなく熱くて悪臭紛々の糞があり、これで自衛し、人であれ犬であれ、捕獲しようとするものに遠くから投げつけ、この糞で子どもたちを護る、あたかも他の動物が生まれついてのもので〔護るように〕。

主題22 野ロバについて
 野ロバは俊足無比の動物だが、しばしば群全体の頭目がいて、生まれた仔が雌なら生かすが、雄なら、殺すか恥部を食いちぎるかして、ほかのものが群を支配できないようにするということ。
 追われたときは、足で石を蹴って、投げつけ、追跡者たちから自衛するということ。
 大きなダチョウ(ストルウト-カメーロス*1と言われる)が同じことをするということ。
 ダチョウは多食〔雑食〕性で、しばしば鉄を食って、軟らかくし、これを溶解させるということ。
 自衛のための石が見つからず、追跡されて逃げおくれたときは、頭をスッポリ隠して、身体〔全体〕を隠したと思いこみ、見ないからイヌたちによって食いちぎられるということ。
 ダチョウや野ロバは石の扱い方が同じということ。

*1 ストルウト-カメーロスは「スズメ+ラクダ」の意。「リビアのスズメ」でダチョウを意味する(HA 616b5)。

主題23 オリュクス*1について
 オリュクスは角のある獣で、もう1種のオリュクスは、角のような地虫だということ。
 ネイロス河とヒュダスペース河*2とがオリュクスを生息させているということ。
 アイギュプトスの神官たちがオリュクスを崇拝するのは、自分たちが〔オリュクスのように〕眼に見えるくしゃみをして、セイリオス〔シリウス〕のイヌ星を予言するからだということ。
 〔オリュクスは〕つねに斥候をもち、〔斥候が〕くしゃみによって獣の来襲をしらせたときは、すぐさま密集して、より弱い仲間を守るということ。
 来襲したのがライオンないし他の獣なら、オリュクスは角で迎え撃ち、取り殺し、また自分が取り殺されるときもあるということ。

*1 Oryx leucoryx
*2 インドのパンジャブ地方にある、インダス河の支流。

主題24 カメーロ-パルダリス〔キリン〕*1について
 カメーロパルダリスはインドの動物である。しかし、異種動物間の交尾によって生まれるということ。
 ある人物が、インドス人たちのところからガザを経由してやってきたが(生まれはアエリシオス人)、アナスタシオス〔1世〕帝〔在位、491-518〕のために2頭のカメーロパルダリスとゾウをともなっていた*2ということ。これはわれわれの時代*3にも見せ物になった。すなわち、モノマコス帝*4のために、これらいずれもの動物が、インディアから献上され、このとき、驚嘆すべきものとしてコーンスタンティヌウポリスの観劇場で国民に披露されたからである。

*1 直訳すると、「ラクダ-パルダリス(ヒョウの模様をしたラクダ)」の意。
*2 439年のこととされる(ベルトルト・ラウファー『キリン伝来考』博品社、p.66)。しかし、アナスタシオス1世の在位期間〔491-518〕と年代が合わない。インドというのは嘘で、エチオピアのことであろうとラウファーは言う。
*3 「われわれの時代」とはモノマコス帝の時代。ティモテオスの著作は、11世紀の写本でしか伝わっていない。
*4 モノマコス=コンスタンティヌス9世〔在位、1042-55〕

主題25 ゾウについて
 ゾウは両親を持たないということ。
 〔樹の幹のような〕鼻(proboskis)を持ち、これによって手のように何でもするということ。大きな歯ないし角〔象牙〕を有するということ。
 女たちが歌ってこれをうっとりさせて狩りに持ちこむこと、あたかも、錫"kassiteros"も処女が抽出するがごとくであるということ。
 マウロス人たちのもとでは、仕掛けと塚によって〔?〕捕獲されるということ。
 性格がやさしく、賢く、頭目を持ち、河でも自分たちの仔どもを渡して進むということ。
 最も賢明な人間たちのごとく、めいめいが1頭ずつ結婚相手を有し、自分たちの中に姦通するものがいれば、ほかのものたちによって亡き者にされるということ。
 敵としては大蛇を有し、しばしばこれを殺すとともに、相手によって殺されもするということ。
 大蛇たちは自分の眼の中に貴重な石を有するということ。そこで、インドス人たちはこれに魔法をかけて眠らせ、取り殺して、その石を奪いとる。しかし、狩人たちの方がしばしば相手によって穴の中に引きずりこまれ、取り殺されることがある、ということ。
 インドス人たちは大蛇の心臓ないし肝臓を食い、言葉なき動物たちが何を話しているかわかるようになるということ。
 ゾウたちは、背中の木製の塔に、重装兵を満載して戦うということ。
 若いブタやネズミを怖がるということ。

主題26 イヌについて
 イヌはヘルメースの動物であるということ。
 種々異なった族民ごとに、徳の点で種々異なったイヌがいるということ。
 ひとがイヌの頭にハゲワシの獣脂を塗って、笛吹を聞けば、跳びはねて舞踏合唱しつづけるということ。
 狂犬病にかかったイヌの歯は、イヌの咬み傷〔の痛み〕をとめる。さらに子どもたちの歯を生えさせ、黄疸を治し、イヌが吠えないようにさせるということ。
 イヌたちは夢を見るとは、アリストテレースの主張するところであるということ〔HA 536b〕。
 セイリオスの出現時、イヌたちは逆上するが、水浴びをやめるということ。
 イヌは草や穀物の花を食べて、胃袋や腹の虫を空にするということ。
 イヌたちは3種類の病気を持つ、それは扁桃腺炎、足痛、狂犬病であるということ。
 狂犬病にかかったイヌに咬まれた人たちは水を怖がり、ヒュアイナ〔ハイエナ〕の右で飲んでも〔???〕、生きながらえるのは稀である、ただし、小犬を供犠し、凝乳剤を(pytia)を水といっしょに飲む者たちは、まぬがれる。*1

*1 この1文は、原文に乱れがあると思われ、原文どおりには読めない。

主題27 ウマについて
 種々異なった族民ごとに、徳の点で種々異なったウマがいるということ。
 ウマは交尾を恋しても、毛を刈ると、やむ、訓練された牝ウマも同様であるということ。
 牝ウマの薄い胎膜は、ヒッポマネス*1と言われるもので、これを雌ウマたちが生まれた仔馬の額から舐めとると、彼ら〔牡ウマたち〕を発情させるということ。だからまた、薬売りの女たちもこれを恋の妙薬に使う。
 ウマたちは心臓の中に骨を有するが、ウシたちのは小さいということ。〔HA 506a〕
 牡ウマの寿命は35年、牝ウマは40年。しかし今までに、75年生きたというウマがいる。
 雌ウマたちは、仔を産んだ他の母ウマが死ぬと、その仔馬たちに哺乳するということ。
 ひとが斑の馬を得たいと思ったら、湖のそばで、そういう馬の絵を描き、牝ウマがその描かれた絵を見ると、そういうウマを産むということ。このことはイエバトでもおこる。また、ラケダイモーンでは、妊娠した女たちの寝室で美しい若者たちの絵を描く。
 牡ウマが自分の母親や姉妹にのしかかることはないということ。
 牝ウマをめぐって2頭〔の牡ウマ〕が闘い、勝った方がこれをわがものとして交尾する、しかし敵対したものどうしはお互いの声を非常に久しく聞き分けるということ。〔HA 605a〕
 ウマたちは夢を見るが、人間たちの中にはけっして夢を見ないものもいる、しかし、生涯に1度だけ見る者たちは、災禍とか死とかを予知するということ。
 馴染んでいなければ、ラクダを怖がるということ。
 水が清浄なのを見つけると、濁らせてから飲むということ。〔HA 569a, 605a〕
 サンダラケー*2を飲むと死ぬ、その他の家畜も同様であるということ。
 ウマは熱病にかかると死ぬということ。
 彼女〔牝ウマ〕たちの毛を刈り、そうやってロバとの交尾を受け容れることを甘受すると、半ロバを生むということ。

*1 hippomanesは発情した牝ウマの分泌液〔HA 572a〕で、「仔馬の額」についているもの〔いわゆるhippolithos(Bezoar equinum)腸内の結石またはかにばば(胎屎)〕とは異なるが、アリストテレスも577aでは、後者もヒッポマネス(ウマを狂わすもの)と呼んでいる。
*2 sandarake(HippocratesやDioscoridesではsanradache)は赤色の鶏冠石(硫化砒素)で、arsenikonが黄色の石黄(雄黄)auripigmentum.(島崎)

主題28 ウシについて
 牡牛たちは、牝をめぐってお互いに猛烈な闘争をするということ。
 牛飼いは盛りのついた牝ウシの乳房を手でもんで、汗をとって牡ウシたちの鼻にひっつけると、彼ら〔牡ウシたち〕に闘いをやめさせられるということ。
 牝ウシたちは2つの乳房と、4つの乳頭を有するということ。
 ウシたちの血は、これを飲む者たちの心臓で凝血して取り殺すということ。
 エリュトライ*1の牝ウシたちは、耳のように角を動かせるということ。〔HA 517a〕
 ウシの交接は、恥部が筋肉質なため、シカと同様、すぐに終わるということ。
 ウマと交尾する4本角のウシがいて、このウシからカッライオスといわれるウマたちも生まれるということ。
 角が大きいので、自分で後ろへと後ずさりながら草をはむため、オピストノモス(opisthonomos)と呼ばれるウシたちがいるということ。〔Hdt. IV_183〕
 ビソーン〔バイソン〕と呼ばれるウシがおり、これは肉食獣の舌を持っているということ。これはビストーニス地方〔トラキア地方〕の産である。

*1 ここはプリュギア地方のエリュトライ〔キオス島の対岸〕。

主題29 ブウバロスについて
 ブウバロスは、一面ではウシに、一面ではリビュエーのシカに似たところをもっているということ。
 別種のブウバロスが、アルペイス〔アルプス〕山脈の彼方、レーノス〔ライン〕河畔にいるということ。しかしこちらは白と深紅〔の斑〕である。
 捕獲されると、そのあとで亡き者となるため、自分の森に向かうということ。しかし、これは海のザリガニも同じことをする。
 ブウバロスは眠らないということ。

主題30 半ロバ〔ラバ〕について
 半ロバたちは、異なった種族から生まれるが、〔みずからは〕産まず、寿命が大いに長いということ。
 アテーナイにいる半ロバの寿命は80年で、アテーナ神殿の建造仕事に大活躍したということ。民会はこの〔半ロバのため〕に票決し、自分の家の飼料のほかに、麦畑のであれ、その他の土地のであれ、必要とするものを妨げるべからずとした。〔HA 577b, Plin. VIII_69〕
 尿が半ロバたちにとって浄めとなること、あたかも女たちにとって月々の経血がそうなるがごとくで、その〔尿の〕臭いをかぐと、牡は早く年をとるということ*1。〔HA 578a〕

*1 ラバには月経はないから、その代わり尿によって浄化作用が行われる。ゆえに他の動物の雄は雌の陰部の臭いをかぐが、ラバは尿をかぐ」(『動物発生論』第2巻8章)

主題31 ロバについて
 寒い地方では、ロバたちはたちまちくたばるということ。
 ヒュペルボレオイ〔極北〕人たちの間では、この動物は不可欠なので、ロバたちをアポッローンに供犠するということ。
 アイギュプトスではロバはテュポースと言われるということ。
 昔は、ロバの骨からアウロス笛をつくったということ。
 メーリスという1種の病気*1を持っているということ。
 怒ると、イヌたちに危害を加えるということ。
 アイギトスという鳥はロバを憎む。というのは、怒ると、それの卵や雛を巣からたたき落とすからである。
 みずから〔ロバ〕とウマから半ロバたちが生まれるということ。
 ウシたちと異なり、シラミはもとより、ダニさえつかない。というのは、そういう微小生物は湿気や腐敗から発生するからだということ。
 単蹄のイノシシたちがおり、また単蹄・有角のインドロバもいる。この〔インドロバの〕角は治療に効くが、献上されるのは王のみであるということ。

*1 HA 605a16。「馬鼻疽」だろうといわれている。(島崎)

主題32 ラクダについて
 ラクダたちは、ひざまずいて荷物を載せ、そうやって荷物そのものによって立ち上がることになれていないかぎり、大きな荷物を運ぶことは不可能だということ。
 真っ昼間に他の動物よりはるか遠くまで旅をし、夜間は星のもとに道を知っている。だから、これに乗って、インドス人たちはインドアリたちから砂金を盗むため、日の出まで旅をするのだということ。
 ラクダ3頭(このうち2頭は牡、これを産んだ牝を真ん中にして)に軛をつけ、荷物を運んでアリたちにつかまらないよう走って逃げる、牡たちはついて行けないが、牝だけは、くだんの牡たちを、自分の生みの子だから、面倒を見、これを一生懸命引っ張り続けるということ。
 バクトリアのラクダは2つこぶだということ。
 牡は去勢して、戦闘の最中に戦列を離れないようにするということ。
 牝ラクダはいつも1頭のみを産み、2頭を産むことは決してないということ。
 牡は、交接するときに人間を眼にすると、狂って取り殺そうとするということ。
 ラクダ使いは、牡を知らずにその母親ないしは妹と交尾させようとすると、その牡ラクダに取り殺されるということ。

主題33 イノシシ(kapros)について
 イノシシは、非常に熱い歯を持っているので、これに触れた毛を焼くほどである、だから、これに咬まれると、イヌたちの毛は抜け落ちるということ。
 リビュエーは、ありとあらゆる獣が生息するにもかかわらず、野生イノシシは生息しないということ。
 イノシシの恋は野性的で、逃げる牝がしばしば牡に取り殺されるほどであるということ。若いブタの乳は出ない。誰か人間が若いブタから哺乳すると、無礼者となるということ。
 イノシシが他のイノシシと戦おうとする場合は、森に退却して、持続的に訓練し、皮を強化してからやって来て、不断に戦い続け、取り殺し、取り殺されるということ。
 動物のうちこれだけが、恥部を失うと、より強くなるということ。

主題34 ヒツジについて
 リビュエーでは、1年間に3度、この家畜はお互いが順番に出産するということ。
 ことのほか暑くて、牧場を有するリビュエーでは、ヒツジはすぐに有角となり、続けざまに出産し、この地では乳もつねにひけをとらないということ。
 リビュエーでは、野生うまれのヒツジは愚かで、簡単に捕獲される。しかもその毛は役立たずであるということ。
 スキュティアでは、風の冷たさゆえに、ヒツジはたいてい1頭しか産まず、角を持たないということ。クレーテーには4本角のヒツジがいるということ。
 多彩なヒツジというのは、舌の下にまったくもって多彩な血管を有しているということ。

主題35 スウボスについて
 スウボスはヒツジのように黄色ですべすべしている。しかし、両棲類なので、魚たちに好かれ、泳ぎながら、自分のまわりにそれ〔魚たち〕が集まってくるのをむさぼり食うということ。しかし、みずからもしばしば猟師たちによって捕獲される。

主題36 ネコ(ailouros)について
 ネコ(われわれのところでは、ローメー〔ラテン〕語で"katta"と言いならわされている)は、リビュエーでパルドス〔豹〕との混血から生まれたということ。しかし、雌はより淫蕩で、牡は交尾中、尾を振るといわれている。
 仔どもたちは眠っている時お互いに見張っているが、誰かを眼にすると…〔欠損〕…これをずたずたに引き裂くということ。一部の人たちは同じことをテン(iktis)について言っており、〔テンは〕われわれのならわしでは"ailouros"と言われている。

主題37 テン(iktis)について
 テンと言われているのは、われわれが"ailouros"と呼びならわしているもので、壁を忍び歩いて、住みついている小鳥たちをむさぼり食う。そして〔敵と〕遭遇すると、わが身をふくらませ、獣毛を風〔空気〕で満たすので、危害を加えられない、ということ。
 この獣の恥部は骨質で、利尿困難(dysouria)な膀胱の治療に効能があるということ。

主題38 ネズミたちについて
 リビュエーでは、ネズミ類とウサギ類の種(genos)は共通だということ。
 リビュエーのネズミたちは水を飲まないということ。
 しばしば「後の豪雨(opsimos ombros)」*1からネズミたちが発生するということ。
 ネズミたちは眠っている人間たちを咬む、また、あるものは指を咬み、あるものは〔身体を〕ふくらませて、〔相手を〕失神させるということ。
 燭台のなかに放尿して、そこの油を汲み出す、また、頭をつっこめない時は、舐め取るということ。

*1 新約聖書では、"hyetos opsimos"「後の雨」とは、パレスチナで春の収穫前の3、4月に降る雨のことである。『ヤコブの手紙』第5章7 参照。

主題39 イタチについて
 イタチは、耳を通して出産する、しかし、口を通してと主張する人たちもいるということ。
 イタチはヘビと闘う時、ヘンルーダ(peganon)*1を食べる。ヘビはこれを避けるからである。なおまたヘビたちが食べると、お互いに致命的となるということ。しかし、〔ヘビ類は〕人間の唾液を怖がる。
 イタチネズミ(mygale)*2たちも、孕んでいる時に咬むと、〔相手を〕取り殺すということ。
 馬車道でイタチネズミが誰かを咬んだ場合は、馬車の車輪についた泥で、その咬み傷が治るということ。

*1 Ruta graveolens
*2 mygaleはmys(ネズミ)+gale(イタチ)であって、……トガリネズミSorex vulgaris(?)=S. araneus等とされている。これはHerodotus, II, 67ではエジプトにおける聖獣で、ミイラにして墓に収めたとあるが、近世になってSorex religiosus(?)が発掘された。ローマ人はmus araneus(クモネズミ)といい、これがフランスでは、musaraigneとなっていまでも使われている。(島崎)

主題40 モグラ*1について
 モグラは盲目のイタチで、地の下を動きまわって、植物の根を食い、これを干からびさせるということ。しかし、仕掛けと罠によって捕獲される。また、〔もとは〕ピネウス*2であったが、〔太陽神〕ヘーリオスの怒りにふれ、獣に変身させられたと言われ、そのため、ヘーリオスの眼にふれようものなら、もはや大地はこれを受け入れない。

*1 Spalax typhlus
*2 黒海の〔トラキア地方〕サルミュデーッソスSalmydessosの王。彼が盲目になった理由は、予言の力を濫用したためという説と、後妻の讒訴を真に受けて、先妻との間にできた2人の子を盲目にし、それが神の怒りにふれたという説とがある。
 ヘーリオスの怒りをここまで受けた理由は不明。

主題41 陸のクロコデイロス〔大トカゲ〕*1について
 クロコデイロスはクロコス*2を怖がる。だからこそ、その名を持っているのだ、ということ。
 これの糞は眼〔病〕に効くということ。
 サソリと戦うが、ある種の草を食べるので、危害を受けないということ。

*1 これら〔陸のオオトカゲと河のオオトカゲ〕に関するアリストテレースの知見はほとんどすべてヘーロドトースからきているらしい。Herodotus, II, 69によると、元来krokodeilosなる語はイオニア語では、石垣などにいる普通のトカゲのことであるが、エジプト人のいうchampasai(ワニ)がトカゲに似ているところから、これをkrokodeilosと呼んだのだという。同じくHdt., IV, 44ではインダス河のkrokodeilos(ガンジスワニGavialis gangeticus)にも言及しているし、Hdt., IV, 192では東リビア産の1メートルに及ぶオオトカゲのことをk. ho chersaiosと呼んでいる。(島崎三郎、『動物誌』第2巻17章、註18)
*2 サフラン(Crocus sativus)

主題42 クロコデイロス〔=ワニ〕について
 〔河の〕クロコデイロスたちはネイロス河とヒュダスペース河*1という2つの河にのみ生息するということ。
 クロコデイロスが、陸のクロコデイロスの名前を採って言われるのは、クロコスを怖がって逃げるからか、あるいは、皮革(dora)がクロコスのそれと似ているからということ。
 咬むと、歯が交互に逆向きに生え、肉をいっしょに持ってゆかないかぎりは、放さないということ。
 上顎が動き、下顎が動かないのは、唯一この動物のみだということ。
 鉄〔剣〕はこれの獣皮を突き通さないということ。
 1本の骨がこれの頭から尻尾まで貫通していて、わが身を曲げることができないということ。
 クロコデイロスの獣脂をからだに塗った者が、ネイロス河に跳びこみ、歌をうたいながらこれを裏向けにして狩るということ。
 これの尻尾は長くて鋭く、これによって〔相手を〕殴って取り殺すことしばしばだということ。
 牡ウシを河の中に引きこんでむさぼり食うということ。
 何かを咬むと、咬まれた当のもののまわりにきわめて多数のネコたちが集まってきて、これ〔ワニ〕に放尿する、これをすることによって、それ〔ワニ〕を取り殺すときもあるということ。
 これ〔ワニ〕の卵はガチョウの〔卵〕ぐらい、これから陸のクロコデイロスぐらいの小さなクロコデイロスが生まれ、わずかの間に10ペーキュスあるいはそれ以上になる。というのは、生きているかぎり生長するからである、ということ。そして、60個の卵を産み、60本の歯を持ち、60年間の寿命をもち、60本の腱を持ち、食い物がなくても60日間生きながらえ、交尾も60回するということ。
 あなたが左顎から最初の歯を引き抜けば、悪寒をあっさりとめられるということ。
 トロキロスという鳥*2は、これ〔ワニ〕と仲がよく、その歯から、腐った肉やヒルを食べるということ。
 トロキロスは、それ〔ワニ〕が眠っている間、見張りをしていて、猟師やあるいはむしろネイロス河のイクネウモーン注52)(エニュドロスともヒュッロスとも呼ばれる)が襲いかかってくるのを眼にしたら、すぐに啼いて、それ〔ワニ〕を目覚めさせ、河の中に待避する準備をさせる。というのは、〔ワニは〕土手で過ごしたり眠ったりするのが好きだからである、ということ。

*1 パンジャブ地方にある。
*2 ワニチドリ(Pluvinanus aegyptiusないしVanellus spinosu

主題43 イクネウモーンについて
 イクネウモーン(エニュドロスともヒュッロスとも呼ばれる)は、つかみにくくなるよう、泥をからだじゅうに塗りたくり、クロコデイロスの口の中に跳びこみ、そうやって肝臓を食い尽くし、取り殺すと言われているということ。
 このイクネウモーンは、からだじゅうに泥を塗りたくり、太陽にあてて乾かせたうえで、ヘビと闘い、殺し、またしばしば相手に敗北して、わが身を巻きつかれたまま、火の中に跳びこみ、もろともに亡き者となるということ。

*1 「エジプト産のマングースは、「アスピス」と称するヘビ〔コブラ〕を見ると、まず他の〔仲間の〕助力者を集め、それから初めて攻撃する。打傷や咬傷に備えて、自分の体に泥を塗りたくる。それには、まず水に入って(体を)ぬらしてから、地面の上で転げ回るのである」(HA 612a)

主題44 河馬について
 河のウマは両棲類で、ゾウのように傷のつかぬ鞣し皮をまとっているということ。そして、クロコデイロスその他のクジラ類(kete)*1を食べる。
 河のウマはネイロス河の洪水を予示する。すなわち、水が上昇するであろう地点までの汚泥を住処とする、ということ。
 作物のところまでのぼって、どの地点まで〔作物を〕刈ることができるかを測り、そうやってそろそろさがって餌を食う。首を曲げられないからである、ということ。また、水を飲んで、〔餌を食べた〕その地点に〔その水を〕吐き出して、再び芽生えさせる時もある。
 仔どものときは、処女たちや女たちといっしょに馴らされるということ。〔河馬の家族のことであろう?〕
 〔しかし成獣になると〕父親を取り殺し、母親にのしかかるということ。
 これ〔河馬〕の歯は胃の病状に効き目があり、アイティオピア人たちにとっては食中毒?(addephagia)の薬になる。すなわち、この歯を身に巻きつけておかないと、生魚を食べたり、濁りきった水を飲んだりして、おしまいになるということ。
 これの子宮は、月々の恐怖〔月経障害〕を退散させるということ。
 カストール〔ビーバー〕の睾丸と同じだけの治療効果があるということ。

*1 ここでいう「クジラ類(kete)」とは、イルカ類をさしているのか?

主題45 リノケロース〔鼻角=サイ〕について
 リノケロースは、大きさは河のウマと同大であるということ。そして、オーケアノス河からやって来て、ネイロス河のほとりに住む。また、鼻のところに短剣(xiphos)のごとき角を有し、この角は岩さえもくりぬくことができ、これによってしばしばゾウを取り殺す。
 リノケロースたちはみな牡で、どこから生まれるのかは誰にも不明だということ。
 インドス人たちの間では「ウシ(bous)」と言われるが、ネイロス河のほとりにやって来ると、リノケロースと〔言われる〕ということ。

主題46 リュンクス*1について
 リュンクスに2種類ある。そして、大きいのはゾウを捕獲し、小さいのはウサギを〔捕獲する〕。また、大きいのはサフラン色の獣皮を有し、小さいのは火色の〔獣皮を有する〕、ということ。
 その尿は牛乳のようにほとばしり、これはリュンクスの尿(lynkourion)*2と呼ばれるということ。
 自分たちの種族をひどく愛し、また、アポッローンによって愛されること、スピンクスたちがディオニュソスに〔愛される〕ごとくであるということ。

*1 オオヤマネコのこと。Felis lynx。
*2 "lynkourion"とは琥珀のこと。琥珀がオオヤマネコの尿の凝固したものだという考えのあったことは、ディオスコーリデスが伝えている。
 「オオヤマネコの尿はリュンクリウム(Lyncurium)と呼ばれ、排尿されるとすぐ石に変わると考えられているが、それは誤った伝聞にほかならない」(『薬物誌』II_100)

主題47 カマイレオーン〔カメレオン〕について
 カマイレオーンとは、ピュシグナトス〔頬ふくらまし〕と言われるものであるということ。しかしクロコデイロスと等大、ふくらむ、鋭いまでに細長い。
 自分のいる場所に応じて体色を変えるのは、海の多足〔タコ〕と同様ということ。
 ヤモリ(askalabotes)(ガレオーテースともいう)やトカゲ(sauros)が、皮すなわち老齢を脱ぐのは、ヘビたちと同様であり、また、穴居するのは、クマたちやクロコデイロスと同様だということ。

主題48 スキンコス(skinkos)について
 スキンコスは、誰かを咬んで、先に自分の尻尾ないし小水に包まれると、咬まれた相手を死に至らせられる。しかし、咬まれた相手が先にとらえて洗浄すれば、自分は助かり、スキンコスの方が亡き者となる、ということ。
 これの甲鱗は1年を通じて生長するということ。

主題49 野生ウマ(hippagros)について
 野生ウマはあまりに頑固なため、けっして馴れないばかりか、隷従にも我慢しないほどである。だから、そんなことをこうむるよう強いられたら、食い物を押しのけ、飢えでくたばって、亡き者となる、ということ。

主題50 コルコテース(korkotes)について
 名をコルコテースという、オオカミの大きさをした獣がいる。羊飼いたちが自分の子どもたちの名を呼ぶと、その名前の声色を真似て、自分も同様に流暢に呼び、そういう声色で子どもたちをだまして、群から駆け寄ったところをつかまえて、農家の外れでむさぼり食う、ということ。
 ほかのコルコテースは人間の姿をしているということ。
 物言わぬ動物たちが知慮するのは当然だが、そうすることが証明されているのは、コルコテース、コウノトリ、ライオン、ナイチンゲール、イエバト、ワシ、ポリュプリオーン*1、シカ、ミツバチ、ツル、キツツキ、ツバメ、ハゲワシ、オオガラス、フクロウ、河馬、カニ、シャコ、トキであるということ。

*1 HA 509a。「"porphyrion"(紫色のもの)はフラミンゴだという人もあるが、『断片集』第272の記載を見ると、やはり紫色をした(ヨーロッパ)セイケイPoryphyrio porphyrioらしい」。(島崎)

主題51 サル*1について
 ピテーコス〔というサル〕は好色無比にして狡猾な獣で、固有の結婚相手を有するということ。
 そういうものを、あるとき、交易商人が船に持ちこんだが、これがしくじりをしたのを殴ったところ、くだんの〔交易商人〕が持っていた黄金をかっぱらい、帆柱のてっぺんに跳び上がって、そこからそれを海中に放り投げ、自分もいっしょに身を投げたということ。
 逃げるときは樹から樹へと、生みの子たちも背負って跳び移るということ。
 「真似し」であるので、仕掛けによって捕獲される、つまり、これを捕獲しようとする者の真似をして、網〔の中〕で水浴びをして狩られるということ。さらにまた別の方法でも — 眼を有害な薬でこすって、捕獲される。
 この連中が、インドス人たちのところで胡椒を採集するのは、〔調教の〕術知と真似でだまされるからであるということ。
 ライオンは病気になると、仕掛けでこれを捕獲し、むさぼり食う。というのは、ピテーコスの肉がライオンの健康に有効だからである、ということ。
 ケーボス(kebos)はライオンの尻尾を持ったサルで、まったくもって好色なため、交尾のためにどんな動物にでものしかかるということ。

*1 ギリシア語は"pithekos"であるが、筆者は、尻尾のないのをピテーコス〔Macaca sylvana〕、尻尾のあるのをケーボス〔Cercopithecus pyrrhonotus〕と呼んでいるので、訳し分けた。

主題52 スピンクス(sphinx)について
 スピンクスたちは飛鳥のようにすばしこいということ。
 酒を飲み、酔っぱらうということ。
 別種の小さなのが浄福者たちの大地にいて、人間と交わり、酒を飲んで、人間のように酒気を紛々とさせているということ。

主題53 カトーブレプス(katobleps)*1について
 カトーブレプスは、自分の鼻から火を吹く獣であるということ。
 サラマンドラはトカゲのようで、火の中を通ると活気づき、またこれを消すということ。

*1 「うつむき」の意。Ael. NA 7.5。ヌウ(Connochaetes gnu)のことであろうといわれている。

主題54 カストール〔ビーバー〕について
 大きくて白い胃袋をもっていることから、カストール(kastor)はガストール(gastor)の代わりに言われるということ。
 両棲類で、水のほとりに穴居して過ごすということ。
 イクネウモーンより大きく、歯で巨木を伐り倒し、下の根を食べるということ。
 これ〔の毛〕でカストール・ヒマティア〔?〕が織られるということ。
 これの睾丸はさまざまな治療に効き、そのためにイヌどもやヒトたちに追跡されるが、その理由を知っているので、爪でそれ〔睾丸〕を切り取って投げすて、〔追っ手が睾丸に気をとられている間に〕逃げのびるということ。しかし2度目に、睾丸がないにもかかわらず、追われたら、向き直って〔睾丸を〕持っていないことを示すということ。
 捕獲されることを恐れて、巣穴を何度も変えるということ。しかし、夜間に捕獲される。というのは、火を怖がって、じっと身動きできなくなるので、狩人は灯火を持ったまま接近し、そうやって捕まえることができるからである、ということ。
 水際で暮らすのは、カストール、サテリオン〔HA 594b31〕、ラタックス〔HA 478a22, 594b32〕、エニュドリス〔カワウソ HA 594b31〕、そして水生サペーリナの親であるサペーリオンであるということ。

主題55 カエルたちについて
 カエルたちはしばしば群雲から発生することがあるということ。
 池が干上がるとカエルたちは死ぬが、再び満水になると生き返るということ。
 カメレオンと同様、しばしばヘビと…〔欠損〕…ということ。

主題56 マーモット(arktomys)*1
 マーモットは、ほかの連中が食餌している間、1匹が見張りをし、めいめいがこれに食餌の一部を運んでやる。しかし、そいつが見張りを怠り、何かが突然襲ってきたときには、その見張りを取り殺すということ。

*1 "arkto-mys"すなわち「クマ-ネズミ」の意。

"Codex Parisinus"
 ポーケー〔アザラシ〕*1の獣皮に雷は落ちることはけっしてない。だからこそ、例えば、船舶の檣頭(karchesia)といわれる部分注60)も、船乗りたちはそういう獣皮で包み隠すのだということ。さらにまた、皮のいささか厚い部分をブドウにぶらさげておくと、霰も同様ブドウを傷つけることは決してない。
 ポーケーの歯は、子どもたちの歯の発生を痛くないようにせさるし、この獣皮をまとっていると、上空からの矢弾を逸らせるということ。
 ポーケーの獣皮をしっかりふりながら、篩にかけた種子を、一定の耕地に少しずつ渦巻き状になるように播いて、ほとんど大きな円になるようにすれば、その年は、その耕地に霰が降ることはできない。ただし、その土地に降り来る霰は、隣人たちが迎えざるをえなくなるということ。
 スキアイナ*2にある2個の石〔耳石〕が生じる、このうち右の石は人間の頭の右の部分を、左の石は左の部分を治癒させると言われているということ。
 海で、長いコクロス(kochlos)なるもの*3が漁されるが、これは「火(pyr)」と呼ばれ、人間の手にそっくり似ている、この肉が水で煮詰められると、その水が人間の心や声をもつにいたり、精神錯乱であれ狂気であれ、病人を治すということ。
 女性が妊娠しているとき、子宮に付着する貝殻(ostrakon)は、時機にかなった出産ができるよう彼女を護る。さらにまた、陣痛の際に、女性の胎児をも確保する。
 エロプス*4は、煮られると、敵たちを友として結びつけるということ。
 ケッポス*5の血は、人間の腱や関節に触れられると、走ることにはずみをつけるということ。
 ハクチョウのぷよぷよした雛たちをオリーブ油で煮詰めると、腱の治療に大いに利くということ。
 8本足〔タコ〕をあなたが漁りたいとおもったら、オリーブの枝を採って、断崖のある場所とか、海岸のいわばとかで、海中に垂らしなさい、そうして、その枝に巻きついたものがいたら、あなたはそれを引き上げるだけでよい。
 海にいる魚を一か所に集めたいとおもったら、〔文意不明〕。
 海にいる魚を食事に供したいとおもったら、メコニオン*6の乳液とキュクラミノス*7の草を採って、刻み、挽き割り大麦(アルピタ)といっしょにすべてを混ぜ合わせ、数多くの魚が見えるところに、魚たちが食いつくよう投げこむがよい、そうすると、〔魚たちが〕喰って、そのままの状態となり、あたかも屍体のようにただようので、そこであなたはこれを手で取り集めればよい。
 ひとがハルキュオーン〔カワセミ〕という鳥の心臓を、この鳥の皮といっしょに、黄金のマテガイの中に封じこめて身につけていると、雷や稲妻の害を受けない。しかし、家の中に、「"aphia aphryx"」と刻みこんだ雷石(lithos keraunios)を持っていたら、あなたは雷除けのお守りを持つことになる。

*1 Phoca monachus
*2 帆柱の先端部のこと。
*3 ニベ科のScianea umbra L.(=Umbrina vulgaris Cuvier, S. vel U. cirrosa)
*4 HA 528a1では巻き貝のことなので、ここの記述と合わない。何をさしているか不明。
*5 HA 505a15。「elopsは「沈黙」の意で、この語は一般に詩的な冠辞として魚につけられるものであるが、ここのは、珍奇な外国産の魚だとか、チョウザメだとか、大きなマグロだとかいわれている。(島崎)
*6 HA 593b14。「kepphosもはっきりわからないが、16世紀以来オオバンFulica atraとする人と、Larusおよびそれに近縁のカモメの類とする人々があり、Sch、スンデヴァル等はヒメウミツバメHydrobates pelagicaとしている。いずれもたいして根拠はない。(島崎)
*7 Cyclamen graecum

 //END
2003.07.06. 訳了


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