PL本 | Caxton本 |
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18 ところで、その当時、サモスに次のような事件が突発した。全祭が執り行われていたとき、突如、ワシが舞い降りてきて、公印をかっさらい、奴隷のふところの中に落とした。そういうわけで、サモス人たちは大騒ぎし、この前兆についていうにいわれぬ憂悶にとりつかれ、同じところに集まって、クサントスに懇願し始めた 同市民の第一人者にして、哲学者であるから、自分たちのためにこの前兆の判断を解き明かしてくれるように、と。 けれども彼はすっかり困りはて、しばしの猶予を請うた。そして帰宅したものの、大いに落胆し、苦痛にさいなまれた、判断できるようなことは何もなかったのである。 するとアイソーポスが、クサントスの落胆ぶりを察して、近づいて言う、「何のために、おお、ご主人さま、そんなに落胆しておられますのや? あっしに相談してみておくれやす、苦痛にはおさらば云うて。明日は、民会で進み出て、サモス人たちにこう云うてください、『それがしは、前兆解きの法も、鳥占の法も学んだこともないが、ここなるわしの童僕は、数々の経験を積んでおる。こやつがあなたがたのために問題を解いてくれよう』と。そうして当の本人が答えをしとめれば、ご主人さま、そういう奴隷を使っている旦那が名声を独り占めにできるでしょう。たとえわてがしくじっても、そこから結果する侮辱はあっしひとりにおっかぶせればいいでしょう」。 |
さて、ちょうどそのとき、サモスの都で不思議な出来事が起きた。市民らが集まって芝居を演じていたとき、突然二羽の鷲が人々の間を通り抜け、サモスの都の全権のシンボルたる指輪形の印章をさっと奪うと、それをある自由民のふところに落としたのであった。市民らはサモス第一の賢者とうたわれていたエクサントゥスにその意味を尋ねたが、彼は答えられず、沈欝な面持ちでいたところ、イソップが「私に答えさせてください。明朝サモスの市民たちに『私の家には謎を解くことができそうな賢い奴隷がいますので、よろしければ登場させます』とおっしゃってください」と言った。エクサントゥスはそのとおりにした。 |
こうしてクサントスは説得されて、次の日、真ん中に立って、アイソーポスとの打ち合わせどおり、参会者に演説した。そこで参会者はすぐにアイソーポスを呼ぶよう要請した。 彼がやってきて、真ん中に立つや、サモス人たちはその見てくれに心づいて、冷やかして謂った、「この見てくれで、前兆が解けるのか? こんな醜いやつから、いったいどんな美しいことを聞くことができるのか?」。そうして笑いだした。 するとアイソーポスは、手で合図して静粛にするよう要請したうえで、謂う、「サモス人諸君、なぜわたしの見てくれをあざけるのか? 見てくれにではなく、理性に注目すべきであろう。なぜなら、自然が劣悪な姿形にも有用な理性を植えこむこと、しばしばだからである。それとも、諸君が目をつけるのは、陶器の外形なのか、内にある酒の味にではなくて」。一同は、こういったことをアイソーポスがいうのを耳にして、言った、「アイソーポスよ、何かできることがあれば、国のために言ってくれ」。 すると彼は率直に謂った、「サモス人諸君、運命(tyche)は勝利を愛するもの、その運命が今まさに奴隷と主人との間に名声をめぐる競演を課したのであるからには、奴隷が主人に劣ると判明しようものなら、数々の鞭のもとに置かれ、よしやまさっていると〔判明〕しようとも、その場合でも少なからざる殴打にさいなまれるであろう、されば、あなたがたが、わたしの自由をもって直言(parresia)をわたしに賜るなら、わたしは今ただちに怖れることなく問われていることをあなたがたに述べよう」。 このとき、民衆は異口同音にクサントスに向かって声を張り上げた、「アイソーポスを自由にせよ、サモスの者たちのいうことを聞き入れよ。国のために彼の自由を賜えよ」。しかしクサントスは首肯しなかった。そこで評議員が謂った、「クサントスよ、民衆にいうことを聞き入れるのがそなたによしと思われなければ、このさい、わたしがアイソーポスを自由に解放しよう、さすれば、そなたにとって同価となろう」。ことここにいたって、クサントスは余儀なく自由を与えた。そこで伝令官が声を張り上げた、「哲学者クサントスは、サモス人たちのためにアイソーポスを自由とせり」。そしてこれによって、アイソーポスの言葉「否でも応でも、あっしを自由にすることになるでがしょう」が成就したのであった。 |
かくしてイソップが登場し、裁判官の席に着くと、人々はその醜い姿を見て嘲った。するとイソップは手で一同に静粛を合図し、こう言った。「みなさんはなぜ私を笑うんですか。人は外見でなくその知恵に注目せねばなりません。汚い徳利にもしばしば美酒が詰まっているものです。さて、今日主人と家来の間に争いが起きました。たとえ私が勝っても、報酬はもらえないのです。また、私の主人が勝てば、彼の奴隷である私は自由を得ることができず、打たれ、罵られ、牢に入れられます。ですから、私が確信をもってあなたがたに発表できますように、私を解放してください。そうしてくだされば、私はこの前兆の意味をお教えいたします」市民たちは一斉に、「イソップの要求は正当だ」と叫んだ。しかしエクサントゥスはこれを拒んだ。すると市長が出てきてエクサントゥスに、「そなたが市民の声に従わなければ、余の権限でイソップを解放させる」と言った。 |
さて、アイソーポスは自由を手に入れたので、真ん中に立って謂った、「サモス人諸君、ワシは、ご存じのとおり、鳥類の王である。他方、これが将軍の指輪をさらって、奴隷のふところに落としたということ、これが前兆とするは明らかに、現在の王たちのいずれかが、われわれの自由を隷属させ、現行の法習を無効とせんと企てているということである」。これをサモス人たちは聞いて、意気消沈してしまった。 |
イソップが自由の身になれたこと。ついにエクサントゥスはイソップに、「わしの本意ではないが、おまえに自由を与える」と言った。そしてただちにこの旨、都じゅうに通達された。 |
さて、アイソーポスは自由を手に入れたので、真ん中に立って謂った、「サモス人諸君、ワシは、ご存じのとおり、鳥類の王である。他方、これが将軍の指輪をさらって、奴隷のふところに落としたということ、これが前兆とするは明らかに、現在の王たちのいずれかが、われわれの自由を隷属させ、現行の法習を無効とせんと企てているということである」。これをサモス人たちは聞いて、意気消沈してしまった。 | そこでイソップは聴衆に向かって言った。「サモスの方々、鷲は鳥の主であります。つまりこの事件は、ある王があなたがたの自由を奪い、あなたがたの法律を全廃するだろうということを意味しているのです」 |
程経ずして、リュディアの王クロイソスからサモス人たちに宛てて書簡まで届き、この島から自分〔クロイソス王〕あてに貢祖を納めるよう命じ、聞き入れざるときは、開戦の用意ありとの内容であった。 | するとまもなく、ある使者が勅書を携えてやってきた。その内容はこうであった。「リディア王クロイソスがサモスの議会および人民に物申す。汝等は余に服従し、貢ぎ物をせよ。これを拒めば汝等を皆殺しにし、汝等の都を焼き滅ぼすであろう」 |
そこでみなして(というのは、怖れたから)、クロイソスに臣従して貢祖を納めること、ただしアイソーポスにも問うてみることを評議した。すると、くだんの男は、質問されて云った、「あなたがたの執政官たちが、王に貢祖を納めることを受け入れるとの動議をすでに提案されたのであるから、あえて進言するような真似はやめて、あなたがたにひとつの喩言(logos)を述べたい、しかるのちに貢祖を納入なさるがよかろう。 運命(tyche)が人生に2つの道を示して見せた、ひとつは自由の道で、これの初めは難路であるが、終わりは平坦である、もうひとつは奴隷の道にして、これの初めは安楽で歩きやすいが、終わりは苦しみにみちている」。 |
サモスの市民らはこれを聞いて恐れおののき、イソップに助言を求めた。彼は言った。「人の運命は二つに分かれます。ひとつは自由であり、最初は辛いが後で楽になります。もうひとつは隷属で、最初は楽だが、後で辛くなります」 |
これを聞いてサモス人たちは拍手喝采した、「われわれは自由人であるから、すすんで奴隷となることはしない」。そして使節を和平〔条約〕を持たぬまま送り返した。 | 市民らは国家の幸福を思い、一斉に「われわれは自由だ。誰の家来にもなるまいぞ」と叫んだ。 |
そこでクロイソスはこれを知って、サモスと人たちと戦端を開こうとした、しかしくだんの使節が復命していうには、彼らのところにアイソーポスがいて、知恵をつけているかぎりは、サモス人たちを手下にすることはできないできますまい。そしてさらに、「できるとしたら」と云った、「おお、王よ、使節たちをつかわして彼らにアイソーポスの引き渡し要求をすることです、きやつの代わりにほかの恩恵の授与と、賦課した貢祖の中止とを彼らに約束して。そうすれば、そのときこそ、すぐにでもそれをせしめることができるでしょう」。 | この返答は使者によってクロイソスに届けられた。王はかんかんに怒り、サモスを滅ぼすべく大軍を召集した。そしていざ出陣というときに、例の使者がこう進言した。「陛下、サモスにイソップがいるかぎり、あなたは彼らに復讐することはできません。彼は万事につけて市民たちに助言しているからであります。使者を派遣して彼を送り届けさせるようお命じください。そして彼らの無礼はお許しください。イソップさえ手に入れば、陛下はサモスを掌中に収めたも同然ですゆえ」 |
そこで、こういう次第でクロイソスは、使節を派遣し、アイソーポスの引き渡しを要求した。そこでサモス人たちはこれを引き渡したらいいとの考えをいだくにいたった。 アイソーポスはこのことを知って、アゴラの中央に立って謂う、「サモス人諸君、わたしも、王の足許にゆけるなら、大いにありがたいと思う。しかしあなたがたにひとつ寓話(mythos)を語りたい。生き物が同じ言葉をしゃべっていた時代、オオカミたちとヒツジたちとが交戦した。しかしイヌたちが家畜たちと共闘し、オオカミたちを退散させた。オオカミたちは使節を派遣して、ヒツジたちにこう云った、平和に生きたいなら、そして戦争の心配をしたくないなら、イヌたちをこちらに引き渡すことだ、と。そこでヒツジたちは愚かにも聴従し、イヌたちを引き渡すと、オオカミたちはイヌたちを食いちぎり、ヒツジたちを易々と破滅させたのである」。 |
王はそのとおりに事を運んだ。イソップはクロイソス王の意向を知ると、サモスの市民らに、「私は喜んでリディア王の許へ参ります。しかしその前に寓話をひとつ語らせてください」と言った。狼たちが羊たちに使節を送った話「動物が言葉を話していたころ、狼たちが羊たちといくさをしました。羊たちは歯が立たないと知って、犬たちに助けを求めました。犬たちは羊たちに加勢して、狼を追い払いました。狼たちは犬のせいで羊を餌食にできないと知って、羊たちに永久の講和を結ぶと言って使節を送りました。そして疑いを除くために犬を引き渡すことを求めました。愚かな羊たちはこれを承知しました。そこで狼たちは犬たちを殺すと、羊たちに復讐したのであります」イソップがこの話をすると、サモスの市民はイソップをリディア王に渡すまいと決めた。 |
そうすると、サモス人たちはこの寓話の問題〔意味〕を理解し、懸命になってアイソーポスを自分たちのもとにとどめようとした。しかし彼は受け入れず、使節といっしょに船出し、クロイソスのもとに参内した。 こうして一行がリュディアに到着すると、王は彼の御前に立ったアイソーポスを眺めて、立腹して言った。「見よ、あんな島を従わせようとするわしの邪魔をしたのが、こんなやつとはなぁ」。するとアイソーポスが、「大王様、陛下のもとに参上いたしましたは、力によらず、まして必然によってでもありませぬ、自己選択で参ったのでございます。そこで我慢してわたしの話を少し聞いてくださいませ。 ある男がイナゴを狩りあつめて殺しておりましたが、セミまで捕まえました。そこでこれを殺そうとしましたら、そのセミが謂うのです。『あなたさま、むやみにわたしを亡き者にしないでください。なぜなら、わたしは麦穂を害することもなく、他のどんなことでもあなたに不正することはありません、わたしのなかにある膜を動かせて、快い声を発し、道行く人たちを楽しませるのみ。ですから、声以外にわたしから得られるものは何もないのです』。くだんの男もこれを聞いて、立ち去るようにと放してやったのです。 されば、わたしも、おお、王様、陛下の御足におすがりします、わたしをことさらに殺さないでくださいませ。わたしはどなたかに不正することさえできず、あわれな身体で、高貴な喩言を語るのみでございます」。 |
イソップがサモスの民に従わず、リディア王のところへ行ったこと。イソップはサモスの市民の意に反して、クロイソスの許へ行った。王はイソップがひどい出来損ないだと知って、腹を立てた。するとイソップは言った。「私は自分の意志により、王様が恵み深くも私の話を聞いてくださると信じてこの国に参ったのであります」王はこれを許可した。イソップはこう語った。「ある男がバッタを捕まえようとして、ナイチンゲールを捕まえました。この鳥は殺されると思って、猟師にこう言いました。『理由なく私を殺さないでください。私は何も悪いことはしておりませんから。私は穀物も食べないし、角で人を傷つけることもいたしません。私はただ私の歌で道行く人々に喜びと慰めを与えるだけです。私の体の中を探しても歌しか見つかりませんよ』猟師はこれを聞いて、ナイチンゲールを放してやりました。ですから王様、私のような何の力もない者を理由なく殺さないでください。私は無害ですし、体が弱く、何もできません。私はただこの世に生きる人々のためになることを喋ることができるだけですから」 |
王は驚嘆するとともに彼を哀れみ、謂った。「アイソーポスよ、そなたに命を与えるはわしではない、運命(moira)じゃ。して何が望みか、求めよ、されば得ん」。すると彼が、「陛下にお願いいたします、王様、サモス人たちを解放してくださりませ」。すると王が、「解放しよう」と云ったので、かの〔アイソーポス〕は地面に身を投げ出し、その恩恵に感謝し、その後、みずからの手に成る寓話集(これは今に至るも伝承されている)を集成して王のもとに残した。そして、〔アイソーポスは〕彼〔クロイソス王〕からサモス人に宛てた書簡(アイソーポスのおかげで彼らに解放が与えられたという内容の)と、数多くの贈り物とを受けとり、出航してサモスに立ち返った。こうしてサモス人たちは彼を見て、彼に花環を捧げ、彼のために合唱舞踏を開催した。彼は彼で、彼らに王の書簡を読みあげ、〔サモスの〕民衆から自分に与えられた自由を、自由によって再びお返ししたことを証明してみせたのであった。 | 王は驚き、哀れみを覚えて、彼に言った。「わしがおまえを助けるのではない。運命がおまえを助けるのだ。何でも欲しいものを申してみよ。取らせるであろう」イソップ「たったひとつ欲しいものがあります。どうかサモスの貢ぎ物を私にくださいまし」王「よし、分かった」イソップ「ありがとうございます」 そして彼は、数々の寓話を作って一巻の書、つまり本書にまとめ、王に献上した。そして一方、サモスの民の貢ぎ物を免除する勅書を王に請願した。王はそれを、他の多くの贈り物とともに、快くイソップに手渡した。イソップは王に暇乞いをしてサモスへ帰った。サモスの民は彼を恭しく迎え、帰国を大いに喜んだ。イソップは集まった人々の前で、サモスからの貢ぎ物を免除する旨のクロイソス王の書簡を読み上げた。 |
19 その後、島を離れ、人の住む地を遍歴し、いたるところで哲学者たちと対話した。さらにはバビュローンに至り、自分の知恵を披瀝し、リュケロス王から高位にとりたてられた。 というのは、その当時、王たちは互いに平和を守り、娯楽のためにお互いに理知的な問題を書き送り合っていた。これを解いた側は、約定により、送った側から貢祖を受けとり。そうでない場合は、同じだけの貢祖を提供するを常としていた。そういうわけで、アイソーポスは、リュケーロスに送られてくる問題を見抜いて解き、この王を評判高からしめたのである。またみずからも、リュケーロスを介して王たちに別の問題を送り返し、それが解けないために、この王はできるかぎり多くの貢祖を苛斂誅求していたのである。 |
この後イソップは、外国に遊んで説話や寓話によって民衆を教化しようと、サモスを後にした。彼はバビロニアへやって来た。そしてその知恵によって、バビロニア王リクルスに歓迎された。当時諸国の王は互いに難問を出し合って楽しんでいた。そして解答が分からない王は、設問した王に貢ぎ物を送ることになっていた。イソップは数多くの寓話を作り、それらをリクルスが諸国の王に送った。彼らは誰もその意味が解けずに貢ぎ物を送ってきた。かくて王国は増大し、大きな富を貯えるにいたった。 |
20 ところで、アイソーポスは子どもができなかったので、生まれよき階層に属するひとり、呼び名をエンノス(Ennos)というのを養子にして、嫡子として王のもとに連れて行き、目通りさせた。しかし、多日を経ずして、このエンノスが統治者の側室と姦通したので、アイソーポスはこれを知って、家から追い出そうとした。 ところが相手は、彼に対する怒りに駆られ、リュケーロスに謀反をたくらむ者たちに宛てたアイソーポスからの書簡なるもの、その内容は、リュケーロスによりも彼らに加担する用意ありというものを捏造し、これにアイソーポスの印章を捺して、王に手交した。 |
さて、イソップには子がなかったので、エヌスというある貴族の息子を養子にした。ところがエヌスはほどなく、イソップの侍女で妻でもあった女と密通した。そしてイソップの仕返しを恐れて、イソップを反逆罪で訴えた。そして王に、イソップが諸国の王に送った寓話が、王を裏切り、王の死を謀ったものである旨の偽手紙を見せた。 |
リクルス王は、エヌスの訴えを真に受けて激怒し、へロぺなる執事に、イソップを死刑にせよ、と命じた。しかしへロぺはこの判決が不当であることを見抜いて、イソップを密かに墓室にかくまった。イソップの財産はすべて息子に没収された。それからしばらくたって、エジプト王ネクタナプスが、イソップは死刑に処せられたと考えて、リクルス王に難問を出した。それは、「天にも地にも触ねないような塔を建てたいから、石工を送ってほしい」というものであった。王は困りはて、悲しみのあまり地に倒れ伏し、ィソップを死刑にしたことを悔いた。へロぺがこれを知り、イソップを墓室にかくまってきたことを告白した。王は狂喜して起き上がり、イソップをすぐ連れてくるように命じた。イソップが来た。彼は青白く、やつれ果てていた。王はイソップに新しい服を着せた。イソップは王の前に出ると、どうして自分を獄に投じたかを尋ねた。王はエヌスの告訴によることを明かした。王は父の死を謀ったエヌスを厳罰に処するよう命じた。しかしイソップはエヌスを許してほしいと願い出た。さて、王はエジプト王がよこした難題をイソップに教えた。イソップは、冬が過ぎたら塔を建てる者を派遣する旨の返事を書いてほしい、と王に言った。王はエジプト王に使節を送った。その後で、王はイソップに全財産を取り返してやった。そして彼を最高の地位に上げ、自分の息子を自由に罰する権限を与えた。 |
バビロニア王がイソップを最高の地位に上げる旨の命令を発したこと。また、イソップが自分の養子の罪を許したこと。リクルス王は、エヌスの訴えを真に受けて激怒し、へロぺなる執事に、イソップを死刑にせよ、と命じた。しかしへロぺはこの判決が不当であることを見抜いて、イソップを密かに墓室にかくまった。イソップの財産はすべて息子に没収された。 |
王はその捺印を信じ、おさえきれぬ怒りをいだき、いかなる糾問もなしに即断で反逆者としてアイソーポスを処刑するよう、ヘルミッポスに命じた。しかしヘルミッポスは、アイソーポスの友であって、このときにこそ友たるの実をしめした。すなわち、ひとつの墳墓の中に、誰も知らぬ間に、この人物をかくまい、ひそかに食事を運んだのである。一方エンノスは、王の言いつけで、アイソーポスの宰相としての全権を引き継いだ。 |
それからしばらくたって、エジプト王ネクタナプスが、イソップは死刑に処せられたと考えて、リクルス王に難問を出した。それは、「天にも地にも触ねないような塔を建てたいから、石工を送ってほしい」というものであった。 王は困りはて、悲しみのあまり地に倒れ伏し、イソップを死刑にしたことを悔いた。へロぺがこれを知り、イソップを墓室にかくまってきたことを告白した。王は狂喜して起き上がり、イソップをすぐ連れてくるように命じた。イソップが来た。彼は青白く、やつれ果てていた。王はイソップに新しい服を着せた。イソップは王の前に出ると、どうして自分を獄に投じたかを尋ねた。王はエヌスの告訴によることを明かした。王は父の死を謀ったエヌスを厳罰に処するよう命じた。しかしイソップはエヌスを許してほしいと願い出た。 さて、王はエジプト王がよこした難題をイソップに教えた。イソップは、冬が過ぎたら塔を建てる者を派遣する旨の返事を書いてほしい、と王に言った。王はエジプト王に使節を送った。その後で、王はイソップに全財産を取り返してやった。そして彼を最高の地位に上げ、自分の息子を自由に罰する権限を与えた。 だがイソップは養子を自分の家に呼び戻し、優しく説諭した。彼はこう言ったのである。 |
しばらくして、アイギュプトス人たちの王ネクテナボー(Nektenabo)王は、アイソーポスが刑死したと聴き、ただちにリュケーロスに書簡を送ったが、その内容は、天空にも大地にも接することなき塔を建造する建築師たちのみならず、質問されたらどんなことでも即座に答えられるものを自分のもとに派遣されたし、これができたら、貢祖を苛斂誅求なさるがよい、できなければ朝貢すべし、というものであった。 これがリュケーロスに読みあげられると、失意落胆に突き落とした、友たちの中には、塔に関するこの問題の解ける者が誰もいなかったからである。もちろん王は、アイソーポスを失ったことを、自分の王国の主柱を失ったとさえ言った。 ヘルミッポス(Hermippos)は、アイソーポスゆえの王の苦しみを知って、王の前に進み出て、くだんの人物は生きているというよろこばしいことを告げ、付け加えていうには、こういうときのためにこそ彼を亡き者にはしなかったのだ、いつか王が独断を後悔なさるとわかっていたので、と付け加えた。すると王はことのほかよろこび、アイソーポスはすっかり汚れてきたいまま前に引き立てられてきた、王は彼を見るや、涙を流して、入浴し他にも手厚い世話を受けるよう言いつけ、その後で、アイソーポスは弾劾された罪状をもきっぱり否認した。これによって王もエンノスを亡き者にしようとしたが、アイソーポスが寛恕を請うた。これに続いて、王はアイギュプトスからの書簡を読むようアイソーポスに手渡した。すると彼はすぐさま問題の解答がわかり、笑って、冬が過ぎなば、塔の建築師たちならびに、質問されたことに答える者とを派遣せん、と返信をしたためるよう言いつけた。そこで王は、アイギュプトスの使節団を送り返し、アイソーポスにはもともとの宰相の全権を手交し、エンノスをも見限られた者として彼に引き渡した。 しかしアイソーポスはエンノスを引き取り、彼を何ら憎悪することなく、再び息子として心を注ぎ、とりわけ次のような言葉を教訓した。 |
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「息子よ、私の戒めをようく心にとめておくがいい。おまえは人間ゆえ、運命に従わなければならない。それゆえまず第一に神を愛せ。そして王の怒りを招かぬようにせよ。人間である以上、人事に関心を持て。悪者は神が罰してくださるからである。他人に害を加えるのはよくない。だが、おまえの敵に対しては残酷であれ。おまえの味方に対してはにこやかであれ。味方には幸福を、敵には不幸を願うべきだからである。妻には優しく話せ、彼女が他の男を求めないように。なぜなら女は非常に移り気であり、妻は夫におだてられたり優しい言葉を掛けられたりすれば、浮気をしたくなくなるからである。冷酷非情な者と付き合うな。そのような者はたとえ富み栄えていても、卑しい者である。耳を塞げ。口を慎め。多弁を控えよ。他人の財産を羨むな。家族に愛されたくば、面倒をよく見てやれ。道理に反することをするのは恥と思え。毎日怠ることなく学べ。妻に秘密を明かすな。財産を浪費するな。なぜなら、生きている間に貧窮して乞食をするよりも、死後に財産を残すほうがいいからだ。道で会った者には笑顔で挨拶せよ。犬でさえ、知っている者には尾を振って愛敬を振りまくではないか。何びとをも嘲るな。たえず知識を学べ。借金は快く全部返せ、そうすれば後で相手がおまえに喜んで貸してくれる。助けてやれる者に援助を拒むな。悪い仲間と付き合うな。友人には自分の仕事について教えよ。後で後悔するようなことはするな。逆境に出合ったら、じっと辛抱せよ。宿無しを泊めてやれ。よい言葉は罪悪の薬である。よい友人が得られる者は幸せである。なぜなら、どんな秘密もいつかはばれるからである」 | 21 「わが子よ、万事につけて神威(to theion)を敬え、王を尊べ。そして、おまえの敵たちに対しては、怖るべきものとして振る舞え、おまえを侮ることのないように。しかし友たちに対しては、柔和で雅量ある者となれ、そうすれば、おまえにとってより好意をしめす者となろう。さらにまた、敵たちに対しては、病気・貧乏になるよう祈れ、そうすれば、〔おまえを〕苦しめることはできまいから。しかし友たちに対しては、万事において栄える(eu prattein)よう望め。おまえの妻とはいつもきちんと交われ、ほかの男の挑発をうけることを〔妻が〕求めないように。なぜなら、女どもの部類は尻軽であって、あまりちやほやされないと、よからぬことを考えるからだ。言葉は鋭い言葉で聞き手を魅了し、舌は自制的なものの持ち主たれ。栄える(eu prattein)者たちには妬みをいだかず、喜びをともにせよ。なぜなら、妬めばおまえ自身を損なうことになるから。おまえの家僕たちに意を用いよ、おまえを主人として怖れるばかりか、恩人として慎むように。よりまさったことをいつも学ぶことを恥じるな。女を信じて秘密を打ち明けるようなことはけっしてするな。おまえを尻にしこうと、いつも武装しているからだ。 日毎につねに明日までの貯えを残しておけ。命終して敵たちに残してやることの方が、生きて友たちがいないよりはましだからである。出会う者たちに愛想よくせよ、犬ころにとって、尻尾〔を振ること〕はパンをもたらすと知って。善人でありつづけて変節するな。中傷する者はおまえの家から追い出せ、おまえの言ったことしたことを、そそくさと他人に注進するであろうからだ。おまえに苦痛を与えないことは為し、結果したことのために苦しむことをするな。いかなる時も邪なことをたくらまず、悪しき習わしを真似るな」。 |
こういったことをアイソーポスはエンノスに訓戒したので、くだんの人物はこれらの言葉とみずからの良心に、あたかも矢に〔撃たれる〕ように魂を撃たれて、多日を経ずして往生を遂げた。 |
エヌスがイソップの許を去り、自殺したこと。イソップにいろいろと諭された後、エヌスは父親をいわれなく告訴したことを悔いて、イソップの許を去った。そして悲しみに満ちて高い山に登り、頂から身を投げて自殺した。邪悪な人生は不運な結末を迎えるのである。 |