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87 ところがサモス人たちは、アイソーポスを見るなり笑いだし、はやし立てた、「この前兆を解くのは、ほかの前兆解きに任せろ。やつの顔の化け物ぶりをみろ! カエルだ、疾走ブタだ、はたまたこぶつきスタムノスか、はたまた猿の第百人隊長(primipilanis)か、はたまた小フラゴン(lagyniskos)の彫像か、はたまた調理人の道具箱(skeuothke)か、はたまた行李の中の犬か」。しかしアイソーポスは聞きながら鼻であしらうこともなく、落ち着き払って次のように語り始めた。 |
87 彼が真ん中に進み出たところが、サモス人たちはその姿を見てとるや、嘲弄して彼に言った、「これが前兆解きの顔か? このむさ苦しいやつからどんな善いことが聞けるというのだ?」。そうして笑いだした。しかしアイソーポスは高壇の上に立って、群衆に手を振って静粛にするよう求め、かくて静になると謂った。 |
88 「サモス人諸君、わたしを見つめてあざ笑うのはなぜか? 顔を見るべきではなく、思慮を考察すべきだ。なぜなら、姿形から、人間の心(nous)を咎めるのは奇妙のことだ。というのは、恰好は最悪でも、思慮深い心(nous)をもつ者は多いからだ。したがって、誰ひとり、人間の大きさが劣っているのを見て、眼に見えないもの、すなわち分別を非難してはならないのだ。なぜなら、医者は病人を見ても匙を投げることなく、触診でさぐって治療法をさとる。壺(hithos)を見つめても、これを味わってみてはじめて、味がわかる。ムーサが判定されるのは劇場において、しかし寝室においてはキュプリスが〔判定される〕。そのように、思慮も〔判定されるのは〕言説においてなのだ」。かくして、サモス人たちは言われている事柄と見かけとは等しくないことを発見し、お互いに言い合った、「才気あるやつだ、ムーサたちにかけて、しかも弁才がある」。そして彼にむかってはやし立てた、「安心しろ、解いてくれ」。アイソーポスは、自分が称讃されているのを悟って、直言の好機到来とばかり、言い始めた。 |
88 「サモス人諸君、わたしの見てくれをあざ笑うのは何ゆえか? 注視すべきは顔ではなく、精神(dianoia)だ。なぜなら、最悪の恰好に自然は思慮深い分別を与えることしばしばであるからだ。されば、考察すべき対象は陶器の徳(出来)などではなく、内にある酒の味であろう」。これを聞いて群衆は、お互いに声を掛け合い、言った、「アイソーポス、国家のために言うことができるなら、言ってくれ」。すると彼は、自分が称讃されているのを知って、直言して謂った。 |
89 「サモス人諸君、奴僕が自由な市民のために前兆を解くというのは、道理に合っていない。だからして、述べられることの自由な発言権(parresia)をわたしに授けていただきたい、それは、もしもわたしが言い当てたら、自由人として、ふさわしい名誉をわがものとするため、しかしもしも言い当てそこねたら、奴僕としてではなく、自由人として罰せられるためです。されば、自由の発言権(parresia tes eleutherias)がわたしに授けられたら、まったく恐れるところなく言い始めましょうほどに」。 |
89 「サモス人諸君、「運命(Tyche)」は愛美者ゆえ、主人と奴僕とに名声の競い合いを課してきたゆえ、奴僕はといえば、その主人よりもすぐれていると見えたら、鞭の暴虐受けることになる それゆえ、自由によってわたしに発言権(parresia)を恵贈してくださるなら、まったく恐れるところなく、わたしも問題を語りましょう」。 |
90 そこでサモス人たちはクサントスに云った、「貴殿に要請しよう、クサントス殿、アイソーポスを自由とされたい」。議長(prytanis)もクサントスに言う、「アイソーポスを自由人となされよ」。クサントスが、「久しきにわたって申し分なく奴隷奉公してきた奴僕ゆえ、自由とはいたしませぬ」。議長は、この点でクサントスが反対しているのを見て、謂った、「彼の代価を受け取って引き渡されよ、さすれば拙者が彼を国〔によって解放された〕自由民(apeleutheros)といたそう」。こうなっては、クサントスは、彼を75デーナリオンで購入したことに想いをいたし、銀子ほしさにアイソーポスを自由にしたと群衆にみえないよう、彼を真ん中に立てせて言った、「わたしクサントスは、サモスの民衆の要請により、アイソーポスを自由人として解放いたします」。 |
90 そこで群衆はいっせいに叫んだ、「アイソーポスを自由にせよ、サモス人たちのいうことを聞け、国のために自由を授けよ」。しかしクサントスが、「奴僕を自由にする気はない」と謂った、「わしに奴隷奉公したのが、わずかの間ゆえ」。そこで議長(prytanis))が謂った、「大衆のいうことを聞き入れないのであれば、彼をヘーラ〔から解放された〕自由人としよう、そうすれば、貴殿にとっても名誉は同じとなろう」。さらに友人たちも忠告してクサントスに言った、「貴公、彼を自由にしなされ。ヘーラ〔から解放された〕自由人となれば、自由な正義を自分のものとできるのだから」。かく強要されて、クサントスは自由を与えた、そこで触れ役が声を張りあげた、「Dexikratousのクサントス殿が、サモス人たちのために、アイソーポスを自由にせり」。 |
91 さて、こうした経緯で、アイソーポスは中央に進み出て云った、「サモス人諸君、自分たち自身を救え、そして自分の自由のために評議せよ。なぜなら、この前兆は、攻囲と隷属がある証拠なのだから。その前にわれわれに戦争があろう。すなわち、あなたがたは次のことを知ってもらいたい、ワシは鳥類の王であり、これのみが自余の〔鳥類〕よりも権力を有するということを。ところで、〔そのワシが〕舞い降りてきて、諸々の法文書の中から統帥権の指輪をさらい、公共奴隷の懐中に投げ入れた。〔これは〕自由人たちの信義を、隷属の信義なき軛に引きこむ〔ということ〕。だから、この前兆の解はこうである。〔すなわち〕王支配している連中のひとりが、必ずや、あなたがたの自由を隷従させ、諸法を無効にし、おのが権力で捺印しようとするであろう」。 |
91 かかる経緯があって、中央に進み出たアイソーポスは、静粛を要請して謂った、「敬虔なる諸君、ワシは、人間界における王のごとく、鳥類の主である、しかるに、諸法の中から統帥権の指輪をさらって、奴僕の懐中に投げ落としたのであるから、今ある王たちのひとりが、われわれの自由を隷従させ、諸法を無効にしようとしているということである」。 |
92 アイソーポスがなおもこういったことを言っているとき、クロイソス王からの純白の外套を身にまとった信書運び(grammatephoros)が到来し、サモス人たちの執政官たちを探した。そして、民会が開催されていると聞いて、劇場に現れ、執政官たちに書簡を渡した。そこで彼ら〔執政官たち〕が書簡を解いて読みあげた。で、書かれていた内容はこうである。「リュディア人たちの王クロイソスが、サモス人たちの執政官たち、評議会ならびに民衆に挨拶する。汝ら、今より、公的労役ならびに公的租税を上納することを命ず。汝らもし拒まば、朕が王国の持てるかぎりの力もて汝らを害せん」。 |
92 こういうことを劇場でアイソーポスから聞いて、サモス人たちは悲嘆にくれた。そうして集会がもたれているとき、見よ、純白の外套に身を包んだ信書運び(garmmatophoros)がサモス人たちの執政官たちを探していた。そして民会が開催されていると知って、劇場に現れ、執政官たちに信書を渡した。そこで解いてみると、次のような内容であった。「リュディア人たちの王クロイソスが、サモス人たちの執政官たち、評議会ならびに民衆に挨拶する。汝ら、今より、貢祖ならびに租税を朕に上納することを命ず。汝らもし聴従せざらば、朕が王国の持てるかぎりの力もて汝らを害せん」。 |
93 執政官たちは、群衆と相談して、上納を受け容れることにした、このような敵の王を自国に引き寄せないためである。しかし、前兆の結果からして真実の占い師としてアイソーポスに敬意を払い、〔上納を〕送るべきか拒否すべきか、もう一度助言をしてくれるよう彼に頼んだ。するとアイソーポスが彼らに言う、「サモス人諸君、あなたがたの上席市民たちが、王に租税を上納するとの意見を提起なさっているのに、与えるべきか否かと、わたしに聴くのか? もしも『与えるべからず』とわたしが云えば、わたし自身をクロイソス王の敵として明示することになろう」。すると群衆が叫び声をあげた、「意見を言ってくれ」。そこでアイソーポスが謂った、「意見は与えまい、その代わりひとつの言葉〔=物語〕であなたがたに言おう。 |
93 こういう次第で、全員で評議して、王に臣従することにしたが、いかにすべきかアイソーポスにも問いただすことを思い立った。するとアイソーポスが謂った、「あなたがたの執政官たちが、王に貢祖を上納しようと説得しているのだから、意見は与えまい、ただ、言葉であなたがたに述べよう、益するところがあれば理解されたい。 |
94 あるとき、ゼウスの命により、プロメテウスが人間どもに2つの道、ひとつは自由の〔道〕、ひとつは奴隷の〔道〕、を提示した。そして、自由の道は、初めのうちはでこぼこで、抜け出しにくく、けわしく、水場なく、棘草に充ち満ち、全体に危険がいっぱいだが、最後は、平坦な平野で、散歩道のごとく、森には果物が満ちあふれ、水場あり、艱難辛苦を休息させるための最後を持っているように作った。これに反して奴隷の道の方は、初めこそ平坦な平野で、花咲き乱れ、見た目に快適で、多くの贅沢にみちているが、この道の最後は抜け出しにくく、全体に荒々しく、急峻〔なものに作った〕」。 |
94 「運命(Tyche)」が人生のなかに2つの道を示した、ひとつは自由の道で、これの初めはでこぼこで抜け出しにくいが、最後は平坦で等しい。もうひとつは奴隷の道で、これの初めはなだらかだが、最後は険しく危険に満ちている」。 |
95 するとサモス人たちは、アイソーポスの言葉〔=話〕から何が得かを悟って、満場一致で、でこぼこの道を選ぶと信書運びに大声で言い渡した。そこで彼は引き上げて、アイソーポスによって述べられたことすべてを王に詳言した。するとクロイソスは聞いて、軍隊を呼集し、武装するよう命じた。〔王の〕友人たちも激励して言う、「主上よ、かの島に出動しましょう。これを手込めにして、アトランティス海に引きずりこみましょう、そうして、ほかの民衆どもの見せしめにしましょう、かくも偉大な王に逆らえば、ほかに道はないという見せしめに」。ところが、ひとりの同族の者が、王が振り向いたとき、言う、「陛下の聖なる飾り紐(diadema)注4)に誓って申しあげます、陛下御みずから完全武装なさっても、アイソーポスと言われる者が生きて意見を連中に与えるかぎり、サモス人たちを手下にすることはかないますまい。されば、書簡によって、アイソーポスの引き渡しを要求なされてはいかが、『彼の代わりに何なりと望みのものを要求するがよい、さすれば朕が汝らに与えん』と云って」。 |
95 サモス人たちはこれを聞いて、益するところを知り、口々に叫んだ、「自由人であるからには、奴僕にはなるまい」。そうして荒っぽく国使(apokrisiarios)を送り返した。そこで追い返された相手は、出来事をすべてクロイソス王に報告した。そこでクロイソスは動揺し、ほかの国々への見せしめに、サモスを徹底破壊しようと望んだ。するとくだんの国使が王に謂った、「アイソーポスが彼らに意見を与えている間は、サモス人たちを支配することはかないますまい。されば、偽りに使節団を遣って、彼らにアイソーポス引き渡しを要求なさりませ、彼の代わりに恩恵を与えてやるし、貢祖も取らぬと約束して、そうすれば、おそらく、その時に彼らを統治することができましょう」。 |
96 クロイソスはこれを聞いて、意見を述べた当人に、サモスに出向くよう命じた、ほかに好都合でもっと賢い使節がいなかったからである。そこで彼は、何らの猶予もなく、サモスに出帆し、民会を招集して、王の友愛を失うよりは、アイソーポスを渡すよう、サモス人たちを説得した。するとこんなことまで群衆は大声で言った、「連行しろ、王がアイソーポスをとらえるがいい」。すると彼が中央に進み出て言う、「サモス人諸君、王の足許で死ぬことは願いところだ。しかしあなたがたにひとつ言葉〔=話〕を云ってきかせよう、わたしの死後、わたしの記念碑の上に諸君が刻みこむために。 |
96 するとクロイソスは、この目標に満足し、自分の役人たちのひとりをサモスに派遣した。この〔役人〕は到着すると、民会を招集して、アイソーポスを引き渡し与えるようサモス人たちを説得した。するとアイソーポスが中央に進み出て謂った、「サモス人諸君、王の足許に行くことは、わたしにとっても望むところだ。しかしあなたがたのために言葉〔=話〕を述べたい。 |
97 動物たちが人間たちと同じ言葉を話していたころのこと、オオカミたちとヒツジたちがお互いに戦争を交えていたというのが、わたしの話だ。さて、オオカミたちは優勢で、ヒツジたちをむごたらしく引き裂いていたが、イヌたちがヒツジたちの味方について、オオカミたちを追い払った。そこでオオカミたちは、イヌたちに追われて、ヒツジたちのところにひとりの使節を派遣した。こういう次第で、その狼がやってきて、中央に立って、民衆演説家のようにヒツジたちに言った、『諸君が戦争を仕掛けたくも、仕掛けられたくもないならば、われらにイヌたちを引き渡されたものとして渡すがよい、さすれば、何の恐れもなく眠られよう、戦争の懸念はなにひとつないゆえ』。そこでヒツジたちは、愚かだったので、説得されて、イヌたちを引き渡した。そこでオオカミたちはイヌたちをずたずたにした。そしてその後、オオカミたちはヒツジたちを征服した。こういうわけだから、この寓話どおり、諸君は有為の士をいたずらに引き渡してはならないのだ」。 |
97 動物たちが同じ言葉をしゃべっていたときのこと、オオカミたちがヒツジたちと戦争を起こした。ところがオオカミたちが圧制をくわえた。ところがイヌたちがヒツジたちに味方したことで、オオカミたちを退散させた。そこでオオカミたちはヒツジたちのところにひとりの使節を派遣して云った、『平和に生き、戦争の懸念を持ちたくなければ、われわれにイヌたちを引き渡せ』。そこでヒツジたちは愚かだったので、オオカミたちに説得され、イヌたちを引き渡した。こうしてオオカミたちは、イヌたちをずたずたにし、おりを見て、ヒツジたちを滅ぼした。さて、この寓話(mythos)が示しているのは、恩人たちをいたずらに引き渡してはならぬということだ」。 |
98 そこでサモス人たちは、この話が自分たちに向かって述べられていると心づいて、アイソーポスを引き留めた。しかしアイソーポスは留まることをせず、使節といっしょにクロイソスのもとに出向いていった。王はといえば、アイソーポスを見て怒り、云った、「見よ、朕が国を平定せんとするを妨げ、租税を取らんとするをゆるさなんだ者が、いかなる者か。人間であるというのは難しくなくとも、謎であり、人間どものの中の化け物だ」。すかさずアイソーポスが、「国王陛下、力ずくで陛下のもとに連れ来られたわけではありませぬ、ただ、みずから望んで陛下の足下に控えおるのです。しかるに、いきなり傷ついた者たち 突如起こったことの鋭さに叫び声をあげる連中 彼らと同じ状態をあなたがたはこうむっておられます。傷は医者たちの知識、陛下の怒りは、わたしの言葉が治療しましょう、わたしは、陛下の足許で死ねば、陛下の王国を恥じ入らせることになりましょう。なぜなら、陛下の友人たちを、陛下に反対意見を述べる者たちとして常にお持ちになることになりましょう。美しいことを助言する者たちが、陛下のもとで最期をとげるのだと見当をつければ、陛下の王国にとってまったく〔ためにならない〕反対のことを述べることになりましょうから」。 |
98 するとサモス人たちは、このことの意味を考えて、アイソーポスを引き留めることを望んだ。しかし彼は留まることを受け容れず、使節といっしょに出帆し、クロイソス王のもとに到着した、そして参内して、彼〔王〕の御前に立った。王はといえば、アイソーポスを見るや立腹して言う、「見よ、朕ともあろう者に、国民を平定するを妨げたるが、いかような者なるかを」。アイソーポスが謂った、「最も偉大なる王よ、陛下のもとに参上いたしましたるは、力ずくにあらず、まして余儀なくでもなく、みずからの意思でひかえております。そして、あなたがたが、伝聞によって怒っておられるのは、突然傷ついて悲鳴をあげる者たちと同じ状態をこうむっておられるのです。じっさい、傷というものは医者たちの知識によって健康とされ、陛下の怒りはわたしの言葉が癒しましょう。というのは、わたしはみずから望んで陛下のもとに参りましたのに、陛下の足許で死ぬようなことがあれば、陛下の王国を卑小なりと批判することになりましょうほどに。なぜなら、陛下の友人たちを、陛下に反対の意見を助言せざるを得なくなさることになるからです。なぜなら、正しいことを助言する者たちが陛下のもとでは悪く判断されるなら、彼らは陛下にとって反対のことを述べるでしょうから。だから、いそいそと信じる者たちは、空っぽの容器のように、その耳〔取っ手〕によって動かされやすいことがわかってしまうのです。 |
99 すると王は彼に驚嘆し、微笑して謂った、「付け加えることができるか、そして、人間どもの運命について言説〔=物語〕を云うことが」。そこでアイソーポスが言う、「動物が人間たちと同じ言葉をしゃべっていたころのこと、わたしが申しあげるのはこういうことです、貧しくて、食うにも事欠いた者が、チーチー虫と言われるバッタたちをつかまえて、これを干して、なにがしかの値で売っておりました。そうして、あるバッタを捕獲して、これを殺そうとしました。するとそれが、なにが起こるかを見て、その者に云いました、『むやみにわたしを殺さないでください。わたしは穂先に不正したこともなく、若枝とか芽とかにも、枝をも害したことはありません。ただ、羽と脚とを同時に合わせ、よい調べを響かせるだけ。道行く人々の安らぎなのです』。その者はこれの言葉に同情し、それを母なる野原に放してやりました。同様にわたしも、陛下の膝におすがりしています。わたしをお憐れみください。わたしは軍隊のようなものを害するほどの力もなく、誰かに対して偽証したり、顔の美しさによって不正に説得するほどの器量もありません。ただ、みすぼらしい身体をまとって、心の音を響かせて、はかなき人間たちの生に益するのみです」。 |
99 そこでお聞きください」と謂う、「貧しい人間がバッタを狩っていて、チーチー虫というよく鳴くセミまで捕獲し、殺そうとしたところが、それが彼に向かって云いました、『むやみにわたしを殺さないでください。わたしは穂先に不正したことはありませんし、枝を害したこともありません、ただ、羽と脚とを合わせて、いい音色を響かせ、道行く人たちを喜ばせているだけ、わたしからは音色以外には何も見つけられないでしょう』。そこで彼はこれを聞いてそれを話してやりました。わたしも、王よ、陛下の脚にすがって、むやみにわたしを殺さないよう、お願いいたします。なぜなら、わたしは誰かに不正する力もなく、ただ、みすぼらしい身体をまとって、有用なことを発言して、はかない人間たちの人生に益しているだけですから」。 |
100 王は彼の言説〔"logoi"物語〕に同情して謂った、「朕がそちに生命を与えてやろう。して、望みのものを要求するがよい、そなたにつかわそうほどに」。アイソーポスが云った、「サモス人たちの和解をお受けください」。王が、「受けてやろう」。そこで彼は彼〔王〕の前に身を投げ出し、感謝した。こういう次第で、アイソーポスは彼〔王〕のために自分の言葉〔"logoi"〕や寓話(mythoi) 今に至るもその名で呼ばれている を編纂し、文庫に残し、王からサモス人たちに宛てた書簡 その中には、アイソーポスのはたらきで彼らの和解を受け容れることを認めていた 、さらには多くの贈り物を運ばれて、サモスへと出版した。そうして民会を組織し、王の書簡を読み上げた。かくてサモス人たちは、アイソーポスのおかげでクロイソスが自分たちの和解を受け容れたと知って、彼に名誉を票決し、彼が往復したその地を、アイソーポスの地(Aisopeion)と呼んだ。またアイソーポスはといえば、ムーサたちに供犠し、彼女たちのために神殿を建造し、彼女たちの真ん中に、アポッローンではなく、モネーモシュネー〔の像〕を立てた。アポッローンは、マルシュアスに対してのごとく、彼〔アイソーポス〕に怒りを発したのであった。 |
100 すると王は驚嘆し、かつはまた彼に同情して、謂った、「アイソーポスよ、そなたに生命を与えるは朕にあらず、運命(moira)ぞ。何なりと望みのものを要求するがよい、さすれば受け取れようぞ」。アイソーポスが謂った、「陛下にお願いいたします、主上よ、サモス人たちとの和解を受諾してくださいませ」。すると王が「受諾しよう」と云ったので、アイソーポスは叩頭して感謝した。こういう次第で、自分の寓話 今まで読みあげてきたもの を編纂し、王のために残した。そうして、彼からサモス人たちに宛てた手紙 アイソーポスのはたらきで、彼らとの和解を受諾する旨の を受け取り、出帆してサモスに帰り着いた。かくして、サモス人たちは彼を眼にするや、国をあげて花環と合唱舞踏で祝賀した。彼はといえば、民会を設置し、彼らに王の手紙を読みあげ、彼らから自分に自由が与えられた返礼を彼らに示した。そこでサモス人たちは、善行に対して、名誉と彼のための分割地を票決し、その場所をアイソーポスの杜(Aisopeion)と呼んだ。 |