魔法と科学の間
ボーロス
(1/6)
『共感性をもつものらと反発性をもつものらとについて』
(Peri; sumpaqeiw:n kai; ajntipaqeiw:n)
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[底本]
TLG 1306
BOLUS Med. et Phil.
vel Pseudo-Democritus
(3/2 B.C.?: Mendesicus)
1 1
1306 001
Peri; sumpaqeiw:n kai; ajntipaqeiw:n (sub nomine Democriti), ed.
W. Gemoll, Nepualii fragmentum Peri; tw:n kata; ajntipavqeian kai; sumpavqeian et Democriti Peri; sumpaqeiw:n kai; ajntipaqeiw:n
5
[Stätisches Realprogymnasium zu Striegau (1884)]: 3-6.
(Cod: 834: Magica, Med.)
デーモクリトスの
『共感性をもつものらと反発性をもつものらとについて』
"prol"
最近、わたしは辛労して自然(fuvsiV)の賜物(dw:ron)を探究し、影に覆われた〔自然〕を、ほの見える証拠によって闡明せんとしてきた。〔すなわち〕生に益する吟味(pei:ra)を徴表として、またわたしの有する諸力としては、涸れることなき力(dunavmiV)、魂(yuchv)、そして均等化のしがたさ(duspariswvthV)と遮りがたさ(duskwluvthV)の認識(ejpivgnwsiV)を持って、隣人たちにとっての有益さ(wjfeliva)を目標に、諸々の事象に遭遇し、博識を差し控えることに成果のあることを明示してきたのである。大地は、万物の母にして、仔牛たちの突進を抑えてにしろ、大地の安らかさを教示してにしろ、さまざまな果実の若枝をはぐくむものではあるが、部分的には破滅をもたらす。いかほどの期間、その大地はこれを所有するものらと同時に誕生し、寒い時期に湖沼を生じさせると同時に凝結したのか、いかほどの期間、深みにあるものらを潮海に流入させたのか、 たわごとからありとあらゆるいかがわしさの影を払われた事柄を、わたしの吟味にかけ、知られざるものらは認識と経験深さへと、善きものらは有益さへともたらしてくれた。〔されば〕最強・最大の全能者(aujtokravtwr)よ、いかなる瑕疵もなく書き記された事柄を、わたしが御身の耳に植えつけられんがため、自然の理法(novoV)とその〔自然の〕照応する力(katavllhloV duvnamiV)を調査せよかし、 いかほどの数の充分な道理(lovgoi)によって包まれているのか、相互に同族関係を有するものらがいかほど生じて、同格者としてまったく誤りなき活動(ejnergeiva)の力を有しているのか、反発(ajntipavqeia)や発散(ajpovrJrJoia)においていかほどものらが共感し、あるいは反発するのか、また、原因はわからぬながら、いかほどのものらが生命あるものらに役立ち、また、おのおのがいかなる諸熟練(ejmpeirivai)と諸技術(tevcnai)によって破滅にみまわれ、人間どもに対する裏切りによって、あるいは相互に対する臆病さによって、〔自然の力に〕対抗せんとする衝動(ejmataiopoivhsa hJrmhv)を無駄にしたかを。
第1節
ビーバー(kavstwr)〔学名"Castor fiber"、上図〕たちは、堕落していない女に追いかけられると、睾丸を取り捨てる。
『自然究理家』第23話
第2節
ワシは、明け方近く、巣から妊娠石(ejnkuvmwn livqoV)を捨る、雛たちに命を与える石(ajntivyucoV livqoV)を前に据えるために。
〔「鷲石(aetites lithos)はそのことばの連想によって評判を得た。すでに第10巻で述べたように(X_12)、それはワシの巣の中で発見される。それは雄と雌の対で発見される。それがないと、そのワシは子を生むことができないという。それがひとつの巣にワシの子が二羽しかいない理由だ。鷲石には4種類ある。アフリカで発見されるひとつの種類は小さく柔らかで、内部に、子宮の中でのように、おもしろい白い粘土がはいっている。石そのものは砕けやすく雌と考えられる。ところがアラビアに産するものは硬く、見たところカシの没食子のような色か、赤みがかった色をしている。そして中央に空虚がある硬い石が入っていて、これは雄と考えられている。キプロスに発見される第三の種類は、色はアフリカのそれに似ているが、もっと大きいし、他の種類はいずれも球形であるのにこれは細長い。その中には一種気持ちのよい砂と小さな塊がある。一方、石そのものは柔らかくてわれわれの指だけで砕くことができる。タピウス種として知られている第四種は、タピウサのレウカス島に産する。タピウサというのは、イタカからレウカスへ船で行くとき右にある地区だ。これは渓流の中に、白い丸い石として発見される。その空虚な中心にはカリムスとして知られている石があるが、それは土らしい物質は少しもない。鷲石を生贄にされた動物の皮に包んで、流産を防ぐために、妊娠中の婦人や四足獣のからだに護符として付けるそれは分娩の瞬間まで外してはならない。そうでないと子宮の脱垂が起こる。他方、分娩中にそれを外さないと子供が生まれて来ない」(中野定雄訳)プリニウス『博物誌』第36巻39節(149-151)、他に第30巻44節(130);Ael. NA. I_35; Dsc. V_160; Philostr. VA. II_14〕
第3節
アリたちは、雷雨の接近を予知して、自分たちの囲い場〔=巣穴〕を閉ざす。
第4節
閉じこめられたウシたちは、冬の天候を予兆する、右脇腹にもたれかかることで。
第5節
あらゆる小鳥 たとえばクロヅル(gevranoV)〔学名"Grus grus"、右図〕たち が、海洋から内陸へ逃れるのは、嵐の脅威を告げている。
第6節
遊牧民の馬たちは、仔馬が産まれると、額の上にある皮を食いとる、ほかの馬が先に取り去る前に、自然の〔親子の〕情愛をもいっしょに断ち切るためである。
〔「額の上にある皮」について、アリストテレス『動物誌』第6巻22章(577a)に次のようにある。
「雌ウマは、出産すると、すぐ胎膜〔後産〕を食いつくし、子ウマの額についている「ヒッポマネス」〔雄ウマ狂い〕と称するものをも食い取ってしまう。このものは、大きな乾しイチジクより少し小さくて、外見は、平たくて、丸く黒い」。(第8巻24章(605a)にも関連記事あり)
この「ヒッポマネス(hippomanes)」とは「「何か」というのは、発情した雌ウマの分泌液であり、「子ウマについているもの」は、いわゆるhippolithos(Bezoar equinum)で、腸内の結石、または、かにばば(胎屎)」第6巻18章(572a)の島崎註(6)
『動物誌』によれば、媚薬として珍重されたらしい。〕
第7節
イエネズミたちが跳び出ると、襲撃(e[mfodoV)を予兆する。
こういったことをあなたが知っているのは、後考えによってだが、例の反発性をひとは見出せるであろう。
第8節
大鍋(levbhV)はヒキガエル(fruvnh)を鎮める〔=消滅させる?〕。
第9節
落雷のときに出来る石〔?〕が火を消すのは、角に隠れているからである。???
第10節
キャベツrJfanoV〔Brassica cretica〕はサソリに投げつけられると、これを殺す。
このことをも自然は、理由説明されざることとして観察する。
第11節
ところで海は、抱卵するカワセミ(ajlkuwvn)の卵のために7日間凪となる。
古代ギリシア自然誌「Alkyon」
第12節
四頭立ての馬車でも、オオカミの距骨(ajtravgaloV)が足下に置かれると、停止する。
第13節
ライオンは、オークの葉に触れると、動かなくなる、またオオカミも、スキッラ(skivlla)〔学名"Urginea maritima"、日本名「海葱」(右図)である〕がその前に持ってこられると、じっと動かないままになる。
第14節
コウノトリ〔学名"Ciconia alba"〕がプラタノス〔学名"Platanus orientalis"〕の葉を自分の雛たちにかぶせるのは、コウモリたちに接触することを恐れ、またコウモリたちはプラタノスに触れると麻痺するからである。
第15節
深酒した者たちにヘンルーダ(phvganon)〔学名"Ruta graveolens"、右図〕が当てられると、動かなくさせる。
第16節
ヘビは、アシ(kalavmoV)で殴られただけで、麻痺する、しかし、何度も叩かれると、動きだす。
第17節
ギンバイカ(mursivna)〔学名"Myrtus communis"〕は、オオウイキョウ(narqhvx)〔学名"Ferula communis"〕が日没の方向に投げられると、若枝を出す。
第18節
オオカミの尿をひっかけられた女は、不妊となる。
第19節
癩病の人間によって穀物がふるいにかけられると、〔その種子は〕実を結ばない。
第20節
イチジク(suk:)〔学名"Ficus carica"。イチジクの栽培種〕は、女神〔=デーメーテール〕の第15日に、オリュントス(oluvnqoV)〔イチジクの野生種〕がこれに結び合わされるか、海藻がこれにまといつかされるか、幹に赤土が塗りこめられると、実もたわわに実る。
〔海藻と赤土の効果についてはわからないが、栽培種のイチジクの枝を野生種のそれと結び合わせるのは、一種の人工授粉のことで、アリストテレス『動物誌』第5巻32章(557b)に出てくる。また、この箇所の島崎註を見よ。〕
第21節
オリーブの若枝が海岸に置かれると、海からタコをおびき寄せる。
いつまでも同じ事例にとどまっていないために、最大の全能者よ、わたしたちは反発性(ajntipaqeiva)の道理(lovgoV)を探究しよう。
第22節
クラネイア(kraneiva)〔学名"Cornus mas"、右図〕の太枝(ajkremwvn)〔幹から分かれ出た枝、英語の"bough"にあたる〕は、レオパード(pavrdaliV)〔学名"Felis pardus"〕を退散に転じさせる。
第23節
ライオンの軟脂(pimelh:)〔ラード〕でといたニンニク(skovrodon)〔学名"Allium ativum"〕を人が自分の身体に塗りこめば、この人にはいかな野獣も襲いかからない。
第24節
ストリュクノス草〔種々ある、Thphr. VII_15.4 参照〕をハイエナはまたげず、オオカミの皮でさえ家畜〔ヒツジ〕は〔またげ〕ない。
第25節
オオカミに食われたヒツジ(provbaton)の毛で着物が織られると、〔これを〕着る者は大変なかゆみにとりつかれる。
第26節
ノロジカ(dovrkoV)〔学名"Cervus capreolus"、右図〕の心臓が火に焙られると、室内にある天井の棟木をひび割れさせる。
第27節
「海樹(dru:V qalassiva)」〔="haliphloios"、学名"Quercus pseudo-suber"〕は、あらゆる狂気の進行(ajgqghv)を〔反作用で〕くいとめる。
第28節
海の星〔=ヒトデ〕(ajsthvr qalavssioV)も、家の屋根の下に吊されると、同じことをする。
第29節
ほかの菜園でとったイモムシを水で煮たのを、菜園にまくと、この菜園のイモムシ(kavmpa)はおだぶつになる。
第30節
牡牛は、バラからとった油を小鼻に塗られると、めまいにとりつかれる。
第31節
野生の牡牛は、エリノス〔キキョウ科ホタルブクロ属の植物。DSC.IV_29?〕の縄でつながれると、おとなしくなる、また手で編んだ縄で足をつながれると、ついてくる、これに反して、その耳に水銀を吹きこまれると、死ぬ。
第32節
キッソス(kissovV)〔学名"Hedera helix"、セイヨウキヅタ、右図〕がいぶされると、コウモリは死亡する。
第33節
ヘビ類は、大蛇の体液がまかれると、先に進まない。
第34節
ガガテース石(gagavthV livqoV)〔褐炭〕がいぶされると、あらゆる四足動物を退散させる。
第35節
トキ(i[biV)〔白いアフリカクロトキ(Threskiornis aethiopicus)と黒いブロンズトキ(Plegadis falcinellus)と2種ある〕の羽は、あらゆる四足動物を退散させる。
第36節
アリたちは、コウモリが自分たちの巣穴の上にいるときは、巣穴から出てこない。
第37節
ネズミ類が退散するのは、カルカントン(calkavnqon)〔硫酸銅。染色、製靴、冶金に利用される〕が続けざまにいぶされるときである。
第38節
処女たちは、ヒルたちがいぶされると、死ぬ。
第39章
家畜〔ヒツジ〕の寄生虫は、それが眠りにつく地面に、水に解かれたカルカントン(calkavnqon)〔第37節〕をあなたがまけば、死ぬ。
第40章
妊婦がヘビ どんな種類であろうと をまたぐと流産する。しかし、陣痛している女にとっては、分娩を早める。人間の腹の虫(e{lminV)を焼き上げ、すりつぶして、自分のまぶたや眉の隈取りをして、鏡をそばに置いてこれに見入るならば、危険なしにたちどころに流産する。
いかなる道理(lovgoV)によってこのようなことが反発性に本来的にそなわっているのか、精確にはひとは言い立てることがでないが、言葉なき動物の内なる先見性(pronoiva)には、はるかにもっと意想外なこと(paradoxovteron)をわれわれは証拠として挙げることができよう。
第41章
フクロウ(glauvx)〔学名"Athene noctua"、右図〕は、他の〔フクロウ〕が室(dw:ma)を先取りしている間は、巣作りをしない。
第42節
血統のよい馬は、ほかの馬の糞を運ぶことはない。
第43節
ハゲワシ(gu:y)たちは山の中に巣作りをすることがない、まっすぐな小枝(kladovV)によって*見えるので。
第44節
牡牛(tau:rV)は他の場所や他部族の場所を、妨害なく通過することはない。???
第45節
若い牝牛(davmaliV)は、自分の仔牛が祭壇で縁起のよい犠牲に供されるのを嘆いて、いつまでも鳴きやまない。
第46節
クロヅルたちが黙って飛ぶときは、晴天を予兆する。
第47節
半ロバ〔ラバ〕は、アカエイ(trugwvn qalassia)〔直訳すると、「海のコキジバト」〕の針を踏みつけると、麻痺する。
第48節
家畜〔"probata"ヒツジ〕たちが地面に穴を掘るときは、冬の嵐を予兆する。どんな仕方でか、雷雨の備えに、牧草を掘り出すためである。
第49節
ウシたちが大地を嗅ぐときは、同じ雷雨を招来する。
第50節
ウツボ(amuvraina)〔学名"Muraena helena"、右図〕は、オオウイキョウ(navrqhx)〔学名"Ferula communis"。第17節 参照〕で殴られると、麻痺する。
第51節
オオガラス(kovrax)たちやコクマルガラス(koloiovV)たちやハシボソガラス(korw:nh)たちが静かに鳴くときは、旱魃を予兆している。
//END
2002.09./10.26.
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