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back.gif第35弁論・解説


Lysias弁論集



断片集(1)



※底本は、THESAURUS LINGUAE GRAECAE CD ROM#D
Lysias 作品集035 Fragmenta

1
ヒッポテルセスに対して、?のために

[1]
 ……彼は逃げた、しかし、 〔彼らは〕彼の兄ポレマルコスを殺害し、家産を取り上げた。そして、彼がペイライエウスに居住している間は、帰還して提訴することを望んでいた。しかし今もどってみると、購入した者たちに代金を支払って自分の財産を取り戻すこともできない。というのは、ニコストラトスは、売却したクセノクレスを相手に争訟したが……

[2]-i
 ……逮捕された……だが、70タラントンの代価を……この連中は、長い間、抹消することも返済することもできなかった。そこで、あなたがたといっしょにリュシアスは亡命し去り、そしてあなたがた大衆といっしょに帰還したので、協定の命ずるところでは、売られてしまったものはこれを購入した者たちが保有するが、売られ得ないものは帰還者たちが取り戻すということなので、この人は、土地も家屋も所有しておらず、返却できるかぎりは帰還者たちにこれを返却するよう協定も……。

[4]-i
 ……さて、その後、おお、裁判官諸君、代金の半分をリュシアスから受け取ることを彼は要求したのである。あたかも、「三十人」時代に、この人は財産を失ってしまったのではなく、宝物を見つけたかのようにである。それで、この人は激怒し憤慨して……

[5]
 ……恐るべきことでしょうから、おお、裁判官諸君、もしも、あなたがたが不正された者として帰還しながら、あたかも不正する者のごとくに財産を奪い取られるとしたら。いやむしろ、こういう災禍の中で、あなたがたのものを購入した連中にあなたがたは怒るのが義しいでしょう。なぜなら、先ず第一に、「三十人」は何ひとつ売却できなかったであろうから――もしも購入しようとする者がいなければ……。

[6]-i
 ……協定……法習を……あなたがたは耳にしする……より義しい……より善い人たちだと言うのが……。……これらの訴訟相手を……リュシアス〔の業績〕とヒッポテルセスの業績とをお聞きになった上で、あなたがたの国家にとってはたしてどちらの人物がより善い人であるのか、これについて、本件はいずれの判決を票決なさりたいのか、このことについてわたしたちはあなたがたにお任せするものである。ところで、耳を傾けるようわたしがあなたがたにお願いする所以は、この人物もあなたがたに有為の士と思われれば、献身的に余生を送るであろうし、ヒッポテルセスもまた、自分にとって有利な点を〔あなたがたが〕耳を傾けるなら、余生はより善い人となるであろうからである。……リュシアス……あなたがたに……。というのは、あなたがたが善運にめぐまれていた間は、寄留民の中でも彼は最高の富裕者であった。そして、災禍に見舞われたけれども、彼は留まった。あなたがたの不運に何ら引けを取るどころではない役割を……、不法にも「三十人」のために兄も多くの財貨も盗み取られた。しかし、亡命し去ったのちも、帰還のために傭兵300を派遣し、財貨も……ドラクマを提供した……。

[6]-ii
 自分のエリスの客友であった人を説得して、2タラントンをまるまる提供させた。しかも、これらの行為に対して、謝礼も特恵もあなたがたから受け取らなかった。そして、亡命中はそういうふうであったのみならず、帰還してからは、アテナイ人たちのうち誰にも苦痛を与えたことはない――自分の善行を思い出させることもなく、他人の過ちを罵ることもなく。しかるに、今は、自分について語らざるを得ない。なぜなら、この原告のおかげで、この裁判の被告になっているからである――この原告たるや、「三十人」時代には亡命し去っていたが、デケレイアから敵国人たちとともに進発して、祖国にむけて出征した人物である。そして、国家の仇敵たちは、これを呼び戻してあなたがたの同市民となした、その結果、万人に明らかなことだとわたしは思うが、かつて破壊された〔城壁〕よりは、今、再建された城壁に大いに落胆し、あなたがたの善運や災禍に対して、同じような希望をいだくこともない。だからして、名誉ある市民でありながら、彼はいまだかつて後悔したこともなく、盛りの期間を通じて、より善い人であったためしもなく、あなたがたに対して自分が働いた所行をさがしては多くの人たちに向かって告訴屋稼業を働いているのである。

[6-]iii
 リュシアスこそは、民衆から感謝をされる。最大の善行を行ってきた人だからである。だから、わたしがあなたがたにお願いするのは、おお、裁判官諸君、リュシアスに無罪票決をすることです。こういう人物であること、他にも述べられたことを思い返して。さもなければ、人間たちのうちこの人より悲運の人が誰かいるであろうか――一方では、暴虐ばかりがとらえ、他方では、あなたがたが与えるのだとしたら。あるいは、この人たちよりも善運の人が誰かいるであろうか――かつて為された事柄に関して、あなたがたが彼らに寛容の心をいだくばかりか、彼らがあなたがたのもとに出頭している所以の事柄に関して、彼らが求めるかぎりのことを今、あなたがたが票決なさるとしたら。



2
テオムネストスに対して

[6]-iv
 この……テオムネストスによって、あなたがたの前に、ほとんどすべて……明らかになる。すなわち、取り決めによって、後見人たちがいる……のみならず、家産も、同志であるテオムネストスに30ムナをわたしは与えた。日が沈むまでに(さもなければ、滞納者になる)裁判を延期するようテオゾティデスに頼んでである。そこで与えたが、尤もなことながら、証人はおらず、窃取されたので、訴訟せざるを得なくなった。しかし、テオムネストスは、以前は、わたしの友にして同志であった。ところが今は、わたしの敵たちに説得されて、こういうことを為すのみならず、他にも何でもわたしに向かって敢行してきた。しかし、この仲違いが生じる前は、もめたことも銀子を返却要求したこともなく、……から多く……こともなく、……眼にして家産の管理をわたしは彼に任せた……証人なしに彼に与えたときも、……わたしを……。与えたけれども、返還要求も……逆のことを……していたが、わたしは……のみは……だと思っていたのである……

[6]-v
 ……の必然性は、彼自身も……ない。むしろ彼にとっての必然性は、もしもわたしから銀子をとったのなら、二つに一つ、他の人から受け取ったと主張するか、あるいは、自分が全額をテオゾティデスに返済したと〔主張するか〕の、いずれかである。そこで、もしも他の人から受け取ったと主張するなら、……
 ……わたしから……関与者の……不在に臆しなければならず、密告するかもしれぬ連中から借りたと、敵たちに向かって強弁しなければならない。実際のところ、わたしの財産は他の人たちにそっくり譲り渡しながら、彼のためには他の人たちから借りるということが、どうして尤もなことがあろうか。そこで、彼にとって……他人から借りたは、この人が言明していないという大きな証拠を、あなたがたにわたしが述べよう。すなわち、ディオニュソス祭の男性合唱隊の公共奉仕を彼がしたとき、……千ドラクマを……給金として彼は支出した。

[7]+45+731
 ……に臆しなければならないが、その時は牡牛を……わたしの家族である……? かくて、別人から受け取ったという主張に対しては、以上がわたしの言うところである。そこで、もしも、……銀子があって……ここから、あなたがたがテオムネストスに尋問すべきだとしたら、どうして尤もなことがあろうか――……自分が危険の極みに陥りながら、銀子を見過ごしにして、これほどの力を敵たちに見せびらかせるということが。また、かくも甚だしくこの運命に向かう人が誰かいるであろうか――何か突然に受難したとしても、身体と同時に、ここまでに陥った人生を受難するよう強いられる? その結果、太陽が沈んだら、滞納者となる? また、敵たちに隷従するように自分を準備するような、それほど無考えな人が誰かいようか? あるいは、これほど無分別な人が誰かいようか――……すんでのところで……ような人が。あるいは、誰がいるであろうか……



3
テオゾティドス告発

[1]-i
 この法に……、とりわけ……、……庶子たちや養子たち……適法的でも義しくもない。なぜなら、わたしに思われるところでは、孤児たちのうち、国家が養育しなければならないのは、嫡子よりもはるかに庶子の方だからである。なぜなら、父親たちは嫡子たちを家産の相続人として遺している。これに反し、庶子たちは……

[2]
 ……父祖伝来のもののうち……給付金の……前者は彼らに遺した。しかし、何にもまして恐るべきは、法習に属する事柄のうち、最美な通達をテオゾティデスが取り違え、これを欺瞞にする場合である。というのは、ディオニュソス祭の期間に、伝令官が孤児たちについて宣言して、父親の名に加えて、これらの若者たちの父親たちは、戦争で国家のために戦って、善勇の士として戦死した、そして、これを国家は壮年に至るまで養育したと復唱するのであるが、この場合に、養子たちや庶子たちについて個別に、これをテオゾティデスを介して養育したのではないと言って宣告するか、それとも、孤児たち全員をいっしょに宣告することで、養子たちや庶子たちについて虚言するのであろうか――養育については黙殺してね? これは暴慢であり、国家の大きな反目ではないのか? だからクレオメネスは、……、おお、裁判官諸君、……アクロポリスを押さえて、……したとき、……

[3]-ii
 ……この人は、もしも……守護に関して……戦争についてこのテオゾティデスが考えを公表し、騎兵たちは1ドラクマの代わりに4オボロスの報酬を得、騎馬弓兵たちは2オボロスの代わりに8オボロスの〔報酬を得る〕ようにするとして、この考えを提案して、民会で勝利した。いったい、なにゆえ……考えを……。

[3]-iii
 現在ならびに将来のために給金を削減することよりも、……騎兵たち全員を……。そこでわたしは、支給について、現行のものを取り上げるのではなく、監視すべきだと思ったのだ。――現にあるよりもより多くなるようにするか、あるいは、現行よりもより少なくならないようにと。そして、それがそうなるのを妨げることに臆すべきではなく、むしろ……



4
ソクラテス学徒アイスキネスに対して 借金について

[1]
 まさか、おお、裁判官諸君、アイスキネスがかくも恥ずべき訴訟を起こそうとは、私は思ってもみなかったが、彼がこの〔訴訟〕以上に別のもっと告訴屋的な〔訴訟〕を見いだすことは容易ではあるまいと私は信じる。というのは、この男は、おお、裁判官諸君、両替商のソシノモスとアリストゲイトンとに〔月〕3ドラクマの〔利息〕で銀子を債務しながら、わたしの所にやってきて、

[2]
利息のせいで自分が資産から追い立てをくらうのを見過ごしにしないよう懇願したのである。 『だが、商売の用意がある』と彼は言った、『それは香油業だ。しかし資金が必要だ。そこで、1ムナにつき〔月〕9オボロスの利子をあなたに提供しよう』。こういったことを言うので、彼に説得されて、と同時に、思ったのは、彼[アイスキネス]はソクラテスの学徒であり、また、正義や徳について多くの高尚な言説を発言しているのだからして、まさか企むことはあるまいし、まして、最も邪悪で不正きわまりない人間どもが実行を企むようなことは、敢えてすまいと。

[3]
 いや、それどころか、おお、裁判官諸君、ひとりわたしに対してのみ彼はこういうふうであるのではなく、彼とつきあいのある他の人たち全員に対してもそうなのだ。近所に居住している小売り商人たちは、彼が自分たちから前渡し商品を受け取りながら返済しないために、店を閉めて彼と争訟し、また隣人たちは、彼のおかげであまりに恐るべき目に遭ったために、自分たちの家を捨てて、

[4]
もっと遠くに別の家を賃借したほどだったのではないか? さらに、〔講中の〕掛け金として彼が集金したものに限っていえば、残りの寄付金は納入せず、〔講仲間は〕この小売商人のおかげで、まるで〔折り返し点の〕標石によって〔戦車が破損させられる〕ように破滅させられるのである。かくて、あまりに多くの者たちが、朝まだきに、〔彼の〕債務の取り立てに家に押しかけるので、通り合わせた人たちは、彼が死んだので、人々が屍体を運び出すためにやってきているのだと思うほどである。さらに、ペイライエウスの人たちに至っては、その心境たるや、

[5]
彼と契約を結ぶぐらいなら、アドリアス海まででも航行した方がはるかに安全だと思ったほどである。なぜなら、父親が彼に遺したものよりも、自分が借用したものの方が、はるかに自分のものだと彼は信じているのだからである。いや、それどころか、彼は油商人ヘルマイオスの資産を手中にしたのではなかったか。齢70歳になるその妻を堕落させ、彼女を恋しているようなふりをしてたぶらかしたあげく、彼女の夫とその息子たちとは乞食になり果てさせ、自分は小売り商人の代わりに油商人に成り上がった。かくも欲情にまかせて”小娘”を手玉にとり、その”年ごろ”を享受したのである。片手の指〔の数〕よりも、歯〔の数〕を数える方が容易な[それほど〔歯の数が〕少ない]”小娘”の。それでは、このことの証人として、どうかあなたがたが登壇していただきたい。

〈証人たち〉

 「知者」(ソフィスト)の生活たるや、かくのごとくである。



5
アルケビアデスに対して

[1]
 私に対するこの訴訟権をアルケビアデスが引き当てたのですぐに、おお、裁判官諸君、私は彼のもとに行って、自分は若輩で事情に疎く、法廷に出頭することを何ら欲するものではないと言った。「だから私は、あなたが私のこの年齢を見付け物と考えるのではなく、私の友たち、ならびに、あなたの友たちを〔証人として〕受け入れて、この債務がどこから生じたのかを詳述してもらいたい。そうして、あなたが真実を言っているとその人たちに思われたなら、あなたは何の面倒も必要とせず、あなたの物を手に入れて立ち去る。

[2]
だから、あなたは何ひとつ言い漏らさずにすべてを述べるのが義しいのである――そうすれば、私はこの契約よりも若いけれども、わたしたちの知らないことを聞いて、あなたの言うことをわたしたちは考慮できるであろう。あなたが私の物を不正に奪おうとしているのか、それとも、あなたの物を義しく儲けようとしているのか、何とかして明らかになれば」。こう言って私が呼びかけたにもかかわらず、彼は参集することを拒み、訴えた事柄について釈明することも拒み、あまつさえ仲裁に委ねることも拒んだあげく、ついにあなたがたは仲裁者たちに関する法を施行することになったのである。

5-2
[1]
 だから、あなたがたは次のことにも気づかれる私は思う。つまり、アルケビアデスが求めているのは、何か他の物を儲けることだけでなく、私の物を争いとることだということに。



6
テイシス告発

[1]
 すなわち、このアルキッポスは、おお、アテナイ人諸君、本裁判の被告テイシスも〔通っていた〕同じ角力場に通っていた。ところが、喧嘩になり、からかい合いから言い合いに、はては敵意と悪罵とに陥った。ところで、ピュテアスという者がいて、――あなたがたにはすべて真実が述べられるべきだから言うのだが――この若者〔テイシス〕の愛者であるとともに、〔テイシスの〕父親によって後見人を任されていた。

[2]
この男が、テイシスが彼に向かって角力場での悪罵を述べ立てたとき、気に入られよう、恐るべき者・策士と思われたいと望んで、彼〔テイシス〕に、われわれが事件から感得するように、また、よく弁えた人たちの言うことを聞き入れるように、さしあたっては仲良くするよう、しかし、どこかで相手が独りのところを捕まえられるよう見張るようにと命じた。

[3]
そこで〔テイシスは〕このことを聞き入れて仲直りし、交際し、縁故者(epitedeios)であるかのように振る舞っていたが、年ごろであるから、狂気にとらわれたあまりに、たまたまアナケイオン祭の競馬のさいであったが、彼〔アルキッポス〕がわたしといっしょに〔テイシスの〕戸口を通りかかったのを眼にして――というのは、彼らはたまたま近所どうしであったのだ――、先ず初めに、いっしょに晩餐をしようと頼んだが、彼〔テイシス〕が拒んだので、練り歩きに来るよう彼に懇願し、自分や家族の者たちといっしょに呑もうと言った。

[4]
そこで、夕食をすませてから、すっかり暗くなっていたので、わたしたちは出かけて行って〔テイシスの家の〕戸口を叩いた。すると彼らはわたしたちに入ってくるよう声をかけた。そこでわたしたちが内に入るや、わたしの方は家から放り出し、このアルキッポスの方は引っさらい、柱に縛りつけ、そうして鞭をとるとテイシスはしたたかに鞭をくらわせたあと、彼を納戸に閉じこめた。しかも、彼はそれだけの過ちでは満足せず、この国の若者たちの中でも極悪非道な連中を妬んできたし、最近には、父祖伝来の財産を相続して、若くて富裕であるように振る舞い、すっかり日が明けると、再び、彼を柱に縛りつけて鞭をくらわせるよう家僕たちに言いつけたのである。

[5]
かくして、もはや身体がぼろぼろになったので、アンティマコスを呼びつけて、何が起こったかは何も言わず、自分がたまたま夕食をとっていたら、相手が酩酊してやって来て、戸口を破って入り込んできて、自分〔テイシス〕やアンティマコスや自分たちの女友だちのことを悪く言った、とだけ言った。アンティマコスはといえば、連中が大変な過ちを犯したと彼らに腹を立てたけれど、それでも証人たちを呼びよせた上で、どういうふうにして入り込んだのかと彼〔アルキッポス〕に尋ねた。そこで彼は、テイシスとその家族が呼んだからだと主張した。

[6]
他方、来訪者たちが、できるかぎり速やかに解放するよう忠告し、為されたことは恐るべきことだとみなしているので、彼らは彼〔アルキッポス〕をその兄弟たちに引き渡した。しかし、彼は歩くことができないので、彼を寝椅子に乗せてデイグマまで運び、アテナイ人たちの多くに、また、その他外国人たちの多くにも、どんな状態かを示したので、これを眼にした人たちは、犯人たちに腹を立てたばかりか、国を非難したほどである――このような過ちを犯した連中を、公的に〔罰するの〕はもちろん、今すぐに罰することもしないといって。


6-2
 このアルキッポスがわたしの縁故者(epitedeios)である、おお、裁判官諸君。



7
ヒッポクラテスの子どもたちを駁す

[1]
 おお、裁判官諸君、後見人というものは、その後見にいかほどの面倒をこうむっても充分ではなく、友たちの家産を安泰としとおしても、多くはその孤児たちによって誣告されるものである。まさにわたしにも今それが結果しているのである。すなわち、わたしは、おお、裁判官諸君、ヒッポクラテスの財産の後見人に任じられ、その家産を正当・公正に処理して、資格審査を受けた息子たちに、わたしが後見人として任じられた財産を引き渡したにもかかわらず、彼らによって今不正に誣告されているのである。



8
ペレニコスのために アンドロクレイデスの相続地に関して

[1]
 必然的だとわたしに思われるのは、おお、裁判官諸君、わたしとペレニコスとの友愛について先ずもってあなたがたにお話しすることである。それは、いまだかつてあなたがたの誰ひとりのためにも述べ立てたことがないのに、今、この人物のためにわたしが弁じるからといって、あなたがたの誰ひとり驚かれることのないようにするためである。

[2]
すなわち、おお、裁判官諸君、この人物の父親ケピソドトスはわたしの客友であり、わたしたちが亡命したときも、わたしもそうだが、アテナイ人たちのうち他の望む人も、テバイの彼のもとに身を寄せ、多くの善きことを、私的にも公的にも彼によって受けたおかげで、わたしたちは自分たち自身の国に帰還したのである。

[3]
だから、この人たちが同じ運命に見舞われて、亡命者としてアテナイにやってきたとき、彼らに最大のお礼を負っていると考えて、彼らを親身になって歓迎し、わたしたちの家を所有しているのはどちらなのか、あらかじめ知っていないなら、やってきた人たちの誰も知らないというほどであった。

[4]
さて、わたしよりも語るに有能であるばかりか、こういう面倒事にもっと経験深い人が多くいることは、ペレニコスもわきまえている。にもかかわらず、わたしの最高の親身さを最も信頼に足ると彼は考えた。だから、彼が自分を助けてくれるよう頼み、正義を要求しているのに、彼がアンドロクレイデスからもらったものを奪われるのを、わたしにできる範囲で?座視するのは恥ずかしいことだとわたしには思われるのである。


8-2

[1]
 すなわち、アンドロクレイデスは農地ないしは他の眼に見える家産を遺したのなら、彼は望む者に、被告は虚言している、自分に与えたのであって、銀や金や眼に見えない家産は、明らかに、それを所持している者に与えたのだ、と言うことができたであろう。



9
キネシアスを駁す パニアスのために 違法提案嫌疑で

[1]
 キネシアスが法習の擁護者であるということに、あなたがたが気を悪くなさらないとしたら、わたしは驚く者である。万人の中でも不敬きわまりない人物、人類のなかで違法こうのうえない人物であると、あなたがたみなさんが知悉しておられるこの男が。この男こそ、神々に対したてまつって、他の人々なら口にするのさえ恥ずかしいような、しかし喜劇作家たちからは年々歳々あなたがたがお聞きになっておられるような、そんな過ちを犯す者ではないのか?

[2]
かつて、この男とともに、アポロパネスやミュスタリデスやリュシテオスは同じ釜の飯を食っていたのではなかったか――忌み日の一日を定めて、われとわが身に新月祝典者ではなく悪霊師という名をつけたが、それは彼らの性格にふさわしかったが、その目的は、それを成就することによって、分別を持つためではさらさらなく、

[3]
神々とあなたがたの法習とを嘲笑せんがためであった。ところが、あの者たちは、こういった連中は当然のことながら、それぞれに破滅した。しかるにこの男だけは、大多数の人たちに知れ渡っているゆえに、神々のおぼしめしで、この男が破滅するよりもむしろ生きながらえさせ、他の人たちに対する見せしめとして、神事にあまりに暴慢であった者たちには、子々孫々まで神罰を及ぼすのではなく、災禍も病気も、他の人間たちに降りかかるよりも大きくて難儀なのを降りかからせて、自分自身が悪く破滅するのだということを目撃するようにさせることを、敵たちが望むようになさったのだ。

[4]
なぜなら、適法的に〔=自然に〕死ぬことや病むことは、誰にとってもわれわれに共通であるが、こういう状態でこれほどの期間過ごすことや、日一日と死に向かいながら、生を終えることができないのは、この男が〔犯したと〕同じような過ちを犯した連中にのみふさわしいからである。

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