title.gifBarbaroi!
back.gif第14弁論・解説


Lysias弁論集



第14弁論

アルキビアデスに対して






[1]
 私の考えるところでは、おお裁判官諸君、あなたがたはアルキビアデスの告発を望む者たちから何ら表面的な理由を聞くことを渇望してはおられまい。なぜなら、彼は初めから自分をこのような市民として提示してきたので、誰か彼によって私的に不正された者がたまたまいなくても、それでもやはり、その他の所行からして、彼を敵と看做すことがふさわしいほどなのである。

[2]
 というのは、過ちは小さくなく、容赦するにも価せず、将来、より善い人間になるという希望も与えず、その為された内容と悪さの程度があまりに甚だしいので、この男が誇りに思っている行為のいくつかには、敵たちさえも恥じるほどである。しかしながら私は、おお裁判官諸君、昔も私たちの父たちの間に仲違いが存在したばかりか、以前からもこの男を邪悪な者と看做していたが、今もこの男によって悪く蒙っているので、為された事柄のすべてのためにあなたがたといっしょに彼に報復すべく努めよう。

[3]
 ところで、他の点に関してはアルケストラティデスが充分に告発した。すなわち、彼は諸々の法習をも示し、すべてに証人を立てた。そこで、この人が言い残したことを、私は一つずつあなたがたに説明しよう。

[4]
 さて、当然なことであるが、おお裁判官諸君、私たちが平和協定を結んで〔BC 404〕以来、あなたがたは今初めて本件に関して裁判するのであるから、裁判官としてのみならず、立法者としても振る舞わなければならない。それは、あなたがたはご承知だからである、――あなたがたが今本件に関して判決を下すとおりに、そのように他の時にも国家はこれを適用するであろうということを。だから、私に思われるのは、有為の市民の仕事、義しい裁判官の仕事とは、将来にわたって国家に役立つような、そういう仕方で法習を解釈することだということである。

[5]
 というのは、こう敢言する人たちがいるのである、――戦線離脱罪にも怯懦罪にも該当する者は誰もいない、なぜなら、何らの闘いもなかったのであり、法の命じるところでは、他の者たちが闘っている時に、何人かが怯懦のせいで戦列を後方へ離脱するなら、この者について兵士たちは裁くべしということだからであると。だが、この法が命じているのは、これらの者たちだけではなく、歩兵の戦列に列していないかぎりの者たちに対してもである。どうか、次の法を読み上げてください。

法習


[6]
 お聞きのとおり、おお裁判官諸君、両者に関して制定されているのである、戦闘中に後方へ退却する者たちと、歩兵の戦列に列していない者たちとの。そこで、列しなければならないのはいかなる人たちなのかを考察していただきたい。その年齢に達している者たちではないのか。将軍が選抜して兵籍に入れる者たちではないのか。

[7]
 だが、私は思う、おお裁判官諸君、市民たちの中で彼だけが、法習全体にわたって有罪である。というのは、彼は兵役忌避罪で捕らえられるのが義しい、――重装歩兵に選抜されながら、あなたがたと共に出撃しなかったがゆえに。また、軍陣で彼だけが他の人たちといっしょに配置に就くようみずからを提示しなかったがゆえに戦線離脱罪で。さらに、怯懦の罪で、――自分は重装歩兵といっしょに危険に身をさらさねばならないのに騎兵になることを選んだがゆえに。

[8]
 しかるに、彼は次のごとき弁明を為そうとしていると言われている、――少なくとも騎兵となったのであるから、国家に対して何ら不正していない、と。だが私は、次の理由であなたがたが彼に怒りを発するのが義しいと思う、――法の命じるところでは、資格未審査の者が騎兵になったら、市民権剥奪に処すべしとあるにもかかわらず、彼は資格未審査のまま敢えて騎兵になったのだから。それでは、どうか、次の法を読み上げてください。



[9]
 さて、この男はこれほどの邪悪さに陥り、かくもあなたがたを蔑ろにし、敵国人たちを恐れて騎兵になることを欲し、法習に配慮することがなかった結果、それによって招来する危険を彼は何ら気にかけず、市民権喪失者となることも、自分の財産を没収されることも、現行のあらゆる刑罰に有罪となることも、むしろ望んだのである。市民たちといっしょになって重装歩兵となることよりも。

[10]
 他の者たちであれば、重装歩兵になったことがなく、いつも騎兵となって敵国人たちに対して多くの害悪を加えてきた者たちも、決して進んでは馬に騎乗しようとはしなかったが、それは、あなたがたと法を恐れるからである。というのは、彼らが心積もりしていたのは、国家が破滅するようにではなく、救われて大国となり、不正者たちに報復するようにということであった。これに反し、アルキビアデスは、敢えて騎乗し、大衆に好意的であるからでも、以前から騎兵であったからでも今精通しているからでも、あなたがたによって資格審査されたからでもなく、不正者たちに償いをさせることを国家にできなくさせるためである。

[11]
 そこで、思いを致すべきは、何でも望むことを実行できるなら、法習が制定されたりあなたがたが集会したり将軍たちが選ばれたりすることに、何の益もないということである。だから、人が次のように言明するなら私は驚くのである、おお裁判官諸君、敵国人たちが接近している時に、何びとかが第一戦列に配置されていながら、第二戦列に就いた場合には、この者を怯懦の罪で有罪票決すべきだが、何びとかが重装歩兵隊に配置されながら、騎兵隊の中に立ち現れた場合には、この者に容赦を与えるべし、と。

[12]
 さらにまた、おお裁判官諸君、私は考えるのだが、あなたがたが裁判するのは、罪過を犯した者たちのためにのみならず、爾余の者たちを無規律な者から、より思慮分別のある者と為すためである。それゆえ、無名の者たちをあなたがたが懲らしても、その他の人たちは誰もより善くはなるまい。誰もあなたがたの票決結果を知るまいから。だが、罪過を犯した者たちの中で最も著名な者たちに報復するなら、万人が聴従し、これを見本として用いて市民たちはより善い者となるであろう。

[13]
 だから、この男をあなたがたが有罪票決すれば、国内にいる者たちが知るのみならず、同盟者たちも感知し、敵国人たちも聴従するであろうし、国家をはるかに尊敬すべきものと考えるようになるであろう。過ちの中でも、こういった種類のものに対して、あなたがたがとりわけ怒りを発し、戦時に無規律な者たちはいかなる容赦にも与からないのを目にするならば。

[14]
 そこで、あなたがたは思いを致すべきである、おお裁判官諸君、兵士たちの中には、たまたま病気の者たちもおり、必需品にも事欠いている者たちもおり、前者は国内に留まれるなら喜んで治療を受けるであろうし、後者は家に引き上げれば家事を管理するであろう、また、軽装備兵として出征する者たちもおり、騎兵隊に加わって危険に身をさらす者たちもいる。

[15]
 しかし、いずれにしても、あなたがたは敢えて戦列を離れず、あなたがた自身の気に入ることを選ぶこともなく、国家の法習の方を敵国人たちに対する危険よりもはるかに恐れるということを。このことをあなたがたは心に留めて、今、投票を行い、万人に明らかにするべきである、――アテナイ人たちの中には、敵国人たちと闘うことを望まぬ者たちは、あなたがたによって悪く蒙るであろうということを。

[16]
 さらに、私の考えるところでは、おお裁判官諸君、法とこの事件に関しては、彼らは何か言うべきことを持たないであろう。にもかかわらず、彼らは登壇して、あなたがたに引き渡し要求し、懇願するであろう、――アルキビアデスの息子をこれほどの怯懦の罪に有罪判決を下すことを認めず、あの人〔父アルキビアデス〕は多くの悪事のではなく、多くの善事の原因となったと称して。あの男を、あなたがたに対して最初に罪過を犯したのをあなたがたが捕まえた時に、あの若齢の時に死刑にしておけば、国家にとってこれほどの災禍は生じ得なかったであろうのに。

[17]
 だから、私には恐るべきことに思われるのである、おお裁判官諸君、あの男の方にはあなたがたが死刑の有罪判決を下しながら、不正した息子の方は父親のせいであなたがたが無罪放免するとしたら。息子自身はあなたがたといっしょに敢えて闘おうとはせず、父親の方は敵国人たちといっしょになって出征することを辞さなかった男の息子を。しかも、〔息子は〕まだ子どもで、将来、いかなる人物になるかがまだ明らかでなかった時でさえも、父親の過ちのせいであやうく「十一人」に引き渡されそうになった。ところが、父によって為されたことに加えて、この男の邪悪さをもあなたがたは知った上で、父親ゆえにこの男を哀れむつもりなのか。

[18]
 だから、恐るべきことではないか、おお裁判官諸君、これらの者たちはすこぶる善運の者たちであって、罪過を犯して捕まっても、自分たちの生まれのおかげで救われるほどであるが、私たちの方は、かくもだらしない者たちのおかげで不運に見舞われても、誰をも、また、祖先たちの諸々の徳行によってさえも、敵国人たちから引き渡し要求できないというのは。

[19]
 たしかに、多くの大きな徳が全ヘラス人たちのためにも生じてきたが、それはこの連中によって国家に関して為されてきたこととは、何ら等しくない徳である、おお裁判官諸君。だが、もしあの者たちが友たちを救った点でより善い者であると思われるのなら、明らかに、あなたがたも敵たちに報復することで、より優れた者と思われるであろう。

[20]
 そこで私は要求するのである、おお裁判官諸君、同類たちの中に彼の引き渡し要求する者たちがいるなら、怒るよう。――この男に対しては、国家によって下命さられたことを果たすよう要求することを彼らは企てなかった(あるいは要求しても実現不可能であった)、他方あなたがたに対しては、不正者たちに償いをさせるてはならないと彼らは説得しようとするのだから。

[21]
 だが、もし執政官たちの中に、彼を助けて自分たちの権力を見せつけて、はっきりと過ちを犯した者たちさえも救うことができるのだということを誇りに思う者たちがいるなら、あなたがたは次のことを了解しなければならない。――先ず第一に、万人がアルキビアデスに等しい者となったら、将軍たちを必要としなくなるだろう(何を指図しても守り得ないだろうから)ということ、第二に、彼らは戦線を離脱する者たちを告発する方が、こういった連中のために弁明することよりもはるかにふさわしいのだということを。いったい、他の人たちが将軍たちによって下命されたことを進んで果たそうとするであろうという希望がどこにあろうか、この人たち自身が無規律な連中を救おうとする場合に。

[22]
 そこで私は要望するのである、――アルキビアデスのために弁じ許しを乞う人たちが、彼は重装歩兵隊に加わって出征したとか、資格審査を受けて騎兵となったとかいうことを証明するなら、無罪票決するよう。だが、何らの義しさも有さずに自分たちに懇ろにするよう命ずるのなら、銘記すべきである、――偽誓して法習に聴従しないよう、彼らはあなたがたに教えているのだということ、そしてまた、甚だ熱心に不正者たちを助けて多くの人たちが同じ行いを欲求するようにさせているのだ、ということを。

[23]
 だが、とりわけて私が驚くのは、おお裁判官諸君、あなたがたの中の誰かが言明する場合である、――アルキビアデスを弁護者たちに免じて救い、彼の邪悪さゆえに破滅させてはならない、と。彼の邪悪さにあなたがたは耳を傾けるべきである。それは、あなたがたが知るためにである、――彼をこれらの点では過ちを犯したがその他の点では有為の市民であったとして、無罪票決するのは正当ではないでろうということを。というのは、この男によって為されたその他のことからして、この男に刑を有罪票決するのが義しいからである。

[24]
 そこで、あなたがたにとって次のことに関して知っておくのがふさわしい。すなわち、弁明者たちが自分たち自身の徳や祖先たちの善行を言ってもあなたがたは受け入れるのだから、あなたがたは告発者たちにも耳を傾けるのが当然である、――被告たちがあなたがたに対して多くの点で過ちを犯し彼らの祖先たちも多くの悪事の原因となったと彼らが明らかにする場合には。

[25]
 というのは、この男は子どもの時は霞み眼のアルケデモス、あなたがたの物を少なからず着服した人物、多くの人たちが目にしていたとおり、同じ外套の下に横たわって飲んだくれていた人物のもとにいたが、日が高くなるまで浮かれ騒いで、口髭もないのに娼婦を囲い、自分の祖先たちを真似てこう考えていた、――若い時に極悪人のように思われないかぎりは、長じて輝かしい人物となり得ないと。

[26]
 ところが、父アルキビアデスに呼び寄せられたのは、はっきりと罪過を犯したからであった。実際のところ、次のような人物はあなたがたによっていかなる人物と看做されるべきであろうか、――こういったことを行じたおかげで、これを他の人たちに教えてきた張本人とさえも仲違いしてしまったような人物は。さらに、彼はテオティモスといっしょに父親に対して策謀して、オルネス邸を売り渡した。こうして、彼は地所を受け取ったが、最初は彼(テオティモス)が若盛りであるのを凌辱し、結局は監禁して身代金を取り立てた。

[27]
 だが、父親の方は、彼を甚だ憎んでいたので、〔テオティモスが〕死んでも遺骨を引き取るとは言わなかったほどである。しかし、あの男〔アルキビアデス〕が死んだので、アルケビアデスが愛者となって彼〔テオティモス〕を解放したのである。だが、久しからずして財産をすってしまったので、白島を出発し友たちを海に沈めようとした。

[28]
 さて、おお裁判官諸君、あるいは市民たちに対して、あるいは外国人たちに対して、あるいは自分の家族に関して、あるいはその他の人たちに関して、彼がどれほどの過ちを犯したかを、語れば長くなろう。さらに、ヒッポニコスは多くの人たちを証人に呼び集めて、自分の妻を離縁した。この男が彼女の兄弟としてではなく、彼女の情夫として自分の家に入りこんだと称してである。

[29]
 じつにこういった過ちを犯し、かくも恐るべき多くの大きなことを為しながら、彼は過去のことを悔いもせず、将来のことを気にもせず、本当は市民たちの中で最も規律正しい者となって、自分の人生をもって父親の過ちの弁明と為さなければならなかったのに、この男は他の人たちを凌辱しようとするのである。あたかも、自分にとってふさわしい非難のほんの一部分しか、他の人たちには分かつことができないかのように。

[30]
 しかも、あのアルキビアデスの息子であるにもかかわらずである。――デケレイアにラケダイモン人たちが要塞を築くよう説得し、島々に向かっては離反させるために航行し、国家の諸悪の教師となり、敵たちといっしょになって祖国に向かって出征した回数の方が、同市民たちといっしょになって敵たちに向かって出征するよりも頻繁であったあの。これらのことに対して、あなたがたにとっても将来の人たちにとってもふさわしいのは、あなたがたがこの一族の中の誰を捕らえても、これに報復することである。

[31]
 しかるに、次のように言われるが甚だ通例なのである、――彼の父は帰還して民衆から贈物を受け取ったのに、彼が父親の亡命のせいで不正に中傷されるというのは至当ではないと。だが私には恐るべきことのように思われる、――もしも贈物の方は、与えてきたのは義しくなかったとして、あなたがたが彼から取り上げ、不正したこの男の方は、その父は国家に関して有為であったとして無罪票決するならば。

[32]
 さらにまた、おお裁判官諸君、この男を有罪票決するに価する理由は他にも多くあるが、次のこともそうである。つまり、あなたがたの諸々の徳をも、彼は自分の邪悪さのための手本として用いているということである。というのは、彼はこう敢言するのである、――アルキビアデスは祖国に向けて出征したけれども、何ら恐るべきことをしでかしてはいない、

[33]
 というのも、あなたがたも亡命し、ピュレを押さえ、果樹を伐り、城壁を攻撃したが、そんなことをしても子どもたちに汚名を残さず、万人から名誉を受けた、と。あたかも、亡命して敵国人たちといっしょになってこの地に出征した者たちも、ラケダイモン人たちがこの国を占領している間、帰還闘争した者たちとが、価値は同じであるかのように。

[34]
 さらにまた、誰にでも明らかだと私は思う、――この者たちは海上の支配権はラケダイモン人たちに引き渡し、自分たちはあなたがたを支配する者として立つために帰還を求めた。だが、あなたがた大衆の方は帰還して敵国人たちを追い払い、市民たちのうち隷従することを望む者たちまでも自由とした。かくして、両者の過去の行いに対する解釈は等しくないのである。

[35]
 にもかかわらず、これほどの多くの、そして、かくも大きな災禍は彼に起因するゆえ、彼は父の邪悪さに誇りを持ってこう言うのである、――父はかくも偉大な才能を有していたがゆえに、国家にとってあらゆる諸悪の基となったのだ、と。しかしながら、自分の祖国に無知なあまりに、たとえ邪悪であることを望んでも、敵国人たちに領土の中のどこを占領すべきかを告げ口することも、砦の中で悪く守備されているのがどれか明らかにすることも、体制のどこが劣悪かを教えることも、同盟者の中でどこが離反を望んでいるかを密告することもできないような者が誰かいようか。

[36]
 確かに、彼が亡命した時は、才知によって国家に対して悪くすることができたが、あなたがたを騙して帰還して多くの三段櫂船を指揮するようになってからは、敵国人たちを領土から追い出すことも、自分が離反させたキオス人たちを再び友邦とすることも、他の何ら善いことをあなたがたにもたらすこともできなかった。それゆえ、次のように結論づけることは難しくない、

[37]
 ――アルキビアデスは、才知の点では、その他の人たちと何ら異ならないが、邪悪さの点では、市民たちの第一人者であったと。なぜなら、あなたがたの状態の中で、どこが悪いかを彼は知っていて、ラケダイモン人たちのために、それの密告者となったのである。だが、自分が将軍となるとわかってからは、あの者たちに何ら悪いことを為すことができず、自分のおかげで〔ペルシア〕王が金品を提供するはずだと請け合って、二百タラントン以上を国家から着服したのである。

[38]
 じつに、こういうふうに、多くの点であなたがたに対して過ちを犯してきたと彼は自覚した結果、弁舌に堪能で、友もおり、金品も所有していたにもかかわらず、出頭して執務報告もしようとは決してしたことがなく、逃亡罪を自分に有罪判決して、トラキアでもどこでも、そこの国の市民となることの方を望んだのである。自分の祖国の〔市民となること〕よりも。そして結局は、おお裁判官諸君、従前の邪悪さの過度な実行者となって、アデイマントスといっしょになって艦船をリュサンドロスに敢えて引き渡したのだから、

[39]
 あなたがたの中に、あるいは海戦で死んだ人たちを哀れみ、あるいは敵国人たちに隷従した人たちのために恥じ、あるいは城壁が破壊されたことに憤慨し、あるいはラケダイモン人たちを憎み、あるいは「三十人」に怒る人が誰かいるなら、これらすべての責任はこの男の父親にあると看做し、次のことに思いを致すべきである、――この男の曾祖父のアルキビアデスと、父親の母方の祖父のメガクレスとは、あなたがたの祖先が、二度、両者を陶片追放に処したが、この男の父親には、あなたがたの年長者たちが死刑の有罪判決を下し、

[40]
 かくして今はこの男を、国家にとっての父祖伝来の敵と考えて、有罪票決すべきであり、哀れみも容赦も何らの恩恵も、現行の法習とあなたがたが誓った誓約以上に重んじるべきではない、ということに。

[41]
 では、考察すべきである、おお裁判官諸君、人がこういった連中を助命し得る理由が何かあるのかと。はたして、国家に対しては不運であったが、他の点では規律正しくまた思慮深く生きてきたからか。いや、連中の多くは男色を漁り、ある者たちは姉妹と交わり、ある者たちにとっては娘から子どもが生まれ、

[42]
 ある者たちは秘儀を実行してヘルメス神像を毀損させ、あらゆる神々に涜神行為を働いて、国家全体に対して過ちを犯し、その他の者たちとの市民生活においても、自分たち同士の振る舞いにおいても、不正にして違法であり、厚顔無恥からは少しも遠ざからず、恐るべき行いには何ひとつ無経験であったためしがないのではないか。むしろ、彼らが蒙ったことは、すべて実行してきたことであり、実行してきたことは、また蒙ってきたことでもある。なぜなら、美しいことには恥辱を感じ、悪しきことには誇りを持つといった、彼らはそんな有様であったのだ。

[43]
 実際のところ、おお裁判官諸君、あなたがたはすでに何人かの人たちを無罪票決してきた、――不正と信じつつも、将来あなたがたにとって有為の士となるだろうと思ったからである。だが、この男のおかげで、将来、国家が何か善いことを蒙るだろうという希望が何かあろうか。あなたがたは、彼に弁明させれば、彼が何の価値もない男だということを知るばかりか、彼が邪悪な者だということは、その他の所行からしてあなたがたは感知しているするこの男のおかげで。

[44]
 いや、さらに、国家から出て行っても、あなたがたに何ら悪いことを働き得まい、――怯懦であり、貧乏であり、実行力がなく、家族とも仲違いしていて、その他の人たちにも憎まれているのだから。

[45]
 したがって、以上の理由で、この男を見張る必要はなく、見本と為すことの方がはるかに意味があるのである。その他の人たちや、この男の友たちにとっても。――下命されたことを実行することを拒み、このような所業を熱望し、自分たち自身のことに関してさえも悪く評議するくせに、あなたがたのことに関して民会演説するような連中のために。

[46]
 さて、私としては、可能な限り最善事を告発してきたが、次のことを知っているのである。つまり、聴衆の他の人たちは、いったい、いかにしてかくも正確にこの連中の過ちを見つけだすことが可能であったのかと驚嘆しているが、この男の方は、この連中に起因する諸悪のほんの一部分も私が見つけ出していないと、私を嘲笑しているのである。

[47]
 それゆえ、あなたがたは、述べられたことも言い漏らされたことも計算に入れて、端的にこの男を有罪票決すべきである。次のことに思いを致して――公訴状については有罪であり、こういった市民たちから解放されることは、国家にとって大きな善運であると。では、この人たち〔裁判官たち〕のために、法習と誓約と公訴状を読み上げていただきたい。そうすれば、これらを心に留めて、義しいことを彼らは票決するであろう。
forward.gif第15弁論
back.gifLysias弁論集・目次