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back.gif第17弁論・解説


Lysias弁論集



第17弁論

執達吏の不正事について






[1]
 おそらく、あなたがたの中には、おお裁判官諸君、私がひとかどの人物であることを望んでいるのだから、言うことも他の人よりも有能だと考えておられる人たちもおられるかも知れない。だが私は、ふさわしくないことについて言うに充分な者たるには程遠く、したがって、私にとって言うのが必然であることについてさえも、必要なことを言うことができないのではないかと恐れているほどなのである。しかしながら、私の思うに、エラトンと彼の子どもたちに対して、私たちによって為されたことをすべて陳述するならば、その中からあなたがたはこの優先権裁定裁判に関して考察するにふさわしいことを見つけ出すのは容易であろう。それでは、初めから聞いていただきたい。

[2]
 エラシポンの父エラトンは、私の祖父から2タラントンの借金をしていた。そこで、彼が金銭を受け取ったということ、また、それだけの額の借金を要求したということについては、その面前で受け渡しがされた人たちを証人としてあなたがたに立てよう。だが、それを何に使ったか、またどれだけの利益をあげたかは、私よりもよく知っていて、彼が行っていた事業に関与していた人たちが、あなたがたに陳述し証言するであろう。それでは、どうぞ、証人たちを呼んでください。

証人たち


[3]
 さて、エラトンが生きていた間は、私たちは利子を受け取り、他のことも契約どおりであった。だが、彼が三人の息子を残して亡くなってからは、エラシポンとエラトンとエラシストラトス、この三人はもはや当然の義務を私たちにはたさなくなった。もちろん、戦いの間〔BC 404-403〕は裁判がなかったので、私たちは彼らから利益を徴収することができなかった。だが平和になって、市人の間の裁判が開かれるや真っ先に、父はエラシストラトスに対する、兄弟の中で彼だけが内地にいたので、契約全体の履行の私訴権を引き当て、クセナイネトスが執政官の時〔BC 401/400〕に勝訴した。では、このことについても証人たちをあなたがたに立てよう。それでは、どうぞ、証人たちを呼んでください。

証人たち


[4]
 エラトンの財産は私たちのものであるのが義しいということは、以上のことから、他方、そのすべてが没収されたということは、財産登録簿そのものから、知るのは容易である。なぜなら、三人も四人もの人たちが一々登録しているからである。もちろん、次のことは万人周知のとおりである。つまり、もしもエラトンの財産のうち、他に何か没収可能なものがあれば、彼らは見落とさなかったであろうということは。彼らは、エラトンの財産全部と、私がすでに長らく所有していたものまでも登録したのだから。とにかく、私たちには相手方から徴収できなかったのに、あなたがたはそれを没収しえたということは、よく知られたことだと私に思われる。

[5]
 さらに、あなたがたと私人たちとに私が異義申し立てをしていたということも、やはりあなたがたは聞いておられる。なぜなら、エラシポンの家族が、これらの財産について私たちに異義申し立てをするまでは、すべては私のものであると私は考えていたのである、――借金すべてを賭して父に反訴して、エラシストラトスが敗訴したのだからである。かくして、スペットス区にある地所はすでに三年このかた私は賃貸してきたが、キキュンナ区にある地所と家屋については、所有者たちと私は係争中であった。ところが、去年、彼らは私に対する私訴を取り下げた。自分たちは貿易商人だと称してである。そこで、今年、ガメリオン月に〔訴訟権を〕引き当てたのに、海事裁判官たちは結審しなかった。

[6]
 しかも、エラシポンの財産没収があなたがたによって決められたので、私は三分の二を国家のために放棄して、エラシストラトスの財産は私に帰するよう票決することを要請した、――少なくとも、それはすでに以前にも私たちのものだとあなたがたが判決を下していたからである。ところで、彼らの財産の三分の一を私が自分に決定したのは、正確さを期してではなく、三分の二よりはるかに多くを国庫に取り残したからである。

[7]
 そこで、これを判断するのは、財産を査定した財産評価によって容易である。すなわち、全財産は1タラントン以上の額で評価されており、私が異義申し立てをしている財産のうち、一方は5ムナ、他方は1000ドラクマと私は査定したのである。そこで、この額よりももっと価値があるなら、競売された後、超過分を国家が取得するであろう。

[8]
 それでは、以上のことが真実であるということをあなたがたが知るために、あなたがたに証人を立てよう、――先ず第一に、私からスペットス区の地所を賃借していた人たちを、第二に、キキュンナ区の隣人たちで、私たちがすでに三年にわたって異義申し立てをしていることを知っている人たちを、さらにまた、審理業務の籤が当たった昨年度の役人たちと、今年度の海事裁判官たちとを。

[9]
 またあなたがたに財産登録簿そのものが読み上げられるであろう。そうすれば、これによってあなたがたはきちんと判断なさるであろう、――これらの財産が私たちのものであると私たちが主張しているのは最近のことではなく、また、〔その額は〕今、執達吏相手に異義申し立てしている方が、以前に、私人たち相手に〔異義申し立て〕していたよりも多いわけではない、ということを。それでは、どうぞ、証人たちを呼んでください。

証人たち


[10]
 おお裁判官諸君、私のために優先権を票決するよう要請しているのは正義に反しておらず、私のもののうち多くをみずから国家のために放棄して、これを私に返還するように要請しているのだということは、すでに証明され終わった。そこで、あなたがたと裁定委員会(syndikoi)とに、あなたがたの面前で要求しても、もはや義しいと私に思われる。
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